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アンチクライスト・・・・・評価額1500円
2011年03月08日 (火) | 編集 |
デンマークの鬼才、ラース・フォン・トリアーによるミステリアスなスリラー。
事故で子供を喪った夫婦が、心を癒すために訪れた森で、狂気の地獄に溺れてゆく。
「アンチクライスト」という直球なタイトルに、セックスとバイオレンス絡みのセンセーショナルな話題が先行していたが、実際のところそこまで過激な作品とも思えない。
確かにイタタな描写はあるものの、全体としては極めてロジカルに計算され、Jホラーのテイストなども加味されて仕上げられた、宗教的暗喩劇である。

情事の最中に、転落事故で幼い息子を喪った夫婦。
悲しみと自責の念から、妻(シャルロット・ゲンズブール)は精神のバランスを崩して入院してしまう。
薬に頼る治療法に懐疑的なセラピストの夫(ウィレム・デフォー)は、彼女を退院させ心理セラピーを試みる。
妻の恐怖が、森の記憶からやって来る事を突き止めた夫は、恐怖の根源と向かい合う事が必要と考え、彼女を連れて彼らが“エデン”と呼ぶ森の小屋にやって来る。
だが、森の自然現象は妻の心をさらに蝕んでゆき、やがて息子の死に関する恐ろしい記憶を呼び起こす・・・


物語は「プロローグ」「悲観」「苦しみ」「絶望」「三人の乞食」「エピローグ」の六つのチャプターからなるが、基本的にキリスト教における根源的な矛盾に直面した作者が、信仰を反転させた視点から描く事で、バランスをとろうとした物語と言えるだろう。
「プロローグ」では、主人公である夫婦の情事と子供の転落死が、ヘンデルの「私を泣かせてください」の調べにのせて、モノクロのスーパースローで描かれる。
降りしきる雪の中、思わず息を呑むほどに美しく描写されるこのシークエンスによって、これが性と死に支配された作品である事が強く示唆される。

続く「悲観」では事故のトラウマに苦しむ妻と、彼女を治療しよとする夫の関係が描かれるが、ここでちょっと面白いのは、夫がまるで罪の意識を抱えていない事である。
セックスしていた最中の事故なのだから、二人とも同じように心の傷を抱えていても良さそうなものだが、夫はまるで初めから罪を犯したのは妻であると思い込んでいる様にも見える。
本作は、カンヌで主演女優賞を受賞した一方で、女性蔑視が甚だしいとして監督のラース・フォン・トリアーに“アンチ”賞が送られたという。
まあトリアーが女性にやたらと厳しいのは以前からだが、キリスト教が元々男性原理的な宗教である事を考えると、本作の場合はあえて狙ってやっているのではと思う。
キリストを“男”と捉えれば、アンチクライストとは“女”の意でもあり、“キリスト=善”であれば“女=悪”というロジックが生まれるのである。

夫は、セラピーを通じて妻の恐怖の原点が森であると確信し、「苦しみ」以降のチャプターの舞台は、彼らが“エデン”と呼ぶ混沌の森へと移る。
ここでモチーフになっているのは、楽園追放とキリストの誕生のエピソードであり、物語の構成要素の多くは聖書の反転だ。
エデンの森とは勿論楽園の比喩で、小屋はキリストが生まれた馬小屋に対応する。
深い緑に囲まれてセラピーを続ける夫だが、森の状況はあまりにも不気味で、超自然的な様相を帯びて来る。
夜な夜な屋根を打つドングリの落下音、言葉を喋る狐に、死んだ胎児を引きずる雌鹿。
「森は悪魔の教会」という妻の精神状況はますます悪化し、性の狂気は何かに取り憑かれたかの様に加速してゆく。

過激さが話題になっているセックス描写も、キリスト教の矛盾点を克明にする。
まあ聖書の解釈は宗派によっても、個人によっても様々だが、神は愛であると説き、子孫繁栄を奨励しながら、同時に淫欲は罪であるとも定義する。
実際聖書にも、よくよく考えれば一体どっちなんだよ!と解釈に困る性愛のエピソードがいくつも出てくるのである。
果たして妻のセックスは、愛の表現なのか、それとも悪魔の誘いなのか。
やがて夫は、妻がこの小屋で悪魔崇拝や魔女の研究をしていた事を知り、彼女が息子を虐待していて、息子の事故すらわざと見逃したのではと疑念を深めてゆく。
そして夫が自分を棄てるのではないかと恐れた妻は、セックスの最中に夫を殴り倒すと、ドリルで彼の足に穴をあけ、大きな砥石を足かせとしてボルト留めする。
この痛々しい描写はそのままクライマックスにつながるのだが、宗教的世界観の中でここだけがちょっと通俗的なスプラッター映画の様で、精神のメタファーとしての描写が大半である本作においては、やや違和感があった。

「俺を殺すのか?」と聞く夫に、妻は「まだだ」と答え、「三人の乞食がやって来た時、誰かが死ぬ」と言うのである。
この三人の乞食は、聖書にある東方の三賢人の反転だ。
東方の三賢人は、キリストの誕生に際して三つの贈り物を届けたとされ、まあ最初のクリスマスプレゼントと言えるかも知れない。
一般に青年、壮年、老年の姿で描かれる彼らとその贈り物は、文明であり秩序であり権力の象徴だ。
対する三人の乞食は狐と鹿とカラスという動物の姿をしており、彼らが象徴するのは原初の森と本作のチャプター名となっている、悲観、苦しみ、絶望であろう。
元々キリスト教の神は、ある意味理性と秩序を具現化した存在であり、その根底にあるのが文明である。
逆に、人知の及ばない混沌とした自然=森は、悪魔の支配する魔の領域で、昔話の「赤頭巾ちゃん」や最近では「ブレアウィッチ・プロジェクト」など、キリスト教圏において、森が恐怖の対象として描かれるのはこのためだ。
悪魔の教会である森に三人の乞食が揃った時、生まれ出るものこそ、キリストならぬアンチクライストという訳だ。
そして本作のエデンの森は、聖書の楽園追放の物語とは逆に、ある者たちの魂を迎え入れる場なのである。
その事が具体的に描写されるラストに至って、なるほどこりゃ女性蔑視と言われる訳だと納得した。

「アンチクライスト」はトリアー自身が「自分のうつ病の治療のために書いた」と語っている様に、彼の感じた神の存在とキリストの正当性に対する疑念と、そこから導き出される反作用を描いた作品だと思う。
したがって、キリスト教徒でもなく、そもそも自然を悪魔どころか崇拝の対象とする多くの日本人にとっては今一つピンと来ない一本だろう。
もちろん、散りばめられた宗教的な暗喩と、美しく工夫の凝らされた映像表現は良く出来ているし、主演のシャルロット・ゲンズブールウィレム・デフォーの怪演は一見の価値がある。
妻は悪魔の研究を通して、自らを悪魔と一体視し、緑の地獄へと夫を誘い込む。
結果だけを見れば、トリアーは、内的葛藤を悶々と繰り返した末に、男性原理的なキリスト教の解釈へと戻っていっただけではないかと思えなくもない。
だが実は、罪を共有しながらそれを無意識に妻に転化し、独善的に彼女を分析して理性と秩序に導こうとするのは夫である。
妻の行動は最初から彼女を治すべき者、無秩序な者として扱った夫との関係の結果であり、要するに彼女が自分を悪魔と一体視した原因は夫なのだ。
果たして夫の最後の行動を、妻を救おうとする究極の愛の形として捉えるか、それとも自己矛盾の封じ込めに過ぎないと捉えるか。
トリアーは“治療”のために、自己と信仰の矛盾を男女の関係に象徴させて映像化する事で、何とか精神のバランスを保ったかの様に見える。
まあその為に、極めて道具的に女性という存在を扱っているのは確かで、本作を嫌悪する人が多くいる事は何ら驚きではない。

今回は、悪魔の教会である森にちなんで「グリーン・デビル」をチョイス。
ドライ・ジン50ml、クレーム・ド・ミント・グリーン25ml、レモン・ジュース適量をシェイクして、氷を入れたグラスに注ぎ、あればミントの葉を添える。
名前の通り緑色で、かなり辛口のカクテルだが、ミントのフレッシュな香りが広がり、後味は爽やかだ。

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コメント
この記事へのコメント
>キリストの誕生に際して三つの贈り物

なるほど、そういえばそんな話を聞いたことがあるような。ということは1番最初に子供のおもちゃの兵士の人形に悲観、苦しみ、絶望とあったのはもろにそのことで、従って息子はキリストのメタファーってことなんでしょうか。
そうすると息子の死は単に、自らが欲望に溺れている間に子供を失ったというだけでなく、そこにキリストが彼女や夫の罪までも背負って死んでいった、逆に言えばキリストを死に追いやった存在としての自分を許せなかったということなのか…。
もう一回観に行きたいのですが時間がとれず…(苦笑)
2011/03/08(火) 22:49:17 | URL | KLY #5spKqTaY[ 編集]
こんばんは
>KLYさん
そうですね、あの息子は妻の原罪に繋がっていますし、イエスのメタファーと捉えて良いと思います。
ただこの映画の場合、単純に聖書を反転させたというだけでなく、色々とオーバーラップする様な仕掛けを作ってますから、読み解くと可能な解釈はいくつもありそうです。
これ、実はトリアーは作るのかなり楽しかったんじゃないかなあと思います。
治療薬と言うだけあって(笑
2011/03/08(火) 23:01:10 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
素晴らしい!!!
昨夜初めて《アンチクライスト》を鑑賞しました。

私は女性ですが嫌悪感は感じませんでした。
o(^-^)o

彼女側からの感想になってしまいますが、長文コメントをお許し下さい。
m(_ _)m

鬱病や過呼吸症などを以前患っておりましたので映画内の彼女の心情は手に取るようにシンクロしました。

この映画には精神的病を治すセラピストへの皮肉や忠告も沢山秘められていると感じます。
身内がセラピストをするべきではない典型的なパターンです。
そして彼女はやはり
彼にセラピストとしてではなく旦那として苦しみ、悲しんで欲しかったのだろうと…。

彼女自身は彼に治して欲しかった訳ではないと思いました。

とても分かりやすい場面
《石と石の間を渡るシーン》で彼女は凄い恐怖や目眩を感じています。

しかし旦那に無理矢理抱き上げられながら渡った後
旦那は『これで君は1つ乗り越えた』と満面の笑み。

彼女は何1つ乗り越えてはいないし、あの時点で旦那がセラピストとしても旦那としても自分の事を理解していないと感じたはずです。

その証拠に彼女は翌朝、彼に笑顔で『あなたが居てくれて良かった』みたいなニュアンスを伝えます。

彼女は《もう大丈夫》という偽りの自分を演じ、森から逃げたかったのだと。

その時点で彼女《患者》と旦那《セラピスト》の関係は破綻していると感じてました。

人は《欲》のバランスが崩れた時、こうも脆いものだという事も映画のストーリーから感じます。

旦那はセラピストとしての自信に溢れ、それがいつしか傲慢になり、《患者(妻)》の真意を理解しようとはせず、セラピストとしての自分の経験マニュアルに従えば妻を救えると。

でも妻は《患者》としてではなく、《悲しみに暮れる妻》として自分を見て欲しかった。

何故彼女が子供に左右逆の靴を履かせたのか?
何故彼女はカウンセリングの際に攻撃的・皮肉的な発言をするのか?
何故彼女は森を恐怖として感じるのか?

そういう《彼女の根底にあるもの》をもっともっと探求していれば、この映画のような悲劇にはならなかったとも。

私はこの映画には
タイトル通りキリスト教への監督からの皮肉と
セラピストへの警告と
傲慢という感情がいかに人を傷つけるか…

そんなメッセージを感じています。

素晴らしいレビューをありがとうございます☆
m(_ _)m
2011/09/30(金) 02:36:36 | URL | SUIREN #-[ 編集]
こんばんは
>SUIRENさん
女性目線でみても説得力があるのですね。
カンヌでアンチ賞もらったり、色々言われていたので、女性受けは悪いのだと思っていたので意外でした。
なかなかユニークな分析ありがとうございました。
2011/09/30(金) 22:44:36 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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