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希望の国・・・・・評価額1650円
2012年10月21日 (日) | 編集 |
見たくない“if”の世界。

この国を再び震災と原発事故が襲った近未来を舞台に、絶望の中で必死に希望を見出そうとする三組の男女を主人公とした群像劇。
前作の「ヒミズ」で、ポスト3.11の青春を圧倒的な映画力で描き上げた園子温監督は、震災後一年を経て非日常が日常化してしまった日本の今を、痛烈な怒りを込めてカリカチュアする。
これは園子温という、自らの立ち位置を鮮明にした作家の、はっきり言えばフィルターを通して見たある種の日本論であり、全ての観客は一人の日本人として映画の世界への参加を強制され、作者の俎上に載せられるのだ。
その意味で、強烈に賛否が分かれる作品である事は間違いないだろうが、本作に描かれる“日本人が見たくない日本の姿”には誰であれ大きな衝撃を感じるだろう。

東日本大震災が既に過去の出来事である近未来。
長島県で酪農を営む小野泰彦(夏八木勲)は、認知症を患う妻・智恵子(大谷直子)と息子・洋一(村上淳)、その妻・いずみ(神楽坂恵)と平凡ではあるが幸せな毎日を送っていた。
ところが、長島県沖で再び巨大地震が発生し、続いて起こった原発事故によって、小野家の庭が避難指定区域の境界とされてしまう。
放射線の影響を心配した泰彦は、若い息子夫婦を自主的に避難させ、自分たちは住み慣れた家に留まる事を決意する。
一方、境界の向こうに家があったために、避難所に移ったミツル(清水優)は、恋人のヨーコ(梶原ひかり)と共に、津波に流されて行方不明となった彼女の両親を探して、無人となった沿岸区域を彷徨っていた・・・


おっぱいも暴力も出てこない園子温。
しかし、これほど痛々しく、観ている間ずっと息の詰まる様な映画もなかなか無い。
東日本大震災からまだ一年と半年、再びの悪夢は誰も考えたくないかもしれない。
だが、本作は問いかけるのだ。
もしも、また大震災と原発事故が起こったら、何が起こるのか?日本人は“フクシマの教訓”を活かせるのか?ベターな明日を作れるのか?と。
そして、この映画は明確に“今のままではまた同じことを繰り返す”と断言するのである。

主な登場人物は、世代の異なる三組の男女
自宅の庭に避難指定区域の境界線が引かれるというシュールな状況を前に、老境に達した酪農家の小野泰彦は、認知症の妻・智恵子と共に、思い出の詰まった家に留まる事を決める。
彼らの息子である洋一と妻のいずみは、泰彦の強い勧めで少し離れた街に自主的に避難するのだが、その街でいずみが妊娠している事が発覚、放射線の恐怖から我が子を守ろうとするいずみは、常に防護服を着用して世間から奇異の目で見られる様になってしまう。
そして三組目は小野家の近所の住人で、まだ遊び盛りの若い恋人同士であるミツルとヨーコ。
二人は、避難所暮らしをしながら、密かに立ち入り禁止となった区域に入り、津波に流されたヨーコの両親を探し続ける。
彼らの中では、それぞれの絶望と希望が衝突し、激しい葛藤を繰り返している。
老い先短い人生で、原発事故によって自分史の全てを奪われようとする泰彦は、息子夫婦とまだ見ぬ孫の未来に希望を託し、智恵子と共に絶望の淵に消える。
洋一は両親を見捨てられないという想いと、放射能恐怖症に陥ったいずみと生まれてくる子供のために、もっとずっと遠くへ逃げなければならないという強迫観念の板挟みとなり、ミツルとヨーコは、津波によって何もかもが流されてしまった絶望の浜で、共に「一歩、一歩」と前に進む事で希望を見出そうとする。

「おうちにかえろう」
認知症の智恵子が繰り返し口にするこの言葉が重い。
登場人物にとって、故郷での日常はもう永遠に戻らず、帰るべき“おうち”はどこにも無いのだ。
被災地出身者の差別、殺される家畜たち、時間が経つと根拠の無い“安心”を垂れ流すテレビのワイドショー。
政府やマスコミの情報が信用できず(映画はテレビの医者は嘘をついているとはっきりと言い切る)自衛に走る人々と、それを見て過剰反応と蔑む人々。
どれもこれも、去年から散々見てきた風景である。
人間は進歩する動物で、福島で得た教訓は、もしも同じ事がまた起こったら、必ず活かされるはず・・・・と思いたいが、残念ながら私はこの映画に強い説得力を感じざるを得なかった。

世界有数の地震国である以上、いつかは再び震災が日本のどこかで発生するのは子供でもわかる純然たる事実だ。
だが、福島の事故では実質誰一人としてきちんと責任をとっていないどころか、まともな総括すら行われていない。
にも関わらず、電力需給の数字をでっちあげてまで原発を再稼働させる電力会社に、選挙の票のために“原発ゼロ”という言葉まで弄ぶ為政者たち。
そして人々もまた、そんな非日常に慣れてしまっていないか。
ドジョウ首相が何を言おうが、原発事故はまだ収束していないし、たぶん二度と故郷に帰れない人も沢山いる。
弾丸も、爆弾もない見えない戦争は終わっていないのに、考えたくない事の様に忘れようとしているこの国の奇妙さ。
本作の舞台となる“長島県”は架空の土地だが、狭いに島に原発が乱立するこの国では、どこにでもなり得るという事だ。
今この状況で“if”を想像すると、この映画は決して絵空事には思えないのである。

正直、映画の作りとしてはどうなのかなあと思う部分もあるのだが、あえて芝居掛かった俳優の台詞回し、全編に渡って観る者の心をかき乱す不気味な不協和音、時として過剰な程に鳴り響くマーラーの調べといった音響演出の面白さ。
ミツルとヨーコの前に唐突に現れ「これからの日本人は一歩一歩進むんだ」と言う子供の幽霊や、泰彦が洋一に語る「人は生きる時に、杭を打たれる」という印象的なセリフに被せ、実際のビジュアルとして二人の間に杭が打たれるシーン、そして僅かに芽吹きながらも業火をあげて炎上する庭の木などの比喩的な映像表現からは、やはり園子温にとって映画は五感のすべてを駆使して作り上げる一編の詩なのだと思わされる。

おそらく「希望の国」に「ヒミズ」の延長線上にある物語を期待した観客は、ラストで荘厳にこのタイトルが映し出される瞬間、思わず頭を抱えるだろう。
果たして、この国に希望はあるのか?
その答えは、全ての日本人のこれからの選択にかかっているという事実を、本作は端的に、そして極めて映画的に突きつけるのである。
なるほど、園子温は覚悟を決めた。
さて、我々はどうする?
“if”のタイムリミットは明日かも知れない。

今回は辛口な映画に合わせて、リアルな原発事故という逆境の中でも福島の蔵の火を絶やさない、ほまれ酒造の「会津ほまれ 上撰辛口」をチョイス。
キリリと辛く、適度なコクもあり、料理の種類を問わずに楽しめるオールマイティな一本だ。
これからの季節は鍋物などと合わせて飲んでも美味しいだろう。
冷でも燗でもどちらも美味しくいただける。
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コメント
この記事へのコメント
こんばんわ
この映画を見ると阪神大震災の頃を思い出さずにはいられませんでした。
あの時も最も信頼できる情報源は父親の決断。
泰彦が洋一に「自分で決める」と説教するシーンには、国家の存在の希薄さをまざまざと感じましたよ。
2012/10/22(月) 20:37:17 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
見なければならない映画
>日本人が見たくない日本の姿

でも、見なければならない映画だと思うのですが、
残念ながら、あまりヒットの噂が流れてこない。
NHKでのドキュメンタリーが後押しになることを期待したのですが…。
2012/10/23(火) 13:10:03 | URL | えい #yO3oTUJs[ 編集]
こんばんは
>にゃむばななさん
夏八木勲は日本の父さんという感じでいい味わいでしたね。
国家への不信感、対照的な個の力強さを見事に体現していました。
ああやって背中を押された人が実際に沢山いるんでしょうね。

>えいさん
私が観た時は結構入っていましたが、やはり上映館が決定的に少ないですからね。
好みは別れる映画だと思いますが、これは肯定するにしても否定するにしても、先ずは観て欲しい。
2012/10/25(木) 22:37:54 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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