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雪山の絆・・・・・評価★★★★+0.6
2024年01月23日 (火) | 編集 |
彼らはなぜ生かされたのか。

1972年の10月に、ウルグアイのステラ・マリス大学のラグビーチームと、その家族や友人たち、乗員乗客45人を載せたウルグアイ空軍571便がアンデス山脈に墜落。
72日間のサバイバルの末に、16人が生還した実際の事故の顛末をJ・A・バヨナが描く。
過去に何度もドキュメンタリーや劇映画として映像化され、1993年にはフランク・マーシャル監督でハリウッド映画「生きてこそ」にもなった題材だが、今回はスペイン語劇。
原作は事故当事者たちと同世代で、ステラ・マリス大学出身の作家、パブロ・ビエルチが2009年に出版した同名ノンフィクション。
標高4千メートルを超える極限の環境に、忽然と生まれた「雪山の社会」で、彼らに何が起ったのか。
犠牲の意味、繋がれた命の意味を問い続けるサバイバル劇は、144分の長尺を感じさせない。
見応えたっぷりの秀作だ。
※核心部分に触れています。

1972年10月13日。
ラグビーチーム、オールド・クリスチャンズ・クラブの選手と家族、友人らを乗せたウルグアイ空軍所属のチャーター旅客機571便が、悪天候の中アンデス山脈の標高4200メートル地点で峰と接触、雪原に墜落する。
機体の後方部分は吹き飛んだが、前方部分は原型を留めていて、28人が生き残った。
凍てつく高山に放り出された乗客たちは、なんとか機体の穴にバリケードを作り、救出を待った。
しかし、待てど暮らせど助けは来ない。
10月21日に、彼らはラジオで、捜索が打ち切られたことを知る。
機内にあったわずかな食料は尽き、追い詰められた彼らは、遺体の肉を食べて生き延びる決断をし、雪の地獄から脱出する準備をはじめる。
ところがその矢先、突然雪崩が起こり、新たに8人が亡くなり、彼らは機体ごと雪深くに閉じ込められてしまう・・・・・

GPSの無かったこの時代、航空機の墜落位置を割り出すのは容易ではない。
85年に起こった日航機墜落事故でも、夜間だったため上空のヘリから見える墜落現場の座標がわからず、捜索隊が右往左往した。
狭い日本の山でも困難なのに、この事故の現場となったアンデス山脈は、長さ7500キロ、幅は広いところで750キロに及ぶ世界一の広さを誇る大山脈だ。
しかもウルグアイ空軍の機体は白く塗られていて、雪の中では迷彩色となってしまい、発見は困難極まる。
そもそもこの様な高山で起こった墜落事故では、生存者はまずいないと考えた当局を責めることは出来ないだろう。
不幸中の幸いだったのは、南半球のアンデス山脈では、ちょうど春から夏に向かう季節だったことで、結果的に二人の遠征隊が下山することが出来た。

かつて「インポッシブル」で、スマトラ沖地震の津波被害を凄まじいリアリティで描いたバヨナだけに、墜落シーンは圧巻だ。
機体が砕け、乗客が次々と雪原に落ち、壊れたパーツが人体を押し潰す。
映画でさまざまな墜落シーンを見てきたが、その瞬間の恐ろしさはピカイチだ。
そして一難去って、墜落地点の状況の描写でまた観客を絶望させる。
見渡す限りの雪原には植物も動物も姿はなく、一面雪に覆われたすり鉢のそこにポツンと佇む機体の残骸はあまりにもちっぽけだ。
しかもウルグアイは国土のほとんどが平原で、首都モンテビオから来た乗客のほとんどは雪を見たこともなく、山岳地で過ごした経験もない。
カメラは時として広角のハンディとなり、その臨場感は観客を当事者と自己同一視させる。
我々は生存者の一員となり、次々と襲って来る恐怖に耐え、あまりにも辛い決断をしなければならないのである。

よく知られている通り、この事件では絶望的な状況の中、生存者が仲間の遺体を食べて命を繋いだという衝撃的な事実がある。
過去の映画化でも重要な葛藤として描かれてきた決断だが、本作ではこの行為の意味を掘り下げるためにユニークな工夫をしている。
本作は多数の登場人物による群像劇だが、物語の語り部をエンゾ・ボグリンシク演じるヌマ・トゥルカッテイに設定しているのである。
ヌマはラグビーチームの選手ではなく、親友のパンチョ・デルガドから誘われて旅行に参加した法学部の学生で、当初は人の肉を食べることに法律的、倫理的な忌避感から抵抗する。
しかし足に怪我を負い、自分の命が長くないと悟ると、自分が死んだら体を使って欲しいと言い残してこの事故の最後の犠牲者として亡くなる。
それは遠征隊が出発する前日、12月11日のことだった。
つまり彼は、物語の中で生者であり死者でもあり、極めてニュートラルな存在なのである。

人肉食シーンも逃げずに直接的に描いている。
それゆえに、かなりショッキングではあるのだが、前述の通りヌマを語り部としたことで、生存者と犠牲者双方を同じ比重で描き、レクイエムを捧げる内容になっている。
高山で活動するには、平地の何倍ものカロリーが必要だが、手持ちの食料はわずか。
彼らが生き延びるのには遺体に手をつけるしかないのだが、それは大切な家族であり、友人の体である。
遺体を食べるという行為には、精神的なエクスキューズが必要だろうが、ほぼ全員がカソリック教徒である彼らは、人肉食を「聖餐」に例えることで心の許しとした。
聖書では、弟子たちとの最後の晩餐の時にキリストはパンを手に取り「これは私の体である」と言い、ワインを手に取り「これは私の血である」と言って弟子たちに分け与えたという。

本作では描かれていないが、生存者の人肉食が明らかになった時は、当然ながら非難する世論もあったそうだ。
だが当事者たちが会見を開き、人肉食が不可避の状況であったこと、彼らがそれを「聖餐」と同一視していたことを伝えると、非難する世論は治ったというからキリスト教徒には説得力のある言説だったのだろう。
人間の肉体はただのモノだが、食べるという行為によって死んだ誰かの血と肉は、救われた誰かの中でずっと生き続ける。
実際に16人の生存者たちが揃う本作のラストショットは、明らかにダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を模した構図になっており、本作の犠牲と繋がれた命の意味を象徴する。
J・A・バヨナの演出は、登場人物の心情に寄り添いながら、現実に起こった喪失の意味について、可能な限り扇情性を排して真摯に語るというスタンス。
広大なアンデス山脈の荘厳な自然と、ちっぽけで弱いが生きるために懸命に抗う人間のコントラストもドラマ性を高めている。
50年前に、隔絶した雪山の小さな社会で起こった犠牲と希望の物語を、神学的なアプローチで描き、高い寓話性を持つ秀作となった。

今回は「キリストの血」に例えられる赤ワイン、ボデガ・ガルソンの「ガルソ タナ」をチョイス。
温暖な気候のウルグアイはワインどころで、CPが高いこともあって、近年はチリ産などと並んで日本でも広まりつつある。
ワインスペクテーター誌で世界のトップ100ワインにも選出されたこちらは、葡萄品種のタナの味わいを生かし、しっかりとしたボディを持ちながら、マイルドであと味スッキリ。
ベリー系の香りもフレッシュで、強いクセも無く飲みやすい。
ウルグアイと言えばお肉の国だが、デカい塊肉を炭や薪で焼く名物料理のアサードと合わせると、ジューシーな肉の味を引き立ててくれて相性抜群だ。

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コメント
この記事へのコメント
最後の晩餐
ノラネコさん☆
ハリウッド版「生きてこそ」はしりませんでした。
このところ『一番怖いのは人間』みたいな映画ばかり見てきたので、心洗われました。
事故の瞬間のまるで人形のようにクシャンとなるシーンは、嘘のようでリアルでしたね。
語り部で主役と思ってたヌマが途中で亡くなってしまい驚きました。
2024/02/07(水) 14:19:08 | URL | ノルウェーまだ~む #gVQMq6Z2[ 編集]
こんにちは
>ノルウェーまだ~むさん
ハリウッド版はまずまずヒットしたのですが、そこで起こったことの意味に関しては、こちらの方が圧倒的に深く追求されています。
死者と生者の中間にいるヌマを、ストーリーテラーにした意味も、なかなかに考えられたものだと思いました。
2024/02/11(日) 15:28:48 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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