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君たちはどう生きるか・・・・・評価額1650円
2023年07月15日 (土) | 編集 |
作ることによって、生きる。

最後の作品になるはずだった「風立ちぬ」からはや十年。
またまた引退を撤回した宮﨑駿監督による、ファンタジー冒険活劇だ。
タイトルの「君たちはどう生きるか」は、劇中にも登場する吉野源三郎の小説から撮られているが、内容的にはほぼ無関係。
一部では「説教臭い話になるんじゃないか・・・」などと言われていたが、たぶん宮﨑作品のなかでも説教要素は限りなく少ない方。
長いアニメーター人生の中でも、今まで描いていなかったイメージを全力でブチ込みました!という感じの作家の脳内迷宮映画になっている。
監督の名前も今までは「宮崎」表記だったが今回は「宮﨑」になっているので、齢八十を超えてこの作品で新たに生まれ変わったということか。
※核心部分に触れています。

太平洋戦争中の日本。
牧眞人(山時聡真)は、入院先の病院の火事で母のヒサコを失う。
一年後、軍需工場を経営する父親(木村拓哉)はヒサコの妹のナツコ(木村佳乃)と再婚し、眞人は母方の実家へ父の新しい工場とともに疎開することになる。
日本建築と洋建築が混在する不思議な作りの実家では、何人もの婆やたちが働き、裏の森には、謎めいた廃墟の塔があった。
それは母の大叔父が作ったものらしいのだが、大叔父は昔建物の中で消えてしまったと言う。
ある日、父の子を妊娠しているナツコが失踪し、眞人はキリコ婆(竹下景子)と一緒に廃墟の塔に住む人語をしゃべる青鷺から冒険へと誘われる。
そこは人喰いのペリカンや、巨大なインコ人間が暮らす不思議な世界。
なぜか若い姿をしたキリコ(柴咲コウ)に救われた眞人は、彼女の漁を手伝いながら巨大な船の形をした島へと辿り着く。
青鷺改めサギ男(菅田将暉)によると、ナツコはこの世界を作った大叔父の屋敷にいるらしい。
母の若い頃そっくりで、炎の魔法を使うヒミ(あいみょん)と出会った眞人は、二人で屋敷に潜入しよとするのだが・・・


端的に言って、物語の筋立てを楽しむのではなく、動き続けるアニメーションを堪能する映画である。
冒頭、眠っていた眞人が異変に気づき、炎上する母が入院している病院に駆けつける。
このシークエンスのダイナミックな動きだけで、魂を鷲掴みにされる。
今回、宮﨑駿はアニメーション制作には手を入れず、絵コンテに徹したそうで、素晴らしい映像を作り出したのは、作画監督を務めた本田雄が率いる日本最強のアニメーター軍団。
本田雄は「崖の上のポニョ」「風立ちぬ」でも重要シーンを任され、「シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇」の作画監督を務めるはずだったのだが、宮﨑駿たっての願いでジブリにレンタルされる形で参加したという、まさに引っ張りだこの人気作監だ。
しかし絵作りのベースとなるのは、絵コンテに描かれたオリジナルのイメージ。
本作はここがやはり圧倒的に強い。
特に印象的なのが、登場する建物のデザインだ。
母の実家は「千と千尋の神隠し」の湯屋を思わせる和建築なのだが、広大な屋敷を通り抜けると、なぜかそこには洋館が立っていて、実際の生活空間はそちら。
和建築の本館が何に使われているのか、そこで働く何人もの婆たちが何をしているのかは語られない。
さらに、裏の森には不思議な塔が聳え立っている。
本館もそうだが、この塔もまことに巨大で、その中に何があるのか、どんな構造になっているのか、見ただけで強烈に興味をそそられる。

アニメーションとデザイン性は見事。
しかし、そこで展開する物語の筋立ては、思いっきりぶっ壊れている
元々宮﨑駿の映画はストーリーとテリングならテリング優勢で、しばしば作りたい映像のために筋立てがアバウトになる傾向がある。
特にゼロ年代に入ってからはその傾向が顕著となり「ハウルの動く城」や「崖の上のポニョ」などは、何度観ても映像だけで物語が頭に入ってこない。
本作の筋立てはさらにぶっ壊れていて、観ていて頭の中に「?」がいくつも出る。
森の塔の中身はかつて宇宙から飛来した未知の物体らしく、内部から繋がる異空間に、消えた大叔父が新しい世界を創造している。
そこは現実世界から連れてこられた鳥たちが知性を持ち、ワラワラという現実世界で人間に生まれ変わる謎生物を捕食しているのだが、なぜか少女の頃の母が炎の魔法を持つ“ヒミ”としてワラワラを守っている。
実家の屋敷で働いているキヌコ婆も、ここでは若い姿で漁師をしていて、ヒミを支えているのだ。
そもそもなぜナツコはこの世界へ入り込んだのか?大叔父はこんな奇妙な世界で何をやりたいのか?なぜ母は火の魔法が使えるのか?ワラワラが人間の種なら、大叔父が世界を作る前はどうなっていたのか?世界を司る13個の石の意味は?
他にも無数の疑問が湧いてくるが、本作は一切の論理的な解答を見せてくれないのである。
まさに設定だけして放りっぱなしの状態で、映画学校の脚本コースだったら赤点間違いなしだ。

しかし、行き当たりばったりで整合性のないディテールを追うのを諦め、一旦物語を俯瞰してみると、また違った印象になる。
主人公の眞人は、宮﨑駿自身である。
彼の父親は実際に軍需工場を経営していて、戦時下にあっても裕福な暮らしをしていた。
母親は映画のように火事で亡くなった訳ではないが、結核を患って病弱だった一方で、キップがよく野生のカンのようなものを持っていたそうで、彼の作品に登場する多くの女性キャラクターは実の母のイメージの影響下にあることが分かる。
この映画では、眞人が継母であるナツコを追って異世界に行くと、若い姿の母親と出会う。
彼女は少女時代に神隠しにあい、1年後に記憶を失って帰って来たことがあったので、その間はこの世界にいたのだろう。
そして冒険の末に彼女は将来自分が眞人を生むことを分かった上で、自分の時間軸の現実世界へと帰ってゆく。
大叔父は未知の力に触れてから現実の世界へと戻らず、ずっとこの虚構の世界を作り続けているが、歳老いて眞人に世界を託そうとしている。
この世界はアニメーションのメタファーであり、大叔父もまた宮﨑駿自身なのか?それとも眞人は継承を断るので高畑勲なのだろうかと思ったが、だんだんと大叔父が「風立ちぬ」のカプローニ伯爵と被って、実はアニメーション史のレガシーそのもの(髭を取ればポール・グリモーぽくもある)のように思えてくる。

つまりこれは、宮﨑駿本人がすでに亡くなった母親に会いに行き、自分の存在を肯定してもらう話であり、同時に新たな名前で生まれ変わった自分を含む全ての作家に、誰も観たことの無い新しいものを作れ!とエールを贈る話なのである。
完成した時点で過去となる、アニメーションの世界はいわば常世だ。
大叔父が連れて来た住人たちが鳥なのも、古今東西の文化で鳥は死者の霊魂を運ぶものと考えられていたことを思えば納得。
継承が拒絶されたことで瓦解する塔は、一度は制作部門を閉鎖したジブリそのもの。
映画の中で二度描写される、石が反応する台形のトンネルは再び生まれるための産道のイメージだ。
それでは、物語の狂言回しでもある一癖も二癖もあるトリックスターのサギ男は?というと、これはおそらく鈴木敏夫プロデューサーであろう。
自らの人生を戯画化し、ファンタジーの中のファンタジーとして昇華した本作は、紛れもなく宮﨑駿の自伝にして、壮大なる自主映画。
錚々たるアニメーター軍団を指揮し、こんなパーソナルな映画を作ることが出来るのはクリエイター冥利に尽きるだろう。

白昼夢のようにシュールで浮世離れした異世界で、訳もわからないうちに冒険しているのに、眞人がひたすら冷静なのも、中身は82歳の老人の視点で描くメタ的な物語であると思えば納得。
西洋の異世界ファンタジーは、「ナルニア国物語」や「不思議の国アリス」がそうであるように、たいていの場合思春期の子供たちの成長のための装置と位置付けられる。
対して日本の異世界ファンタジーは、このジャンルの先駆者である宮沢賢治の代表作「銀河鉄道の夜」のように、現世と常世が混じり合う世界である場合が多い。
これは宮﨑駿版の「銀河鉄道の夜」であり、もうこの世にいない人々と今一度邂逅し、生きる決意を新たにするためのもの。
同時に、自らの想いを後輩たちに継承するための作品だと思う。
「風立ちぬ」での引退宣言の後、世間では一時「ポスト宮﨑駿は誰だ?」というイシューが盛り上がりを見せて、細田守や新海誠といった作家がマスコミの俎上に上げられた。
でも宮﨑駿は一人しかいないし、後継者には誰もなれないということは本作で描かれた通り。
継承されるのは何世代にも渡って蓄積された技術と、何かを作り続けてゆくという情熱と欲望だけなのだ。
現時点でやりたいことはやり尽くした作品だと思うが、新たに生まれ変わった宮﨑駿は死ぬまで引退はしないんだろうな、たぶん。

ところで本作は一枚のキービジュアル以外、公開まで情報が一切出ず、宣伝しないことが話題となった。
だがエンドロールには予告編制作のクレジットがあることから、最初から宣伝しないことを決めてあった訳では無さそうだ。
この方針が吉と出るのか凶と出るのかは、ある程度日数が立たないと見極められないと思うが、はっきりとしているのは、都会では満席になっても全国的な作品の認知度が低いままだったため、地方の劇場が集客に苦戦しているということだ。
十年ぶりの宮崎駿の映画ということで、一番大きなハコを用意して待っていた地方劇場からすれば、なんとか情報を出してくれ!と悲鳴を上げたかっただろう。
公開日にある程度地上波での露出があったし、口コミが進めば地方でも集客数がアップするかもしれない。
しかし特にSNSを積極的にやらない世代を中心に、届かない層は確実にいるはずで、たとえジブリにしかできないことであっても、このようなスタンスは決して肯定されるべきではないと思う。

宮崎駿の母親は、甲斐武田家の家臣の末裔で山梨の出身だと言う。
というわけで今回は山梨の地ビールとして知られる、富士桜高原麦酒から夏にぴったりな「ヴァイツェン」をチョイス。
フルーティな香りが爽やかで、苦味も少ないスッキリとした喉越しを楽しめる。
ジメジメとしたこの季節には、この種のライトなビールがものすごく美味しく感じる。
※2023/07/18一部加筆・訂正しました。
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コメント
この記事へのコメント
都会ではけっこう人が詰めかけてしまいましたが、鈴木敏夫Pが最後の最後に「ジブリで不入り」という経験を宮崎御大にさせたかったのかなあと半ば「スラムダンク」の完全無欠バスケ選手みたいに考えもしました。地方劇場も徳はしてなくても、台風のように集客する他の映画が掛かってなければ損はしてないし、一週間ガマンするだけでしょ。

私は大叔父は宮崎駿で、マヒトが吾朗だと思いました。
2023/07/16(日) 12:23:27 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
私も大叔父は宮崎駿だと思いました。で、マヒトももちろん宮崎駿自身だけど、あのシーンに限っては息子も投影している。
大叔父は「悪意のないパーツをもとにギリギリバランスがとれている完璧な世界」を創造していて(かつての宮崎作品)、「その世界を創造する後継者を探している」という。しかも「それは私の血を継いでいるものでなくてはならない」と。この尊大とも言えるセリフを作中で言われる吾朗氏の心境たるや。。。
2023/07/17(月) 11:50:14 | URL | #CzFp58lQ[ 編集]
こんにちは
『ゲド戦記』の監督インタビューで宮崎吾朗さんが鈴木敏夫さんは豊臣秀吉みたいな人だと言ってましたが、確かに鈴木Pはサギっぽい。何だかんだ言いつつも、宮崎駿という存在を支え続けてきましたからね。
前作『風立ちぬ』もそうでしたが、タイトルに「の」が入らない宮崎作品は、監督自身のことを描いた作品のように思えましたよ。
2023/07/17(月) 12:08:44 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
眞人が吾朗ですかあ。
そう思うとめっちゃプレッシャーかける話ですねw
まあ見方によっては、お前は勝手にしろって解放される話でもあるのか。

>名無しさん
大叔父は本人説が多いですね。
私はあの二人の関係は昔高畑さんのアンチファンタジーのスタンスと、ちょい語弊がありますが、スタッフを使い潰すようなお仕事スタイルを揶揄してるのではと思ってます。

>にゃむばななさん
鈴木Pはむっちゃ曲者ですよ。
いかにも胡散臭いんだけど、人たらし。
じゃないと天才をコントロールすることは出来ないのでしょう。
この映画のサギ男は、長年の女房役への宮﨑駿からのツンデレなラブレターみたいな者だと思います。
2023/07/17(月) 21:51:52 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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