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オッペンハイマー・・・・・評価額1800円
2024年03月30日 (土) | 編集 |
20世紀のプロメテウスは、人類の未来に何を見たのか。

第二次世界大戦下、世界初の原子爆弾を開発したマンハッタン計画を主導し、“原爆の父”と呼ばれた物理学者、オッペンハイマー博士の半生を描く3時間の大長編。
幼い頃から天才とうたわれた正義感の強い青年は、ニューメキシコの荒野にロスアラモス研究所という一つの街を作り、数千人の科学者を率いる“王”となった。
そして人類に核の炎を手渡しておきながら、なぜより強力な水爆の開発に公然と反対し、公職を追われることになったのか。
歴史家のマーティン・J・シャーウィンが2001年に発表した「オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇 」を原案に、クリストファー・ノーランが監督・脚本を担当。
主人公のロバート・“オッピー”・オッペンハイマーをキリアン・マーフィー、妻のキティをエミリー・ブラント、二人三脚でマンハッタン計画を成功に導いた陸軍のグローブス将軍にマット・デイモン、オッピーの宿命の敵となるルイス・ストローズをロバート・ダウニー・Jr.が演じる。
本年度アカデミー賞7部門に輝いた、3時間の長尺を感じさせぬ、圧倒的な熱量を持つ傑作である。

1954年。
ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は、アメリカ原子力委員会(AEC)の聴聞会に挑んでいた。
彼が過去に共産主義者と関わりを持っていたこと、水爆の開発に強く反対していたことから、国家機密にアクセスできる保安許可を更新するか否かを、聴聞会という名の”裁判”によって審理されるのだ。
時代は飛んで1959年。
この年、アイゼンハワー政権の商務長官に指名されたルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr.)は、職務の適性を審査する議会の公聴会で、5年前にオッペンハイマーを公職追放した件を追及されることを恐れていた。
ACEのトップだったストローズは、かつて自らプリンストン高等研究所に招聘したオッペンハイマーと対立し、権謀術数を巡らして公職追放していた。
二人の出会いは、第二次世界大戦が終ってすぐ。
その数年前の第二次世界大戦中、国内屈指の理論物理学者だったオッペンハイマーは、陸軍のグローブス准将(マット・デイモン)によって白羽の矢を立てられ、原子爆弾を開発するマンハッタン計画の責任者に抜擢されていた・・・・・


はじめに断っておくが、この映画は原爆の投下を肯定したり、アメリカの立場を強調したりした作品ではない。
日本人にとってはセンシティブなモチーフであるのは確かだが、作品は人道的に真摯なスタンスで作られていることはまず保証したい。

しかしこの映画、観る前のハードルが結構高いのだ。
原案となっているシャーウィンの本は、オッペンハイマーの死後、四半世紀かけて集められた資料と関係者のインタビューに基づき執筆されたノンフィクションで、邦訳文庫版で上中下三冊1000ページを超える内容に、無数の関係者が登場する。
映画版では搾られているとは言え、それでも3時間の上映時間には膨大な数の登場人物が出てくる上に、登場人物に関する説明は一切してくれないのである。
何も知らずに観ても、語り口が上手いので面白くはあると思うが、内容をきちんと理解したいのであれば、原案本までは読まずとも、オッペンハイマーとは誰ぞや?の予習は必須。
特に物理学者はアインシュタイン、ボーア、ラビ、ローレンスら物理学のアベンジャーズ状態。
アインシュタインの一般相対性理論くらいは、理系でなくとも聞いたことはあると思うが、それぞれの人物とオッペンハイマーの関係性を知っていると、より深く楽しめるだろう。
歴史劇であり、ネタバレどうこう言う作品ではないので、解説サイトなどで予習してから鑑賞することをお勧めする。

映画はオッペンハイマーの保安許可が剥奪された、1954年のアメリカ原子力委員会(AEC)聴聞会と、彼を陥れたストローズの商務長官指名に伴う1959年の議会公聴会、この二つの“裁判”を軸に、時系列を頻繁にシャッフルする形で、人類を新しい世界に導き入れた、天才物理学者の半生が描かれてゆく。
主にオッペンハイマー視点のシーンはカラー描かれ、ストローズが中心となる部分はモノクロ。
同じシーンでも視点が違うとカラーになったり、モノクロになったりする。
原案本では終盤のみの登場人物であるストローズを、完全にオッペンハイマーのアンチテーゼとしたことで、より言いたいことがクリアになった。

この二人は共に成功したユダヤ人だが、その育ちや思想は正反対。
裕福な家庭に生まれ、幼い頃からやりたいことは全部やらせてもらい、ヨーロッパに渡って世界の頭脳と交流してきたオッペンハイマーは、リベラルで教養豊か。
社会正義に敏感で、それゆえに当時変革をもたらすと期待されていたアメリカ共産党に接近。
職場環境を改善する組合活動をはじめ、スペイン内戦での義勇軍を支援したり、ナチスの迫害を受けてドイツのユダヤ人をアメリカに避難させることにお金を出したりもしていた。
左翼シンパだが、基本的にルーズベルト大統領のニューディール政策を支持する、民主党より。
一方のストローズは、靴屋の息子で典型的なワシントンの叩き上げ。
後に大統領となるハーバート・フーバーのアシスタントとなるチャンスを得て、投資銀行家として財を蓄え、戦争中は軍需物資の管理を扱う仕事で少将まで昇進し、戦後はその流れで核兵器を管理するAECの創設に参加する。
物理学に強い関心を抱いていたが、専門家ではなく、その経歴からも見える通り、反共主義者で保守的な共和党支持者。
一度はバディとなったオッペンハイマーとストローズは、最初から見ている世界が違うのだ。

マンハッタン計画はさまざまな困難を乗り越えて、原爆の開発に成功する。
ここまでは、ナチスドイツに先を越されたら・・・という危機感で突っ走っていたのだが、ナチスは既に敗戦し、日本も実質的にはすでに負けている状態。
先を越される可能性がなくなって、オッペンハイマーははじめて原爆の使用に迷いを感じ始める(日本でも陸軍の「二号研究」と海軍の「F研究」の二つの原爆計画が存在し、「太陽の子」として映画化もされているが、十分な量のウランが手に入らず、はるかに遅れた段階だった)。
しかし科学者の仕事は原爆を作るまでで、それをどう使うかは軍人や政治家の胸先三寸。
結局、彼らは対ソ連デモンストレーションとして、原爆で日本の二つの都市を破壊した。
オッペンハイマーは、ここで知ってしまうのだ。
彼は現代のプロメテウスとして、核の火を人類に手渡したが、その本当の意味を理解できるほど人類は聡明ではなかった
だから彼は核兵器そのものより、それを手にした人類に恐れを抱く。
広島への原爆投下成功後、ロスアラモスの講堂で科学者たちを前に演説したオッペンハイマーは、その場にいる全員が核の炎で焼かれる恐ろしい幻影を見るのである。

だが一度現物として姿を現した技術は、何らかの枷がなければ加速度的に進化してゆく。
ボーアの核の国際管理という思想に共鳴していてたオッペンハイマーは、水爆の開発には強く反対しながら、人類に全体に対して核技術をオープンにし、国家主権を一部手放して国際的な核管理機構を国連内に設立することを提言する。
しかしこれはストローズに代表される、米国の核の優位を維持したい人々にとっては、みすみす敵に塩を送るとんでもない発想。
彼らは政治的な権謀術数を巡らせて、オッペンハイマーを追い落としにかかる。

AEC聴聞会で、ソ連の核軍備増強について聞かれたオッペンハイマーは、最後に声を荒げながらこう主張する。
「我々がやれば、彼らもやらねばならなくなる。原爆を作った時と同じように、我々の努力は彼らの努力の燃料となるのです。」
そして、こう続ける。
「私たちは、持っているすべての武器を使う傾向がある」
オッペンハイマーは赤狩りの犠牲者として語られることが多いが、彼は赤狩りを主導していたマッカーシーの非米活動委員会で斬罪された訳ではない。
映画を見て驚いたのだが、AEC聴聞会が開かれたのは、数人入ればギュウギュウになってしまう狭い小部屋なのだ。
そこにはメディアも、聴衆もいない。
彼は非公開の魔女裁判によって、密かに葬られるのだから、厳密に言えば赤狩りに便乗したストローズら反対派の謀で追放されたというのが正しい。
この理不尽な出来レースによって、オッペンハイマーは核の使用で生じた人類に対する疑念と終末への恐れを、よりいっそう感じるようになるのである。

一方、1959年のストローズの公聴会は、議会で開かれるのだから、当然広く公開される。
本来ならばアイゼンハワー政権の閣僚という、ストローズの叩き上げ人生の総決算となるはずだった。
ところが、5年前のオッペンハイマーの追放劇が因果応報的に絡んできて、栄光への階段は音を立てて崩れ始めるのだ。
映画の途中で、オスカー受賞者のラミ・マレックが、ネームバリューの割には小さな役で出てきてるな、と思っていたら、ここへ来て決定的な役割で再登場
この件は映画とは構造の違う原案本では、数行でスルーされているので、マレックの演じたデヴィッド・L・ヒルなる人物を改めて調べて納得した。
人間いつどこで、自分の人生に節目に大きな影響を与える人物と出会っているのか、分からないものだ。
猜疑心に取り憑かれたストローズを演じたロバート・ダウニー・Jr.の演技は、本作の白眉と言えるもので、とてもアイアンマンの中の人と同一人物とは思えない。

主人公の内なる視点と外(ストローズら)からの視点を組み合わせる構造によって、本でも言及されていた「羅生門」的な多面性がキープされたのもいい。
ストローズがオッペンハイマーに疑念を抱く発端となっているのが、彼をプリンストン高等研究所に招聘した日の出来事。
オッペンハイマーは、池のほとりに立っていたアインシュタインに歩み寄ると、何ごとかを語りかける。
するとアインシュタインは、憮然とした表情で立ち去るのだ。
はたしてオッペンハイマーは、アインシュタインに何と言ったのか
ストローズは知りたくてたまらないのだが、オッペンハイマーは教えてくれない。
これは映画のテーマそのものなので、是非劇場て確かめて欲しい。

ところでノーランといえばIMAXだけど、これは基本的に会話劇だしIMAXの価値ある?と思ってる人には、とりあえず「ある」と伝えておきたい。
ただし本作の場合、映像以上に重要なのは音響。
この映画では主人公が見る心象的なイメージが映像や音となって表現されていて、特に音響の異様な迫力をどこまで再現できるかが映画の印象を左右する。
少なくともドルビーアトモスなど、音響レベルの高いスクリーで鑑賞すべきだろう。

「オッペンハイマー」は、原爆投下の是非を問う映画ではなく、赤狩りを告発する映画でもない。
問題はこの二つの事象のように、人間は間違いを犯すということである。
これは人間の善性を信じていた、ある意味で純粋過ぎる科学者オッペンハイマーが、人間の不誠実さ、恐ろしさを知ってゆく物語である。
ある局面になれば、人類は自らを滅ぼすことを躊躇しないのではないか。
オッペンハイマーがアインシュタインに語った言葉には、その恐怖が滲み出ている。
印象として本作と一番近いのは、ノーランの過去作より、核ならぬコンピュータの父となった同時代の数学者、アラン・チューリングを描いた「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」だろう。
常人を超える天才には、苦労が尽きないようで・・・

今回は、オッペンハイマーの愛飲酒「マティーニ」をチョイス。
ドライ・ジン45ml、ドライ・ベルモット15mlをステアしてグラスに注ぎ、オリーブを一つ沈める。
19世紀に人気を博した「ジン&イット」のアレンジから生まれたと言われる。
非常にシンプルなカクテルだが「カクテルの王」と呼ばれるだけあって、味わいは奥深い。
ただ、原作では「ジン・マティーニにベルモットを一滴たらし、冷蔵庫で冷やしておいた脚の長いグラスへ注いだ」との記載があり、オッペンハイマー家では、通常のマティーニにスイート・ベルモットを一滴、追いベルモットとして加えていたのかも知れない。

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コメント
この記事へのコメント
オッペンハイマー
海外出張の機内で鑑賞しようかと思ったのですが、上映時間3時間と聞いて往復寝てしまいました(帰国後アマプラのFall-Outは一気観したのに!)。「原爆は日本ではなく、日本人に落とされたもの。COVID-19ワクチンも日本人のDNA根絶やしするものだ!」と言ってる現役陰謀論者もいます。広島・長崎の被害⇔兵器としての評価を対比した映画をアメリカ人に作って貰いたいものです。Netflix?
2024/04/16(火) 17:14:26 | URL | ちっぷまーく #NH.uPTqI[ 編集]
こんばんは
>チップマークさん
>広島・長崎の被害⇔兵器としての評価を対比した映画
本作の原作のマーティン・j・シャーウィンの「破滅への道程 原爆と第二次世界大戦」がこのあたりを扱っているらしいのですが、残念ながら邦訳版は絶版なんですよね。
2024/04/23(火) 21:16:52 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
この映画はオッペンハイマーの栄光と没落を描いた作品だから、原爆の悲惨さを伝える反戦映画では無いんですよね。その点では私も日本の惨状に言及してなくても仕方ないのかなと思いました。
人間の愚かさに関しては充分伝わりました。
ストローズの猜疑心、見事でしたね。
2024/05/01(水) 19:42:51 | URL | ノルウェーまだ~む #gVQMq6Z2[ 編集]
こんばんは
>ノルウェーまだ~むさん
原爆投下の是非を論じる映画では全くないですね。
核兵器の存在が人類に何をもたらすかを描いた話なので、日本公開がなかなか 決まらなかったのはもどかしい思いでした。
むしろ実際の広島長崎を描写していたら、何を描きたいのだか分からないブレブレの映画になってしまっていたでしょう。
その意味で、本作の作りは正解だったと思います。
2024/05/05(日) 20:30:33 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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