2010年04月12日 (月) | 編集 |
韓国映画界からまた驚くべき才能が現れた。
その名は、ヤン・イクチュン、34歳。
彼が製作・監督・脚本・編集・主演を兼ねた「息もできない」は、昨年度の東京フィルメックスで作品賞&観客賞の二冠に輝いた他、各国の映画祭でセンセーショナルな話題となった作品だ。
韓国社会の最下層に生きる男の物語は、タイトル通りに呼吸するのも苦しくなるほどの、切なく悲しい人間の姿を描いた鮮烈なる傑作である。
容赦ない借金の取立で恐れられるヤクザのサンフン(ヤン・イクチュン)は、ある日女子高生のヨニ(キム・コッピ)と知り合う。
いきなりの殴り合いという最悪の出会いをした二人だったが、不思議と馬があい、心を通じ合わせるようになる。
全く対照的な立場の二人だったが、共に家族との関係に深刻な問題を抱えていた。
嘗て実の父親に母と妹を殺され、刑務所を出所した父にやり場のない怒りをぶつけるサンフン。
ヨニは元軍人で精神を病んだ父親と、学校にも行かず荒れた生活を送る弟ヨンジェ(イ・ファン)と毎日の様に衝突している。
そんなある日、ヨンジェがサンフンの組で仕事をする事になるのだが、彼がヨニの弟だとしらないサンフンは、オドオドした態度をとるヨンジェを「腰抜け」と罵倒する・・・・
邦題は「息もできない」で、英題は「Breathless」
これはもちろん破滅的な生き方をする主人公を描いた、ゴダールの「勝手にしやがれ」の英題からとったのだろうが、韓国語の原題はというと「トンパリ(똥파리)」、つまり「クソバエ」という凄いタイトルである。
社会のクソバエであるチンピラヤクザが主人公という事で、まあセリフは汚い言葉のオンパレード。
私は韓国語を少し勉強した事があるので、日常会話は僅かながら理解できるのだけど、この映画は韓国語教室では絶対に教えてくれないような四文字言葉で一杯だ。
20秒に一回くらいの割合で出てくる、「クソ野郎」と訳されている「シバラマ」という言葉など、観た人皆が覚えてしまうだろう。
ちなみに、知り合いの韓国人に聞いてみたところ、これは正確には「シバルロマ」に近い発音で、直訳すると「マ■コする奴」という意味だそうな。
サンフンは平然と言い放っていたけど、女性に使ったらその場でビンタされるから絶対に使うなと言われた(笑
全く無名の新人作家が書き、自ら主演し、主人公がヤクザというこの作品。
映画ファンならば、27年前に作られた一本の日本映画を連想する人も多いだろう。
当時33歳の金子正次が、残り少ない命の炎を燃やして作った「竜二」に、なるほど作品のバックグラウンドは良く似ている。
だが、「竜二」が暴力の世界から足を洗って何とか堅気の生活をしようと葛藤する男の物語で、基本的に暴力シーンを伴わないのに対して、こちらの主人公は暴力の世界にどっぷりだ。
二本の作品に共通するのは、緻密に積み重ねられた心理描写によって、圧倒的な説得力を持った不器用な男の生き様だろう。
メインキャラクターはヤクザのサンフンと女子高生のヨニだが、彼らを囲むように多くのキャラクターが配され、密接な人間関係を形作る。
ヤクザと女子高生という一見全く接点の無さそうなサンフンとヨニだが、彼らは共に心の奥に深い悲しみを抱えた似たもの同士。
サンフンは暴力的な父の元で育ち、幼い頃に母と妹を父に殺されると言う悲劇を経験している。
彼が借金の取り立ての現場で、とりわけ年上のオヤジたちに対して容赦がないのは、彼の抱えるトラウマの結果なのである。
父は最近刑務所を出所したのだが、彼に対して憎しみしか感じられないサンフンは、やり場のない怒りを暴力と言う形で老いた父にぶつけるしかない。
「韓国のオヤジは最低だ!」「殴る奴は、自分は殴られないと思っている」という言葉は、母と妹を守れなかった自責の念と共に、過去の父に向けられた物だろうし、父を否定しつつも、いつの間にか暴力の世界に生きている自分自身へ向けた言葉ともとれる。
サンフンには腹違いの姉がいるが、父の暴力を直接知らない姉が、父に優しくするのすら、サンフンは許せないのだ。
一方のヨニは、嘗てのベトナム出征兵で心を病んでしまった父の介護をし、ヤクザ予備軍の荒れた弟の暴力に耐える日々。
屋台を営んでいた母親は、数年前に立ち退かせようとするヤクザに殴られて殺された。
だからある意味でサンフンはヨニにとって憎しみの対象でもあるはずなのだが、ヨニがサンフンに惹かれてゆくのは、彼の中に自分と似た部分を見たのと、もしかしたら彼とその家族に彼女自身にはもう決して訪れない、家族の再生の可能性を見たからかもしれない。
二人が、ボロボロになったお互いの心を見つめあいながら、漢江の辺で慟哭するシーンは映画史に残る名シーン。
そうしてヨニとのふれあいを通して、サンフンが少しずつ頑なな心を変化させ、傷つきながも家族、そして自分自身を再生させるというプロセスは感動的だ。
だが、この映画は普通の「良い映画」では終らない。
悪意ある神のいたずらの様な、複雑に入り組んだ運命による暗転劇は、まるでシェイクスピアかギリシャ悲劇の様な壮大な人間ドラマとして観客の前で完結するのである。
そう極めて低予算な小品ではあるのだが、この映画は非常にドラマチックだ。
演劇を勉強した事のある人なら知っているだろうが、作劇の世界には「ポルティの36局面」と言われる概念がある。
これはフランスのジョルジュ・ポルティが提唱した物で、ドラマチックな要素というのは、全て36通りの劇的局面(「近親の復讐」「愛する者の喪失」など)に分類でき、物語はその組み合わせで構成されているというものだ。
個人的にはこの分類はいささか古典的過ぎて、現代ではもう少し多いのではないかと考えているが、試しにこの作品に当てはめてみると、やや拡大解釈した部分を含めれば、何と36局面のうちの25局面を含んでいる。
これほどドラマチックな要素ばかりを詰め込んだら、下手をするとわざとらしいメロドラマになってしまいそうだが、この作品は見事なまでに作為を感じさせない。
それはサンフンとヨニを始めとする全てのキャラクターに、生身の人間としての絶対的な説得力があり、彼らの抱える情念が、観客の心にストレートに突き刺さってくるからだ。
この語り口の上手さこそが、ヤン・イクチェンという才能の脅威なのである。
「息もできない」は、若き鬼才が生んだ、古典になり得るスケール感を持つ悲劇だ。
だが、この映画には救いもある。
憎しみと暴力に生きたサンフンは、少なくとも最後には憎しみと暴力の連鎖からは抜け出していた。
どれほど悲劇的な最期を遂げようと、彼の魂はおそらく救われたと感じる事が出来る。
もっとも、彼の抱えていた物は、そのままある登場人物に受け継がれたのもまた事実だろうが、人の世に絶対の救済は存在しないと考えると、これもまた人間という物なのだろう。
確かな事は、どんなに傷ついても、辛くても、生きている者には明日は必ずやって来て、人生は続いてゆくと言う事だけなのである。
それにしても、今年は緊張して喉が渇く映画が多い。
映画ではサンフンたちがOBビールの「CASS」を、うまそうに飲んでいたが、日本では手に入りにくいので今回は韓国で市場シェア1位の「HITE」をチョイス。
韓国のビールはどちらかと言うと、日本のビールよりはチョイアメリカンな感じで、水感覚でガブガブ飲めるのが良い。
色々な意味で熱い映画で、火照った頭を冷してくれる。
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その名は、ヤン・イクチュン、34歳。
彼が製作・監督・脚本・編集・主演を兼ねた「息もできない」は、昨年度の東京フィルメックスで作品賞&観客賞の二冠に輝いた他、各国の映画祭でセンセーショナルな話題となった作品だ。
韓国社会の最下層に生きる男の物語は、タイトル通りに呼吸するのも苦しくなるほどの、切なく悲しい人間の姿を描いた鮮烈なる傑作である。
容赦ない借金の取立で恐れられるヤクザのサンフン(ヤン・イクチュン)は、ある日女子高生のヨニ(キム・コッピ)と知り合う。
いきなりの殴り合いという最悪の出会いをした二人だったが、不思議と馬があい、心を通じ合わせるようになる。
全く対照的な立場の二人だったが、共に家族との関係に深刻な問題を抱えていた。
嘗て実の父親に母と妹を殺され、刑務所を出所した父にやり場のない怒りをぶつけるサンフン。
ヨニは元軍人で精神を病んだ父親と、学校にも行かず荒れた生活を送る弟ヨンジェ(イ・ファン)と毎日の様に衝突している。
そんなある日、ヨンジェがサンフンの組で仕事をする事になるのだが、彼がヨニの弟だとしらないサンフンは、オドオドした態度をとるヨンジェを「腰抜け」と罵倒する・・・・
邦題は「息もできない」で、英題は「Breathless」
これはもちろん破滅的な生き方をする主人公を描いた、ゴダールの「勝手にしやがれ」の英題からとったのだろうが、韓国語の原題はというと「トンパリ(똥파리)」、つまり「クソバエ」という凄いタイトルである。
社会のクソバエであるチンピラヤクザが主人公という事で、まあセリフは汚い言葉のオンパレード。
私は韓国語を少し勉強した事があるので、日常会話は僅かながら理解できるのだけど、この映画は韓国語教室では絶対に教えてくれないような四文字言葉で一杯だ。
20秒に一回くらいの割合で出てくる、「クソ野郎」と訳されている「シバラマ」という言葉など、観た人皆が覚えてしまうだろう。
ちなみに、知り合いの韓国人に聞いてみたところ、これは正確には「シバルロマ」に近い発音で、直訳すると「マ■コする奴」という意味だそうな。
サンフンは平然と言い放っていたけど、女性に使ったらその場でビンタされるから絶対に使うなと言われた(笑
全く無名の新人作家が書き、自ら主演し、主人公がヤクザというこの作品。
映画ファンならば、27年前に作られた一本の日本映画を連想する人も多いだろう。
当時33歳の金子正次が、残り少ない命の炎を燃やして作った「竜二」に、なるほど作品のバックグラウンドは良く似ている。
だが、「竜二」が暴力の世界から足を洗って何とか堅気の生活をしようと葛藤する男の物語で、基本的に暴力シーンを伴わないのに対して、こちらの主人公は暴力の世界にどっぷりだ。
二本の作品に共通するのは、緻密に積み重ねられた心理描写によって、圧倒的な説得力を持った不器用な男の生き様だろう。
メインキャラクターはヤクザのサンフンと女子高生のヨニだが、彼らを囲むように多くのキャラクターが配され、密接な人間関係を形作る。
ヤクザと女子高生という一見全く接点の無さそうなサンフンとヨニだが、彼らは共に心の奥に深い悲しみを抱えた似たもの同士。
サンフンは暴力的な父の元で育ち、幼い頃に母と妹を父に殺されると言う悲劇を経験している。
彼が借金の取り立ての現場で、とりわけ年上のオヤジたちに対して容赦がないのは、彼の抱えるトラウマの結果なのである。
父は最近刑務所を出所したのだが、彼に対して憎しみしか感じられないサンフンは、やり場のない怒りを暴力と言う形で老いた父にぶつけるしかない。
「韓国のオヤジは最低だ!」「殴る奴は、自分は殴られないと思っている」という言葉は、母と妹を守れなかった自責の念と共に、過去の父に向けられた物だろうし、父を否定しつつも、いつの間にか暴力の世界に生きている自分自身へ向けた言葉ともとれる。
サンフンには腹違いの姉がいるが、父の暴力を直接知らない姉が、父に優しくするのすら、サンフンは許せないのだ。
一方のヨニは、嘗てのベトナム出征兵で心を病んでしまった父の介護をし、ヤクザ予備軍の荒れた弟の暴力に耐える日々。
屋台を営んでいた母親は、数年前に立ち退かせようとするヤクザに殴られて殺された。
だからある意味でサンフンはヨニにとって憎しみの対象でもあるはずなのだが、ヨニがサンフンに惹かれてゆくのは、彼の中に自分と似た部分を見たのと、もしかしたら彼とその家族に彼女自身にはもう決して訪れない、家族の再生の可能性を見たからかもしれない。
二人が、ボロボロになったお互いの心を見つめあいながら、漢江の辺で慟哭するシーンは映画史に残る名シーン。
そうしてヨニとのふれあいを通して、サンフンが少しずつ頑なな心を変化させ、傷つきながも家族、そして自分自身を再生させるというプロセスは感動的だ。
だが、この映画は普通の「良い映画」では終らない。
悪意ある神のいたずらの様な、複雑に入り組んだ運命による暗転劇は、まるでシェイクスピアかギリシャ悲劇の様な壮大な人間ドラマとして観客の前で完結するのである。
そう極めて低予算な小品ではあるのだが、この映画は非常にドラマチックだ。
演劇を勉強した事のある人なら知っているだろうが、作劇の世界には「ポルティの36局面」と言われる概念がある。
これはフランスのジョルジュ・ポルティが提唱した物で、ドラマチックな要素というのは、全て36通りの劇的局面(「近親の復讐」「愛する者の喪失」など)に分類でき、物語はその組み合わせで構成されているというものだ。
個人的にはこの分類はいささか古典的過ぎて、現代ではもう少し多いのではないかと考えているが、試しにこの作品に当てはめてみると、やや拡大解釈した部分を含めれば、何と36局面のうちの25局面を含んでいる。
これほどドラマチックな要素ばかりを詰め込んだら、下手をするとわざとらしいメロドラマになってしまいそうだが、この作品は見事なまでに作為を感じさせない。
それはサンフンとヨニを始めとする全てのキャラクターに、生身の人間としての絶対的な説得力があり、彼らの抱える情念が、観客の心にストレートに突き刺さってくるからだ。
この語り口の上手さこそが、ヤン・イクチェンという才能の脅威なのである。
「息もできない」は、若き鬼才が生んだ、古典になり得るスケール感を持つ悲劇だ。
だが、この映画には救いもある。
憎しみと暴力に生きたサンフンは、少なくとも最後には憎しみと暴力の連鎖からは抜け出していた。
どれほど悲劇的な最期を遂げようと、彼の魂はおそらく救われたと感じる事が出来る。
もっとも、彼の抱えていた物は、そのままある登場人物に受け継がれたのもまた事実だろうが、人の世に絶対の救済は存在しないと考えると、これもまた人間という物なのだろう。
確かな事は、どんなに傷ついても、辛くても、生きている者には明日は必ずやって来て、人生は続いてゆくと言う事だけなのである。
それにしても、今年は緊張して喉が渇く映画が多い。
映画ではサンフンたちがOBビールの「CASS」を、うまそうに飲んでいたが、日本では手に入りにくいので今回は韓国で市場シェア1位の「HITE」をチョイス。
韓国のビールはどちらかと言うと、日本のビールよりはチョイアメリカンな感じで、水感覚でガブガブ飲めるのが良い。
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この記事へのコメント
私は韓国語など挨拶ぐらいしか解らないのですが、アレだけ連発されたらしっかり覚えますね。要は英語の「f○cking」って意味なんでしょうけども。
「韓国の父親は最低だ!」は紛れもなく父にそして自分に向けられたものですよね。そしてその“最低の父親”にならないように暴力を封印しその連鎖から逃れようとするも、その為には彼の命が必要だった…。なんとも人の世の皮肉を感じずにはいられません。
「韓国の父親は最低だ!」は紛れもなく父にそして自分に向けられたものですよね。そしてその“最低の父親”にならないように暴力を封印しその連鎖から逃れようとするも、その為には彼の命が必要だった…。なんとも人の世の皮肉を感じずにはいられません。
2010/04/13(火) 00:34:29 | URL | KLY #5spKqTaY[ 編集]
>KLYさん
シバラマ・・って200回くらい言ってた様な(笑
つくづく映画はお金じゃないんだなあって思いました。
こんな低予算な自主映画なのに、一体このスケール感は何でしょう。
数千年前のギリシャ悲劇の時代から繰り返されている人間の業みたいな物が、しっかりと伝わってきました。
これが新人の作品と思うと驚き以外無いです。
シバラマ・・って200回くらい言ってた様な(笑
つくづく映画はお金じゃないんだなあって思いました。
こんな低予算な自主映画なのに、一体このスケール感は何でしょう。
数千年前のギリシャ悲劇の時代から繰り返されている人間の業みたいな物が、しっかりと伝わってきました。
これが新人の作品と思うと驚き以外無いです。
2010/04/13(火) 00:40:24 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2010/04/13(火) 07:07:22 | | #[ 編集]
「韓国の父親はサイテーだ!」
これにはドキッとしました。
ここまで言い切れる監督の
揺るぎない視点。
ぼくは、あの漢江のシーンは、
映画史に残ると思っています。
河を渡る風さえも捕まえた。
その匂い、生温かさまでも伝わる官能的な時間でした。
ラスト、暴れる弟を目にしたヨニの脳裏に、
自分の家をめちゃくちゃにした男として
サンフンの記憶がよみがえるところも圧巻。
甘い追憶を許さない。
日本映画にはない厳しさでした。
これにはドキッとしました。
ここまで言い切れる監督の
揺るぎない視点。
ぼくは、あの漢江のシーンは、
映画史に残ると思っています。
河を渡る風さえも捕まえた。
その匂い、生温かさまでも伝わる官能的な時間でした。
ラスト、暴れる弟を目にしたヨニの脳裏に、
自分の家をめちゃくちゃにした男として
サンフンの記憶がよみがえるところも圧巻。
甘い追憶を許さない。
日本映画にはない厳しさでした。
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2010/04/14(水) 09:28:22 | | #[ 編集]
>えいさん
お勧めしていただいて良かったです。
これを見逃したら確実に後悔してましたよ。
これは正に現代韓国の大悲劇。
複雑に絡み合って、愛し合い、傷つけあう人間たちが愛しくて切ない作品でした。
漢江のシーンはエモーショナルでしたね。
お勧めしていただいて良かったです。
これを見逃したら確実に後悔してましたよ。
これは正に現代韓国の大悲劇。
複雑に絡み合って、愛し合い、傷つけあう人間たちが愛しくて切ない作品でした。
漢江のシーンはエモーショナルでしたね。
2010/04/16(金) 23:28:55 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
初めまして。「パンズラビリンス」で検索をかけてこちらのレビューを読み、いたく感銘を受けて以来のノラネコファンです。「息もできない」もノラネコさんに背中を押されて観てきました。
一言でいって、「痛い」映画でした。観終わって、心が痛くてたまりません。思った以上に揺さぶられたようで、ヨニとサンフンの顔が脳裏から消えないのです。漢江のシーンは胸をかきむしられました。思い出すと泣けてきます。
ヨニは誰かに似ていると思ったら、西原理恵子さんでした。顔もそうですが、雰囲気が。西原さんの「ぼくんち」という漫画と「息もできない」は根っこは同じだと思います。「ぼくんち」を読んで、社会は層になっていて、最底辺には「公」の姿はどこにもないのだと思い知りましたが、「息もできない」も「公」が無視し、見捨てた人たちの物語ですよね。「中流」だと思っている自分たちと、あの人たちの距離は思っているより近いのかもしれません。板子一枚下は地獄、というように。そしてその中でも人は生き続ける。苛烈な生だからこその、苛烈な感情や切実な思いとともに。ヨニとサンフンが甥っこと三人で街を歩くところは幻のように美しくて、胸がしめつけられました。つらい映画だったけど、観て良かったと思います。
長々と書いてしまってすみません。素晴らしい作品を紹介して下さってありがとうございました。
一言でいって、「痛い」映画でした。観終わって、心が痛くてたまりません。思った以上に揺さぶられたようで、ヨニとサンフンの顔が脳裏から消えないのです。漢江のシーンは胸をかきむしられました。思い出すと泣けてきます。
ヨニは誰かに似ていると思ったら、西原理恵子さんでした。顔もそうですが、雰囲気が。西原さんの「ぼくんち」という漫画と「息もできない」は根っこは同じだと思います。「ぼくんち」を読んで、社会は層になっていて、最底辺には「公」の姿はどこにもないのだと思い知りましたが、「息もできない」も「公」が無視し、見捨てた人たちの物語ですよね。「中流」だと思っている自分たちと、あの人たちの距離は思っているより近いのかもしれません。板子一枚下は地獄、というように。そしてその中でも人は生き続ける。苛烈な生だからこその、苛烈な感情や切実な思いとともに。ヨニとサンフンが甥っこと三人で街を歩くところは幻のように美しくて、胸がしめつけられました。つらい映画だったけど、観て良かったと思います。
長々と書いてしまってすみません。素晴らしい作品を紹介して下さってありがとうございました。
2010/05/29(土) 16:31:32 | URL | カミツレ #-[ 編集]
>カミツレさん
ご愛読ありがとうございます。
そういえば「パンズラビリンス」も痛い映画でしたね。
おっしゃる様に、本作の主人公と観ている我々の距離というのは思っているよりもずっと近いと思います。
何か一つの歯車が狂ってしまっただけで、誰もが彼らの様な負のスパイラルに落ち込む可能性はあるでしょう。
西原理恵子さんの漫画、確かに通じる物がありそうです。
彼女の漫画を原作とした「パーマネント野ばら」のレビューもアップしましたので、よろしければご覧ください。
ご愛読ありがとうございます。
そういえば「パンズラビリンス」も痛い映画でしたね。
おっしゃる様に、本作の主人公と観ている我々の距離というのは思っているよりもずっと近いと思います。
何か一つの歯車が狂ってしまっただけで、誰もが彼らの様な負のスパイラルに落ち込む可能性はあるでしょう。
西原理恵子さんの漫画、確かに通じる物がありそうです。
彼女の漫画を原作とした「パーマネント野ばら」のレビューもアップしましたので、よろしければご覧ください。
2010/05/30(日) 23:51:22 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
「クソバエ」とはほんと、凄いタイトルですね。
でもそんなタイトルを付けたいくらいの監督の言い分、それは凄くよく分かりました。
この映画を見て韓国社会の家族像がどう変わっていくのかもちょっと気になりましたよ。
でもそんなタイトルを付けたいくらいの監督の言い分、それは凄くよく分かりました。
この映画を見て韓国社会の家族像がどう変わっていくのかもちょっと気になりましたよ。
>にゃむばななさん
何と言うか、作者のエネルギーが迸る様な、超パワフルな映画でした。
韓国映画の場合、社会の軋轢がそのまま創作の源にうまく繋がっている気がします。
何と言うか、作者のエネルギーが迸る様な、超パワフルな映画でした。
韓国映画の場合、社会の軋轢がそのまま創作の源にうまく繋がっている気がします。
2011/04/14(木) 23:18:26 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
『デンデラ』でコメントさせていただいた者です。その節はいろいろとお手数おかけしてしまって、本当に申し訳ありませんでした・・・
この映画かなりよかったですね。
個人的にはあのラスト、希望があったと思います。ただ、その希望は「希望」という言葉がもつイメージに反して、ずっしりと重い・・・と。
>>もしかしたら彼とその家族に彼女自身にはもう決して訪れない、家族の再生の可能性を見たからかもしれない。
ノラネコさんが「ヨニがサンフンに惹かれてゆく理由」の文脈で書かれたこの部分についてなのですが、僕はむしろ、これはラストに示されたように思いました。
というのは、本当の主人公はヨニとヨンジュのハン姉弟であって、サンフンはというと、彼らの影画だったのではないかと・・・サンフンという男を描くことで、ハン姉弟の可能性を模索した映画だったのではないかなと。
可能性というのは、端的に言うと「(サンフンという存在および)擬似家族をいわば触媒にした、血のつながりの新しいかたち」で、その模索です。だからこそ、ヨンジュにもあれだけ時間を割いたのだろうし、ラストでヨニの目にはああいうふうに映ったのだろうと。
>>彼の抱えていた物は、そのままある登場人物に受け継がれたのもまた事実だろうが、
ノラネコさんもこのように書かれていますが、ある意味、だからこそ、(救済への)希望が見えたし、同時にそれはかなり重い希望でもあった。と、そんなふうに思いました。
この映画かなりよかったですね。
個人的にはあのラスト、希望があったと思います。ただ、その希望は「希望」という言葉がもつイメージに反して、ずっしりと重い・・・と。
>>もしかしたら彼とその家族に彼女自身にはもう決して訪れない、家族の再生の可能性を見たからかもしれない。
ノラネコさんが「ヨニがサンフンに惹かれてゆく理由」の文脈で書かれたこの部分についてなのですが、僕はむしろ、これはラストに示されたように思いました。
というのは、本当の主人公はヨニとヨンジュのハン姉弟であって、サンフンはというと、彼らの影画だったのではないかと・・・サンフンという男を描くことで、ハン姉弟の可能性を模索した映画だったのではないかなと。
可能性というのは、端的に言うと「(サンフンという存在および)擬似家族をいわば触媒にした、血のつながりの新しいかたち」で、その模索です。だからこそ、ヨンジュにもあれだけ時間を割いたのだろうし、ラストでヨニの目にはああいうふうに映ったのだろうと。
>>彼の抱えていた物は、そのままある登場人物に受け継がれたのもまた事実だろうが、
ノラネコさんもこのように書かれていますが、ある意味、だからこそ、(救済への)希望が見えたし、同時にそれはかなり重い希望でもあった。と、そんなふうに思いました。
>赤亀さん
あのラストを含め、本作は一つの事象にも複数の意味を見出す事ができるんですよね。
そこがまた人間の複雑さであり、単純に泣ける笑えるで捕らえきれない本作の奥深さであるのですけど。
いきなりデビュー作で、そんな一番難しいテーマに挑んだヤン・イクチュン監督は凄いなあと思います。
あのラストを含め、本作は一つの事象にも複数の意味を見出す事ができるんですよね。
そこがまた人間の複雑さであり、単純に泣ける笑えるで捕らえきれない本作の奥深さであるのですけど。
いきなりデビュー作で、そんな一番難しいテーマに挑んだヤン・イクチュン監督は凄いなあと思います。
2011/10/12(水) 23:48:49 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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昨年の東京フィルメックスで最優秀作品賞と観客賞の2冠に輝いた韓国映画。俳優としても活躍して気やヤン・イクチュン監督の長編デビュー作だ。ヤクザな借金取りの男と女子高生の純粋な触れ合いが、お互いに傷ついた過去を癒していく。主演はヤン・イクチュン監督自らと、...
2010/04/13(火) 00:13:31 | LOVE Cinemas 調布
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2010/04/14(水) 00:11:05 | そーれりぽーと
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2010/04/14(水) 01:22:32 | 黒猫のうたた寝
現在公開中の韓国映画「息もできない」(監督:ヤン・イクチュン)です。渋谷シネマライズで鑑賞しました。 うーん、疲れる映画でした。しかし「ハート・ロッカー」の疲れとは明らかに異質の、ちょっと残念な疲れでした…。この映画、暴力シーンはなかなか凄いです。...
2010/04/14(水) 01:26:14 | Men @ Work
{/hikari_blue/}{/heratss_blue/}ランキングクリックしてね{/heratss_blue/}{/hikari_blue/}
←please click
父への怒りと憎しみを抱いて社会の底辺で生きるしか術のなかった男サンフンと、
傷付いた心を隠し勝気に振る舞う女子高生ヨニ。
家庭内暴力によって家庭がば?...
2010/04/14(水) 09:25:45 | 我想一個人映画美的女人blog
これが長編映画の監督デビュー作だというのだから恐れ入る。
『息もできない』の素晴らしさは、制作・監督・脚本・編集・主演のヤン・イ...
2010/04/15(木) 02:32:00 | 映画のブログ
{{{ ***STORY*** 2008年 韓国
逃れられないしがらみの中で生きてきた二人。社会の底辺で怒りと憎しみを抱いて生きるしか術のなかったサンフンと、傷ついた心を隠した勝気な女子高生ヨニ。二人の切ない魂の求め合いを、?...
2010/04/15(木) 09:57:32 | Cartouche
BREATHLESS
借金の取り立て屋として社会の底辺で生きるサンフン(ヤン・イクチュン)は、
暴力衝動を抑えられない孤独な男。ある日...
2010/04/16(金) 14:09:49 | 真紅のthinkingdays
行定勲監督の最新作「パレード」を観た後に、韓国映画の大傑作「息もできない」を観ると、 不思議なことに「パレード」に妙にイライラさせられた。 「息もできない」を観た後に、ある言葉を思い出した。 ディア・ドクター [DVD] 出版社/メーカー: バンダイビジュアル 発売日
2010/05/08(土) 01:50:06 | タニプロダクション
・
儒教の精神が色濃く残っている韓国ならではの父親という強権的で絶対的な存在に対する葛藤を、境遇的に互いに通じ合う二人の男女それぞれのドラマを通して骨太に描いた作品。
片や度重なる暴力によって母親と妹を死へと追いやった父親に対して強い憎しみを抱く粗暴な?...
2010/05/13(木) 20:44:17 | 俺の明日はどっちだ
韓国のなんでもない坂道が、どうしてこんなに傑作を生むのだろうか。それはこの坂道にへばりつくように生きている人々が、その「恨(ハン)」を解くために日々血のにじむような想い...
2010/07/02(金) 05:31:20 | 再出発日記
息もできない’08:韓国◆原題:BREATHLESS◆監督・編集:ヤン・イクチュン◆出演:キム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク、ユン・スンフン、キム・ヒス◆STORY◆友人が経営する取り立て屋で働いているサンフン。その容赦ない取り立てと暴力は時には仲間にも向?...
2010/09/16(木) 17:16:24 | C'est joli~ここちいい毎日を~
【BREATHLESS】 2010/03/20公開 韓国 R15+ 130分監督:ヤン・イクチュン出演:ヤン・イクチュン、キム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク、ユン・スンフン、キム・ヒス、パク・チョンス ...
2010/12/29(水) 22:29:15 | 映画鑑賞★日記・・・
評価:★★★★★5つ (僕的主観:★★★★★5つ) ■あらすじ 容赦ない借金の取立で恐れられるヤクザのサンフン(ヤン・イクチュン)は、ある日女子高生のヨニ(キム・コッピ)と知り合う。 いきなりの殴り合いという最悪の出会いをした二人だったが、不思議と馬があい、
2011/03/06(日) 21:08:46 | 物語三昧~できればより深く物語を楽しむために
映画の年間ベスト10をここ数年やっている。
それを書く明確な理由。
=他のブログと比べることで、1年間で自分の出会わなかった「名作かも」に出会うチャンスを与えてくれるから!
そうして出会ったのが、この「息もできない」
で、一言。
「いやあ~驚いたよ!」
...
2011/03/07(月) 01:06:23 | 日々 是 変化ナリ ~ DAYS OF STRUGGLE ~
息もできない
家族愛に恵まれないチンピラと
女子高生が出会い、人生の転機が来るが...
【個人評価:★★★☆ (3.5P)】 (自宅鑑賞)
原題:BREATHLESS
2011/04/11(月) 23:38:28 | 『映画な日々』 cinema-days
大切な人を守れない自分がいる。その無力感が生み出す閉塞感で息もできない。
いったい韓国映画界にはどれほどの無名な逸材がまだ眠っているのか。そう思わざるを得ないこの淋し ...
2011/04/13(水) 15:22:00 | こねたみっくす
あらすじ父への怒りと憎しみを抱いて社会の底辺で生きる男サンフンと、傷ついた心をかくした勝気な女子高生ヨニは、ある日、偶然出会い・・・。感想息もできないくらいねぇ 君が好...
2011/06/18(土) 08:29:10 | 虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映...
谷村美月かと思った もっと読む[E:down] 虎党 団塊ジュニア の 日常 グ
2011/06/18(土) 08:31:13 | 虎団Jr. 虎ックバック専用機
私がいつも参考にしている映画紹介のサイトでベタぼめ。
インディーズにもかかわらず、
沢山の賞を取っているそうですね。
いろいろな人のレビューを読むと絶賛の嵐。
でも、観た友人に聞くと、
「それほどでも。。。(^_^;)」という答えが返ってきました。( ^ _ ^...
2011/06/19(日) 02:21:12 | 映画、言いたい放題!
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