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2023年02月28日 (火) | 編集 |
人生と映画は、光と闇で出来ている。
1980年の秋、イギリス南部のケント州マーゲイト。
衰退したリゾート地である、この街の海辺に立つ古い映画館「エンパイア・シネマ」に集う人々の物語。
予告を観てもどんな内容なのかさっぱり分からなかったが、なるほどこれは言葉で説明するのがすごく難しい映画だ。
かつて4スクリーンあった映画館は、不況の煽りを受けて下層の2スクリーンのみでの営業で、眺めのいい上層階はずっと閉鎖されたまま。
主人公は、オリビア・コールマンが圧巻の名演で魅せる、劇場の統括マネージャーのヒラリー。
コリン・ファース演じる支配人とは不倫関係にあるが、若いスタッフを束ねるリーダー的な存在で、常連客からも信頼も厚い。
そんな彼女の日常が、マイケル・ウォードが演じる若い黒人男性のステイーヴンが新たに雇われたことで、変化の時を迎える。
彼女がスティーヴンに閉鎖された上層階を案内し、そこで見つけた怪我をした鳩の世話をしたことをきっかけに急接近。
親子ほど歳の離れたヒラリーとスティーヴンは、恋仲になるのである。
なぜ対照的な二人が惹かれあったのかという肝心なところがぼかされているため、この展開の説得力はちょっと弱い。
まあこれだけなら、歳の差カップルによるラブストーリーという枠に収まるのだが、二人の仲が深まると共に平和だった物語に徐々に影が落ちはじめる。
実はヒラリーは心に深刻な問題を抱えていて、薬で抑えている状態。
様々な出来事が一気に起こり、彼女の心を再び病が支配しはじめる。
一方、ウォードの問題は外的なものだ。
人種差別によって進学が叶わず、エンパイアに就職したものの、前年に就任したサッチャー首相が推し進める新自由主義的政策によって、地方の経済を不況が直撃。
失業者は増大し、デモが頻発。
怒れるプアホワイトたちの怒りの矛先は、政府より先にマイノリティの移民へと向かう。
分断が加速したこの時代においては、スティーヴンはマジョリティの白人たちに目の敵にされる階層なのである。
上層部を廃墟にしながら細々と命脈を保っているエンパイア・シネマも、かつて世界を支配した大英帝国の落日を象徴するかの様。
この劇場でプレミアを迎えるのが、大英帝国末期の誇りと栄光を描く「炎のランナー」というのも皮肉な話。
お互いに異なる孤独と痛みを抱えた二人が、そっと寄り添って生きる束の間の時間。
その奇跡は、暗闇の中に光を見る映画そのものだ。
映画は映写機のシャッターが降り、暗闇の中でフィルムが次のコマに進むことにより動いて見える。
だから観客は実は光と闇の両方を見ているのだけど、暗闇には気付かない。
偶然にも、ここ一年ばかりで、このことをメンションしている映画に、本作を含めて3本も出会ったのだが、これは映画という芸術の本質だ。
映画館に務めながら、そこで映画を観たことが無かったヒラリーが、映画の魔法に触れるシーンが本作の白眉。
作品のチョイスが、ハル・アッシュビー監督の「チャンス」というのがいい。
知的障害のある庭師の男が、思慮深い名士と勘違いされ時の人になってゆき、最後には大統領候補にまで祭り上げられる寓話。
このユーモラスで滑稽な映画を観ている、コールマンの表情がなんとも幸せそう。
ヒラリーのごくパーソナルな物語として、ここで落とすという手もあったと思うが、きちんと二人の別れを描いたことで、さらなる深みと広がりを持たせたのもよかった。
旅立つスティーヴンにヒラリーが贈る、フィリップ・ラーキンの詩集「高い窓」の一説が心に染み渡る。
メンデスは「007 スカイフォール」以来大作が続いたので、こういう自分を反映できる等身大のドラマが作りたくなったのだろう。
マーゲイトに実在する映画館(実際の名はDreamland Cinema)を活用した空間デザインもユニークで、ロジャー・ディーキンスのカメラが素晴らしい。
今回は、暗闇が重要な作品なので、黒いカクテル「ブラック・ベルベット」をチョイス。
ギネスビール150mlとシャンパン150mlをキンキンに冷やし、シャンパングラスに注ぎ、軽くステア。
二種類の発泡酒が作り出す細かさの違う泡のカーテンを、ベルベットの生地になぞらえたという訳。
必ずしもシャンパンとギネスでなければならないという訳でなく、黒ビールやスパークリングワインが1:1であれば作れるが、組み合わせ次第でだいぶテイストが変わる。
黒ビールの重さが苦手な人にとっても飲みやすい、華やかなカクテルだ。
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1980年の秋、イギリス南部のケント州マーゲイト。
衰退したリゾート地である、この街の海辺に立つ古い映画館「エンパイア・シネマ」に集う人々の物語。
予告を観てもどんな内容なのかさっぱり分からなかったが、なるほどこれは言葉で説明するのがすごく難しい映画だ。
かつて4スクリーンあった映画館は、不況の煽りを受けて下層の2スクリーンのみでの営業で、眺めのいい上層階はずっと閉鎖されたまま。
主人公は、オリビア・コールマンが圧巻の名演で魅せる、劇場の統括マネージャーのヒラリー。
コリン・ファース演じる支配人とは不倫関係にあるが、若いスタッフを束ねるリーダー的な存在で、常連客からも信頼も厚い。
そんな彼女の日常が、マイケル・ウォードが演じる若い黒人男性のステイーヴンが新たに雇われたことで、変化の時を迎える。
彼女がスティーヴンに閉鎖された上層階を案内し、そこで見つけた怪我をした鳩の世話をしたことをきっかけに急接近。
親子ほど歳の離れたヒラリーとスティーヴンは、恋仲になるのである。
なぜ対照的な二人が惹かれあったのかという肝心なところがぼかされているため、この展開の説得力はちょっと弱い。
まあこれだけなら、歳の差カップルによるラブストーリーという枠に収まるのだが、二人の仲が深まると共に平和だった物語に徐々に影が落ちはじめる。
実はヒラリーは心に深刻な問題を抱えていて、薬で抑えている状態。
様々な出来事が一気に起こり、彼女の心を再び病が支配しはじめる。
一方、ウォードの問題は外的なものだ。
人種差別によって進学が叶わず、エンパイアに就職したものの、前年に就任したサッチャー首相が推し進める新自由主義的政策によって、地方の経済を不況が直撃。
失業者は増大し、デモが頻発。
怒れるプアホワイトたちの怒りの矛先は、政府より先にマイノリティの移民へと向かう。
分断が加速したこの時代においては、スティーヴンはマジョリティの白人たちに目の敵にされる階層なのである。
上層部を廃墟にしながら細々と命脈を保っているエンパイア・シネマも、かつて世界を支配した大英帝国の落日を象徴するかの様。
この劇場でプレミアを迎えるのが、大英帝国末期の誇りと栄光を描く「炎のランナー」というのも皮肉な話。
お互いに異なる孤独と痛みを抱えた二人が、そっと寄り添って生きる束の間の時間。
その奇跡は、暗闇の中に光を見る映画そのものだ。
映画は映写機のシャッターが降り、暗闇の中でフィルムが次のコマに進むことにより動いて見える。
だから観客は実は光と闇の両方を見ているのだけど、暗闇には気付かない。
偶然にも、ここ一年ばかりで、このことをメンションしている映画に、本作を含めて3本も出会ったのだが、これは映画という芸術の本質だ。
映画館に務めながら、そこで映画を観たことが無かったヒラリーが、映画の魔法に触れるシーンが本作の白眉。
作品のチョイスが、ハル・アッシュビー監督の「チャンス」というのがいい。
知的障害のある庭師の男が、思慮深い名士と勘違いされ時の人になってゆき、最後には大統領候補にまで祭り上げられる寓話。
このユーモラスで滑稽な映画を観ている、コールマンの表情がなんとも幸せそう。
ヒラリーのごくパーソナルな物語として、ここで落とすという手もあったと思うが、きちんと二人の別れを描いたことで、さらなる深みと広がりを持たせたのもよかった。
旅立つスティーヴンにヒラリーが贈る、フィリップ・ラーキンの詩集「高い窓」の一説が心に染み渡る。
メンデスは「007 スカイフォール」以来大作が続いたので、こういう自分を反映できる等身大のドラマが作りたくなったのだろう。
マーゲイトに実在する映画館(実際の名はDreamland Cinema)を活用した空間デザインもユニークで、ロジャー・ディーキンスのカメラが素晴らしい。
今回は、暗闇が重要な作品なので、黒いカクテル「ブラック・ベルベット」をチョイス。
ギネスビール150mlとシャンパン150mlをキンキンに冷やし、シャンパングラスに注ぎ、軽くステア。
二種類の発泡酒が作り出す細かさの違う泡のカーテンを、ベルベットの生地になぞらえたという訳。
必ずしもシャンパンとギネスでなければならないという訳でなく、黒ビールやスパークリングワインが1:1であれば作れるが、組み合わせ次第でだいぶテイストが変わる。
黒ビールの重さが苦手な人にとっても飲みやすい、華やかなカクテルだ。

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この記事へのコメント
トビー・ジョーンズの気難しい表情の合間に見せる優しさがいいですね。
そして彼が上映するチェンジマークのついた映画。デジタル化されてチェンジマークも見ることが少なくなった昨今だけに、久しぶりに、ちょっと古めの映画館で過去に好きだった作品を楽しみたくなりましたよ。
映画好きには心に刺さる作品ではないでしょうか。
そして彼が上映するチェンジマークのついた映画。デジタル化されてチェンジマークも見ることが少なくなった昨今だけに、久しぶりに、ちょっと古めの映画館で過去に好きだった作品を楽しみたくなりましたよ。
映画好きには心に刺さる作品ではないでしょうか。
>にゃむばななさん
チェンジマークはこだわりのある映画作家にとっては邪魔のもので、「俺の映画に傷を付けやがって」って怒ってた人がいました。
デジタルになって「チェンジマーク無くなって良かったですね」って言ったら、「やっぱフィルムの方が良かった」と。
難しいものですw
チェンジマークはこだわりのある映画作家にとっては邪魔のもので、「俺の映画に傷を付けやがって」って怒ってた人がいました。
デジタルになって「チェンジマーク無くなって良かったですね」って言ったら、「やっぱフィルムの方が良かった」と。
難しいものですw
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1980年代初頭のイギリスの静かな海辺の町マーゲイト。 心に闇を抱える女性ヒラリーが勤務している地元の映画館エンパイア劇場で、夢を諦めた青年スティーヴンが働き始める。 映画館に集まる人々の優しさに守られ、人生の苦難に常に道を阻まれてきた彼らは、次第に生きる希望を見出していくのだが…。 ヒューマンドラマ。 ≪人生を照らす光は、きっとある。≫
2023/03/02(木) 22:37:14 | 象のロケット
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