2013年10月05日 (土) | 編集 |
死体だって、恋はしたい。
なんとも意表を突く、終末世界のロミオとジュリエット。
世に歩く死者を描く映画は数あれど、なるほどこれは色々な意味で新しい。
何しろゾンビの青年“R”が、自らの視点で人間の女性とのラブストーリーをモノローグしてゆくのだ。
舞台となるのは死者が蘇る謎の奇病が蔓延し、ゾンビとの戦いが長年続いている世界。
人間軍のメンバーだったヒロインのジュリーは、とある任務でゾンビの集団に襲われ、絶体絶命の危機に陥る。
ところがゾンビの中のイケメン男子が、彼女に一目惚れしてしまうのだ。
この世界のゾンビには段階があって、我々がよく知るゾンビの段階では僅かながら知性や感情が残っているものの、激しい飢えに突き動かされて人間を襲う。
やがてゾンビ化が進むと、肉は腐り落ちて殆どガイコツだけの様な状態となり、こうなるともう一切の人間性は失われる。
面白いのは、ゾンビが犠牲者の脳を食うと、相手の記憶や感情を追体験する事が出来るという設定だ。
そう、実は“R”はジュリーの彼氏を食った事で、その記憶を受け継いてジュリーに惚れてしまったのである。
最初はてっきりコメディだと思って観ていたので、ゾンビたちが人間的過ぎて、あんまりギャップで笑えないなあと感じていたが、後半の物語の流れを見ればなるほど納得。
人間たちはゾンビと戦ってはいるものの、実はゾンビの事を何も知らない。
そもそもゾンビという呼称自体が、過去の映画やドラマの印象からそう呼んでいるだけで、彼らが僅かながらも人間性を残してる事すら分かっていない、いや分かろうとすら思っていないのだ。
ジョン・マルコビッチ演じる人間軍のリーダーは、ゾンビの跋扈するエリアと人間の住むエリアを巨大な防護壁で隔てている。
「ワールド・ウォーZ」のイスラエルのシークエンスでも似たような壁が出て来たが、あれは誰が見ても実在のパレスチナの壁のメタファーだった。
本作においてもそれは同じで、心のあるゾンビとそれを知らぬ人間の戦争は、現実世界の様々な不寛容をカリカチュアした寓話的世界観なのである。
タイトルが「ウォーム・ボディーズ」と複数形なのがポイントだ。
“R”とジュリーが恋をした事によって、物語の世界に生じた波紋はゾンビたちの間に広がり、やがて冷たく、鼓動を止めた心臓に微かな変化が訪れる。
だが、二つの世界の間に立ちはだかっているのは、実は物理的な壁よりも高い人間たちの猜疑心だ。
それまでに配した伏線を回収しながら、押し寄せるガイコツの軍団と、人間性を取り戻したゾンビたち、そして新たな変化に戸惑う人間たちが三つ巴となるクライマックスはなかなかなかの盛り上がりをみせる。
そして、最後まで消えなかった未知なる存在への恐れを取り除くのは、やはり最初に心の壁を壊した若い二人の愛なのである。
ゾンビメイクをしていてもなぜか爽やかで、どこか若い頃のトム・クルーズを思わせる“R”役のニコラス・ホルトが良い。
グロいシーンは無いので、ゾンビ映画が苦手な人にもオススメできる、気持ちの良い佳作である。
今回は取り戻した体温を更に温めるホットカクテル、「カルーア・コーヒー」をチョイス。
耐熱のグラスにカルーア30ml、ホットコーヒー150mlを注ぎ、最後に生クリームを浮かべる。
ちなみにサンフランシスコでコッポラが経営していたバー・トスカには、このカルーア・コーヒーっぽいけど何か違うトスカ・スペシャルという美味しいカクテルがあり、私も何度も再現しようとしたのだけど、結局できなかった。
あのレシピを知りたいものだ。
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なんとも意表を突く、終末世界のロミオとジュリエット。
世に歩く死者を描く映画は数あれど、なるほどこれは色々な意味で新しい。
何しろゾンビの青年“R”が、自らの視点で人間の女性とのラブストーリーをモノローグしてゆくのだ。
舞台となるのは死者が蘇る謎の奇病が蔓延し、ゾンビとの戦いが長年続いている世界。
人間軍のメンバーだったヒロインのジュリーは、とある任務でゾンビの集団に襲われ、絶体絶命の危機に陥る。
ところがゾンビの中のイケメン男子が、彼女に一目惚れしてしまうのだ。
この世界のゾンビには段階があって、我々がよく知るゾンビの段階では僅かながら知性や感情が残っているものの、激しい飢えに突き動かされて人間を襲う。
やがてゾンビ化が進むと、肉は腐り落ちて殆どガイコツだけの様な状態となり、こうなるともう一切の人間性は失われる。
面白いのは、ゾンビが犠牲者の脳を食うと、相手の記憶や感情を追体験する事が出来るという設定だ。
そう、実は“R”はジュリーの彼氏を食った事で、その記憶を受け継いてジュリーに惚れてしまったのである。
最初はてっきりコメディだと思って観ていたので、ゾンビたちが人間的過ぎて、あんまりギャップで笑えないなあと感じていたが、後半の物語の流れを見ればなるほど納得。
人間たちはゾンビと戦ってはいるものの、実はゾンビの事を何も知らない。
そもそもゾンビという呼称自体が、過去の映画やドラマの印象からそう呼んでいるだけで、彼らが僅かながらも人間性を残してる事すら分かっていない、いや分かろうとすら思っていないのだ。
ジョン・マルコビッチ演じる人間軍のリーダーは、ゾンビの跋扈するエリアと人間の住むエリアを巨大な防護壁で隔てている。
「ワールド・ウォーZ」のイスラエルのシークエンスでも似たような壁が出て来たが、あれは誰が見ても実在のパレスチナの壁のメタファーだった。
本作においてもそれは同じで、心のあるゾンビとそれを知らぬ人間の戦争は、現実世界の様々な不寛容をカリカチュアした寓話的世界観なのである。
タイトルが「ウォーム・ボディーズ」と複数形なのがポイントだ。
“R”とジュリーが恋をした事によって、物語の世界に生じた波紋はゾンビたちの間に広がり、やがて冷たく、鼓動を止めた心臓に微かな変化が訪れる。
だが、二つの世界の間に立ちはだかっているのは、実は物理的な壁よりも高い人間たちの猜疑心だ。
それまでに配した伏線を回収しながら、押し寄せるガイコツの軍団と、人間性を取り戻したゾンビたち、そして新たな変化に戸惑う人間たちが三つ巴となるクライマックスはなかなかなかの盛り上がりをみせる。
そして、最後まで消えなかった未知なる存在への恐れを取り除くのは、やはり最初に心の壁を壊した若い二人の愛なのである。
ゾンビメイクをしていてもなぜか爽やかで、どこか若い頃のトム・クルーズを思わせる“R”役のニコラス・ホルトが良い。
グロいシーンは無いので、ゾンビ映画が苦手な人にもオススメできる、気持ちの良い佳作である。
今回は取り戻した体温を更に温めるホットカクテル、「カルーア・コーヒー」をチョイス。
耐熱のグラスにカルーア30ml、ホットコーヒー150mlを注ぎ、最後に生クリームを浮かべる。
ちなみにサンフランシスコでコッポラが経営していたバー・トスカには、このカルーア・コーヒーっぽいけど何か違うトスカ・スペシャルという美味しいカクテルがあり、私も何度も再現しようとしたのだけど、結局できなかった。
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この記事へのコメント
序盤と後半の温度差が良かったですね。この映画もとても面白かったですが、ノラネコさんにはぜひ[地獄でなぜ悪い]を見てもらいたいです。この映画が優秀な佳作とすれば、地獄は最高傑作か最悪の駄作ではっきり評価は別れるでしょうが、映画好きにはたまらない作品になってますよ。
2013/10/08(火) 05:51:44 | URL | 拳 #FjFrvsmQ[ 編集]
>拳さん
「地獄でなぜ悪い」はまあまあ面白かったけど、ぶっちゃけあざと過ぎに感じてしまい、それほど好きじゃないんです。
映画愛と考えると「ハテ?」と思ってしまう描写もあったし。
感想はツイッターの方で既に呟いてます。
「地獄でなぜ悪い」はまあまあ面白かったけど、ぶっちゃけあざと過ぎに感じてしまい、それほど好きじゃないんです。
映画愛と考えると「ハテ?」と思ってしまう描写もあったし。
感想はツイッターの方で既に呟いてます。
2013/10/08(火) 23:09:07 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
ノラネコさん☆
ゾンビゾンビしていなくてゆる~いかんじが良かったです。
なるほど物理的壁は、心の壁のメタファーなのですね。
自らが作り出した壁によって、世界はこうして隔たれてしまうのだと納得しました。
ゾンビゾンビしていなくてゆる~いかんじが良かったです。
なるほど物理的壁は、心の壁のメタファーなのですね。
自らが作り出した壁によって、世界はこうして隔たれてしまうのだと納得しました。
>ノルウェーまだ~むさん
まあゾンビ映画の世界観を利用して別のものを作ったという感じでしょう。
葛藤が極限化するこの世界では、テーマのメタファーとしていろいろな物が顕在化しやすいですからね。
壁の使い方はなるほどでした。
まあゾンビ映画の世界観を利用して別のものを作ったという感じでしょう。
葛藤が極限化するこの世界では、テーマのメタファーとしていろいろな物が顕在化しやすいですからね。
壁の使い方はなるほどでした。
2013/10/13(日) 22:49:24 | URL | ノラネコ #LBBrlPtc[ 編集]
でっかい壁だなあ、と思ってたらガイコツとかが好き放題に入って来てるような・・・いや、あれは壁の外なのか? そもそも壁の前後で防衛戦をやらんから壁が役に立ってるかどうかが分からん。
まあ今まで入ってこなかったんだから、一応有効な壁なんでは。
去年は「パシフィックリム」や「ワールド・ウォーZ」も壁ブームでしたな。
去年は「パシフィックリム」や「ワールド・ウォーZ」も壁ブームでしたな。
人間化していくゾンビがRだけでなく、多数同時進行なのが
良かった。二人を待つゾンビが最初十数人だったのが、
何百人になっていたシーンにちょっと感動。
良かった。二人を待つゾンビが最初十数人だったのが、
何百人になっていたシーンにちょっと感動。
>Hiroさん
この映画は全体がメタファーなんですよね。
人間性を取り戻してゆくと、世界が愛で満ちていたなんて、実に寓話的。
良い作品でした。
この映画は全体がメタファーなんですよね。
人間性を取り戻してゆくと、世界が愛で満ちていたなんて、実に寓話的。
良い作品でした。
2014/08/24(日) 19:57:42 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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個人的にはヒロインよりもヒロインの友達の方がタイプ。
2013/10/05(土) 23:55:46 | だらだら無気力ブログ!
世界の終わりに、恋が襲ってきた。
原題 WARM BODIES
製作年度 2013年
上映時間 98分
原作 アイザック・マリオン『ウォーム・ボディーズ ゾンビRの物語』(小学館刊)
脚本 監督ジョナサン・レヴィン
出演 ニコラス・ホルト/テリーサ・パーマー/ロブ・コードリー/デイ...
2013/10/06(日) 00:53:05 | to Heart
近未来。 謎のウィルスの影響で人類の大半は死滅し、街にあふれるゾンビから身を守るため、生き残った人間たちは高い壁に囲まれたシェルターの中で暮らしていた。 ある日、街へ仲間と“食事”に出かけたゾンビ青年“R(アール)”は、ニンゲン女子“ジュリー”に一目ぼれし、彼女を食べずに自分の家に連れ帰ってしまう。 最初はRを徹底的に拒絶していたジュリーも、次第に心を開き始めるのだが…。 ラブ・コメディ。
2013/10/06(日) 22:42:14 | 象のロケット
ウォーム・ボディーズWarm Bodies/監督:ジョナサン・レヴィン/2013年/アメリカ
彼らも元は、人間でした。
試写会で鑑賞。原作は未読です。カナダ出身の友人と行ったら「あのスタジアムねーオリンピックのとき使ったやつで安く借りられるんだよね」って言ってました。撮影はケベック州なんですね。そのせいだと思うんですけどスタッフにフランス人名多いです。
あらすじ:ゾンビが人間の女の...
2013/10/07(月) 13:32:01 | 映画感想 * FRAGILE
なかなかに心温まるものがあったわ。ウォーム・ボディーズだけに。
とんだB級ラブコメと覚悟して見たのが良かったのか、なんとなくウルウルするシーンもあり、概ね良かったかな。
この手の映画はツッコミどころなんて、あって当然だから、気にならないし~
2013/10/09(水) 09:10:38 | ノルウェー暮らし・イン・原宿
評価:★★★【3点】(11)
ゾンビの視点から描いた純愛映画?(笑)
2013/10/09(水) 19:52:08 | 映画1ヵ月フリーパスポートもらうぞ〜
ウォーム・ボディーズ
'13:米
◆原題:WARM BODIES
◆監督:ジョナサン・レビン「50/50 フィフティ・フィフティ」
◆主演:ニコラス・ホルト、テリーサ・パーマー、ロブ・コードリー、デイブ・フランコ、アナリー・ティプトン、コリー・ハードリクト、ジョン・マルコビッ...
2013/12/03(火) 20:56:13 | C’est joli〜ここちいい毎日を♪〜
◆『あの頃、君を追いかけた』
五つ星評価で【★★★★ミシェル・チェン可愛い】
こんなんだよ。
こんな青春映画が観たかったんだよ。
玉木宏みたいなクー・チェンドンはバ ...
2014/02/17(月) 20:13:25 | ふじき78の死屍累々映画日記
WARM BODIES
2013年
アメリカ
98分
ホラー/ロマンス/青春
劇場公開(2013/09/21)
監督:
ジョナサン・レヴィン
『マンディ・レイン 血まみれ金髪女子高生』
原作:
アイザック・マリオン『ウォーム・ボディーズ ゾンビRの物語』
脚本:
ジョナサン・レヴィ...
2014/02/27(木) 21:47:16 | 銀幕大帝α
【WARM BODIES】 2013/09/21公開 アメリカ 98分監督:ジョナサン・レヴィン出演:ニコラス・ホルト、テリーサ・パーマー、ロブ・コードリー、デイヴ・フランコ、アナリー・ティプトン、コリー・ハードリクト、ジョン・マルコヴィッチ
世界の終わりに、恋が襲ってきた。
...
2014/03/11(火) 12:58:02 | ★yukarinの映画鑑賞ぷらす日記★
「ウォーム・ボディーズ」★★★★DVD鑑賞
ニコラス・ホルト、テリーサ・パーマー、
ジョン・マルコヴィッチ出演
ジョナサン・レヴィン監督、
98分 2013年9月21日公開
2013,アメリカ,アスミック・エース
(原題/原作:ウォーム・ボディーズ ゾンビRの物語)
2014/03/21(金) 10:02:41 | soramove
ウォーム・ボディーズ
人肉を食らうゾンビが人間の女の子に一目惚れ
次第に人間的な感情が蘇り...
【個人評価:★★★ (3.0P)】 (自宅鑑賞)
原題:Warm Bodies 原作:アイザック・マリオン
2014/08/17(日) 23:47:39 | cinema-days 映画な日々
【概略】
ある日、襲撃するはずの人間の女の子・ジュリーにひと目惚れしてしまったゾンビ男子・R。次第にジュリーも心を開き始めるが…。
ラブコメディ
ゾンビ男子×人間女子のラブストーリーと言う異色のホラー・ラブロマンス。
ニコラス・ホルト君が主人公のゾンビRを、テリーサ・パーマーさんが愛され女子ジュリーを演じています。
ゾンビ・ミーツ・ガール!
生きていた頃の記憶を少...
2015/11/08(日) 08:12:10 | いやいやえん
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