酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。
■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係なTBもお断りいたします。 また、関係があってもアフェリエイト、アダルトへの誘導など不適切と判断したTBは削除いたします。

■TITLE INDEX
タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント
noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
■ FILMARKSアカウント
noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
かぞくのくに・・・・・評価額1650円
2012年08月24日 (金) | 編集 |
あの国に、暮らすという事。

北朝鮮を“地上の楽園”と謳った帰国事業によって、10代で祖国に渡った兄が病気治療の名目で四半世紀ぶりに帰ってくる。
しかし兄には北から派遣された監視人がピタリと寄り添い、久しぶりの家族の対話も歳月が作った距離を埋められない。
一体、あの国は兄の何を変えてしまったのか。
朝鮮総連の活動に人生を掲げた両親を描いた「ディア・ピョンヤン」、実際に北朝鮮で暮らす兄の家族との交流を綴った「愛しきソナ」で注目を浴びたドキュメンタリスト、ヤン・ヨンヒ監督初の劇映画は、私小説的な視点で描くある家族の物語。
監督自身の分身である、主人公リエを安藤サクラが好演。
実際には三人いる監督の兄を一人に集約したキャラクターであるソンホを、以前は“ARATA”の芸名で知られていた井浦新、両親役を宮崎美子と津嘉山正種、そして北朝鮮からやって来る監視人を、「息もできない」のヤン・イクチュンが演じているのも話題だ。
※ラストに触れています。

1997年のある日。
難病の治療のために、三ヶ月という期限付きで北朝鮮から兄のソンホ(井浦新)が家族のもとへ帰ってきた。
だが、見知らぬ男(ヤン・イクチュン)が監視役として同行しており、ソンホの態度もどこかよそよそしい。
四半世紀ぶりの家族の団欒と、嘗ての旧友たちとの再会にも、ソンホはどこか素直に打ち解けられないでいる。
しかも、脳腫瘍と診断された病気は、三ヶ月では治癒が難しいと告げられる。
そんな時、ソンホは国家から命じられたある秘密を妹のリエ(安藤サクラ)に打ち明ける。
ショックを受けつつも、なんとか治療してくれる病院を探すリエたちだが、受け入れてくれそうな病院が見つかった矢先に、ソンホに突然の帰国命令が下る・・・・


1950年代から1984年まで行われた所謂“帰国事業”では、日本生まれで一度も祖国の土を踏んだ事すらない在日朝鮮人の若者たちや日本人妻子らも含め、9万人以上の人々が北朝鮮へと渡った。
当時、朝鮮総連は北朝鮮を「地上の楽園」と呼び、左派系の日本のマスメディアや、社会保障費の削減を狙った日本政府までもが“人道主義”を名目に事業を後押ししたのだ。
もっとも、今でこそアジア最貧国へと転落した北朝鮮だが、50年代当時は韓国よりも早くに朝鮮戦争からの復興を成し遂げ、経済力でも大幅に上回っていたのも事実であり、何よりもまだ資本主義と共産主義のどちらの経済体制が優れているのかという論争に決着がついていなかった時代である。
理想国家建設を夢見て海峡を渡った人達にとって、その後の惨状など想像だに出来ない未来だったのかもしれない。

本作に登場するのは、そんな歴史の虚実に翻弄されたある家族だ。
父親は朝鮮総連の幹部、つまり帰国事業を実行した立場の人間であり、息子を北朝鮮へと送り出した事に対して、民族としての理念と誇り、父親としての後悔と自責の念を同時に抱え込み、母親もまた同じ思いを抱いている。
本作の事実上の主人公であり、映画の視点となる歳の離れた妹のリエは、日本で自由を満喫しながら成長した存在として描かれ、幼い頃に別れた兄に対して、懐かしさと親しみを覚えている。
一家が再会して最初の団欒で、ソンホがビールを飲む時に、父親から口元を隠して飲む描写がある。
これは年長者の前で大っぴらに酒を飲むことを失礼と考える儒教社会の伝統だが、リエはそんなソンホの行動を笑い飛ばし、父の前でプッハ~と豪快に飲み干して見せるのだ。
また懐かしい面々が揃う同窓会でも、いずれ北へ戻るソンホに気兼して、皆なかなか突っ込んだ話が出来ない。
四半世紀の間に大きく変化してきた在日社会にあっても、体験も価値観も共有するものがあまりにも少ないソンホは、浦島太郎の様な存在になってしまったのだ。

やがて、徐々に明らかになるソンホの抱えている現実の重さ。
平壌に家族を残し、同時に脳腫瘍という病を抱えるソンホは、実質的に家族と自分の命を人質にとられているのと同じである。
日本での生活を数日送ったある日、ソンホは遂に隠していた重大な秘密を妹に打ち明ける。
国から密かに命じられた任務、それはリエを工作員に勧誘する事だった。
折しも舞台となる1997年は、警視庁が拉致被害者と推定される人々の具体的な人数を発表し、北朝鮮の拉致・対日工作が大きくクローズアップされた年でもある。
予想だにしなかったソンホの言葉はリエを打ちのめし、兄の住む世界が自由な自分の世界とは異なる事を改めて思い知らされる。
そして彼女は、家の前に張り付く監視人に対して「あんたも、あの国も大嫌い!」と言い放つのだ。
だが、監視人から返って来たのは「あなたが大嫌いというあの国で、お兄さんも、私も生きているんです。死ぬまで生きるんです」という半ば諦めの様な静かな答え。

ここには、国家という巨大なシステムと、そこに暮らす個人の関係性の決定的な乖離と葛藤がある。
例えリエが北朝鮮という国家に対して大嫌い宣言をしたとしても、そのシステムに暮らす個人にとってはどうしようも無い事なのだ。
ある意味子供っぽいリエの無邪気な感情の爆発を、システムのパーツとして生きざるを得ない監視人やソンホは受け取る事すらできない。
あの国に家庭を持つ彼らにとっては、もはや人生を後戻りする事はできず、好むと好まざるとに関わらず、「かぞくのくに」は北朝鮮以外に無いのだ。
リエ以外の家族も皆、諦めの境地と共にその事を受け入れてしまっており、だからこそ母親はなけなしの貯金を使って、監視人のために新しいスーツを設えるのである。

物語の終盤、帰国を控えたソンホは、思考を停止して国家に従わねば生きる事のできない無念を自虐的に語り、リエに対して「お前は自由に生きろ」と言う。
リエはまだ若く、自分を社会に縛り付ける柵を持たず、他の大人たちが流されてしまう状況にも良い意味で子供っぽく抵抗する。
ラストで、ソンホが懐かしい「白いブランコ」を口ずさみながら、愛する家族と絶望の待つ祖国へと向かう同じ時、大きなトランクを抱えて街を行くリエの姿は、自分自身の「かぞくのくに」は果たしてどこにあるのか、人生をかけて探しに行く決意を秘めている様に見える。
それはもちろん、ヤン・ヨンヒ監督の想いなのだろうし、リエの旅路は「ディア・ピョンヤン」「愛しきソナ」、そしてこの映画へとダイレクトに繋がっているのだろう。

本作はインディーズの中でもかなりの低予算作品だが、映像の密度は極めて映画的に重厚で格調があり、“映画を観た”という充実感を感じさせてくれる。
高い演技力と鮮烈な存在感を放つ俳優たち、生活感と家族の歴史を感じさせる美術、そして家族の間に流れる気怠い空気までをも写し取るカメラ。
映画的なるモノ、とは決してお金の問題ではない事を本作の画面は雄弁に語る。
濃密なる100分の上映時間、ヤン・ヨンヒ監督の見事な劇映画デビュー作は、単に在日社会や北朝鮮の問題ではなく、全ての“家族”へ向けた重要な問いかけを含んでいる。

今回は、遠い国から来た懐かしい人と飲みたい日本のビール。
120年の歴史を持つ「エビスビール」をチョイス。
ドイツスタイルの本格的ビールは、日本で唯一ビールの銘柄から命名された東京の地名としても知られている。
濃厚でありながらサッパリ、日本の夏を潤すこれもまた伝統の一杯である。
ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね

こちらもお願い



スポンサーサイト

コメント
この記事へのコメント
「地上の楽園」
>「あなたが大嫌いというあの国で、お兄さんも、私も生きているんです。死ぬまで生きるんです」

この言葉が重かったです。
自分で国を選べないのは、
なにも彼らだけではない。

もとは地球という一つの惑星なのに、
その中で陣地争いをしている…。
こればかりは人類の歴史始まって以来、変わりようがない…。
だからこそ「地上の楽園」などという言葉が、
理想主義者には美しく見えたのだろうなと、
あの時代を振り返ってそんな感じがします。


2012/09/02(日) 21:42:45 | URL | えい #M1GH5VIQ[ 編集]
こんばんは
>えいさん
あそこは主人公が世界の現実に直面する凄く重要な瞬間ですよね。
北朝鮮と言うのは確かに極端な社会ですが、程度の差はあれ生まれた国によって人生のかなりの部分は縛られちゃう。
世界の縮図があの家族にはあるんだろうなあと思います。
ドンと思い問いを投げかけられた様な秀作でした。
2012/09/02(日) 22:48:13 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
かぞくのくに@スペースFS汐留
2012/08/25(土) 00:23:41 | あーうぃ だにぇっと
北朝鮮に住む兄ソンホが、日本で暮らす両親と妹リエの元に、25年ぶりに帰ってきた。 彼は1970年代に帰国事業で北朝鮮に移住したが、病気治療のために3ヶ月間だけの帰国を許されたの
2012/08/25(土) 08:45:05 | 象のロケット
国家の不条理にさらされるある家族を描く「かぞくのくに」。北朝鮮への政治批判ではなく、家族愛を軸に描いて静かな感動を呼ぶ。帰国事業で16歳で北朝鮮へ移住した兄ソンホが、25年 ...
2012/08/25(土) 10:01:23 | 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
----“かぞくのくに”って、どういうこと? 他の家族と自分は国籍が違うってワケ? 「そうだね。 この映画は、 25年も遠く離れて暮らしていた 長男ソンホ(井浦新)と家族のわずかな期
2012/08/26(日) 22:24:11 | ラムの大通り
 1997年、東京。在日朝鮮人二世のリエ(安藤サクラ)は、両親とともに兄ソン ホ(井浦新)の帰りを待っていた。北朝鮮に「帰国」した兄は、病気治療のため 25年ぶりに日本の土を踏
2012/08/28(火) 21:00:45 | 真紅のthinkingdays
 『かぞくのくに』をテアトル新宿で見てきました。 (1)このところ『海燕ホテル・ブルー』や『11.25自決の日』で印象深い演技を披露している井浦新が出演する作品だと聞いて映画館に
2012/08/29(水) 21:04:21 | 映画的・絵画的・音楽的
かぞくのくに ユナイテッド・シネマ浦和 自分が使っている最寄り駅から一番近いところでの上映が 9/22からが始まった。 完全に盲点だった。 日本に住むリエ(安藤サクラ)と帰国
2012/09/24(月) 04:02:12 | 単館系
かぞくのくに     監督: ヤン・ヨンヒ    出演: 安藤サクラ、井浦新、ヤン・イクチュン、京野ことみ、大森立嗣、村上淳、省吾、諏訪太朗、宮崎美子、津嘉山正種 公開: 2012年...
2012/10/04(木) 18:31:52 | 映画@見取り八段
1997年夏。 25年ぶりに兄が帰ってきた。 国交のない祖国から帰ってきた。
2013/01/25(金) 16:41:40 | 三毛猫《sannkeneko》の飼い主の日常
五つ星評価で【★★★★普通の人が巻き込まれる理由のない災厄と、それに対する姿勢それぞれ】 北朝鮮に住んでいる兄が25年ぶりに病気療養の為に日本に帰ることが許される。 広 ...
2013/10/27(日) 08:14:56 | ふじき78の死屍累々映画日記