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すべての夜を思いだす・・・・・評価額1700円
2024年03月07日 (木) | 編集 |
すべての特別でない日に。

東京の郊外、多摩ニュータウンの一日を描いた群像劇。
東京藝術大学大学院の修了作品として制作した「わたしたちの家」で、国内外の注目を集めた清原惟が、監督と脚本を務めた長編第二作だ。
高度成長期の1966年から開発が開始され、71年から入居がはじまった多摩ニュータウンは、作者が幼少期を過ごした思い出の地でもあるという。
主人公となるのは、世代の違う三人の女性たち
失業中の知珠は、引っ越しを知らせる葉書を手に、街のどこかにいる旧友を訪ねる。
ガス検針員の早苗は、偶然にも行方不明の徘徊老人と出会い、彼に付き添うことに。
大学生の夏は、写真店を訪れて、亡き友が残した写真を受け取ろうとする。
時に邂逅しつつ枝分かれする主人公の三人の女性を、兵藤公美、大葉みなみ、見上愛が演じる。
住人たちと共に老いゆく街を舞台とした、ごく平凡な日常の物語でありながら、極めて映画的な時間を堪能出来る、才気あふれるユニークな作品である。

住民の高齢化が進み、静かな時間が流れる多摩ニュータウン。
誕生日を迎えた山住知珠(兵藤公美)は、ハローワークで求職面談をした後、友人から届いた引っ越しのお知らせの葉書を頼りに、ニュータウンの迷路のような街を歩きはじめる。
ガスの検針員の谷本早苗(大場みなみ)は、住人のお婆さんから団地の老人が行方不明だという話を聞く。
偶然にもその老人を見かけた早苗は、彼が帰りたいという家まで付き添うのだが、そこには誰も住んでいないようだった。
ダンスが趣味の大学生の萩野夏(見上 愛)は、亡くなった友人の命日に、彼の撮った写真の引換券を友人の母に渡そうとする。
しかし、引換券は夏が持っていて欲しいと告げられ、彼女は写真店に取りに行くも、期限切れで倉庫を探さないと分からないと言われる。
彼女は、亡くなった友人との思い出の花火をすることを思いつく。
接点のない三人の女性たちは、街を彷徨ううちに土地の持つ記憶に触れ、過去へと思いを巡らせてゆく・・・・


前作の「わたしたちの家」は、かなりトリッキーな作劇が特徴だった。
一見関係無い二つの物語が語られるのだが、実は舞台となっているのは同じ家なのだ。

映画が進むうちに、二つの物語は同じ家の時空が僅かにずれた、並行世界的な関係であることが分かってくる。
一人は記憶を失い、もう一人は父を失った二人の主人公は、どこからともなく聞こえてくる声や音、気配、時には襖の穴などの痕跡となって、お互いの喪失を埋めるかのように共鳴。
ポリフォニックに展開する物語は、徐々にエントロピーを増大させながら進み、やがてキャラクターの内面の葛藤については一定の収束を見る。

日常の中にホラーテイストを忍ばせたような、独特の味わいの作品だった。
対して本作は、作劇に関してはだいぶストレート。
とは言え、異なる人物の物語が並行に語られ、静かに共鳴し合うという点においてはキープコンセプトと言っていい。

三人の主人公には、それぞれその日のうちに達成したい目標がある。
知珠は、ニュータウンに引っ越してきたらしい友人の家を訪れること。
一日中街を巡り歩くのが仕事の早苗は、写真店を営む恋人の男性とのデート。
夏は亡くなった友だちの残した写真を、現像に出していた写真店で受け取ること。
しかし、これらの目標は結局物語の中で達成されることはない。
知珠が迷いまくって辿り着いた住所には、なぜか友人の姿は無く、仕事を早く終えた早苗の誘いを彼は忙しいからと断る。
夏の持っていた写真の引換券は期限が切れていて、受け取ることが出来ない。
彼女らの願いは明日には叶うかもしれないし、永遠に叶わないかも知れない。
でも、それは描かれることはなく、結果的に彼女たちにとってこの日は、平凡な特別でない日となるのである。

しかし秀逸なタイトル通り、人や街の記憶は普通の日の重なり合いで出来ている。
このことを描くために、清原惟は様々な工夫を凝らし、多摩ニュータウンの時間と空間を描写する。
例えば夏と女友達は多摩ニュータウンで出土した土器や土偶の展示施設を訪れ、ある土偶のユニークなポーズを「風呂上がりみたい」と評する。
また検針のために街を歩いている早苗は、ある老女に呼び止められ、街が若く団地のコミュニティが強固だった時代の話を聞く。
早苗の彼氏の写真店では、数十年前のとある家族のビデオテープをデジタル変換している。
街と人は、映画が写し出す“現在”のずっと以前から、この土地に暮らしてきた者たち、それぞれの物語の積層から出来ている。
早苗が老女にみかんをもらって立ち去ると、カメラは早苗を追うのではなく、老女が洗濯物を干す姿をしばらく写し出すのだが、これも主人公たちの話の枠の外にも、語られていない無数の物語があるということを示唆する工夫だろう。

また三人は、広大な街の中を異なる手段で移動する。
知珠はバスと徒歩で、早苗は徒歩で、夏は自転車で移動を繰り返すので、遊歩道や立体交差の多い計画都市はそれぞれから見える風景も違う。
作者のインタビューを読むまで私も知らなかったのだが、多摩ニュータウンには、セレモニーホールや火葬場といった「死」にまつわる施設が最初から排除されているのだそう。
街は生きている者のためにあり、街の区画から外れると、セレモニーホールや墓地などがある。
この人工の街に、作者は夏の友人の死や、早苗が出会うゆっくりと死に向かう老人のような、過去と未来の喪失のイメージをそっと忍ばせる。
対照的に若い夏が打ち込み、あるシーンで知珠ともシンクロするダンスは、生命の象徴として機能している。
人間の生活する場所に、生と死は必ずセットで存在しているのである。

面白いのは、「わたしたちの家」の並行世界を思わせる要素も、物語に複数仕込まれいることだ。
知珠は葉書の住所に辿り着くが、呼び鈴を押しても反応は無く、隣家によると住人はだいぶ前に引っ越したという。
では彼女に葉書を送った友人は誰なのか?
早苗が付き添った老人は妻が住むというある家にやってくるのだが、ガス会社のデータではその家は空き家。
しかしなぜかガスのメーターは回っていて、人の気配がする。
この家に住んでいるのは一体誰か?
また早苗が彼の作業中に、古いビデオのモニターを眺めながら子供の頃に飼えなかった猫の話をすると、彼は唐突に「その猫と暮らした早苗さんも、どこかにいると思うんだよ」と言う。
これらのちょっと不思議な要素は、記憶と空間の積層と同じく、枝分かれした時間もまた街を形作っているようで、作者の独特の世界観を表しているのかも知れない。

テリングで特筆すべきは飯岡幸子のカメラで、映像は動き続ける登場人物を追うが、ふとした瞬間に予想できない動きをする。
これは何を撮っているのだろう?という時間もあり、曖昧性を持ったもう一人の登場人物の視点のように有機的に街と人を捉え続ける。
映像的な工夫と共に、本作を特徴付けているのは音だ。
鳥の囀りや車や電車の走行音、遠くから聞こえてくる人々の生活音、実際にこの街にいたら、聞こえてくるであろう音が途切れることなく続いている。
音響へのこだわりは「わたしたちの家」でも顕著だったが、冒頭に出演もしている「ジョンのサン」の音楽も、鳴りどころに予測がつかない。
映画音楽は場面に付けるか、キャラクターの感情に付けるかが原則だが、本作の場合はどちらかというとキャラクターのシチュエーション変化だろうか。
二本の長編作品を観て感じるのは、清原惟はストーリーとテリングのバランスが凄くいいと言うことだ。
映画を構成する二つの要素が、お互いをしっかりと支え合っている。
前作は俗っぽくない黒沢清を思わせたが、今回は少し濱口竜介的な味わいも感じさせる。
まだ32歳と若く、どんな作家になってゆくのか、次回作がとても楽しみだ。

多摩ニュータウンは東京西部の四つの市にまたがっているが、今回はその中の一つ八王子の小澤酒造場の「桑乃都 特撰吟醸 」をチョイス。
小澤酒造は、澤乃井の銘柄で知られる青梅の小澤酒造の分家筋。
創業当時の八王子は養蚕が盛んで見渡す限りの桑畑が広がっていたことから、銘柄を桑乃都と名付けたという。
残念ながら、八王子の都市化と水質の悪化で、現在では市内での醸造はしておらず、事務所と店舗機能だけになっているが、八王子の地酒としての誇りは変わらず。
桑乃都はほのかな吟醸香の辛口の酒で、クセはなくどんな食材とも合わせられるが、特に魚介系の淡白な味との相性がいい。
個人的にはぬる燗が好みだ。

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