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クライムズ・オブ・ザ・フューチャー・・・・・評価額1600円
2023年08月21日 (月) | 編集 |
進化の先にある未来とは?

2014年の「マップ・トゥ・ザ・スターズ」以来8年ぶりとなるデヴィッド・クローネンバーグ監督の新作は、退廃的な近未来を舞台に人類の進化を描く物語だ。
自らの体内で未知の臓器を育て、それを摘出するショーを主催するパフォーマンスアーティスト、ソール・テンサーを「イースタン・プロミス」のヴィゴ・モーテンセンが演じ、彼のパートナーとなる元外科医のカプリースにレア・セドゥ。
新たな機能を持つ臓器の出現を監視する「国家臓器登録所」の職員で、テンサーに強い興味を抱くティムリンにクリスティン・スチュワート。
特異な世界観を支えるプロダクション・デザインは、長年クローネンバーグと組んできたキャロル・スピアが担当している。
独特の内臓感覚は相変わらずで、いかがわしさ全開。
過去作のイメージをも内包したセルフトリビュート的作品でもあり、ある意味で現時点での集大成とも言える。
※核心部分に触れています。

人類から「痛み」の感覚と感染症の脅威が失われ、人体と直接交信する機械や家具が当たり前となった近未来。
人々は自らの肉体を切り裂き、造形することを新たな娯楽としている。
ソール・テンサー(ヴィゴ・モーテンセン)は「加速進化症候群」であることを利用し、体の中に新たな臓器を育て、パートナーのカプリース(レア・セドゥ)がそれを摘出するパフォーマンを公開することで、人々から人気を博している。
テンサーとカプリースは、人類の進化を制御することを目的とする「国家臓器登録局」に赴き、今まで摘出した臓器のカタログを贈呈する。
係官の一人、ティムリン(クリスティン・スチュワート)は、彼らショーを見て魅了され「これは第二のセックスね」と語る。
ある夜、ラングと名乗る男が、遺体の公開解剖をしないかとテンサーに持ちかける。
それは殺された彼の息子の遺体で、人類がまだ知らない未知の進化を遂げているという。
実は政府機関のエージェントでもあるテンサーは、密かに刑事と相談した上で、公開解剖を受け入れるのだが・・・


映画は、ショッキングな描写から幕を開ける。
海辺で遊ぶ少年が、母親から「変なものを食べるな」と言われるが、彼は飢えを満たすように自宅のバスルームでプラスチックのゴミ箱を貪り食うのだ。
そして蔑むような目それを見ていた母親は、眠っている少年を殺害するのである。
石や金属などの異物を食べる異食症という精神疾患があるが、少年の行為は違う。
彼はプラスチックを消化できるように進化した存在であり、母親はそんな息子を「化け物」と呼び拒絶するのである。
このオープニングシークエンスを物語の窓口とし、映画はここで起こったことの意味を徐々に見出してゆく。
本作の邦題は、クローネンバーグが1970年に発表した最初期の作品「クライム・オブ・ザ・フューチャー」と一字違いだが、原題は全く同じ。
とは言えリメイクではなく、話は全く違うのだが、世界観のムードはなんとなく共通点がある。

クローネンバーグは、テクノロジーの進化が人類の肉体や心にどのような影響を及ぼすのか?というテーマをずっと追ってきた人で、「コズモポリス」あたりでは、その興味が主に「社会」の方に行っていたが、本作では1999年の「イグジステンズ」以来のSFホラージャンルで「個人」へと回帰。
設定年代は明示されないが、この映画の世界では人類が何らかの突然変異を経験し、痛覚を失い、疫病の存在も無くなっている。
感染症になる可能性が消え、痛みも感じないので、人々は肉体にメスを入れて、さまざまな“造形”を娯楽としている。
また主人公のテンサーは「加速進化症候群」なる新たな疾患にかかっているのだが、彼は体の中に次々と未知の臓器ができるという症状を逆に利用して、摘出手術をショー化することでスターとなっているのだ。
新たな臓器ができても、それがどんなものかは分からないし、基本的に無くてもいい良性の癌のようなものだから、ある程度育ったら摘出する。
しかも手術する前に、なんらかの技術を使って、臓器にタトゥーを入れているのだからぶっ飛んでいる。

しかし、こうして生まれた臓器が、摘出されず世代を超えて定着してしまったらどうなるのか。
既存の人類とは違った器官、違った能力を持つ子供たちが一定数生まれたとしたら、彼らは同じ人類と言えるのか?
そう、冒頭で殺される子供はその第一号なのである。
彼の父親のラングは、人類を人為的に進化させようとする組織の一員で、ある特殊な薬物を含む食品を摂取することで消化器官が変化し、プラスチックなどの廃棄物を食べて生きていけるようになっている。
いかにもクローネンバーグらしい設定だが、政府もこれ以上の人類のイレギュラーな進化を防ぐために、国家臓器登録局を設立して取り締まりに乗り出しているし、テンサーもパフォーマンスアーティストとして活動しながら、警察の秘密エージェントとして業界界隈を探っているので、アヴァンギャルドな活動をしていても、無秩序な進化を肯定している訳ではない。
ラングの能力は、あくまでも後から身につけたものなので、本来この新しい器官は遺伝することはないはずなのだが、なぜか息子は受け継いでしまった。

好むと好まざるかに関わらず、人間の心が変化を受け入れた時点で、全ては始まってしまっているのである。
「ザ・ブルード/怒りのメタファー」の心と肉体の関係、「ヴィデオドローム」や「イグジステンズ」で描かれた肉体と機械の融合の延長線上に、本作の世界観は作られている。
「加速進化症候群」のテンサーは、それ自体が内臓のような見た目の、肉体と直接交信する不気味な機械の助けがなければ、眠ることも食事をすることも出来無い。
テンサーの肉体は無意識の進化を欲していて、物語は結局彼の背中を押すことになる。
人類と機械が一つになり、人間が有機物から無機物へと進化するとしたら、その時人間が食べるのは、やはり無機物なのかも知れない。
変態してゆく人間を見つめる目が以前より達観していて上品なのは、齢八十の年齢ゆえか。
肉体を切り刻む話だから、確かにイタタな描写はあるが、良くも悪くも以前のようなラジカルさは感じられない。
これは熟し切ったメロウな世界で巻き起こる官能的な進化の物語で、ヴィゴ・モーテンセンとレア・セドゥは 特徴的なキャラクターをエレガントに演じ切る。
簡単に言ってしまえば、一度進化がはじまってしまったら、それに抗おうとしても無理だよね?という物語なのだが、飄々とした独特の味わいはやはり唯一無二の作家性で、クローネンバーグの長年のファンにはたまらない。
7、80年代は独自のスタイルを保ったまま、割と娯楽性の高いメジャー系の仕事もしていたが、年齢と共にアートハウス系の原点に戻るタイプの作家なのだろう。

悪夢のような物語には「ナイトメア・オブ・レッド」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、カンパリ30ml、パイナップル・ジュース30ml、オレンジ・ビターズ2dashを氷で満たしたグラスに注ぎ、ステアする。
ドライ・ジンの清涼感とパイナップルの甘さ、カンパリとビターズの苦みが融合した複雑な味わい。
ちょい辛口の大人のアペリティフだ。

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近未来の人類は人工的な環境に適応するため進化と変容を遂げ、痛みの感覚も消滅した。 政府の秘密機関“臓器登録所”は、人類の誤った進化と暴走を監視している。 “加速進化症候群”の男ソールの体内に次々と生まれる新たな臓器に、パートナーの女カプリースがタトゥーを施し摘出するショーは、チケット完売の大人気だ。 そんなソールのもとに、プラスチックを食べていた少年の遺体が持ち込まれる…。 SFスリラー。 ...
2023/08/23(水) 12:37:00 | 象のロケット