fc2ブログ
酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。ネット配信オンリーの作品は★5つが満点。
■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係なTBもお断りいたします。 また、関係があってもアフェリエイト、アダルトへの誘導など不適切と判断したTBは削除いたします。

■TITLE INDEX
タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント
noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
■ FILMARKSアカウント
noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
ショートレビュー「熱波・・・・・評価額1550円」
2013年07月04日 (木) | 編集 |
失われた時を求めて。

ポルトガルの異才ミゲル・ゴメス監督による、極めてユニークなスタイルのメロドラマだ。
これと似た作品を過去に観ただろうか?としばし考えてみたが、思い浮かばない。
死期を悟った孤独な老女アウロラは、人の良い隣人のピラールとアフリカ出身のメイドのサンタに、消息の分からないベントゥーラという男を捜して欲しいと頼む。
やがて映画は、半世紀以上前のポルトガル植民地戦争直前のアフリカを舞台とした、ベントゥーラとアウロラの禁じられた恋の物語を語り始めるのである。

一応メロドラマの体裁はとっているが、中味は特異な実験映画と言って良い。
全編が今どき珍しいフィルム撮りのモノクロのスタンダードで、しかも現代のリスボンを舞台としたパートは35ミリ、過去のアフリカのパートは16ミリで撮影され、同じフォーマットでも質感を変えるなど、細かな工夫が凝らされている。
しかし本作を独創の作品としているのは、何よりも前半と後半でまるで別の映画のように切り替わるストーリーテリングの手法だろう。

ぶっちゃけ本作を一言で表せば、嘗て不倫関係にあった男女の、今と過去を描くありきたりな恋愛話だ。
死にゆくアウロラの為に、ピラールとサンタが骨を折る前半の展開は、消息不明のはずのベントゥーラはいとも簡単に見つかってしまい、移動撮影などに面白い試みはあるものの、特にドラマチックな内容ではない。
ところが後半、舞台が半世紀前のアフリカへ移ると、映画は変則的なサイレント映画の様な、奇妙なスタイルへと変貌する。

このパートでは、登場人物の台詞は封じられ、老いたベントゥーラの回想のモノローグ、所謂“心の声”によって、感情を含めた全てが語られてしまうのである。
教科書的な考え方をすれば、映画とは第一義的に画によって語られるべき芸術であって、過剰なテクストによる表現は安易という事になる。
だが、この手法が過ぎ去った過去と現代の距離感となって、独特の詞的な情感を作り出すのだから面白い。
例えば現代からのモノローグと、手紙という後に残る物の朗読以外に台詞が存在しないのも、それがどんな言葉を交わしたかすら憶えていない、遠い過去の情景である事を強くイメージさせるのである。

本作の原題の「Tabu」には三つの意味がある。
一つ目は後半の舞台となるタブー山麓の地名、二つ目はアウロラとベントゥーラが陥った恋の禁忌を意味するタブー、そして最後は映画文法の禁じ手としてのタブーである。
本作は、あえてそのタブーを破ることで、映画とは自由なものであることを改めて認識させてくれる。
古典的な不倫劇の輪郭を利用したのも、“実験”を行うためには、物語そのものはシンプルかつスタンダードな物の方が適しているという事だろう。
ミゲル・ゴメスは、既に歴史の一部になりつつあるフィルム映画そのものをメタファーとし、消え行くもの、失われしものに関する挑戦的なレクイエムを作り上げたのである。

今回はポルトガルのお酒、ポートワインを使ったカクテル、その名も「ユリシーズ」をチョイス。
ブランデー20ml、ポートワイン・ホワイト20ml、ピーチ・ブランデー20ml、アブサン1dashをステアしてグラスに注ぐ。
このカクテルはポートワインを使わないレシピも一般的だが、個人的にはポートワインのまろやかさでこのレシピを推したい。
ユリシーズはもちろん、苦難の大冒険をした古代ギリシャの英雄オデュッセウスの事だが、アウロラやベントゥーラの様にごく普通の人にも意外な歴史があるのかもしれない。
ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね

こちらもお願い



スポンサーサイト




コメント
この記事へのコメント
遠く輝ける日々…
思い返しても不思議な映画でした。
最終的には、後半のモノローグに徹した映像が
印象に強く残っているのですが、
前半では、
果たして主人公はだれかさえも分からない。

ありふれた物語ではあるけれど、
前半に
すっかり老いてしまったヒロインのあまりよろしくない話を出すことで
輝いていた若き日との対比が際立ち、
人生の残酷さを改めて感じずにはいられませんでした。
2013/07/14(日) 20:34:14 | URL | えい #yO3oTUJs[ 編集]
こんばんは
>えいさん
他に比較出来る作品のない独創の映画でした。
前半はフーンとそれほど惹かれずに観てたのですが、後半には驚かされ、対比される事で前半にも意味が生まれてくる。
記憶の彼方の時が切なかったですね。
コレこそ邦題「オブリビオン(忘却)」相応しかった様な。
2013/07/18(木) 22:14:43 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
----この映画、 モノクロみたいだけど、 昔の映画ニャの? 「いやいや。 これは2012年に作られた ポルトガル=ドイツ=ブラジル=フランス、 4カ国の合作映画」 ----それにしては メインビ...
2013/07/07(日) 19:01:41 | ラムの大通り
『私たちの好きな八月』のポルトガルのミゲル・ゴメス監督による斬新なる傑作『熱波』(原題 : TABU)。出演は舞台女優などとして活躍するテレーサ・マドゥルガ、ラウラ・ソヴェラル、ア...
2013/08/10(土) 20:10:37 | 映画雑記・COLOR of CINEMA
 『熱波』を渋谷のイメージフォーラムで見ました。 (1)本作は、ポルトガルの新鋭ミケル・ゴメス監督が製作した映画ということで、映画館に出向きました。  映画はプロローグと2部
2013/08/26(月) 20:54:17 | 映画的・絵画的・音楽的