酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。
■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係なTBもお断りいたします。 また、関係があってもアフェリエイト、アダルトへの誘導など不適切と判断したTBは削除いたします。

■TITLE INDEX
タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント
noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
■ FILMARKSアカウント
noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
灼熱の魂・・・・・評価額1650円
2011年12月18日 (日) | 編集 |
家族の歴史に隠された、血塗られた闇。

「灼熱の魂」という邦題は観て納得。
原題の「Incendies」は仏語で“火事”の意味だが、これは正に燃え上がる炎の様な熱い魂を持った、力のある映画だ。
中東出身の一人の女性が残した謎めいた遺言から、実に40年間に及ぶ宿命の物語が展開する。
原作はレバノン生まれのカナダ人劇作家、ワジディ・ムアワッドが故国の内戦をモチーフとした戯曲で、監督・脚色をカナダ仏語圏のケベックで活躍する俊英、ドゥニ・ヴィルヌーヴが務めた。
*一部ネタバレ注意。

世捨て人の様に暮らしていた中東系カナダ人女性、ナワル・マルワン(ルブナ・アザバル)が亡くなった。
残された双子のジャンヌ(メリッサ・デゾルモー=プーラン)とシモン(マキシム・ゴーデット)は、長年母を知る公証人のルベル(レミー・ジラール)から遺言と共に二通の手紙を渡される。
それは二人には存在すら知らされていなかった、父と兄に宛てられた物だった。
戸惑いながらも母の故国へと飛んだジャンヌは、35年前の写真を頼りに、微かに残された母の足跡を辿り始める。
やがて姉弟は、歴史の闇に翻弄された、母の数奇な人生と秘められた家族の歴史を知る事となる・・・


何とも苛酷な映画だ。
レディオヘッドの「You and Whose Army」にのせて、幼い少年達が武装したゲリラ兵士によって髪を剃られるシーンで始まる本作は、1970年代に起こったレバノン内戦を背景としている。
ただし劇中で明確な国名が明かされる事は無く、戦争の背景もイスラム教徒とキリスト教徒の衝突という程度にしか語られない。
歴史の中のある一点を正確に描いたというよりも、今も世界のどこかで繰り返されている人間が抱える業の象徴としての戦争なのである。
映画は、遺言に導かれるように現代の中東の土を踏み、母ナワルの人生の軌跡を追う双子姉弟の旅と、1970年代から80年代にかけてのナワルの壮絶な過去の物語を、時系列をシャッフルする形で平行に描いてゆく。
演劇の“幕”の様に、全体が表題を持ついくつかの章に別れているのが特徴的だ。

一体、ナワル・マルワンとは何者なのか。
彼女はなぜ故郷を捨て、世間と殆ど交わる事をせず、人を寄せ付けない人生を送らざるを得なかったのか。
ミステリアスな心の旅は、やがて憎しみと不寛容によって人生を狂わされた一人の女性が辿った、残酷な負の連鎖を明らかにしてゆく。
地方の保守的なキリスト教徒の家に生まれ、許されぬ恋によって妊娠したナワルは、お腹を痛めて生んだ男の子を奪われ、村から追放される。
親戚を頼り都会の大学に進学するものの、今度は内戦が勃発。
孤児院に送られたはずの息子を心配したナワルは、一人戦闘地帯となった故郷に向うのだが、そこで彼女が身をもって体験するのは、あまりにも理不尽な暴力の惨禍だ。
息子を見つけることは出来ず、旅の途中で幼い子供が虐殺されるのを目の当たりにした彼女は、あろう事か自ら暗殺者となって戦いを煽る右派政治家の命を奪ってしまうのである。
憎しみに駆られ、暴力の遂行者となってしまった彼女に、もはや安息は訪れない。
内戦下の刑務所に政治犯として送られたナワルを待っていたのは、想像を絶する地獄の日々だが、ここでは彼女は驚くべき運命の帰趨する先をまだ知らない。

ナワルが、自らの陥った負の連鎖の本当のおぞましさに直面するのは、逃れるように故国を後にし、カナダで二人の子供を育て上げた現代のことである。
終盤に明かされる“1+1=1”となる驚愕の事実には、おそらく全ての観客が言葉を失うだろう。
ここで二つの世代は時空を超えて絡み合い、ナワルが遺言によって子供達におくったメッセージの、真の意味が明らかになるのだ。
物語の構造のベースとなっているのは、ギリシャ神話のエディプスだろう。
ネタバレになるので詳細を書くのは控えるが、“踵”がキーワードになるあたり、明らかに神話から着想を得た作劇だと思われる。
ただし、それまでもかなり力技で展開してきた物語は、ギリシャ神話を引用する至ってもはや悪意ある神の悪戯としか思えないほど偶然性に頼っており、メロドラマもかくやという気もしないではない。
もっとも、この御都合主義とも言える運命の苛酷さが、本作の燃え上がるような情念の燃料となっていることもまた間違いなのである。

ナワルの中で燻ってきた闇黒の炎が、遂に彼女の全てを焼き尽くす場所が、満々と水を湛えたプールなのは、本作が神話的暗喩劇である事を如実に示している。
絶望の中で死を迎えた彼女を真に解放できるのは、呪われた血と運命を受け継いだ第三者、つまりジャンヌとシモンという二人の子供達。
真実を知ったことで、ジャンヌとシモンも忘れえぬ傷を負う。
いや彼らだけではない。
最も深く、残酷な傷を受けるのは、ラストシーンでナワルの墓石の前に佇むある人物であろう。
だが、あえてナワルが“知らないほうが幸せな真実”を追わせた事で、彼らは皆自分たちの血脈の中にある、暴力の歴史の意味を理解し、自らの責任として受け入れることで、憎しみと不寛容がもたらす負の連鎖を閉じる役目を果すのである。
それはナワルが一人の母親として子供達に残した、最後にして最大の愛の証でもあったのではないだろうか。

今回は、タイトル通りに非常に熱気のこもった作品故に、鑑賞後は爽やかに喉を潤したい。
映画では戦火に覆われていたレバノンの白ワイン、イクシール・レバノンの「アルティテュード・ホワイト」をチョイス。
歴史的にキリスト教徒が多く、温暖な地中海に面したレバノンは、中東ではイスラエルと共にワインの生産国として知られている。
このアルティテュード・ホワイトは軽やかなアロマに柑橘系の甘みと酸味が同居するバランスの良い一本。
何でもレバノン出身の両親を持つ、あのカルロス・ゴーン氏が出資してるんだそうな。
今も危うい均衡の上にあるこの地に、平和が定着しますように。

ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね

こちらもお願い




スポンサーサイト

コメント
この記事へのコメント
オリジナルの戯曲は?
おっ、エディプス神話が出てきましたね。
この映画、ぼくはギリシャ悲劇よりも
さらに苛酷…と思いながら観ていました。
そう言う意味でも、オリジナルが戯曲というのはなるほどという感じ。
ただ、ぼくは、
それが映画として成立していることの方に、
より感心しました。
いったい、襲撃シーンなどはどういう演出が施されているのだろう?
久々に、オリジナルの芝居を観たいと思った映画でした。
2011/12/25(日) 22:59:53 | URL | えい #yO3oTUJs[ 編集]
こんばんは
>えいさん
これはもうウソっぽくなるギリギリの大悲劇ですね。
多分ですけど、映画の中の章がそのまま戯曲の幕を反映してるんじゃないでしょうかね。
襲撃シーンなどは案外直接的には描いてないのかも。
日本でも上演された事があるみたいなので、再演されたら是非観に行きたいですね。
2011/12/27(火) 00:16:59 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんばんわ
あのニハドが墓石の前にたたずむラスト。
でも母の遺体は背を向けて埋葬されているんですよね。
何とも心の奥底に残る重い映画でした。
しかし素晴らしい映画であることは間違いありませんでした。
2012/01/07(土) 21:20:22 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
こんばんは
>にゃむばななさん
ドーンと重い石を頭に載せられたような、打ちのめされた感覚が心に残ります。
そして残酷な物語の中にあって、確かに感じる愛の絆の強さに涙。
大変な力作でした。
2012/01/10(火) 22:09:04 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
これ
観てる人少ないのかな? シャンテは結構人が入ってましたけどね。 
もっと多くの方に観ていただきたいです。 私ももう1回行きたいけど。。。
2012/01/14(土) 11:05:53 | URL | rose_chocolat #ZBcm6ONk[ 編集]
こんばんは
>rose_chocolatさん
ほう、それは良かった。
口コミが効いてきたのかな。私が観た時は数人しか客がいなかったですから。
これだけ力のある作品ですから、多くの人に観て欲しいです。
2012/01/14(土) 19:00:12 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
内戦の絶えない中東からカナダに逃れてきた母親が急死。遺書に導かれるまま彼女の過去を調べるうち、母親の凄まじい遍歴と自分たちの出生の秘密を知ってしまう姉弟の物語。 母親が混乱の生地、中東で経験する話は身も凍るようなものなんだけど、現実にありそうなところ...
2011/12/22(木) 22:22:19 | 【映画がはねたら、都バスに乗って】
(原題:Incendies) ----これは、スゴく 評判の高い作品だよね。 画像を観ていると、とてもカナダ・フランス製作には見えないけど…。 「そうだね。 タイトルもタイトルだし、 土っぽい感じがして 観る前は少し身構えたんだけど、 いやあ、これは壮絶なお話。 物語はこ...
2011/12/22(木) 22:34:04 | ラムの大通り
予告編を見るたびに泣けていたけど…本編を観て、それほどでもなかった…。
2011/12/28(水) 21:13:04 | 或る日の出来事
灼熱の魂@TOHOシネマズシャンテ スクリーン2
2012/01/04(水) 14:22:04 | あーうぃ だにぇっと
1+1=1は実際にあり得るのか? もしあるならば神がこの世で最も残酷な存在だと疑ってしまう。もしこれが宗教対立による神がいない場所で起こることだとしたら、この世で神を ...
2012/01/07(土) 21:24:04 | こねたみっくす
主人公の女性・ナワルのあまりに壮絶な人生に、思わず「こんなのんきな人生を送っていてごめんなさい」とあやまりたくなってしまうような衝撃作『灼熱の魂』。 戦争やテロが、いかに過酷な運命を作り出すか、この作品が私に教えてくれました。 平和な世界でのんきに...
2012/01/12(木) 19:34:23 | Viva La Vida! <ライターCheese の映画やもろもろ>
原題: INCENDIES 監督: デニ・ヴィルヌーヴ 出演: ルブナ・アザバル 、メリッサ・デゾルモー=プーラン 、マキシム・ゴーデット 、レミー・ジラール  、アブデル・ガフール・エラージズ 鑑賞劇場: TOHOシネマズシャンテ 公式サイトはこちら。 昨年暮れ公...
2012/01/14(土) 11:04:15 | Nice One!! @goo
宿題一本目は銀座で『灼熱の魂』です。『フライトナイト』を3Dで前日鑑賞したらうまい具合に☆が6ポイント貯まりました♪おかげさまでの無料鑑賞です。友人から、かなり重い内容と前情報は入っていましたが果たしてどう重いのかは謎のまま(笑)ネタバレなしでとにかく観て?...
2012/01/15(日) 09:34:29 | 黒猫のうたた寝
注・内容、結末に触れています。レバノン出身の劇作家ワジディ・ムアワッドの原作をドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化した『灼熱の魂』。出演はルブナ・アザバル、レミー・ジラール。物語・自らのルーツを語る事はお
2012/01/23(月) 23:55:42 | 映画雑記・COLOR of CINEMA
 どう考えてもおかしいと思った。  この傑作がアカデミー賞外国語映画賞のカナダ代表に選出され、ノミネート作品5本のうちに選ばれながら、肝心の受賞を逃すなんておかしい。  そこで第83回アカデミー賞...
2012/01/27(金) 02:16:33 | 映画のブログ
Data原題INCENDIES原作ワジ・ムアワッド監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ出演ルブナ・アザバル メリッサ・デゾルモー=プーラン マキシム・ゴーデット公開2011年 12月
2012/02/03(金) 21:07:02 | 映画 K'z films 2
11-88.灼熱の魂■原題:Incendies■製作年・国:2010年、カナダ・フランス■上映時間:131分■字幕:松浦美奈■料金:1,800円■鑑賞日:12月19日、TOHOシネマズ六本木ヒルズ □監督・脚本:ドニ・ヴィルヌーヴ□原作:ワジディ・ムアワッド□撮影監督:?...
2012/02/11(土) 16:02:41 | kintyre's Diary 新館
灼熱の魂 ★★★★☆(★4つ) 母の遺言から始まった、父と兄を探す旅。 国境を越えて、時を越えて、 母の過去のなかへ―。 宗教上の理由から、愛する人を殺され、子どもは孤児院へ。 政治犯としてとらえられた監獄で、性的暴行の末生んだ双子と...
2012/02/18(土) 18:43:07 | 食はすべての源なり。
 『灼熱の魂』を日比谷のTOHOシネマズシャンテで見ました。 (1)随分と地味な映画ながら良い作品だと耳にしたものですから見に行ってきました。  確かに衝撃的な良作に違いありませんが、それにしても大層重厚な作品(注1)で、それも2時間11分もの長尺ですから、見る方...
2012/02/19(日) 07:54:49 | 映画的・絵画的・音楽的
レバノン出身の劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲「戦火」を、「渦」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化。民族や宗派間の抗争、社会と人間の不寛容がもたらす血塗られた歴史を背景に、その理不尽な暴力の渦中にのみ込まれていったヒロインの魂の旅を描く。出演は「パラダ...
2012/03/09(金) 23:04:48 | パピとママ映画のblog
母から託された二通の手紙。 右足のタトゥー。 歌う女。
2012/03/30(金) 19:13:32 | 三毛猫《sannkeneko》の飼い主の日常
公証人から母ナワルの遺言を伝えられた双子の姉弟ジャンヌとシモン。奇妙なその内容に当惑する2人だったが、ジャンヌは遺言に従い母の祖国である中東へと旅立つ。
2012/04/07(土) 00:06:52 | rambling rose
DVDにて観賞 映画評論家おすぎが絶賛していた映画。 解説 『渦』のドゥニ・ヴィルヌーヴが監督と脚本を務め、レバノン出身 の劇作家ワジ・ムアワッドの原作を映画化した珠玉の人間ドラマ。 中東からカナダに移り住んだある女性の壮絶な人生を、過去と現代 ?...
2012/05/04(金) 11:38:13 | A Day In The Life
亡くなった父親と実在しない兄に宛てた2通の遺言状を双子姉弟に託して他界した母親。二人は真実を確かめるために、母親がカナダに亡命する前の故郷である中東の地を訪ねるのだが…。 この母親の過去を追体験して行き、母親の心に徐々に触れていく…そして最後に思いもよ...
2012/06/20(水) 09:13:35 | いやいやえん
INCENDIES 2010年 カナダ/フランス 131分 ドラマ/ミステリー PG12 劇場公開(2011/12/17) 監督: ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『プリズナーズ』 脚本: ドゥニ・ヴィルヌーヴ 出演: ルブナ・アザバル:ナワル・マルワン メリッサ・デゾルモー=プーラン:ジャンヌ...
2014/10/23(木) 22:01:13 | 銀幕大帝α