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市子・・・・・評価額1700円
2023年12月16日 (土) | 編集 |
生きるために、罪を犯す。

戸田彬弘監督が、主催する劇団チーズtheaterの旗揚げ公演として上演した舞台劇「川辺市子のために」を、自ら脚色して映画化したヘビーな人間ドラマ。
同棲している恋人・長谷川からプロポーズされ、うれし涙を流した翌日、なぜか逃げるように姿を消した市子。
彼女の行方を探す長谷川の捜索は、やがてある殺人事件と結びつく。
そして時代によって市子と月子と言う二つの名前を使い分ける彼女の、28年間に渡る驚くべき秘密が紐解かれるのだ。
過酷な人生を歩んできたタイトルロールの川辺市子を杉咲花が演じ、圧巻の存在感。
長谷川役の若葉竜也のほか、森永悠希、倉悠貴、中田青渚、中村ゆりらが出演。
物語の視点は長谷川に置かれており、彼の捜索の旅を通して、川辺市子という一人の女性の人生を辿るような独特の感覚。
同時に、その背景としての“時代“が浮かび上がってくる。
※核心部分に触れています。

川辺市子(杉咲花)は夏の花火大会の前日に、三年間同棲している長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズされる。
「うれしい」と答えた市子だったが、翌日着の身着のままで突然姿を消す。
何が起こったのか分からず戸惑う長谷川だったが、その後刑事の後藤(宇野祥平)が訪ねてきて、市子を探していると言う。
どうも同じ頃に山中で発見された、白骨化した遺体と関係があるらしい。
何か事件に巻き込まれたのではないかと心配になった長谷川は、彼女の行方を探しはじめる。
すると、徐々に市子の過去がわかってくるのだが、自分の知っている市子とは年齢がずれていること、時期によって市子と言う名前とは別に“月子”と呼ばれいたことを知る。
長谷川は高校卒業後に市子の行方を探していた、北(森永悠希)と言う男の存在を知り彼を訪ねるのだが・・・


オリジナルの舞台劇のチラシが面白い。
細かい字でびっしりと2008年までの市子の年表が世相と共に書かれ、文章が女性のシルエットでくり抜かれているのだ。
それによると、川辺市子が生まれたのはバブル経済の始まりの1987年。
市子の父親は、彼女が生まれる前に突然「自分は新人類だ」と宣言して失踪してしまったらしい。
母のなつみは夫が行方不明のまま出産したので、離婚後300日以内に生まれた子は、前夫とのことみなすといういわゆる「300日問題」によって、市子は無戸籍児となってしまうが、幼い頃はそれを意識することもなく、暮らし向きも悪くない。
だがイケイケの時代は長くは続かず、バブルの崩壊とともに日本は「失われた20年」と呼ばれた停滞期に突入する。
市子と家族の人生も、この頃から大きく狂ってくるのだ。
再婚した夫も借金を抱えて姿を消し、母子家庭の生活は急速に悪化、さらには妹の月子が筋ジストロフィーを発症して寝たきりとなり、市子は月子の戸籍を利用して学校に通いはじめる。
しかし実際には3歳年上なので色々と無理が出て、彼女は状況を取り繕うために嘘を重ねるようになってくる。
そしてある年の夏、彼女は最初の大きな罪を犯す。

映画の冒頭、市子はむせかえるような夏の酷暑の中を歩いている。
シーンが変わると、身の回りのものをバッグに詰め込み姿を消す準備をしているのだが、玄関に帰宅した長谷川の気配を感じ取ると、全てを打ち捨てて窓から逃げ出すのである。
やがて刑事の後藤の登場とともに、市子の正体に何やら不穏なものを感じ取った長谷川の視点で、彼女が過去に関わってきた人々を訪ね、本当の市子を探す旅がはじまる。
市子の幼い頃を知る幼馴染は、数年ぶりに再会した市子がなぜか月子と呼ばれていたこと、同い年のはずが2年下の学年になっていることを不思議に思っていた。
小学校の同級生は、市子の体の発育は普通よりも早かったこと、家になぜか介護用のオマルがあったことを覚えていた。
高校時代に市子と付き合っていた彼氏は、ある時から彼女がセックスを嫌がるようになったことで、同級生の北との関係を疑っていた。
やがて長谷川の旅は、市子が一度は戸籍を取ろうとしていた時の支援団体、成人後に市子が一緒に夢を追おうとしたパティシエの女性、そしてすべての原因を知る母・なつみへと辿り着く。

生まれながらにして公的なアイデンティティを失った市子は、常に揺らいでいる存在だ。
月子として偽りの人生を送りながら、その根底には抑圧を感じながら生きている市子がいる。
だから彼女の言葉が本心なのか、それとも嘘なのか観客にも分からない。
市子自身は単に目先の問題に対処きてきたとしても、気付いてみればいつに間にか状況は抜き差しならないところまで来てしまっているのだ。
客観的な事実だけを見ると、彼女は自分の人生を守るために、次々と人を殺してきたシリアルキラーなのかもしれない。
だが同時に、長谷川を深く愛していたことも、ただ普通に生きて幸せになりたかっただけなのも事実だろう。
時には共感キャラクター、時には非共感キャラクター。
自分ではどうすることも出来ない問題に翻弄され、それでも人生を投げ出さなかった市子を、リアリティたっぷりに表現した杉咲花が素晴らしい。
間違いなくベストアクトであり、彼女の代表作となるだろう。
学校という共同体を卒業した後は、彼女は月子を脱却して市子として生きてゆくのだが、公的には存在しない人物で、しかも過去の罪を隠したままの人生という事実は変わらない。

破滅的な市子の人生は、いわば日本社会が放置してきた様々な問題の結果だ。
彼女を苦しめて来た300日問題は、2024年にようやく離婚後300日以内でも現夫の子として認める改正民法が施行されることが決まっているが、再婚しない場合の問題は残ったまま。
無戸籍の問題を軸に、母子家庭の貧困や介護問題など、物語の中にはさまざまなイシューが配されている。
戸田彬弘監督作では、幾つもの偽名を使い分ける男と、彼の娘だと名乗る少女の関係を描いた「名前」以来のアイデンティティをモチーフにした作品だが、こちらは時代性もあってグッと深い。
ここまでドラマチックでなくても、市子に近い境遇の人は決して少なくないはず。
作り込まれた架空の女性の人生に俳優が命を吹き込み、もしかすると私たちの身近にも“市子”はいるのかも知れないと思わされる。
物語は舞台が上演された2015年の設定だが、市子は今もどこかで懸命に生きているのではないか、そんな気がしてくるのである。
観る者の心を捉えて離さない、大変な力作だ。

今回は撮影が行われた和歌山の地酒、「黒牛 純米吟醸」をチョイス。
私は和歌山に縁があるので、半分故郷の味みたいなもの。
しっかりしたコクがあり、フルーティでまろやか。
和歌山の日本酒は比較的甘いのが特徴で、黒牛の純米も日本酒度以上に甘みを感じ、名前の通りにお肉料理とよく合う。

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コメント
この記事へのコメント
運命を受け入れ家族の一員としての行動をしつつ、それだからこそ出会った幸せを全うしたかったはずなのに...
映画の中で市子が一人でなんだか楽しそうに歩く姿がいつまでも印象に残っています。そういった瞬間だけが彼女の幸せなのかもと思うと切ないです。
市子の姿や市子の母の過去と現在も併せて見せてくれるので、それを第三者として観ているわたしとしては制度の狭間に落ちてしまったらまた落ちていくことを見せつけられている様で。いろいろと考え込んでしまいます。
ちょうど行動遺伝学の本を読んでいるところなので、その点からもとても気になる映画でした。
最近観た映画OUTの主人公が彼氏役で出演していて、再会できて得をした気分でした((笑)。
2023/12/26(火) 08:46:08 | URL | 11月20日 #mQop/nM.[ 編集]
こんばんは
>11月20日さん
全然肯定は出来ないんだけど、彼女の立場なら仕方ないよね・・・と思わせてしまうのが理不尽でした。
こういう問題は見えないだけで色々あって、実際に苦しんでいる人も多いのだろうなと。
そう気づきを与えてくれる良作でした。
2023/12/27(水) 21:47:46 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
真逆な二作品
ノラネコさん☆
たまたま「ある男」と合わせて見ました。同じ様に戸籍を扱い、アイデンティティを求める作品でありながら、真逆な持っていき方で大変興味深かったです。
シングルマザーでも出生届は出せるはずなのに、DVを逃れて出生届を出せない例が実際多いというのは何ともやるせないですよね。
女性はあくまで弱者なのに、市子はある意味自力で生き延びようとする力強さがあって、応援したいような、応援できないような不思議な気分になりました。
2024/03/15(金) 11:41:59 | URL | ノルウェーまだ~む #gVQMq6Z2[ 編集]
こんばんは
>ノルウェーまだ〜むさん
「ある男」とは裏表のような作品ですね。
自らアイデンティティを捨てるのか、初めから持ってないのか。
すごく複雑なキャラクターなんですけど、感情移入キャラクターギリギリの役作り。
杉咲花は主演女優賞に値する見事な演技でした。
2024/03/20(水) 20:59:54 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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2023/12/23(土) 16:17:09 | 象のロケット