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ショートレビュー「月・・・・・評価額1700円」
2023年10月20日 (金) | 編集 |
月は、見えていた。

凄みのある映画だ。
2016年7月26日未明に発生し、重度障害者19人が虐殺され、職員を含めて26人が重軽傷を負った「相模原障害者施設殺傷事件」をモチーフに、石井裕也監督が作り上げた超ヘビーな人間ドラマ。
近年の日本映画の中でも、群を抜いた問題作と言って良いと思う。
原作は辺見庸の同名小説。
劇中で起こる事件のあらましは実際に起こったことに近いが、原作者を投影した宮沢りえとオダギリジョー演じる作家夫婦を主人公とし、のちに発覚した同系列の施設の入所者虐待事件なども背景に加え再構成している。

東日本大震災を描いた著書がヒットしたものの、その後書けなくなった作家の堂島洋子が、施設のパート従業員として働き始めるところから物語は始まる。
彼女自身も、生まれてから三年間寝たきりだった我が子を亡くす経験をしてから日が浅く、生きるのは決して綺麗事でないことは知っているが、それでも意思疎通の叶わない大人の重度障害者が暮らす施設の現実には衝撃を受ける。
スタッフは大変な仕事にも関わらず低賃金で、入所者が声を上げられないことをいいことに、いたずら半分に虐待が日常化
中にはずっと鍵を掛けられて、ケアもされずに放置されている入所者もいる。

この施設で、洋子は二人の若いスタッフと出会う。
一人は二階堂ふみが演じる作家志望の陽子、もう一人が磯村勇斗が怪演する、一見人当たりのいい好青年、自称「さとくん」だ。
陽子は小説の取材を兼ねて働いているのだが、施設の現状に心が折れる寸前。
さとくんは、当初どんな入所者にも親切に接しているのだが、急速に「意思疎通の出来ない入所者には心が無い。だから彼らは人ではない」という、ナチズム的な優生思想に取り憑かれて行くのだ。
一方の洋子は、自分と生年月日が同じの入所者の女性に感情移入する。
彼女にとっては息子の経験もあるので、意思疎通が出来ないイコール心がないとは思えない。
肉体的に言葉を発することが出来なくても、内側に閉じ込められた心があると信じている。
この様に、重度障害者に対して、真逆の捉え方をする洋子とさとくんがテーゼとアンチテーゼとなる構造だ。

キャラクターも演出も押しが強い。
激しいズームや傾く画面、スプリットスクリーン、時には会話の相手が自分の姿になるなど、さまざまな技法を駆使し、社会の歪みや心の揺れを強調。
四人の主要キャラクターには、それぞれの仕事や存在意義を辛辣に否定される描写がある。
洋子は酔った陽子に、自らの著作を「人間の暗い部分に向き合わず、綺麗事しか書いてない」と酷評される。
ストップモーションでアニメーションを作っている夫は、同僚に創作活動を意味の無いものと馬鹿にされる。
クリスチャンの家庭に育ち、父母との関係に問題を抱えた陽子は、書いた小説がずっと落選し続けている。
さとくんは、良かれと思って入居者のために描いた紙芝居の活動を、同僚から否定される。

自分はこの社会にいらない存在だと言われた時、人は矛先をどこに向けるのか。
もっといらない存在を見つけ、攻撃することで救われようとするのか、それとも自らを奮い立たせ、研鑽を重ねるのか。
生きるとか何か、人間とは何か、ただ存在しているだけではダメなのか、社会に必要とされるとはどう言うことなのか。
曇天が支配するダークな世界で、重層的な葛藤に直面するキャラクターたちを見ていると、次第に何が正しいのか分からなくなってくる。

非常に真摯に作られた作品で終始引き込まれたが、一点だけ気になったのは「犯人の声が一番デカい」と言うこと。
犯人の主張に対抗するには「命は存在するだけで価値がある」と経験的に知る洋子に、全力で主張させるしかないはずだが、最終的に提示されるのが主人公夫婦の極めてパーソナルな着地点なので、ここはちょっと弱い。
もちろん主人公夫婦に起こることと、彼らのドラマも感動的だ。
簡単には答えの出せない問題を扱っているがゆえに、結論を断定的に提示せずに、観客の思考を後押ししジンテーゼを委ねると言うのスタンスは理解できる。
しかしこの映画を観て、犯人の思想に共感する者が出てきそうな危うさを感じた。
お互いの中に自分を見ては否定する、中盤の直接対決はスリリングだったが、洋子は作中で書き上げる新作ではなく、もう少し映画の中で主張しても良かったのではないか。
いずれにしても、秀作には間違いないが。

今回は、カクテルの「レクイエム」をチョイス。
ウオッカ45ml、トリプルセック45ml、マリブ・ココナッツ・ラム 45mlを順にグラスに注ぎレモンライム・ソーダで満たす。
ドライなウオッカとトリプルセックの甘酸っぱさ、ココナッツ・ラムの甘い香りと、それぞれにベクトルの違う酒がお互いを引き立て合う。
人間も同じで、どんな人にも居場所はある。あるべきなのだ。

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深い森の中にある重度障碍者施設。 ここで新しく働くことになった堂島洋子は、“書けなくなった”元・有名作家で、夫・昌平とふたりで暮らしている。 洋子は他の職員による入所者への心ない扱いや暴力を目の当たりにするが、それを訴えても聞き入れてはもらえない。 そんな世の理不尽に誰よりも憤っているのは、さとくんだった…。 社会派ドラマ。
2023/10/26(木) 00:00:20 | 象のロケット