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馬に乗った悪魔/The Devil Came on Horseback・・・・・ダルフールで起こっている事
2007年08月28日 (火) | 編集 |
ドキュメンタリー映画が、静かなブームなんだそうである。
火付け役はもちろんマイケル・ムーア「華氏911」だろう。
あの作品がボックスオフィスを爆走して以来、様々なドキュメンタリー作品が劇場にかかるようになった。
8月末の米国だけで、公開中のムーアの「シッコ」、デ・カプリオがプロデュースした「The 11th hour」、ゲームのドンキーコングの内幕物「King of Kong」など幾つもの作品が公開中で、それぞれ話題になっている。
これらの作品は医療や環境、ゲームと扱う内容は様々ながら、比較的観客が身近に感じられるテーマで、なおかつウィットに富んだシニカルな視点を持つなど、娯楽として楽しめる様に出来ているのが特徴になっている。
いわば難しい時事問題を、少しひねった変化球として投げる事で、人々の興味を惹いていると言えると思う。
ドキュメンタリーが、あるテーマを観客に訴えるためのプロパガンダであると考えれば、このやり方は正しい。

そんな中「The Devil Came on Horseback」という作品を観た。
アフリカ、スーダンのダルフール地方で、2003年以来続く民族紛争を扱った作品である。
ここには娯楽は無い。変化球的な視点すらなく、ド直球で「今、そこにある真実」を伝えてくる。
映画は、停戦監視のためにスーダンに赴き、やがてダルフールのジェノサイドを見る事になる元アメリカ海兵隊大尉ブライアン・スタイドル氏(Brian Steidle)を通して、今ダルフールで何が起こっているか、何が必要とされているのかを強烈に描写する。
この作品が、日本で上映される機会があるのかどうかは現時点では不明だが、非常に強いインパクトを持った作品なので、出来る限り内容を紹介したいと思う。
今回はレビューというよりは、作品紹介と割り切りたい。
もし機会があれば、是非見てほしい作品である。
また、映画の上映後に、この作品のプロデューサーであるジェーン・ウェルスさんのお話を聞く機会もあったので、併せて紹介したい。

ブライアン・スタイドルは、代々軍人の家系に生まれ、彼自身も常々人の役に立つ仕事をしたいと願っていた。
あくまでも現場に拘った彼は、海兵隊に入隊して大尉まで勤めて退職。
次に何をしようかと迷っていた時に、インターネットで目にしたのがスーダンの停戦監視の任務だった。
当時のスーダンは、20年に及ぶ北部アラブ系と南部キリスト教系の内戦が終結し、復興が始まったばかりだった。
スタイドルと彼のチームは、初め比較的平穏な南部に赴任した。
しかし、前年から始まったダルフール地方の紛争が悪化しているという情報が入り、2004年9月に、スタイドルは初めてダルフールに足を踏み入れる。
非武装の彼が持つのは、紙とペンとカメラだけだ。

この時点では、この映画はまだ制作がはじまっていないので、映画はスタイドルの撮影した膨大な写真とナレーションによって語られるのだが、その凄惨さは想像を絶する。
現地では、スーダン政府の支援を受けたバッガーラ族を中心としたアラブ系遊牧民による、アフリカ系の村々への襲撃が相次ぎ、多くの村人が殺され、レイプされ、家を焼かれて難民化していた。
アラブ系もアフリカ系もどちらもイスラム教徒であり、これは宗教紛争ではなく、人種的な民族紛争なのである。
アフリカ系の村人は、襲撃してくるアラブ系の民兵をジャンジャヴィードjanjaweed(馬に乗った悪魔)と呼び恐れていた。

ダルフールにあるのは、死・絶望・悲しみ・・・
スタイドルのカメラは、この紛争の無残な風景を淡々と捉える。
原型を留めないほど激しく殴られて、撲殺された子供の死体が無造作に転がる荒地。
ある学校では、手錠をかけられた女生徒の黒焦げの死体があった。
彼女は、おそらくレイプされ、生きながら焼かれたと思われる。
いたるところに死体が放置され、村人たちは誰もが喪失感に苛まれていた。
息子を失った父、娘を失った母、あるいは家族全てを失った人々。

ショッキングなのは、「レイプが武器として使われている」という証言だ。
レイプは、単なる民兵の性欲の捌け口ではない。
保守的なこの地域では、例え女性に非が無かったとしても、レイプされた女性ははそれだけで家族を失う。
「夫は去った。私の身に起こったことに耐えられなかったからだ・・・」と語る、被害女性の悲しい表情が心に残る。
こうして、レイプによって家族を破壊し、部族社会そのものを崩壊に追い込むのがレイプを武器として使うという事なのだ。

スーダン政府はジャンジャヴィードとの関わりを公には否定するが、劇中に登場するジャンジャヴィードの幹部は、はっきりと言う。
「我々を訓練しているのも、命令しているのも政府だ」と。

スタイドルが現地で出来ることは、記録する事だけ。
やがて彼は膨大な写真と記録と共に、アメリカに帰り、ダルフールの現実を世論に訴える行動に出る。
この映画が企画され、撮影が始めるのもこの時点だった様だ。
ダルフールのジェノサイドを止めるためには、十分な装備を持った多国籍軍の展開が不可欠だ。
しかし、政治の厚い壁がそれを阻む。
産油国であるスーダンには、生産量の80%の石油を輸入する中国のバックアップがある。
またアメリカのブッシュ政権自体も、対テロ戦争でスーダン政府の協力を必要としているという事情から、ダルフール紛争のジェノサイド停止に対して、決して熱心ではなかった。
驚くべきことに、ブッシュ政権はスタイドルに対しても、写真の公表をしないようにと圧力をかけてきたという。
スタイドルの撮影したぶ厚いアルバム数冊にもなる膨大な記録は、政治よりもまずは人々の関心を呼び起こす。
ニューヨークタイムズに取り上げられた事で、ダルフールの現実は徐々にアメリカ人に知られるようになり、隣国チャドの難民キャンプにも支援の手が届くようになる。
次期大統領候補のオバマ氏を初め、ダルフールの紛争に積極的に取り組む政治家も増えてきている。

映画の後半、スタイドルは再びアフリカに戻り、チャドの難民キャンプや嘗てジェノサイドが起こったルワンダを訪れる。
ここは1994年に100万人が犠牲となったジェノサイドの舞台である。
虐殺の跡をそのまま保存した施設を見たスタイドルは言う。
「これは、ルワンダを再び起こさないために、我々に与えられた一つのチャンスでもあるのだ」

ダルフールの問題に取り組む人は、確実に増えている。
しかし、いまだにダルフール紛争は様々な政治的な要因によって、解決の道筋は立っていないのが現状だ。
映画の中で、難民キャンプの老人が語りかける。
「私たちはイスラム教徒なのに、イスラムは誰も助けてくれない。アラブ人は一体どこにいる。助けに来てくれたのはアメリカ人だけだ。ありがとう、本当にありがとう」
アメリカ人にとっても、アラブ人にとっても、そして遠いアフリカのダルフールの出来事を、傍観者として見ている我々にとっても何とも複雑な気分にさせられる言葉だろう。
ダルフールの犠牲者は、今年8月までに推定45万人
250~300万人が難民化し、300~500万人が飢餓の淵にいる。

  ※     ※     ※     ※     ※     ※     ※      

本作のプロデューサーであり、スタイドルと共に実際に現地を取材したジェーン・ウェルスさんのティーチ・インも行われたので、一部を紹介したい。
彼女は、週末劇場に張り付いて、上映が終わるたびに観客とのティーチ・インを繰り返しているらしい。凄い情熱だ。

Q:私たちは何をすべきなのでしょう

J:まずはこの映画に関心を持ってくれて感謝します。
現在ダルフールの紛争に対して、様々な民間の支援プロジェクトが存在します。
彼らのウェッブサイトを訪ねてみてください。
そして、もし貴方が支持している政治家がいたら、手紙を書いてください。
昨日はサンフランシスコ市長がこの映画を観て、政府に働きかけをすると約束してくれました。
皆さんの身近な政治家にも、この問題に関心を持ってもらってください。

Q:アラブ系の政府と民兵が、アフリカ系住民を虐殺しているという事ですが、映画を見る限り、どちらも同じアフリカ人に見えます。宗教もイスラム同士だと言うし、一体何が違うのでしょう。

J:確かにスーダンのアラブ系の人々も、一般に私たちがイメージするアラブ人よりは、アフリカ系の顔をしています。
しかし、スーダンは部族社会であり、部族が違えば何もかも違うのです。
彼らにはスーダン人という概念すらあまり無くて、部族が違えば外国人のようなものと言えば判ってくれるでしょうか。
ダルフールの場合は、ここに住んでいたアフリカ系農耕民と、後から進入したアラブ系遊牧民の軋轢が元々ありました。
それに政府が火をつけたようなものです。
悲しい事ですが、政府というのは必ずしも国民全てを守るものではなく、一部の国民だけの利益を代表するものなのです。

Q:ダルフール紛争を止めるために、何が必要だと思いますか。

J:ジェノサイドを止めるため、今すぐに必要なものは、国連決議に基づいた強力な多国籍軍の展開です。
ジャンジャヴィードの武装そのものは貧弱な物で、訓練された軍隊を相手に戦争をする事は出来ません。
十分な装備を持つ部隊が一つの村に一つ駐留していれば、それだけでジャンジャヴィードは手が出せない。襲撃は止めるとこが出来るのです

Q:アフリカ連合の部隊が既に展開していますが、十分ではないのですか。

J:アフリカ連合の部隊では十分とは言えません。彼らの部隊は装備も貧弱で、数も足りません。また、アフリカ連合加盟国の多くがスーダンと同じような独裁政権の国という点も、考慮する必要があります。スーダン政府のすることを積極的に止めようとする国だけではないのです。
残念ながら、アフリカの問題はアフリカだけでは解決出来ないのが現実です。
現状ではアフリカ連合のほかに、インドネシアとデンマークの部隊が少しいますが、現実にジェノサイドを止めるにははるかに大規模な部隊が必要です。
訓練された規律のある軍隊を持つ、欧州やアジアの国々から派兵を求め、国際的な部隊が展開すべきだと思います。

Q:中国政府に抗議するために、オリンピックをボイコットするべきという意見もあります。

J:オリンピックをボイコットする事は、アスリートの夢を奪うだけで何も生まないと思います。
ただ、オリンピックは平和の祭典であり、その事とダルフールを結び付けられる事に、中国政府はプレッシャーを感じています。
実際にボイコットすべきではないと思いますが、オリンピックを成功させたいなら、ダルフールでも責任を果たすべきというメッセージは伝えるべきです。

Q:アメリカ政府の反応に対してはどうですか。

J:残念ながらブッシュ政権はこの問題に及び腰です。
実はアメリカはテロリストの手配に関してスーダン政府の協力を得ており、その事が積極性を奪っています。
またイラク戦争に手一杯で、他の問題に大きくコミットしたくないという事もあるでしょう。
しかし、アルカイダのテロリストを捕まえるために、ダルフールの住民が虐殺されるのを見過ごして良いという事にはならないと思います。
既に40万人以上が犠牲になりました。
そして、今この瞬間にも人が死んでいるのです。
私たちには力があります。
一人一人が小さな行動をすれば、ダルフールで起こっている事を、止めることが出来るのです。
そのことを知ってください。


この映画のことをもっと知りたい方は:
http://www.thedevilcameonhorseback.com

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コメント
この記事へのコメント
こんにちわ
ノラネコさん
多分「ホテル・ルワンダ」を観た際に色々調べて、そのときにもダルフール紛争のことを目にしていたはずです。
そのときも色々調べていたはずなのに正直、忘れていました。
ここでもまたこんなことが行われているのに忘れていた自分が恥ずかしく、また情けないなと。
興味を持つことは簡単だけど、それが続かないで一時のものだったら意味がない。だからジェノサイドはなくならないのかもしれないなって思っちゃいました。
正直、政治的問題自体も良くは解っていません。ただ、紛争の裏では利益を得ている人がいて国がいて、またはそれ以外の問題でいっぱいいっぱいの国がいて。トップの人の意識が変わればいいけど、待ち続けているほど時間はないですよね。
もちろん何かをしている人もいるんだろうけど、それが大きな国の協力を得られないために結果に結びつかないのが歯がゆいです。
まだ絶望的状態では絶対ないと思うのですが、ここにいる私には何かが変わればいいなと思うしか出来ないことがまた・・・。

私に何が出来るわけではないと重々承知なのですが、こういう風にノラネコさんがこの映画を紹介してくださったことに感謝です。日本で公開して欲しいな。
2007/08/30(木) 14:45:38 | URL | ななな #7qDEbzaw[ 編集]
こんばんは
>なななさん
私も、アフリカ連合の部隊が展開した事で、ダルフールの状況は少し改善されたのだろうと思っていたので、状況が殆ど変わっていないというのは正直言ってショックでした。
日本にいるとどうしてもアフリカというのは遠くて、自分の問題としてイメージするのは難しいですよね。
実際、ダルフール問題に取り組んでいますっていう政治家も見た事ないし。
多分、殆どの人がダルフールを知ったからといって、何をする訳でもないと思うのですが、まずは知る事が第一だと思うんです。
この映画のスタイドルさんも、この人は軍人だから、現地で目の前で人が殺されてるのに何も出来ないというのはとても辛かったと思います。
現地では写真を撮ることしか出来なくて、まずは人に知らせる事を始めたんですよね。
それが少しずつ広まって、今ではかなりの大きなムーブメントになっている。
多くの人が知ることで、変わっていく現実もあるという事に少し救われます。
私の紹介記事も、何人の人が目を留めてくれるのかは判りませんが、ほんの僅かでも関心を持ってくれる人がいれば幸いです。
この映画も出来れば日本でも上映してほしいですね。
アメリカでは52の街で上映されることが決まったそうです。


2007/08/31(金) 00:49:41 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
日本政府
日本政府は、先月もダルフール問題を解決するための国際会議に出席しており、人道援助のために18億円を寄付した小泉政権のときから外務省を通じてダルフール問題に関わっているようですよ。
最近では、こんな動きも。
http://jp.ibtimes.com/article/biznews/070829/11550.html
でも、それはほとんど知られていません。
なぜなら、マスコミが大きく報道しないからですし、国民の意識がダフールよりも芸能ニュースにいってるからだと思われます。
まず第一に知るということが大切なのでしょうが、マスメディアがビジネスに走っているという現状、なかなか大切な問題が世の中に広まらないのではないでしょうか。
2007/08/31(金) 10:32:16 | URL | りゅうじ #-[ 編集]
こんばんは
>りゅうじさん
日本人は地道に良い事をしてるんですけどね。
人道援助の実績などは、むしろ国外の評価の方が高いかもしれません。
おそらく大方のマスメディアに関しては、アメリカも大して変わらないと思います。
ダルフールよりパリス・ヒルトンのムショ行きの方がはるかに関心を集めていたし、たぶん90%以上のアメリカ人はダルフールなんて知らないでしょう。
ただ、覚悟を決めたごく一部の個人、そしてマスメディアパワーが浸透する素地が残っているというか、個々の中の公の意識が少しだけ高いのかもしれません。
日本は政治家を含めて、個が前に立つ姿が見えないですよね。
2007/08/31(金) 22:41:01 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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