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人生、ブラボー!・・・・・評価額1600円
2013年01月31日 (木) | 編集 |
ダメ男、世界一のパパになる。

若き日に精子ドナーとなった事で、ある日突然自分に533人の子供がいる事を宣告された男の、ちょい普通でない日々を描いたフレンチ・カナダ発のユーモラスなヒューマンドラマ。
身元開示の裁判を起こされた主人公が、密かに子供たちの人生を垣間見て、めぐりあいを繰り返すうちに父性に目覚める。
バカバカしいほどに突飛だけど、もしかしたらあり得るかも?と思わせるプロットの匙加減が上手く、ダメ男が葛藤を乗り越え、人生の素晴らしい瞬間を経験する物語は素直に気持ちがいい。

ダヴィッド(パトリック・ユアール)は、巨額の借金を抱え、仕事も上手くいかない42歳の中年男。
ある日訪ねて来た弁護士に、過去に行った693回の精子提供によって、533人の生物学上の子供が誕生しており、そのうち142人が実父の身元開示を求める訴訟を起こす予定だと告げられる。
間の悪い事に恋人のヴァレリー(ジュリー・ルブレトン)は妊娠中で、二人の関係も微妙な時期。
ダヴィッドは友人の弁護士(アントワーヌ・ベルトラン)に相談し、匿名性を守るための裁判の準備を進めるが、好奇心から原告団の一人のプロフィールを見てしまう。
なんと、それは彼が応援するプロサッカーチームの選手だった。
それ以来、ダヴィッドは、密かに子供たちの元を訪れて、彼らの人生を見守る様になるが・・・


ある人が言った。
「人間は子供として生まれ、そのままでは一生涯子供のまま。親となってはじめて大人になるのだ」と。
まあいい歳して親でない私としては、異議を唱えたくもなるが、本作の主人公のダヴィッドは本当に子供の様な男だ。
人は良いが騙されやすく、怪しい話に投資しては回収できずに借金を抱え、いつも取り立て人に追われている。
恋人に妊娠したと言われれば狼狽え、両親の経営する精肉店の仕事も、一番簡単な配送係ですら遅刻し放題。
情熱を燃やすのは趣味のサッカーくらいと、絵に描いたようなダメ男だ。
その屈託の無いキャラクターが誰からも好かれるのも、多分に周囲が彼の事を“オトナコドモ”として認識しているからだろう。
本作の原題「STARBUCK」はダヴィッドが精子ドナーとして使った仮名。
「白鯨」に登場する一等航海士の名として有名だが、おそらく彼がもじったのはメルヴィルではなく、テレビシリーズの「宇宙空母ギャラクティカ」の主人公の方だ(笑

20年以上前に精子ドナーとなった事で、533人もの父親だと突然告げられた事は、ダヴィッドにとっては正に青天の霹靂。
全く与り知らない所で、自分がもはや子供ではない事実を突きつけられたダヴィッドは、当然の様に面倒を忌避しようとするが、 好奇心に負けて原告団に名を連ねる子供たちのプロフィールをチラ見してしまう。
ところが、それがたまたま自分の応援するサッカーチームのスタープレイヤーだった事から、ダヴィッドの中に自分のDNAを受継ぐ533人への興味と愛着が芽生えるのである。
そして毎日の様にプロフィールを抜き出しては、探偵の様に子供たちを観察しはじめるのだ。
ある者はストリートミュージシャンとして、ある者はプールの監視員として、ある者は駆け出しの俳優として、はたまたゲイのプレイボーイとして、ダヴィッドの子供たちは、皆それぞれの青春を必死に生きている。
もちろん、これだけ多いと中には困難に直面している者もいる。
ダヴィッド自身が、良くも悪くも大人になりきれないオトナコドモである故に、若者たちの心がよくわかる。
通りすがりを装ってドラッグ中毒の娘を叱り、重度の障害を持った息子を施設に見舞ううちに、いつしかダヴィッドは彼らに寄り添い、守護天使となりたいとまで思うようになるのだ。

結果的に初めて親という立場を意識したダヴィッドも、子供たちと共に少しずつ大人になり、人間として成長してゆくのである。
しかし、アイデンティティを求める子供たちと正体を隠して接するうちに、本当の親子の様な情愛を結んでゆくダヴィッドの想いを阻むのが巨額の借金と世間体だ。
彼は、病院を逆告訴する事で、匿名を守るだけでなく、借金を一気にチャラにする賠償金を得ようとしている。
もしも、自分から名乗り出たら、当然賠償金を請求する事は出来ず、借金苦からは逃れられない。
それに、裁判のニュースがマスコミに注目された事で、533人もの父親が誰なのかという事はカナダ中の話題になってしまっており、正体を知られたら“金のために693回もマスをかいた男”として世間の笑い者になるのは間違いない。
ヴァレリーと生まれてくる子供との将来を考えると、ダヴィッドは現実と理想の狭間で身動きができなくなっていまうのだ。

しかし彼の苦悩を救うのは、やはりその人間性なのである。
そもそも、問題の原点である、ダヴィッドが693回も精子ドナーになった本当の理由。
物語の中でもやんわりと示唆されるその真相が象徴する様に、ダヴィッドの行動は基本的に善意に基づいている。
そして本作は、そんな人物を奈落の底に落とすような事はしない。
救われるべきは者は然るべき者によって救われ、彼らの人生は愛と喜びによって彩られるのである。
本作の展開を、ご都合主義と捉える事も、甘すぎる絵空事と批判する事もできるだろう。
だが、これは一人の愛すべき守護天使を通して人生と家族、そして成長と愛を描いたある種の寓話だ。
登場人物が多い(何しろ原告の子供たちだけで142人もいるから!)ので、一つ一つのエピソードはそれほど深いわけではないが、そこには幾つものエモーショナルな映画的瞬間が散りばめられ、最後には気持ちよく泣かせてくれる。
深い絆で結ばれた、世界一大きな家族の誕生。
こんなに映画らしい素敵なホラ話に、これ以上何が必要だろうか。

さて、今回は甘味な映画に相応しく、甘味な酒を。
舞台となるケベック州の名物「ネージュ・プルミエール・アップル・アイスワイン」をチョイス。
アイスワインは通常ブドウを枝のまま凍らせて作られるが、こちらは同じ様に熟したリンゴを自然に凍らせてから搾汁する。
ブドウとは明らかに異なる濃厚なリンゴの香り、甘味は非常に強いが意外とサッパリとした味わいを楽しめる。
冷やして、アペリティフにいただくのに最適な一本だ。
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コメント
この記事へのコメント
TBありがとうございました
「世界一大きな家族」、よかったですねえ。
うるっときましたよ。
2013/02/06(水) 09:48:56 | URL | 風子 #z8283xuI[ 編集]
こんばんは
>風子さん
みんなで大きな輪を作るシーンはベタだけどほろっと来ました。
良い映画ですよね^_^
2013/02/07(木) 21:22:13 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
エモーショナルな映画的瞬間
>エモーショナルな映画的瞬間

これ、とても嬉しい言葉です。
この言葉だけで、
あっ、自分と同じ…そんな感じになります。
2013/02/08(金) 23:28:13 | URL | えい #yO3oTUJs[ 編集]
こんばんは
>えいさん
やっぱり映画を観ていて、映画の神が宿る瞬間がある作品は印象に残りますね。
どんなに脚本が良くても、観終わった時に画が浮かばない映画は時間が経つと忘れちゃいがち。
この辺りはやはり監督のセンスですね。
2013/02/12(火) 23:03:57 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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