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ギレルモ・デル・トロのピノッキオ・・・・・評価額1700円
2022年12月05日 (月) | 編集 |
ピノッキオも、ありのままで。

ディズニーの古典アニメーション版をはじめ、過去に幾度となく映像化されたカルロ・コッローディの児童文学の古典、「ピノッキオの冒険」を原作に、ギレルモ・デル・トロが監督・脚本を担当し、ストップモーション技法でミュージカルアニメーション化した作品。
当時「パンズ・ラビリンス」の成功で勢いに乗っていたデル・トロの次回作として、2008年に企画が発表されるも、製作費がなかなか集まらずに中断、Netflixが手を上げ苦節14年の歳月を経てついに完成した大労作だ。
カートゥーン・ネットワークで放送された、「オーバー・ザ・ガーデンウォール」のクリエイターとして知られるパトリック・マクヘイルが共同脚本、「ファンタスティック Mr.FOX」のアニメーション・ディレクター、マーク・グスタフソンが共同監督を務める。
ゼペット爺さんをデイビッド・ブラッドリー、ピノッキオをグレゴリー・マンが演じ、二人の脇を「美女と野獣」で美声を聴かせたユアン・マクレガー、ティルダ・スウィントン、クリストフ・ヴァルツ、ケイト・ブランシェットなど、錚々たるスター軍団が固める。
※ラストに触れています。

ゼペット(デビッド・ブラッドリー)は腕のいい木工職人で、一人息子のカルロ(グレゴリー・マン)と一緒に、北イタリアの山間の街で暮らしている。
世界を巻き込んだ戦争の砲火も、田舎街までは聞こえてこない。
ところがある日、爆撃機が捨てた爆弾が街の教会を直撃し、カルロが亡くなってしまう。
悲しみに暮れるゼペットは無気力な生活を送り、十数年後に酒に酔った勢いで一体の人形、ピノッキオ(グレゴリー・マン)を作り上げる。
その夜、妖精(ティルダ・スウィントン)が現れて人形に命を与え、木のうろに住み着いてたコオロギのセバスチャン・J・クリケット(ユアン・マクレガー)をピノッキオに良心を教える係に任命する。
突然動き出したピノッキオを見たゼペットは驚くが、カルロが使っていた教科書を彼に与え、学校に行かせることに。
しかし、生きている人形に興味を惹かれたカーニバルの主催者、ヴォルペ伯爵(クリストフ・ヴァルツ)がピノッキオを誘惑し、一座に参加させるのだが・・・・


たまに似たようなコンセプトの映画が集中的に公開されることがあるが、一年ちょっとの間にマッティオ・ガローネ版「ほんとうのピノッキオ」、ロバート・ゼメキス版「ピノキオ」、次いで本作と、三本も「ピノッキオの冒険」を原作とする映画を観た。
主に特殊メイクでピノッキオを表現し、不気味極まりないおしゃべりコオロギをはじめ、ホラーテイストのクリーチャーが続々出てくる作家性全開のガローネ版、1940年に公開されたディズニーのアニメーション版をベースに、実写とCGの組み合わせでアップデートしたゼメキス版、それぞれにストーリーにもテリングにも特徴があって面白い。
しかし個人的には、ストップモーションで作られた本作が一番しっくり来た。
脚色のアレンジは三本の中でも最も激しいのだが、原作が内包していた普遍的なスピリットを、一番モダンな形で実現していたと思う。

コッローディの原作が発表されたのは、200年近く前の1832年。
その後、演劇や映画、テレビなどで人気の作品となったが、最も有名なのがディズニーのアニメーション版だろう。
実際、本作もこの作品の影響を強く受けていて、原作のゼペットはしゃべる丸太から人形を作る設定だが、こちらではただの木の人形が妖精の魔法で命を持つなど、ディズニー版の設定を踏襲している。
さらにデル・トロは、19世紀に書かれた物語の舞台を20世紀に移した上で、さまざまな脚色を加えている。
ゼペットはただ人形を作った訳ではなく、ピノッキオは亡くなった息子の代わりだというのは、ゼメキス版でも同じ解釈をしていたが、こちらでは息子の死の理由に第一次世界大戦を持ってきた。
彼らが住んでいた街は、軍事目標でもないし、人口密集地でもないのだが、それ故に基地に帰る爆撃機が余った爆弾を捨てるのにちょうどいい場所で、運悪く爆弾の落ちた教会にいた息子のカルロが犠牲になってしまう。
カルロが亡くなった時に持っていた松ぼっくりを墓のそばに植え、十数年後に育った木を使って作ったのがピノッキオというわけ。
しかしカルロが亡くなった後のゼペットは、自暴自棄になりずっと飲んだくれていて、ピノッキオも酔っ払って作ったから造形がかなり雑。
とても人間の男の子になりそうもない形をしている。

劇中では正確な年代は明示されないが、カルロの死が第一次世界大戦中で、ピノッキオを作ったのがムッソリーニのファシスト党がイタリアを支配し、まだ第二次世界大戦が起こる前の時代だからたぶん1930年代。
本作は基本的なプロットラインも、ディズニーのアニメーション版に沿っているが、原作にも出てくる狡猾な狐と猫は登場せず、代わりに猿のスパザチュラ(演じるのはなんとケイト・ブランシェット!)というキャラクターがいて、ヴォルペ伯爵にいじめられながら、依存して生きている。
スパザチュラは非常に複雑なキャラクターとして造形されていて、ヴォルペに対してはサディスティックな支配に対する恐怖と、依存心の間で揺れていて、ピノッキオに対してはご主人様のナンバーワンを取られてたという嫉妬心と、自分と同じように搾取されているという同情心の間の葛藤がある。
人間社会から見たら、異端の存在であるピノッキオや、スパザチュラといった存在に、ディープな共感を示すのはいかにもデル・トロらしい。

コッローディの原作は、人間になりたいピノッキオが冒険を通して、「そもそも人間とはなんぞや?」という疑問にぶつかってゆく物語だ。
それゆえに、本作では戦争が次なる戦争を生み出しつつある時代背景が生きてくる。
原作では一人だけの妖精は、生を司る妖精と死を司る妖精の二つのキャラクターに分かれ、それぞれにピノキオに命の意味を問う。
カーニバルを脱出したピノッキオが、友達のキャンドルウィックと共に向かう、おもちゃの国のエピソードは、イタリア軍の少年兵訓練所に置き換えらている。
原作ではおもちゃの国に行った少年たちは、ロバに変身してしまうが、家畜として使役されるロバと、命令に従うだけの少年兵は本質的に同じ奴隷というシニカルさ。
当たり前の人間性が否定される時代に、ピノッキオの見せる思いやりや優しさの気持ちが浮かび上がる。

例によって中盤までのピノッキオは、かなりのおバカさんなのだが、成長するのが彼だけでなく、父としてのゼペットも同様なのも特徴だ。
本作のゼペットはカルロを失って飲んだくれ、ピノッキオが命を持っても、彼のことを聡明だったカルロと比べてしまい、なかなか受け入れられない未熟な父親として描かれる。
人間はいくつになっても成長できるし、成長しなければならないことを体現するキャラクターだ。
物語を通し、ピノッキオだけでなく、全てのキャラクターが何らかの成長を遂げて、導き出す本作のソリューションは、人形の雑な造形でも示唆されていたように、ピノッキオは木の人形のまま人生を過ごすというもの。
本当の人間性は人間の体ではなく心に宿るという、ゼメキス版がやりかけて思いとどまった、「ありのままで」をこちらがやってくるとは驚いた。
だがキャラクター設定を変えたことで、最終的に一緒に暮らすこととなるピノッキオ、ゼペット、クリケットそしてスパザチュラ、種も属性も異なる疑似家族の「命の時間の差」という新たな要素も加わり、より味わい深い物語となった。
ストップモーションアニメーションとしてのクオリティもすこぶる高く、なるほどこれは「パンズ・ラビリンス」の延長線上にある、ギレルモ・デル・トロの持ち味がいかんなく発揮された傑作である。

今回は舞台となる北イタリアのワイン、「モンテ チェリアーニ ソアーヴェ」をチョイス。
アントニオ・カスタニェーディが、1989年に現在のワイナリーを買い取り、創業したテヌータ・サンアントニオによる、フルボディの辛口の白。
最初の五年間は出荷せずに、研究に打ち込んだという。
ガルガネーガ種100%で作るこちらの一本は、複雑で濃密な果実味を楽しめて、喉越しもすっきりしていて飲みやすい。
結構味の濃い海鮮や、お肉などとも相性が良さそう。
CPが良いのもうれしいポイント。

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コメント
この記事へのコメント
「いいね、いいね」と言っておいて、あとから「〇〇ってなあに?」と訊ねるピノッキオは、いまの日本人全体を重ねることができる気がしました。これは明らかに戦争を意識した映画ですね。軍国主義化する日本人は真摯にこの映画を見たほうがいいかもしれませんね。
2022/12/16(金) 17:44:42 | URL | dalichoko #-[ 編集]
こんばんは
>dalichokoさん
ファシズム時代のイタリアを舞台にするのは、デルトロらしいところです。
この人にとって「パンズ・ラビリンス」や「デビルズ・バックボーン」など、ファシズムと戦争はライフワークみたいなものですからね。
2022/12/22(木) 20:44:25 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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