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故郷よ・・・・・評価額1600円
2013年02月15日 (金) | 編集 |
封印された、故郷への哀歌。

チェルノブイリ原発事故によって、生まれ故郷を失った人々の、事故後の数日間と10年後を描くビターな人間ドラマ。
美しい大地に人々の素朴な生活が息づくプリピチャの街で、原発技師の父と息子はリンゴの木を植え、幸せな花嫁は最愛の夫との人生最良の瞬間を楽しんでいる。
ところが、彼らの人生と故郷は未曾有の大事故によって、一夜にして永遠に奪い去られてしまうのだ。
監督はイスラエルに生まれ、ウクライナ人の母を持つ女性監督ミハル・ボガニムで、これが長編劇映画第一作。
残酷な運命に翻弄される主人公のアーニャを、「007/慰めの報酬」のボンドガールとして知られるオルガ・キリレンコが、人生の悲哀たっぷりに演じているのも見所だ。
同じ様に原発事故を経験した日本人にとって、深く静かに心に響く物語である。
※ラストに触れています。

チェルノブイリ原発の城下町として栄えていた、ソビエト連邦、ウクライナ共和国のプリピチャ。
1986年4月26日、原発技師のアレクセイ(アンジェイ・ヒラ)は、幼い息子のヴァレリーと共に、ドニプロ川の岸辺にリンゴの木を植える。
同じ日、アーニャ(オルガ・キリレンコ)とピョートル(ニキータ・エムシャノフ)のカップルは結婚式の真っ最中だったが、“森林火災”発生を受けて呼び出された夫は、二度と戻ることは無かった。
数日後、プリピチャは軍によって封鎖され、5万人の住民は故郷を失う。
そして1996年、アーニャは亡き夫の眠る廃墟、プリピチャのガイドとして働いている。
成長したヴァレリー(イリヤ・イオシフォフ)は、父のアレクセイが死んだことが信じられず、立ち入り禁止になっている元の我が家に、父親へのメッセージを残す。
一方、正気を失ったアレクセイは、既に存在しない故郷の幻影を求めて、国中をさまよっていた・・・


チェルノブイリ原発の事故のニュースは、良く覚えている。
史上初の、そして福島の事故が起こるまでは唯一のレベル7の原発事故で、汚染は広範囲に広がり、ユーラシア大陸の反対側の日本でも放射性物質が検出されたほどで、イタリア産のパスタがスーパーから姿を消したり、欧州産の農産物などは日本でも影響が大きかった。
現地で対策にあたった消防士や作業員も多数亡くなり、被爆による被害は今も続いているという。
これは、そんなチェルノブイリのあったプリピチャの街で、慎ましくも幸せに暮らしていた市井の人々を主人公に、原発事故が彼・彼女らの人生をいかに変えたのかを描く物語だ。
映画が始まってからの40分は、1986年4月26日の事故当日から街が封鎖されるまでの4日間に何が起こったのかが描かれ、後半の一時間で人々の10年後を追う構成となっている。

物語の語り部は二人。
一人は事故当日に結婚式を挙げていた花嫁のアーニャで、もう一人は原発技師の父を持つ少年ヴァレリーだ。
映画は1996年の“現代”から、父と共にリンゴの木を植えた思い出を振り返るヴァレリーの独白から始まり、基本的にアーニャとヴァレリーの視点で二人の独白と共に進んでゆく。
結婚式当日に呼び出されたアーニャの夫は、大量被爆によって面会も叶わぬまま帰らぬ人となる。
事故を知らされた技師のアレクセイは、密かに妻とヴァレリーを街から脱出させるが、守秘義務のために他の人々に真実を告げられず、せめて黒い雨に打たれない様にと、傘を配る事しかできない。
やがて、情報は隠蔽されたまま、街は軍によって封鎖される。
飼っていた動物は殺され、荷物すら持ち出せない状態で、人々は生まれ育った故郷を追われるのだ。
事故後、チェルノブイリから半径30キロは、立ち入り制限区域として居住は禁止され、原発から僅か3キロにあったプリピチャの街は当然廃墟となり、住民たちは散り散りとなる。

だが家を追われた人々は、それでもなおその土地から離れられないのだ。
旅立てば新しい人生が開けるかもしれないが、皆渡り鳥の様にプリピチャへと戻って来てしまう。
10年後のアーニャは、チェルノブイリの廃墟を見学に訪れる外国人のために、ツアーガイドとして街に留まっている。
彼女には優しいフランス人の婚約者がおり、パリへの移住を夢見てもいるが、どうしても街を離れる決断を出来ないでいるのだ。
また、チェルノブイリで死んだと思われているアレクセイは、もはや正気を失い、今はもう存在しない“プリピチャ行き”の列車を探して国中を放浪している。
一方、そんな父の死を信じることの出来ないヴァレリーは、慰霊のために立ち戻ったプリピチャで、かつての思い出の痕跡を辿って当所無くさまよい歩く。
彼のリンゴの木は黒い雨でとっくに枯れてしまっているのに。

本作で人々の人生を詩的に象徴する重要なモチーフが、透明で何にでもなりえる“水”だ。
ミハル・ボガニムは要所要所で水を印象的に描写する。
悠久の時を流れるドニプロ川、涙の様に降り注ぐ黒い雨、穢れを洗い流すシャワー、そして未来への切ない希望を湛える黒海の輝き。
だが、カメラが最後に映し出すのは、もはやどこへも流れてゆく事の出来ない濁った水溜りなのである。
本作の登場人物は皆、忽然と奪われた過去と故郷のくびきに囚われた人々だ。
フランスへと戻る婚約者にアーニャが残す「私たちがここを去ったら、誰が語り継ぐの」という言葉が重い。
たとえ危険なことはわかっていても、故郷を永遠に失う痛みはそれよりも更に強いという事か。

本作の二人の語り部は、物語の中で二度邂逅する。
一度目は暖かい春の日差しの中、結婚式のパーティのシーンで、花嫁と偶然通りかかった少年として。
そして二度目は、物語の最後で寒々しい曇り空の下で、もうどこにも行くことの出来ない二人として。
愛する者を失った時、アーニャは言う。
「私たちは若く、子供だった。子供は秩序を信じ、従えば幸せになれると信じている」
ああ、私たちも同じだった。
10年、20年後に日本でも、同じ様な喪失の物語が作られるのだろうか。

本作では、ロシア歌謡の名曲「百万本のバラ」が、望みえぬ幸せを束の間の恋に見るアーニャの心を代弁し、哀愁を掻き立てる。
そこで、歌のイメージでカクテルの「ローズ」をチョイス。
ドライ・ベルモット45ml、キルシュ15ml、チェリーブランデー10mlをシェイクしてカクテルグラスに注ぎ、仕上げにマラスキーノチェリーを沈める。
文字通りのバラ色が印象的な美しいカクテルで、甘い香りとすっきりした味わいが特徴だ。
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コメント
この記事へのコメント
観てからかなり時間経っちゃったけど
最初はとても幸せそうだった人々が一瞬にして生活を奪われ、
そしてそれからの生活は決してよくなるようには見えない。
これを観た時はまだ実感が湧かなかったんだけど、次第に日本でも現実になりそうな予感もします。
どのように変化していくのかわからないけど、放射能だけでなく色々な意味で日本も危機にさらされていることがハッキリしてきています。
2013/02/19(火) 18:42:23 | URL | rose_chocolat #ZBcm6ONk[ 編集]
こんばんは
> rose_chocolatさん
チェルノブイリが起こったのは四半世紀前で、この映画の舞台はそれから10年後。
つまり過去な訳ですが、今の日本でこれを観ると、どうしても福島を思ってしまいます。
これはウクライナの過去であり、同時に日本の未来なのかもしれません。
2013/02/21(木) 22:25:58 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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1986年4月26日。 旧ソビエト連邦(現ウクライナ)プリピャチ。 チェルノブイリ原子力発電所からわずか3キロの場所で、若い女性アーニャの結婚式が行われていた。 しかし、新郎は式
2013/02/17(日) 09:51:57 | 象のロケット
原題 : Land of Oblivion / LA TERRE OUTRAGEE 監督/脚本 : ミハル・ボガニム 出演 : オルガ・キュリレンコ 、イリヤ・イオシフォフ 、アンジェイ・ヒラ 、ヴャチェスラフ・スランコ
2013/02/19(火) 18:39:27 | Nice One!! @goo
チェルノブイリの原発事故により生活が激変した人々の姿を描いたヒューマンドラマです。 昨年の東京国際映画祭でプログラムを観た時から、どんな物語だろうと気になっていました。
2013/02/24(日) 23:56:02 | とりあえず、コメントです
旧ソ連ウクライナのチェルノブイリ原発事故が起きたのは、1986年4月26日深夜である。事故からすでに25年以上経っている。 テレビのドキュメンタリー番組や報道写真では度
2013/04/07(日) 15:45:07 | パピとママ映画のblog
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