酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。
■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係な物や当方が不適切と判断したTB・コメントも削除いたします。
■TITLE INDEX
タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント
noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
■ FILMARKSアカウント
noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
ネコを探して・・・・・評価額1550円
2010年08月20日 (金) | 編集 |
「ネコを探して」というタイトルだけで、猫派としては観たくてたまらなくなってしまう。
フランスの女性監督ミリアム・トネロットは、味わいのあるアニメーションと実写映像を組み合わせて、風変わりなドキュメンタリーを作り上げた。
だが、タイトルから単にカワイイ猫の姿を期待してゆくと、思いがけずハードな内容にびっくりするかもしれない。
ここに描かれるのは、猫との関わりを通して浮かび上がってくる人間の姿なのだ。
映画の原題は「LA VOIE DU CHAT」つまり「猫の道」という意味である。
消えた飼い猫クロを追って、鏡の中に飛び込んだミリアムは、タイトル通り様々な時代の様々な国を訪れ、そこに暮らす人間と猫の関係を見つめる事になる。

十九世紀末のベル・エポックの時代、サロンでは文豪たちが猫を褒め称える。
世界各国で封建制が終わりを告げ、自由主義の革命が吹き荒れたこの時代、猫はその媚び諂わない半野生的性格から、自由と独立の象徴として持てはやされた。
逆に人間に従順な犬は、旧社会の動物として人気が急落したというから面白い。
人間と共に生きる動物達の運命は、社会の動向と密接に関わっているのである。
ミリアムが、サロンの作家達の中に見つけたのは、名高い文豪・夏目漱石の姿。
漱石と言えば「我輩は猫である」だが、日本人として興味深いのは、本作が上映時間の半部ほどを費やして描いているのが、他ならぬ日本社会における猫の姿であるという事だろう。
面白い事に、日本は歴史的に欧米での猫のポジションに決定的な影響を与えた国であるという。
元々キリスト教社会では、猫は魔女の使い魔や悪魔の化身など、ネガティブな印象が強く、ネズミの天敵として役に立つ動物、という以上の存在ではなかった。
一転して猫が大人気となるのが、前記したベル・エポックの時代なのだが、時期を同じくして欧州にはジャポニズムのムーブメントが到来し、浮世絵に描かれた様々な猫の姿が、ヨーロッパにおける猫のイメージを劇的に改善したのだという。

そんな日本は、現代では世界有数のペット大国
映画は、1950年代に人類史上初の食物連鎖による公害病、「水俣病」が発生した熊本へ飛ぶ。
チッソの工場が垂れ流した廃液が海を汚染し、魚を食べた住人20万人以上が発症した恐ろしい病気の、最初の犠牲者が実は猫たちだった。
港の魚を食べていた猫たちが先ず病気の兆候を示し、人間に危険を知らせていたのだ。
病気が公になってからも、今度は自社と病気の因果関係が無いと立証したいチッソ側と、廃液と病気の関係を立証したい患者側の双方で、猫を使った実験と解剖が繰り返される。
水俣病の事はある程度知っているつもりだったが、かの地に犠牲となった猫たちの慰霊碑があることは初めて知った。
人間の利己主義の犠牲になった猫たちに合掌。

もちろん猫が人間の都合で犠牲になるのは日本だけではない。
英国では、猫もリストラされるらしい。
元々英国の国鉄では、信号のケーブルや生鮮食料品などの倉庫をネズミ被害から守るため、沢山の猫が社員として飼われていたという。
しかし、国鉄が分割民営化された時、新たな経営陣は猫を無用の長物とみなして解雇処分し、駅舎から追い出してしまった。
猫たちは立派な職人であり社員だと力説する、昔かたぎの鉄道マンたちの心情は痛いほど伝わってくるが、会社は猫の餌代をケチって株主に配当する事を選んだのだ。
猫も人間もリストラ、切符は値上がり、マンパワーが減ったために事故は増加、喜んだのはお金持ちの投資家と巨額の報酬を得る経営陣だけ。
何というか、経済の効率化というのが一体誰のためなのかというのを考えさせられる事例である。

だが、リストラされる猫もいれば、逆に人間をリストラから救った猫もいる。
和歌山県のローカル線、和歌山電鐵貴志川線の貴志駅の駅長を務めるのは、三毛猫の“たま”である。
元々駅の売店に飼われていたたまは、2007年に駅長に就任するや大人気となり、苦しい経営を続けていた和歌山電鐵復活の立役者となった。
実は、私の親の実家は和歌山で、以前この貴志駅に見に行ったことがある。
ところが、行ってみると「たま駅長は日曜日はお休みです」の張り紙があり、結局駅長の御尊顔は拝めなかったのだが、逆に猫好きとしてはホッとしたのを覚えている。
経済効果を最大限追求するなら、一番客が来るであろう日曜日に出勤させないという選択はあり得ないだろう。
ここでは、たまの人権ならぬ猫権が、経済よりも尊重されているのだ。
今ではたま駅長は和歌山電鐵の執行役員となり、無人駅だった貴志駅には、たまの同僚となる人間の駅長も赴任したと言う。
本来、自由で気ままな猫が駅舎に留まり旅人を送り出す光景に、ミリアムは幾分アイロニーを感じた様だが、この田舎の駅の光景には、まだ人から猫に対しての敬意が感じられる。

そもそも十九世紀の人々が賞賛した自由で独立した猫の姿は、今の社会に存在しえるのか。
アメリカのミネソタ州には、猫とお泊りできるホテル(文字通りの“キャット・ハウス”だ!)があり、日本の東京では沢山の猫カフェで人々が癒されている。
最近愛猫を亡くしたという女性は、猫カフェでそっくりな猫を抱いて喪失感を癒していた。
たぶん、これは猫と暮らしている人は皆感じているのではないかと思うが、現代人が猫に一番求めているのは“癒しの力”だろう。
アメリカには、死を予知する猫として有名になった“オスカー”のいる痴呆症専門病院があるが、元々オスカーもここで患者の癒しを担当するセラピーキャットなのだという。
今の社会、家で幸せに死ねるのは金持ちだけ。病院で家族にも看取られないで死ぬ人も多い。
世知辛い世の中、“病院で死ぬなら、猫に見守られて死にたい”なんて事を願っても、もしかしたら猫にとっては迷惑かもしれないが、そう思わざるを得ないほど人間同士の繋がりが弱くなっているのかもしれない。
ある日本人の男性は、猫の自由で気ままなところが好きで猫カフェに通っていると語る。
だが、そこにいる猫達は恐らく一生自由に外に出る事など無いのだ。
もちろん、“自由”という言葉には、単に行動の自由以外の意味がある事も確かだが、人間が猫に求めるイメージと、現実のギャップに、思わず考えさせられた。

「ネコを探して」は、猫を通じて人間を描き出す、ユニークなドキュメンタリーである。
結局、良くも悪くも何時の時代も猫は人間を映し出す鏡でありメタファーなのだ。
現代社会に完全に自由な人間が存在できない様に、完全に自由な飼い猫もいない。
その事自体は否定すべき事でも、肯定すべき事でもないだろう。
だが、猫が不幸な社会は、たぶん人間にとっても幸福ではない、という発想に立てば、猫との暮らしから、この世界を良くする方向性が見えてこないか。
少なくとも、年間25万匹以上の猫が、人間の無責任によって殺処分されているという日本の現状は変えて行きたいものである。
犬に関しては、過去四十年間ほぼ一貫して減り続け、二十年前と比較しても殺処分がほぼ三分の一(それでも20万頭近い)となり、捕獲後の引き取り割合も50%程度あるのだが、猫はここ十年以上横ばいで、殺処分数で犬を逆転してしまった。
行政も、社会も、そして何よりも一人一人の個人が、この恥ずべき数字を少しでも減らす努力をする事が、実は人間にとっても優しく豊かな社会を作ることに繋がって行くのではないだろうか。
“カワイイ”という言葉の元に、大切なパートナーの命まで消費してはいけないのだ。

今回は、神秘的な猫の目をモチーフにした「キャッツ・アイ」をチョイス。
このカクテル、店によってレシピが全然違うのだが、今回はジンベースで。
ドライ・ジン75ml、ドライ・ベルモット25ml、ホワイトキュラソー1/2tsp、レモンジュース1/2tsp、キルシュ2dashをシェイクしてグラスへ。
私はなぜかこれを飲むと眠くなる。

最後に、貴志川線のたま駅長公式ページで、ミリアム・トネロット監督がたまに宛てた素敵な手紙を公開しているので、以下にリンクしておく。
貴志川線はたまをモチーフにしたたま電車の他にもユニークな電車を走らせていて、車窓から見えるみかん山が連なる風景はまさに日本のハートランド
和歌山を訪れた際には、是非乗車してみてほしい。
http://www.wakayama-dentetsu.co.jp/sstama.html

ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね

こちらもお願い

ゴードン・ドライ・ジン 正規 47.3度 750ml

ゴードン・ドライ・ジン 正規 47.3度 750ml

価格:1,410円(税込、送料別)




スポンサーサイト

コメント
この記事へのコメント
猫の目を通したドキュメンタリー、猫好きの私としては実に興味深く楽しませてもらうと同時に、やはり避けて通れない殺処分の問題が重くのしかかります。
この問題を扱ったドキュメンタリーに『犬と猫と人間と』という作品があるので、もし機会と興味がおありでしたらご覧になって頂きたいです。
2010/08/21(土) 01:09:28 | URL | KLY #5spKqTaY[ 編集]
こんばんは
>KLYさん
タイトルからもっとソフトな物を想像していましたが、予想外に考えさせられる作品でした。
殺処分の問題は本当に胸が痛いです。
一匹でも救いたいですけど、全然減らないのですよね。
「犬と猫と人間」は先日観ました。これもまたじっくりと見入ってしまう力作でした。
2010/08/21(土) 01:17:33 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
よく拝見していたのですが、初めてコメントさせていただかいます。
イメージフォーラムは会員になっていて、よく見に行くのですが、この映画の予告編は何度も見ていました。
駅猫たまちゃんが印象に残っていて、それほど意識せずに本編を見たとき
その社会性の高いテーマに驚いたものです。
なにせ、いきなりミナマタですから。
そういえば、水俣の猫は人が病気になる前から教えてくれてたんですよね。

予告編を本線で作っていれば、異なる客層が見に来たのではないかと想いますが
それも興業の都合なんでしょうか。

残念ながらレビュアーさんたちにも、あまり知られなかった映画だったので、ノラネコさんのエントリ見てコメ書き込んじゃいました。
また、拝見に来ます。
2010/11/20(土) 19:21:18 | URL | こーいち #90LdKUd6[ 編集]
こんばんは
>こーいちさん
内容をあまり知らずに、タイトルに惹かれて観に行ったのですが、思いのほか重い内容でしたね。
でも作り手の猫への愛情がしっかりと伝わってきて、考えさせられつつも、少しほっこりしました。
テーマそのものは猫派以外にも観てもらいたいものなので、テレビの深夜枠とかNHKとかで放送してくれると良いかも知れません。
2010/11/21(日) 19:08:35 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
フランス在住の女性監督ミリアム・トネロットが猫を通して人間を見つめたドキュメンタリー。飼い猫クロを追ううちに時空を越えて様々な場所を訪れ、その場所での猫と人間との係わり合いを浮かび上がらせていく。ストーリーテリングのパートを素朴な画風のアニメーションで...
2010/08/21(土) 00:52:05 | LOVE Cinemas 調布
『ネコを通して見えてくる現代の人間社会』/この作品にはたくさんのネコが登場する。廃止寸前の駅を救った駅長のタマ、鉄道員ネコのエリカ、おくりネコのオスカーその他有名無名の世界のネコたち。しかもフランス映画であるにも関わらず、日本のネコが多数取り上げられて...
2010/09/06(月) 19:37:23 | INTRO
行方不明の子ネコを探して鏡の中から時空を超えて。
2010/12/19(日) 21:53:30 | 三毛猫《sannkeneko》の飼い主の日常