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落下の解剖学・・・・・評価額1750円
2024年02月26日 (月) | 編集 |
形あるものは変わってゆく。

雪深いフレンチアルプスの山荘で、ある男が転落死し、小説家の妻が殺人容疑で起訴される。
物的証拠はなく、遺書も目撃者もいない。
これは殺人なのか、自殺なのか、はたまた事故なのか。
監督・共同脚本を務めるのは、ジュスティーヌ・トリエ。
彼女はコロナ禍でロックダウン中の2020年に、パートナーのアルチュール・アラリとお互いが書いたものをメールでやり取りする形で、パズルのように脚本を組み上げたという。
男はなぜ死んだのか?
検察と弁護双方が状況証拠を積み重ね、先の読めない裁判劇は終始スリリングに展開する。
疑いをかけられる小説家サンドラにサンドラ・ヒュラー、彼女の息子でキーパーソンとなるダニエルをミロ・マシャド・グラネールが演じる。
第76回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールに輝き、セザール賞では主要6部門を制覇。
まもなく発表される米アカデミー賞でも、作品賞、監督賞、主演女優賞など5部門でノミネートを果たしている話題作だ。
※核心部分に触れています。

小説家のサンドラ(サンドラ・ヒュラー)は、夫のサミュエル(サミュエル・タイス)、息子のダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)と共に、グルノーブルからほど近いフレンチアルプスの山荘に住んでいる。
その日、サンドラは学生からインタビューを受けていたのだが、サミュエルが大音響で音楽を流しながら内装工事をはじめたために中止。
学生は帰宅し、目の不自由なダニエルは、犬のスヌープを伴って散歩にでかける。
しばらくして、ダニエルが帰宅すると、家の前にサミュエルが倒れて死んでいるのを発見する。
遺書はなく、状況的に事故とも考え難い。
警察は事件当時は寝ていたと主張するサンドラの証言を疑い、状況証拠から彼女をサミュエル殺害の容疑で起訴する。
サンドラは元恋人の弁護士ヴィンセント(スワン・アルロー)に弁護を依頼し、サミュエルは自殺だったと主張する。
検察と弁護の主張が真っ向から対立する中、世間も注目する裁判がはじまる・・・


「落下の解剖学(Anatomie d'une chute)」という、ちょっと不思議な響きのタイトルが秀逸。
夫の墜落死という一つの事象を解き明かすために、ある家族の知られざる姿が、少しづつ”解剖”されてゆく。
物語を構成する様々な要素が、緻密に組み合わされた脚本の構成はまさにパズルのようで、観客を幻惑する。
情報は基本的に物語の進行と共に少しずつ明かされ、説明的な描写は極力排除されている。
観客は裁判の参審員になった様な感覚で、息詰まる公判の行方を見守ることになる。

冒頭、サンドラが山荘のリビングで学生のインタビューを受ける描写で、彼女が作家であることが分かる。
学生は仕事について聞こうとするのだが、なぜかサンドラは答えをはぐらかし、逆に学生のことを聞こうとする。
曖昧なやり取りが繰り返されているうちに、突然大音響の音楽が流れはじめ、なし崩し的にインタビューは中止となってしまう。
この短いシーンだけで、幾つもの疑問が頭に浮かぶ。
なぜサンドラは、学生の質問に率直に答えないのだろう?なぜサミュエルはインタビューが行われることを知りながら、音楽をかけたのだろう?なぜサンドラは、そんな失礼な夫に抗議しないのだろう?
このシーンの後、カメラは散歩に出かけるダニエルとスヌープの姿を追い、彼らが帰ってくるとすでにサミュエルは死んでいる。

冒頭のシーンで生じた観客の違和感は、この後裁判がはじまっても薄まることはなく、むしろどんどんと増幅してゆく。
ポイントは、愛し合って結ばれたはずの夫婦の関係がどう変化していったか
そしてその変化が、どのような形でサミュエルの死を招いたのかが問われる。
「私は殺してない」と訴えるサンドラに対して、弁護士のヴィンセントは「それは重要ではない」と言う。
当然ながら判事も参審員も夫婦の内実は知らないので、重要なのは「サンドラがサミュエルを殺したように見えるか?」なのだ。
要するにこれは、裁判を通じて明らかになる二人の秘めたる物語を、観客が解釈する映画なのである。

この夫婦はある意味、現在のEUの縮図のような二人だ。
サンドラはドイツ人、サミュエルはフランス人で共通言語は英語。
元々二人でロンドンに暮らしていて、サンドラが小説家として成功すると、教師のサミュエルも作家を志す。
しかしなかなか作品を完成させることが出来ず、環境を変えるために彼の希望でブレグジットよろしく英国を去り故郷のフランスへ。
サミュエルは山荘を改装して民宿を始めようとするが、相変わらず書けておらず、それはサンドラが家事や息子の世話などを負担せず、自分の時間を奪っているからだと考える様になる。
一方、妻は書けないのはサミュエル自身のせいであり、フランスへの引っ越しも含めて自分は十分に配慮していると思っている。

すれ違った夫婦関係が、妻の殺意に結びつくのか、それとも絶望が夫を死へと誘うのか。
サミュエルはもう死んでいて、物語の軸はサンドラとヴィンセントに置かれているので、基本的に観客の心理は自殺に傾いたまま物語が進む。
ただ、新たな情報が出てくるのは基本的に各公判の時で、この開示の塩梅が実に絶妙。
観客はサンドラに感情移入しつつも、どこか信じ切れない疑心暗鬼な状況がずっと続く。

物語を動かすのが、夫婦の11歳の息子のダニエルの存在だ。
彼は夫婦を一番近くで知る者であるのだが、過去の事故が原因で目が不自由となり、両親の本当の関係は知らないことも多い。
ただ、サミュエルは自分の行動がダニエルの事故を招いてしまったことで、罪悪感を抱いていたと思われる。
最初にダニエルが証言した時、弁護士と検察官の思惑に彼が翻弄されて戸惑うのを、急激なカメラワークで表現しているのが面白い。
公判ではサンドラの浮気から夫婦間の盗作騒動まで、子供としてはちょっと聞きたくないような事実まで明らかになるのだが、ダニエルは自分の証言以降もずっと傍聴を続けており、両親の知らなかった苦悩や確執を知ることで、人知れず成長しているのである。
公判中カメラは常にダニエルの存在と視線を強調しており、彼がキーパーソンなのは明らかだ。

そして、彼があることに気付いた時、物語は大きく結末へと動き出す。
サンドラがダニエルの証言に影響を与えないように、彼には裁判所から派遣された監視役として、マージという女性がついている。
一年以上にわたる裁判の間、彼女を信頼するようになったダニエルは、「ものごとに明確に白黒つけられない場合、どうするべきか?」と質問し、最後の証言に挑むのだ。
ここへ来て、それまでサンドラに固定されていた物語の視点はダニエルへと移り、彼はテーマを導き出すポジションに収まる。
はたして、その見えない目に映る真実とはいかに。

物語を通して浮かび上がるのは、人生の時間の不可逆性だ。
人間は生きているだけで、どんどん変わってゆく。
それはお互いの関係にも言えることで、愛し合った夫婦だとしても、親子だったとしても、同じ時間は二度と来ない。
時と共により良き関係になることも、逆に心が離れてしまうこともある。
お互いに助けられることもあるが、助けそもものを拒絶されることもあるだろう。
人の心は不可解で、裁判で法的には決着がついたとしても、残された者は「ではどうすべきだったのか?」というモヤモヤを抱えて生きてゆくしかないのである。
隣は何をする人ぞ、というある種のゴシップ的な興味でグイグイ引っ張りながらキャラクターを掘り下げ、最後は「なるほどねえ」と納得させるところに落とし込む。
ドキュメンタリーを思わせる冷静沈着なストーリーテリングの技も素晴らしいが、夫を愛しながらもシンパシーを失ってゆく女を、リアリティたっぷりに演じたサンドラ・ヒュラーの好演が光る。
ヨーロッパ映画らしいエスプリを効かせた、お見事な人間ドラマだった。

今回は、ちょっと皮肉を効かせて「ラヴァーズ・コンチェルト」をチョイス。
カクテルコンテストのスミノフ部門受賞作で、スミノフ40°を45ml、タリスカー10年を10ml、ベイリーズ・アイリッシュ・クリーム10ml、カルーア5ml、モナン・キャラメル・シロップ10mlをシェイクし、グラスに注ぐ。
最後に、コーヒーパウダーでグラスをスノースタイルにデコレーション。
まったりとした味わいが奥深い、オトナな一杯だ。

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人里離れた雪山の山荘で、男が転落死した。 はじめは事故と思われたが、次第にベストセラー作家である妻サンドラに殺人容疑が向けられる。 現場に居合わせたのは、視覚障がいのある11歳の息子だけ。 事件の真相を追っていく中で、夫婦の秘密や嘘が暴露され、数々の〈真実〉が現れるが…。 サスペンス。 ≪これは事故か、自殺か、殺人か―。≫
2024/03/07(木) 00:45:52 | 象のロケット