2009年10月08日 (木) | 編集 |
ライアン・ラーキンは特異な経歴のアニメーション作家である。
若くして巨匠ノーマン・マクラレンにその才能を認められ、アート・実験アニメーションの聖地、カナダのNFB(National Film Board of Canada :カナダ国立映画庁)で四本の作品を残す。
特に1968年の「ウォーキング」と1972年の「ストリート・ミュージック」は、アカデミー賞にノミネートされた他、世界各国の映画賞を多数受賞したアニメーション映画史に残る傑作である。
しかし、その後ラーキンは作品の発表を止めてしまい、ついにはホームレスとして路上生活するようになってしまうのである。
「ライアンラーキン 路上に咲いたアニメーション」はそんなラーキンの全作品と、彼を題材としたユニークなドキュメンタリーアニメーション「ライアン」、晩年のラーキンを捉えた実写ドキュメンタリー「ライアン・ラーキンの世界」のダイジェストを併せて鑑賞できる、いわばライアン・ラーキン全集のようなプログラムだ。
インタビューの中で彼は、「あらゆるアニメーション作家が私の影響を受けたそうだ」と言っている。
自分で言うなよと突っ込みたくなるが、実際これは誇張でもなんでもなく、彼の作品にインスパイアされていると思しき作家の名10人、20人はすぐ思い浮かぶのである。
NFBでの最初の作品となる「シティスケープ」から才気溢れる「シランクス」、そしてオスカーにノミネートされ、一躍ラーキンをアートアニメのスターにした「ウォーキング」のクールさに、「ストリート・ミュージック」の躍動。
動き、メタモルフォーゼするというアニメーションの原初の姿を追求した作品群は、作られてから40年を経過した今も、観る者に新鮮な驚きを齎す。
私は「ウォーキング」を過去に一度観たことがあったのだが、(少なくとも一部は)実写で人物を撮影し、トレースしたのだろうと思っていたが、今回ドキュメンタリーであれが完全な手描きである事を知り、改めてこの映画作家が天才以外の何者でもないことを再認識させられた。
しかし、これほどの作品を残しながら、ラーキンはやがてアルコールとドラッグに溺れ、NFBを去る。
創作意欲を失い、恋人にも裏切られた彼は、ついに路上で生活するホームレスとなるのである。
「忘れられた天才」であったラーキンが、再び脚光を浴びるのは「ストリート・ミュージック」から四半世紀年以上がたった2000年で、ラーキンがホームレスをしているという噂を聞いたオタワ国際アニメーションフェスティバルのディレクターによって招かれ、映画祭の審査員として公の場に姿を現す事になる。
ドキュメンタリーの中で、路上のラーキンは「ポケットに10ドルあれば、それで良い」と語る。
しかし、創作のプレッシャーから開放されて、自由に生きているはずの彼は、何かに憤り、焦っている様に見える。
NFB時代のラーキンのプロデューサーは、インタビューで「創作意欲を失った作家に残るのは、憤りだけだ」と語っていたが、だとすれば憤りはまだ彼が作家である証だったのかもしれない。
ラーキンは、36年ぶりの復帰作「スペア・チェンジ 小銭を」の制作中の2007年に死去。
作品はローリー・ゴードンに引き継がれて完成したが、路上で暮らす自分自身を描くという毒気たっぷりのシニカルさは、この作家が以前の作品には観られなかった新たな視点を獲得していたという事だったのかもしれない。
享年63歳であった。
今回のプログラムではラーキン自身の作品だけでなく、彼を題材としたクリス・ランドレス監督のCGアニメ「ライアン」も観ることが出来る。
心理状態をそのままカリカチュアした様な、異様なCGキャラクターに造形された監督のランドレスとラーキンが、創作について語り合う異色作で、ドキュメンタリーアニメーションとも言うべき作品だが、なるほど対象をカリカチュアするアニメーションの手法で、言葉の奥底に隠された本質を表現するというのは非常に面白い。
これはまたCGの特質が生きる作品であり、ラーキンが活躍した時代には考えられなかった、アニメーションの新しい可能性を広げる一本であったと思う。
「ライアン」は2004年度のアカデミー短編アニメーション賞を受賞している。
ラーキン自身はディズニーの壁に阻まれて果たせなかったオスカー受賞を、NFBの後輩が彼を題材として成し遂げた訳だ。
ここにもまた幸福な創作の連鎖がある。
「ライアンラーキン 路上に咲いたアニメーション」は、渋谷ライズXで上映中で、今後大阪や京都でも上映される様だ。
上映時間が全部で45分程度なので、1000円で観られるのも嬉しく、その価値は十分にある。
さて、ラーキンの故郷であるモントリオールは実はビールの街である。
フランス語圏のケベック州に位置するモントリオールは、北米にあって非常にヨーロッパ色の濃い土地で、地ビールもアメリカンビールとは一線を画すヨーロッパ風、特にベルギービールの影響が強い。
なかなかモントリオールビールは日本で手に入らないので、ケベック人にも人気のベルギービール「ポペリンフス・ホンメルビール」をチョイス。
典型的なベルギービールでアルコール度も高めだが、フルーティで喉ごしは柔かく、呑みやすい。
それはまるで美しくも熱い作家魂がこもった、ラーキンのアニメーションの様だ。
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若くして巨匠ノーマン・マクラレンにその才能を認められ、アート・実験アニメーションの聖地、カナダのNFB(National Film Board of Canada :カナダ国立映画庁)で四本の作品を残す。
特に1968年の「ウォーキング」と1972年の「ストリート・ミュージック」は、アカデミー賞にノミネートされた他、世界各国の映画賞を多数受賞したアニメーション映画史に残る傑作である。
しかし、その後ラーキンは作品の発表を止めてしまい、ついにはホームレスとして路上生活するようになってしまうのである。
「ライアンラーキン 路上に咲いたアニメーション」はそんなラーキンの全作品と、彼を題材としたユニークなドキュメンタリーアニメーション「ライアン」、晩年のラーキンを捉えた実写ドキュメンタリー「ライアン・ラーキンの世界」のダイジェストを併せて鑑賞できる、いわばライアン・ラーキン全集のようなプログラムだ。
インタビューの中で彼は、「あらゆるアニメーション作家が私の影響を受けたそうだ」と言っている。
自分で言うなよと突っ込みたくなるが、実際これは誇張でもなんでもなく、彼の作品にインスパイアされていると思しき作家の名10人、20人はすぐ思い浮かぶのである。
NFBでの最初の作品となる「シティスケープ」から才気溢れる「シランクス」、そしてオスカーにノミネートされ、一躍ラーキンをアートアニメのスターにした「ウォーキング」のクールさに、「ストリート・ミュージック」の躍動。
動き、メタモルフォーゼするというアニメーションの原初の姿を追求した作品群は、作られてから40年を経過した今も、観る者に新鮮な驚きを齎す。
私は「ウォーキング」を過去に一度観たことがあったのだが、(少なくとも一部は)実写で人物を撮影し、トレースしたのだろうと思っていたが、今回ドキュメンタリーであれが完全な手描きである事を知り、改めてこの映画作家が天才以外の何者でもないことを再認識させられた。
しかし、これほどの作品を残しながら、ラーキンはやがてアルコールとドラッグに溺れ、NFBを去る。
創作意欲を失い、恋人にも裏切られた彼は、ついに路上で生活するホームレスとなるのである。
「忘れられた天才」であったラーキンが、再び脚光を浴びるのは「ストリート・ミュージック」から四半世紀年以上がたった2000年で、ラーキンがホームレスをしているという噂を聞いたオタワ国際アニメーションフェスティバルのディレクターによって招かれ、映画祭の審査員として公の場に姿を現す事になる。
ドキュメンタリーの中で、路上のラーキンは「ポケットに10ドルあれば、それで良い」と語る。
しかし、創作のプレッシャーから開放されて、自由に生きているはずの彼は、何かに憤り、焦っている様に見える。
NFB時代のラーキンのプロデューサーは、インタビューで「創作意欲を失った作家に残るのは、憤りだけだ」と語っていたが、だとすれば憤りはまだ彼が作家である証だったのかもしれない。
ラーキンは、36年ぶりの復帰作「スペア・チェンジ 小銭を」の制作中の2007年に死去。
作品はローリー・ゴードンに引き継がれて完成したが、路上で暮らす自分自身を描くという毒気たっぷりのシニカルさは、この作家が以前の作品には観られなかった新たな視点を獲得していたという事だったのかもしれない。
享年63歳であった。
今回のプログラムではラーキン自身の作品だけでなく、彼を題材としたクリス・ランドレス監督のCGアニメ「ライアン」も観ることが出来る。
心理状態をそのままカリカチュアした様な、異様なCGキャラクターに造形された監督のランドレスとラーキンが、創作について語り合う異色作で、ドキュメンタリーアニメーションとも言うべき作品だが、なるほど対象をカリカチュアするアニメーションの手法で、言葉の奥底に隠された本質を表現するというのは非常に面白い。
これはまたCGの特質が生きる作品であり、ラーキンが活躍した時代には考えられなかった、アニメーションの新しい可能性を広げる一本であったと思う。
「ライアン」は2004年度のアカデミー短編アニメーション賞を受賞している。
ラーキン自身はディズニーの壁に阻まれて果たせなかったオスカー受賞を、NFBの後輩が彼を題材として成し遂げた訳だ。
ここにもまた幸福な創作の連鎖がある。
「ライアンラーキン 路上に咲いたアニメーション」は、渋谷ライズXで上映中で、今後大阪や京都でも上映される様だ。
上映時間が全部で45分程度なので、1000円で観られるのも嬉しく、その価値は十分にある。
さて、ラーキンの故郷であるモントリオールは実はビールの街である。
フランス語圏のケベック州に位置するモントリオールは、北米にあって非常にヨーロッパ色の濃い土地で、地ビールもアメリカンビールとは一線を画すヨーロッパ風、特にベルギービールの影響が強い。
なかなかモントリオールビールは日本で手に入らないので、ケベック人にも人気のベルギービール「ポペリンフス・ホンメルビール」をチョイス。
典型的なベルギービールでアルコール度も高めだが、フルーティで喉ごしは柔かく、呑みやすい。
それはまるで美しくも熱い作家魂がこもった、ラーキンのアニメーションの様だ。

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とうとうミルコタイガーも引退か。今後は私がその遺志を勝手に引き継いで、豚高タイガーを襲名させていただきます。どうか豚高タイガーを御贔屓に。
2009/10/15(木) 12:24:14 | 聖なるブログ 闘いうどんを啜れ
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