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世界の終わりから・・・・・評価額1750円
2023年04月16日 (日) | 編集 |
この世界は、終るべきなのか。

紀里谷和明監督による、鮮やかな傑作である。
天涯孤独の高校生が、突然政府機関から「夢で見た内容を教えて欲しい」と依頼される。
政府の特別な部署が管理している、この世の始まりから終わりまでが記されたアカシックレコードのような不思議な本によると、世界はニ週間後に終末の時を迎え、彼女が見る夢だけがそれを阻止する力があるらしい。
一見すると新海誠っぽい世界観なのだが、当初ありがちなセカイ系に見えた物語はまるで違うところに向かってゆく。
原作・監督・脚本は、本作が「最後の作品」になると語っている紀里谷和明。
岩井俊二作品で知られる撮影監督の神戸千木が、素晴らしいフレームワークを見せる。
主人公の志門ハナに「さがす」の伊東蒼、彼女を警護する政府の男に毎熊克哉、ハナの夢からメッセージを読み解く謎めいた老婆を夏木マリが演じる。
この世界は救うに値するのか?まだ救えるのか?という葛藤は、観客の想像力を軽々と超えて、話のスタート時点では予想もつかなかった、驚くべき所に着地するのだ。
※核心部分に触れています。

2030年3月。
両親を早くに事故で失い、祖母と暮らしていた高校三年生のハナ(伊藤蒼)は、祖母の死で天涯孤独の身となり、学校にも居場所がない。
生きる希望を失っていたある夜、彼女の家を江崎省吾(毎熊克哉)と佐伯玲子(朝比奈彩)と名乗る政府機関の者たちが訪れ、ハナに「夢で見た内容を教えて欲しい」と依頼する。
訳が分からないハナだったが、その夜不思議な夢を見る。
夢の中で侍に追われたハナは、侍に親を殺されたユキ(増田光桜)という少女に助けられ、洞窟に住む老婆(夏木マリ)と引き合わせられる。
老婆はハナとユキに祠に届ける手紙を託し、二人は洞窟を脱出するが、直後に老婆は殺される。
目覚めて、夢を見たことを江崎に告げると、彼は寂れた商店街の地下にある洞窟へとハナを連れてゆく。
そこには夢の老婆とそっくりな女性がいて、ハナに不思議な本を見せる。
それはこれから起こることが書かれている本で、本によると二週間後に世界は終わり、止めることができるのは、唯一ハナの見る夢だという・・・・


偶然にも本作の前に、M・ナイト・シャマラン監督の「ノック 終末の訪問者」を観た。
同じように世界の終りをモチーフとした作品だが、ベクトルは真逆。
「ノック」はキリスト教圏からたまに出てくる決定論に基づいた作品で、ゲイの夫婦と娘がバカンスを過ごす山小屋に、武器を持った4人の男女がやって来て、もうすぐ世界は終わるので、お前ら3人の誰かが生贄になって、終末を阻止しろと言われる。
この映画の世界は神的な存在のオーダーの産物ゆえ、人間がどう抗おうが神の決定を覆したければ、結局創造物が身を捧げるしかないという、いわゆる身も蓋もない話である。
対して本作には、神のような上位存在は無い。
老婆の持つ本には、世界の終りが記されているが、それは過去から現在までの人間の行いの結果としての終末。
人間が殺し合い、傷つけ合い、世界を汚していった結果、終わりは突然やって来る。
誰のせいでもなく、自分達が終末をもたらすのである。

逆に言えば、人間の行いの結果だから、ほんのちょっとしたことで回避できるかもしれない。
そのヒントは今を形作っている過去にあるのかもしれないので、夢の世界で過去と繋がる特殊能力のあるハナに白羽の矢が立つ。
どうやら、彼女の家系の女性には代々この能力があり、政府に協力してきたことが作中で明かされる。
いきなり世界の運命という重すぎる荷を背負わされたハナは、それ以前から元々世界に絶望している。
両親は事故で亡くなり、唯一の肉親だった祖母も逝った。
稼がなければいけないのでバイトに明け暮れ、学校では不良の脅迫のターゲットとなり、夢だった進学も諦めざるを得なくなる。
唯一自然でいられるのは、幼馴染のタケルといる時くらい。
自分にはとことん冷たい世界を救うために、それでもハナは彼女なりに力を尽くす。

夢の中で願いを叶えるために、ユキと共に手紙を携えて祠を目指し、二人を阻止しようとする謎の侍に追われる。
危険な冒険によって彼女がもたらす情報は、本の内容を書き換え少しだけ未来を変える。
だが、人間は本質的に変わらないのだ。
ハナの存在が「占いで首相を動かす女子高生」として世間に知られると、世界は彼女を助けるのではなく、異端の者として攻撃をはじめる。
さらに夢が現実へと侵食を始め、世界は終末に向かってどんどんと加速して、ハナの周りの世界も壊れはじめる。
絶望が覆い尽くす終盤の描写は、原作版「デビルマン」を思わせる。
祠に手紙を届けることができた時、この世の地獄を見てきたユキが願ったことは何か。
この映画の過去=夢の世界は、おそらく無限に積層された記憶のイメージだろう。
ずっと昔から人間が積み重ねてきた、罪の記憶の集大成として今がある。
紀里谷監督は、子供の頃からこの世界に絶望して来たと言う。
彼が創造したハナは、それでもなんとか世界のために頑張ろうとするが、ついに力尽きる。

セカイ系と言われる多くの作品では、主人公の周りのごく狭い人間関係が世界の運命を左右する。
しかし本作では、終末を回避するためのハナの必死の努力は、人類の集合的無意識が積層された世界によって跳ね返されてしまう。
ハナのセカイは、世界を救えないのだ。
この世界は誰かのせいではなく、人類全員の行いの結果として終わる
これはセカイ系の様でいて実は逆であり、ハナの絶望の感情は終末とシンクロしているが、運命を変えることは出来ないのである。

これはおそらく、芸術の道に生きる作者の素直な心情だろう。
利己的な人間の世では争いは絶えず、何もしなければ瓦解に向かう世界を、芸術という美しいものが繋ぎ止めている。
多くの芸術家は、それぞれの手段で人間の持つ善性を発信することで、世界に少しずつ影響を与えているが、それだけで世界を救うことは出来るのか。
人間の社会には美しさと邪悪さが拮抗していて、いつか邪悪さが勝ってしまうかもしれない。
世界の終わりは人間の善性の敗北であり、全ての人に潜む邪悪さへの切実な恐れを描いたのが本作ではないだろうか。
北村一輝が演じるハナを付け狙う不死の男は、人間の中の根源的な悪のメタファーだろう。
そして絶望が世界を覆い尽くし、それでもなおある方法で提示される希望がユニーク。
はたして「それが本当に希望なのか?」という問いを含めて、本作の持つ世界観を特徴づけている。
10代の少女を主人公とした優れたジュブナイルであり、同時に非常に日本的なハードSFの傑作だ。
出ずっぱりでハナを熱演する伊藤蒼が素晴らしく、あと夏木マリが完全に湯婆婆(笑

夢からはじまる物語には「ドリーム」をチョイス。
ブランデー40ml、オレンジ・キュラソー20ml、ぺルノ1dashを、氷と共にシェイクしてグラスに注ぐ。
ブランデーの甘味とオレンジの風味が組み合わさり、ぺルノがアクセントとなってコクのある味わいを引き立てる。
名前の通りナイトキャップとしても好まれており、甘口のカクテルを楽しんでいるうちに、いつの間にか夢に誘われる。

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