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2023年08月25日 (金) | 編集 |
森の中の、絶望の家。
これは未見性の塊だ。
チリのクリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ両監督が2018年に発表した、初の長編作品。
世界一南北に細長い国として知られる、チリの中部。
山と森林に覆われた土地に、ドイツ人移民のコミューンがある。
そこは戒律に支配された、孤立した集落。
主人公の少女マリアは、無責任な行いでコミューンに損害を与えた罪で厳しい罰を受け、耐えられずに脱出。
森の中で見つけた一軒の廃屋に逃げ込んだマリアは、そこで見つけた二頭の子豚にペドロとアナという名前をつけて暮らしはじめる。
ところが、森にはマリアを探すオオカミが跋扈し、外に出ることが出来ない。
飢えに襲われた家では、豚たちが異様な姿に変わってゆく。
ピノチェト軍事独裁政権下のチリに実在したカルト教団「コロニア・ディグニダ」をモチーフに、ストップモーション技法で制作されたアニメーション作品で、映画全体が「過去に教団が作った教化のための映画を修復した」と言うパッケージ。
コロニア・ディグニダは、オウム真理教が可愛く思えるほどの常軌を逸した狂信的カルト教団で、エマ・ワトソン主演のスリラー「コロニア」のモデルとしても知られる。
ドイツで性暴行の罪を犯し、チリに逃亡したパウル・シェーファーによって、1961年に設立されたコロニア・ディグニダは、表向きは「助け合って幸せになる」ことを目的としたバブテスト系の移民集落ということになっていたが、実際は高い塀と監視カメラによって守られた、一度入ったら出られない強制収容所だ。
ピノチェト政権時代にはチリ軍と密接な関係を続け、反体制派の人々がここに拉致され、ナチス由来の拷問の末に殺された。
教団自体もヒトラーを崇拝し、シェーファーの個人的な欲望を満たすことを目的としてたために、家族制度が否定され、親から引き離された少年少女の多くが彼から性暴力を受けていた。
当然、耐えられずに逃げ出す者も少数いたが、教団は周りのチリ人とは友好関係を維持していたので、見つかればすぐに通報される。
権力と結託しているのだから、チリ国内ではどこまでも追ってきて、連れ戻される。
本作はそんな逃亡者のたどる残酷な運命を、凝りにこった抽象アニメーションとして描いた作品なのである。
冒頭からカットを割らずに、二次元と三次元がシームレスに繋がり、超常的なホラーイメージが延々と続く。
最初のうちは、脱出できた安堵感。
廃屋だった家はマリアの心に影響されて、彼女の理想の家へと変貌し、ペドロとアナと名付けられた豚は人間の姿となる。
家の外には追手のオオカミがいて、マリアに戻って来るように誘惑するが、彼女は拒否する。
だがやがて食料が無くなり、束の間の幸せは悪夢へと変わってゆく。
飢えたペドロとアナは本性を剥き出しにしてマリアを喰おうとし、恐怖に絶望した彼女は外で待ち構えるオオカミに助けを乞うしかないのである。
ストーリー性は最低限で、まるで変なクスリでも飲まされて、終わらない白日夢を見させられているような感覚。
おそろしく手間のかかった映像は、まさに創造性の津波と言うべきもので、次元の壁を軽々と超えるアニメーション表現は、複雑過ぎてどうやって作っているのか分からない部分も多々ある。
イメージ的にはシュヴァンクマイエルの作品を思わせる要素もあるが、最後まで見るとやはり独自性と未見性が先に立つ。
怒涛の映像を観ているだけでも圧倒されるのだが、これはザックリでいいので、チリの現代史とコロニア・ディグニダに関して予習して行った方がいい。
知らずに観たら気持ち悪いホラーアニメーションだが、背景にあるものを学ぶことで、はるかに恐ろしい作品に感じられるだろう。
一度その一員となった者は、決して逃れられないというカルトの本質を、一見すると童話のような世界で展開させているのも悪意たっぷり。
「ミッドサマー」のアリ・アスター監督が絶賛しているのも、さもありなんだ。
そのアスターがエグゼクティブプロデューサーを務めたのが、クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャの最新作となる14分の短編「骨」だ。
これも1901年に作られた世界最初のストップモーション映画を修復したと言う設定で、少女が執り行う人間の死体の骨を使った儀式が描かれる。
儀式で召喚されるのが、19世紀の政治家ディエゴ・ポルタレスとピノチェト政権のイデオローグだったハイメ・グスマン。
ポルタレスは100年以上に渡るチリの権威主義的な保守政治の基礎を作った人物で、大統領にはあえて就任せずに、独裁的な手法でチリを支配した。
ハイメ・グスマンはピノチェト政権で正式な地位にはつかなかったが、最も緊密な協力者として政権のイデオロギー的な指針となった人物で、1991年に左派ゲリラによって暗殺された。
長きに渡って権威主義が蔓延し、多くの血が流されたチリ政治史の象徴とも言える二人を呼び出すのだから「骨」の意味するところは明らかだ。
レオン&コシーニャ両監督は、フェイク映画の修復版というユニークな共通パッケージで、チリという国の記憶として染みついた、歪んだ政治と宗教のもたらす害悪と恐怖を、変化し続ける悪夢的なアニメーションとして描き出した。
独特の映像は一度観たら決して忘れられない、唯一無二の作家性だ。
ワインどころとしても知られるチリからは、血のような赤を。
ヴィーニャ・コノスルの「コノスル オーガニック カベルネ ソーヴィニヨン カルメネール シラー」をチョイス。
名前が示す通り、三種類の有機栽培葡萄を使ったオーガニックワイン。
除草剤も使わず、ガチョウなどで害虫駆除をおこなっているために、土壌のミネラルが滋味となって溢れ出すフルボディの辛口赤だ。
血の滴るレアステーキといただきたい。
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これは未見性の塊だ。
チリのクリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ両監督が2018年に発表した、初の長編作品。
世界一南北に細長い国として知られる、チリの中部。
山と森林に覆われた土地に、ドイツ人移民のコミューンがある。
そこは戒律に支配された、孤立した集落。
主人公の少女マリアは、無責任な行いでコミューンに損害を与えた罪で厳しい罰を受け、耐えられずに脱出。
森の中で見つけた一軒の廃屋に逃げ込んだマリアは、そこで見つけた二頭の子豚にペドロとアナという名前をつけて暮らしはじめる。
ところが、森にはマリアを探すオオカミが跋扈し、外に出ることが出来ない。
飢えに襲われた家では、豚たちが異様な姿に変わってゆく。
ピノチェト軍事独裁政権下のチリに実在したカルト教団「コロニア・ディグニダ」をモチーフに、ストップモーション技法で制作されたアニメーション作品で、映画全体が「過去に教団が作った教化のための映画を修復した」と言うパッケージ。
コロニア・ディグニダは、オウム真理教が可愛く思えるほどの常軌を逸した狂信的カルト教団で、エマ・ワトソン主演のスリラー「コロニア」のモデルとしても知られる。
ドイツで性暴行の罪を犯し、チリに逃亡したパウル・シェーファーによって、1961年に設立されたコロニア・ディグニダは、表向きは「助け合って幸せになる」ことを目的としたバブテスト系の移民集落ということになっていたが、実際は高い塀と監視カメラによって守られた、一度入ったら出られない強制収容所だ。
ピノチェト政権時代にはチリ軍と密接な関係を続け、反体制派の人々がここに拉致され、ナチス由来の拷問の末に殺された。
教団自体もヒトラーを崇拝し、シェーファーの個人的な欲望を満たすことを目的としてたために、家族制度が否定され、親から引き離された少年少女の多くが彼から性暴力を受けていた。
当然、耐えられずに逃げ出す者も少数いたが、教団は周りのチリ人とは友好関係を維持していたので、見つかればすぐに通報される。
権力と結託しているのだから、チリ国内ではどこまでも追ってきて、連れ戻される。
本作はそんな逃亡者のたどる残酷な運命を、凝りにこった抽象アニメーションとして描いた作品なのである。
冒頭からカットを割らずに、二次元と三次元がシームレスに繋がり、超常的なホラーイメージが延々と続く。
最初のうちは、脱出できた安堵感。
廃屋だった家はマリアの心に影響されて、彼女の理想の家へと変貌し、ペドロとアナと名付けられた豚は人間の姿となる。
家の外には追手のオオカミがいて、マリアに戻って来るように誘惑するが、彼女は拒否する。
だがやがて食料が無くなり、束の間の幸せは悪夢へと変わってゆく。
飢えたペドロとアナは本性を剥き出しにしてマリアを喰おうとし、恐怖に絶望した彼女は外で待ち構えるオオカミに助けを乞うしかないのである。
ストーリー性は最低限で、まるで変なクスリでも飲まされて、終わらない白日夢を見させられているような感覚。
おそろしく手間のかかった映像は、まさに創造性の津波と言うべきもので、次元の壁を軽々と超えるアニメーション表現は、複雑過ぎてどうやって作っているのか分からない部分も多々ある。
イメージ的にはシュヴァンクマイエルの作品を思わせる要素もあるが、最後まで見るとやはり独自性と未見性が先に立つ。
怒涛の映像を観ているだけでも圧倒されるのだが、これはザックリでいいので、チリの現代史とコロニア・ディグニダに関して予習して行った方がいい。
知らずに観たら気持ち悪いホラーアニメーションだが、背景にあるものを学ぶことで、はるかに恐ろしい作品に感じられるだろう。
一度その一員となった者は、決して逃れられないというカルトの本質を、一見すると童話のような世界で展開させているのも悪意たっぷり。
「ミッドサマー」のアリ・アスター監督が絶賛しているのも、さもありなんだ。
そのアスターがエグゼクティブプロデューサーを務めたのが、クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャの最新作となる14分の短編「骨」だ。
これも1901年に作られた世界最初のストップモーション映画を修復したと言う設定で、少女が執り行う人間の死体の骨を使った儀式が描かれる。
儀式で召喚されるのが、19世紀の政治家ディエゴ・ポルタレスとピノチェト政権のイデオローグだったハイメ・グスマン。
ポルタレスは100年以上に渡るチリの権威主義的な保守政治の基礎を作った人物で、大統領にはあえて就任せずに、独裁的な手法でチリを支配した。
ハイメ・グスマンはピノチェト政権で正式な地位にはつかなかったが、最も緊密な協力者として政権のイデオロギー的な指針となった人物で、1991年に左派ゲリラによって暗殺された。
長きに渡って権威主義が蔓延し、多くの血が流されたチリ政治史の象徴とも言える二人を呼び出すのだから「骨」の意味するところは明らかだ。
レオン&コシーニャ両監督は、フェイク映画の修復版というユニークな共通パッケージで、チリという国の記憶として染みついた、歪んだ政治と宗教のもたらす害悪と恐怖を、変化し続ける悪夢的なアニメーションとして描き出した。
独特の映像は一度観たら決して忘れられない、唯一無二の作家性だ。
ワインどころとしても知られるチリからは、血のような赤を。
ヴィーニャ・コノスルの「コノスル オーガニック カベルネ ソーヴィニヨン カルメネール シラー」をチョイス。
名前が示す通り、三種類の有機栽培葡萄を使ったオーガニックワイン。
除草剤も使わず、ガチョウなどで害虫駆除をおこなっているために、土壌のミネラルが滋味となって溢れ出すフルボディの辛口赤だ。
血の滴るレアステーキといただきたい。

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