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「しわ」・・・評価額1600円 「森に生きる少年~カラスの日~」・・・評価額1650円
2013年06月25日 (火) | 編集 |
素晴らしきヨーロピアンアニメーションの世界。

今回はスペインとフランスから届いた、新人監督による非常にクオリティの高い長編手描きアニメーション映画を二本。
スペインのイグナシオ・フェレーラス監督「しわ」は、高齢化社会の悲哀を描いた問題作である。
漫画家のバコ・ロカによる原作「皺」は日本でも出版され、文化庁メディア芸術祭の漫画部門の優秀賞に選ばれている作品だ。
誰にでも訪れる人生の黄昏をどう生きるか?という普遍的なテーマは、公開されると大きな反響を呼び、スペイン映画の最高賞とされる第26回ゴヤ賞では最優秀アニメーション賞と最優秀脚本賞の二冠に輝いた。

主人公のエミリオは、妻に先立たれた男寡。
息子夫婦の世話になっているが、認知症の初期症状が出始めた事から、介護老人ホームに連れて来られる。
そこで彼は、厭世的で金に抜け目のないルームメイトのミゲル、面会に来る孫にプレゼントするために、食事で出されるバターや紅茶などを集めている女性アントニア、認知症が進んだ夫のモデストの世話をする妻のドロレスらに出会う。
彼らはまだ自分の事は自分でこなす事が出来るが、心身の老いが進んで付きっきりの介護が必要になると、要介護者の暮らす“二階”に連れて行かれ、二度と一階に戻る事は無いのである。
二階の住人たちは、もはや現在に生きてはいない。
ある女性は、自分をイスタンブールに向かうオリエント急行の乗客だと思い込んでおり、永遠の旅を繰り返している。
妻のドロレスが介護してくれるので一階に暮らしているモデストも、彼女に愛を告白した十代の頃のまま、止まった時の中に生きているのだ。

しかし思い出のリピートの中に暮らしている二階の住人たちが、一階の老人たちより不幸とは限らない。
少なくとも彼らは、もはや自分の症状が進む事への恐怖を感じる事はないし、そもそもずっと浸っていたい美しい思い出など、全く無かったという人生だってあるのだから。
徐々に現実と幻覚の境界を失ってゆくエミリオに変わって、本作の終盤の視点を担うミゲルもそんな一人だ。
天涯孤独で「人生なんてくだらない」と嘯き、入居者を騙して金を巻き上げては、自分に“その時”が来た時のために自殺用の薬を買いためている男である。
彼にとっては、人生などただ目の前を通り過ぎてゆく時間以上の物ではないのだ。
だが、そんなミゲルも、エミリオと出会った事で少しずつ変わってゆく。
政府や入居者の家族に「ここが三ツ星ホテルだと思わせる為にある」誰も使わないプールに二人で飛び込み、深夜にオープンカーで暴走し、おそらくミゲルにとっては人生最初の気のおけない友達を得たことで、彼は幸せに老いる事の意味を考えはじめ、やがて“金づる”から“友人たち”に変わった入居者たちの助けをする様になるのである。
老いの悩みを誰よりも知るのは、血の繋がった若い家族よりも、同じ境遇にいて同じ問題を抱えている同世代の仲間たちなのかも知れない。

本作がユニークなのは、アニメーションならではのカリカチュアを活かして文化的・社会的な特異性を極力排し、どこの誰にでも起こりうる話となっている事である。
この映画には“スペインだから”、という部分が全くと言って良いほど無いのだ。
人間は誰でも老いるし、人生の最期をどう過すべきかという問題は、生活水準がそれほど変わらない社会ではどの国でも同じ様なものだろう。
キャラクターもシンプルにデザインされているので、人種的な特徴もそれほど目立たない。
日本ではスペイン語のままの公開だが、もしこれを各国の言葉で吹き替えるならば、世界中どこで公開しても、そのまま自分たちの物語として認識されるのではないか。
題材的には実写でも作れそうだが、おそらく人間の俳優で映像化したら、ぐっと生々しく、辛い話になってしまうはずで、これはアニメーションという手法故に、プラスアルファの普遍性を獲得している作品だと思う。
永遠の生は無く、今日の若者は、間違いなく明日の老人。
自分ならどういう選択をするだろうか?という以前に、どういう選択があるのだろうか?という所から、ずっしりと重い問いを投げかけられる89分である。

もう一本は、フランスのジャン=クリストフ・デッサン監督による、これまた素晴しいデビュー作「森に生きる少年~カラスの日~」である。
フランスはヨーロッパのアニメ大国であり、制作本数でもアメリカ、日本に続き世界三位。
過去にもポール・グリモーやルネ・ラルー、ジャン=フランソワ・ラギオニら数多くの巨匠・名匠を輩出し、日本の漫画・アニメにも大きな影響を与えているだけでなく、逆に日本の漫画・アニメのヨーロッパ最大のマーケットでもある。
本作の原作となったジャン=フランソワ・ボーシュマンの小説は大人向けらしいが、大幅に脚色されたそうで、こちらは親子で観るのにピッタリのファミリー・ムービーとなっている。

主人公のやせっぽちの名無しの少年は、筋骨隆々とした野獣の様な父親と、二人だけで森に暮らしていている。
彼は森の外は恐ろしい世界で、一歩でも森から出ると、人間は消えてしまうと教えられているのだが、この設定はレイ・ブラッドベリの名作短編「びっくり箱」やグリム童話の「髪長姫」に見られるものと共通の話型だ。
父親は嘗て許されない恋におち、事件を起こしてしまった事で妻と共に村を追われ、それ以来人間不信に陥って森に暮らしている。
そして、最愛の妻を出産によって失った事から、彼女の命と引き換えに生まれた息子に対しても複雑な葛藤を抱き、彼を無条件に愛す事が出来ないでいるのだ。
だが、不慮の事故によって、父親が大怪我を負った事から、少年は助けを呼ぶために生まれて始めて森を出て、他の人間の存在を知る事になる。
同世代の少女マノンとの交流を通して、今まで知らなかった人間の多くの感情を理解した少年は、父親は“愛”を森のどこかに隠していて、それを見つけ出して心に戻してやれば、自分や他の人間を再び愛する事が出来る様になると考えるのだ。
こうして再び森に戻った少年の愛を探す物語は、やがて悲しくも感動的なクライマックスを経て、少年の自立と新たな世界への旅立ちを迎えるのである。

本作のもう一つの主役というべきは、舞台となる森そのものだ。
神秘的な森は、死者の霊が宿る現世と常世の境目の世界として描写される。
少年は、母親を含めた死者の姿を見ることが出来るが、彼らがみな動物の姿をしているのが面白い。
これは少年が物心ついてから自分と父親以外の人間を知らず、命あるものの形は動物として捉えている、という解釈によるものだそうである。
母親の墓所に群れ、魂の変遷を象徴する美しい蝶たち、本来死を象徴する存在ながら、少年と友達となり危機を救う事になるカラスなど、自然の描写はスピリチュアルな意匠に満ちている。
同じラテンヨーロッパでも、イベリア半島やイタリアなどと比べると、フランスの文化はどちらかというと人間中心主義に誓い印象が強かったので、本作のアニミズム的世界観は新鮮だった。
もっとも、思い出してみるとジュリー・ベルトゥチェリ監督の「パパの木」なども結構アニミズムっぽかったから、単に私の思い込みかも知れないけど。

背景美術は印象派絵画、特にモネからインスパイアされており、独特の色彩と光の表現はとても美しい。
ちょうど先日公開された新海誠監督の「言の葉の庭」も、本作と同じ様にモネの影響を強く受けている。
そのために両作の色彩設計には似た要素があるのだが、観比べるとむしろ日本とフランスの自然の色の違いがはっきりと見えるのが面白い。
森の色は植生や太陽の光によって、同じ緑でも国や地域によってけっこう違う。
新海誠もジャン=クリストフ・デッサンも、その差異を見抜き、再現する事の出来る繊細な観察眼を持っているという事である。
フランスでも巨額の予算のかかる長編アニメーションの企画は、名のある作家でもなかなか簡単には進まないと聞くが、彼の次回作にも大いに期待したい。
因みに、本作はフランス映画際で本邦初公開となったが、まだ正式な配給は決まっていないそうだ。
子供はもちろん、大人が観ても十分に感動的な作品なので、是非一般の劇場公開を願いたいものである。

題材は正反対だが、共に手描きアニメーションという手法で、素晴しい人間ドラマとなったこの二作品にはフランス、スペイン両国で親しまれている林檎を発酵させて作る酒、シードル(西語ではシードラ)を更に蒸留して生まれる、カルヴァドスの「ブラーX.O.」をチョイス。
林檎の蒸留酒は多いが、カルヴァドスを名乗れるのはフランスのノルマンディー地方で作られる物だけである。
カクテルベースとしても良いが、ここはあえてストレートでチビチビ。
けっこう強い酒なのだけど、消化促進効果があり、産地では食後酒として飲まれる事が多いという。
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コメント
この記事へのコメント
「しわ」
辛い話なんですけど、心が温かくなる素敵な作品でしたね。
興行的には難しいでしょうが、三鷹の森ジブリ美術館、よくぞ配給してくれました。お礼を言いたいです。
「森に生きる少年~」はこちらではまだ公開されてませんが、これも是非見たいですね。
2013/07/03(水) 01:52:32 | URL | Kei #BxQFZbuQ[ 編集]
こんばんは
>keiさん
老いというのは誰にでも平等に訪れますから、皆自分の物語として受け止めざるを得ないですよね。
もしも自分だったら、永遠に繰り返したくなるような、素晴らしい思いでなんてあるかな・・・?と考えると、ぐっとミゲルに感情移入してしまいました(苦笑
「森に生きる少年」は来年あたりジブリセレクションになるんじゃないかと期待してるんですがm素晴らしい作品でした。
2013/07/06(土) 19:18:21 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
『しわ』
私はこれ、ものすごく気に入ってしまいました。
この作品といい、『パリ猫ディノの夜』といい、『風立ちぬ』といい…
素晴らしすぎるアニメ作品がちょうど今公開されていて、どれもこれも見逃せませんね。
『森に生きる少年』の話、ちょっとしてくれましたよね。私も公開されたら、是非見に行きますね!
ちなみに、私はあんなに絶賛した『風立ちぬ』よりこちらの作品の方が好きなんです。
2013/07/24(水) 23:01:27 | URL | とらねこ #.zrSBkLk[ 編集]
こんばんは
>とらねこさん
年間ベスト級だったんですね。
ジワジワ心に染み入る良い映画でした。
「森に生きる少年」も素晴らしい作品で、これは是非正式公開を望みたいものです。
本国ではもうソフトに成ってるから輸入しちゃうという手もありますが・・・
2013/07/25(木) 23:13:36 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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2011年・スペイン 配給:三鷹の森ジブリ美術館 原題:Arrugas 監督:イグナシオ・フェレーラス原作:パコ・ロカ脚本:アンヘル・デ・ラ・クルス、イグナシオ・フェレーラス、パコ・ロカ
2013/07/03(水) 01:39:29 | お楽しみはココからだ~ 映画をもっと楽しむ方法