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バービー・・・・・評価額1750円
2023年08月12日 (土) | 編集 |
バービーの選択。

1959年の発売以来、世界中で大人気のマテル社のファッションドール、「バービー」を主人公とした初の実写映画。
ピンク色の理想郷バービーランドに住む金髪・碧眼の“定番”バービーは、ある日急に「死」について考えるようになり、その時から体に異変が。
つま先立ちの踵は地面に着き、体にはボコボコのセルライトが。
皆から変人扱いされている、変てこバービーに助言を受けた彼女は、自分の身に起こった異変の原因を探るために、ケンと共に人間たちの現実世界へと旅立つことになる。
監督・脚本は「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」のグレタ・ガーウィク。
パートナーのノア・バームバックが共同脚本を務める。
プロデューサーでもあるマーゴット・ロビーがバービーを演じ、ケン役にはライアン・ゴズリング。現実世界でバービーを受け入れる、マテル社の従業員グロリアにアメリカ・フェレーラ、マテル社CEO役にウィル・ファレル。
オモチャのキャラクターを使ったお祭り映画では決してなく、ディープな批評的視点を持った大力作である。
※核心部分に触れています。

全てのバービーが楽しく暮らす、バービーランド。
定番バービー(マーゴット・ロビー)は、今日も完璧な1日を送る。
ビーチに行ってボーイフレンドのケン(ライアン・ゴズリング)と会い、才能豊かな他のバービーたちとお喋りし、夜はガールズナイトのパーティー。
ところが、彼女の頭になぜか「死」という言葉がよぎる。
それ以来、完璧な毎日は終わりを告げ、バービーの体に異変が起きはじめる。
街外れに住む変てこバービー(ケイト・マッキノン)に、現実世界で人形の持ち主に何かが起こったのかも?という助言を受けたバービーは、ケンと共に長い旅をしてロサンゼルスに。
バービーが持ち主を探す間に、ケンは男たちが主役として力を持っている社会に感化され、一足先にバービーランドに帰ってしまう。
現実世界に現れたバービーに驚いた製造元のマテル社のCEO(ウィル・ファレル)は、取締役会を率いてバービーを捕まえようとするが、バービーは持ち主であるグロリア(アメリカ・フェレーラ)と出会い、彼女の娘のサーシャ(アリアナ・グリーンブラッド)も一緒にバービーランドに招待する。
ところが、バービーランドはいつの間にかケンが主役の「ケンダムランド」に名前を変えられ、バービーたちはケンに使えるようになっていた・・・

我が家はバービー人形の日本におけるライバル、というかフォロワーのリカちゃん派だったので、子供の頃はあまりバービーに馴染みがなかった。
後にアメリカに引っ越して、幼い従姉妹のベビーシッターをやった時に、バービーで散々遊ばされたので、ある程度は分かるようになったけど。
でもバービーを全く知らない人でも、心配はご無用。
映画の冒頭で、いきなりバービーの歴史が紐解かれるのだ。
しかも、このシークエンスが「2001年宇宙の旅」のパロディなのである(笑
赤ちゃん人形で遊んでいる少女たちの前に、モノリスよろしく巨大な初代バービーが出現する。
少女たちが今まで遊んでいた赤ちゃん人形を破壊して空に放り投げると、宇宙船ではなく「バービー」のタイトルが現れる。
赤ちゃん人形ばかりの市場にファッションドールが登場した衝撃を、あの映画の人類の進化になぞらえた技ありのオープニング。

本作でバービーたちが暮らすバービーランドは、全てがピンクに彩られた理想郷。
プロダクションデザインのサラ・グリーンウッドと衣装デザインのジャクリーン・デュランは、オモチャの世界に入り込んだような、大人でもワクワクする世界を作り出している。
この街に暮らす女性たちは、肌の色や体型に関わらず皆バービーで、学者や作家、大統領もバービー。
ビーチには人魚のバービーだっている。
バービー以外には、バービーの妊婦の友達ミッジなど、過去にマテル社が発売して廃版になったキャラクターが少数住んでいる。
男たちも全員バービーのボーイフレンドであるケンで、例外はケンの友達であるアランだけ。
バービーランドは女社会なので、社会を回す役割を果たすのは全てバービー。
ケンにはバービーに恋焦がれる以外に役割はなく、バービーとセットで存在する添え物だ。

ところがバービーについて現実世界に行ってみると、そこはバービーランドとは真逆。
社会の中枢にいるのは皆男で、女たちは脇役に甘んじている。
これはずっとバービーに付き従うしか、自己存在の意味を持っていなかったケンにとって衝撃だ。
すっかり現実世界に感化されたケンは、「男社会(patriarchy、厳密には“家父長制”)」の思想をバービーランドに持ち帰り、バービーたちを洗脳してバービーランドを男が主役でマチズモ全開の「ケンダム」に作り替えてしまうのだ。
一方、そんなことになっているとは知らないバービーは、持ち主と思しきサーシャに会いにゆくが、「バービー人形は卒業した、バービーは男社会を助長するファシスト」だと言い放たれる。
ずっと自分が「女の子の憧れ」だと信じていたバービーは大ショック。
しかしサーシャがバービーを卒業した後も、捨てずにずっと手元に置き、大切にして来たのは実は母親のグロリアだったのである。
マテル社の従業員でもある彼女が、理想化されたバービーではなく、死が頭から離れなくて、体にセルライトがある「平凡なバービー」を発案したことで、バービーの体に異変が起こったのだ。

面白いのは、劇中で描かれるマテル社の取締役会が、全員中年男性で女性が一人もいないこと。
誰よりもバービーが好きなグロリアも、実際にバービーを作る仕事はさせてもらえないのだ。
確かにマテル社は女の子の理想をバービー人形という形にし、それが現実を引っ張ってきた歴史がある。
お仕事シリーズのバービーに「宇宙飛行士」が登場したのは1965年で、アメリカ初の女性宇宙飛行士サリー・ライドがスペースシャトルに乗り込んだのは18年後の1983年。
こちらはまだ現実化してないものの、1999年には「大統領」も登場している。
バービーが女の子たちに「何者にでもなれる」という希望を与えたのは確かだろう。
しかし、いつの間にかバービーの世界は過度に理想化され「女の子は虚構で夢喰ってればいい」という本末転倒になっていないか?
サーシャのバービーに対する辛辣な批判、おじさんだらけの取締役会は、そんなマテル社の自戒の念の表れなのかもしれない。
ちなみに現実のマテル社の取締役会には、複数の女性(映画部門のトップも女性)がいるので、これはあくまでも映画の設定。

さてケンに乗っ取られてしまったバービーランドを取り戻すため、帰って来たバービーはグロリアや廃版キャラクターの協力を得てバービーたちの洗脳を解こうとするのだが、この方法がむっちゃシニカル。
グロリアに、現実社会の女に課せられた、ダブルスタンダードの辛さを語らせるのだ。
いわく「痩せろと言われ、痩せたら痩せすぎと言われ。リーダーになれと言われ、なったら威張るなと言われ。綺麗になれと言われ、綺麗になったらモテるなと言われる。」
他にも、現実社会の理不尽を山ほど語るのだが、今まさに「男社会」の中にあるバービーたちは、この言葉で洗脳が解けてしまうのである。
男がウンチクを語るのが大好きなのを逆手にとる作戦とか、バービーの愛を取り合ってお互いに戦わせる作戦とか、いちいち男心が分かってて思わず苦笑い。
しかし、この映画はバービーランドを取り戻すだけでは終わらない。
初めて脇役のポジションを味わった彼女たちは、ケンの切ない想いも知ることとなり、お互いに歩みよる。
バービーたちはそれぞれのアイデンティティを取り戻す一方で、ケンに対しても自分たちの添え物ではなく、独立したアイデンティティを確立することを勧めるのだ。

そう、男社会も女社会も極端ではいけない。
これはバービー人形の世界観を批評的に描きながら、現実と架空の二つの極端な世界が和解に至る物語なのである。
脚本がガーウィグとノア・バームバックの共著なのも納得で、これは女性目線だけでは成立しない。
ファシスト呼ばわりされたことでガッツリ落ち込み、葛藤するバービーの、成長と選択の物語としても観応え十分。
バービーというステロタイプな“型”を風刺的に演じながら、内面の揺れる心を説得力たっぷりに演じたマーゴット・ロビーが素晴らしい。
それぞれに役割があるお仕事系バービーと違って、確固たる目的がない定番バービーは、自らのアイデンティティに悩むのだが、彼女の前に現れるのが、バービー人形の生みの親で、元マテル社長のルース・ハンドラーのゴースト。
今は現実と架空の間に存在するルースに導かれ、バービーはどこに繋がるかはまだ未知数の、自らの物語を生きる決断をする。
女の子も男の子も、何者にもなれる可能性は持っているが、それは別に押し付けられるものではなく、自ら選び取るもの。
一見するとフェミニズムの話に思えて、実はそれだけではなく、フェミニズム、マスキュリズムを包括した幅広い社会のあり方を、笑って泣ける一大エンターテイメントとして描き出した大変な力作だ。
タイトルも、本当は「バービー」よりも「バービー&ケン」が相応しい。
やや台詞に頼った印象は残るが、本作の大きな客層である子供たちに向けて、きちんと論点を理解して欲しいという意図を感じるので、これはこれでいいと思う。
ただ、日本語字幕の言葉のチョイスはちょっとお上品すぎるよ。
これでは、本作の持つ“毒”が伝わらないではないか。

今回は、ピンクの世界の物語なので「ピンク・レディー」をチョイス。
ドライ・ジン45ml、グレナデン・シロップ20ml、レモン・ジュース1tsp、卵白1/2個をよくシェイクして、グラスに注ぐ。
その名の通り、美しいパステルピンクのカクテルで、卵白のソフトな口当たりが辛口のジンとグレナデン・シロップの甘味を優しく包み込み、まとめ上げる。
1912年に初演された、イギリスの同名ミュージカル・コメディーの舞台から名付けられたが、昭和の日本のアイドルデュオの元ネタもこのカクテル。

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コメント
この記事へのコメント
原点回帰という事で、子供たちに育児戻りをさせたキャベツ人形はなかなか凄い玩具なのかもしれない。そして、バービーランドの近くには「シルバリア・ファミリー・キングダム」や「スーパーマリオ・ワールド」があって、冷戦中と考えると、「VS」物やらんかな、とも思う。

映画の中で数カットではあるが、車椅子のバービーが出てきたのは偉いなと思った。ランニング・短パンの山下清になれるバービーも作ってほしい。
2023/09/07(木) 08:19:11 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
キャベツ畑人形あったねえ!懐かしい。
日本では全然売れなかったんだよね。
車椅子バービーは歴史が古くて、90年代にはもう発売されてたそうですよ。
2023/09/11(月) 21:54:26 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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毎日が晴天で毎日が夏、ピンクに彩られ、すべてが完璧な〈夢〉のような世界〈バービーランド〉の住人達は、人生最高の毎日を送っている。 ところが、人気者のバービーの身体に異変が起こり、空も飛べなくなってしまう。 彼女は世界の秘密を知る変わり者のバービーの導きで、自分の持ち主を見つけるために、ボーイフレンドのケンと人間世界へ旅立つ。 そこは、完璧とは程遠い世界だった…。 ファンタジー。
2023/08/13(日) 13:47:45 | 象のロケット
◆『バービー』ユナイテッドシネマ豊洲11 ▲ピンクに差し色がパステルカラーという地獄と言えば地獄のような感性。 五つ星評価で【★★★だって、バービーで遊んだ事はないもの】 「根津甚八が飲んでた缶コーヒーね」 「それはバーディー」 「ダムを造って、ごくまれにゾンビになる奴ね」 「それはビーバー」 しかし、ギャグ的には一番最初の『2001年宇宙の旅』のパロディーが一番面白かったな。 あと、...
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