2013年11月22日 (金) | 編集 |
この愛しき、禿げちゃびん。
期待以上の素晴らしい作品だった。
観終わってすぐに書店に直行し、原作漫画を購入。
長崎在住の岡野雄一によるエッセイ漫画は、元々自費出版されたものだそうだが、ネットや口コミで評判を呼びやがてベストセラーに。
描かれているのは、認知症の母親と男やもめの団塊の世代の息子との、ユーモラスだが切ない黄昏の日々。
やがて浮かび上がって来るのは、山あり谷ありの母の長い人生だ。
タイトルの「ペコロス」とはベビーサイズの玉ネギの事で、アマチュアミュージシャンでもある原作者が、禿げ上がった頭から自ら名付けた芸名「ペコロス岡野」から。
認知症が進み、人の見わけがつかなくなっても、母はこの禿げ頭を見ると息子だと分かるのだ。
禿げは偉大なり(笑
数々の人間喜劇を描いてきた森崎東監督は85歳、タイトルロールの“ペコロスの母”を演じる赤城春恵はなんと89歳なのだそうだ。
お二人は認知症とは無縁そうだが、同世代の多くが抱える葛藤に対して真摯に向き合い、キャラクターに愛情をたっぷりこめて演出、演技して実に魅力的に物語を仕上げている。
オレオレ詐欺の電話を受けても、電話がかかってきたこと自体をすぐ忘れるので詐欺にならないとか、駐車場で息子の帰りを待ち続けて子供たちに妖怪に間違われるとか、汚してしまった下着を箪笥いっぱいに詰め込んだりとか、この母ならば数々の問題行動も何とも可愛く感じる。
もちろん自らももう若くはない息子の雄一にとっては大変なのだけど、超ポジティブ人間の彼はそんな母との日々を自作漫画に綴り、更に現在ではなく過去に生き始めた母の記憶を辿り始めるのだ。
島原の子沢山の家に生まれ、沢山の兄弟姉妹の世話に明け暮れた戦前、結婚した相手が酒乱で、苦労の末に雄一を育て上げた戦後、晩年に酒を辞めた夫や孫との穏やかな思い出。
そして幼くして亡くなった妹、長崎に立ち上るきのこ雲、原爆症で亡くなった幼馴染との悲しい記憶。
歴史の街長崎で、春節を告げるランタンフェスティバルを舞台に、過去と現在、現在と未来が溶け合う瞬間のなんと映画的な事!
今年は、巨匠ハネケが老夫婦の終の日々を描いた「愛、アムール」、認知症が進み老人ホームへと預けられた人々の姿をアニメーションで表現した「しわ」、人生の黄昏を迎えた四人の男女の物語「拝啓、愛しています」と、同じ題材を取り上げた各国の作品が続いたが、四者四様のアプローチとオチの付け方の違いが面白い。
オーストリア、スペイン、韓国、そして日本。
多少の差はあれ、生活水準はそれほど極端には変わらないだろう。
ある程度成熟した市民社会で、少子高齢化社会という点も共通しており、それゆえにそれぞれの映画の登場人物たちの選択は、それが悲劇であれ、喜劇であれ、自分に置き換えて感じ、考えることが出来る作品となっている。
どれも愛情深く、そして切ない物語なのだけど、唯一老人本人ではなく息子視点で、ユーモアがベースにあるからかだろうか、本作が一番希望的に感じた。
「ボケるとも、悪かことばかりじゃなかかもしれん」
本当にそう思える終の日々を迎えることが出来れば良いのだけど。
若き日の母を演じる原田貴和子と、その薄幸の幼馴染を演じる原田知世との20年ぶりの姉妹ツーショットとか、禿げ頭を隠し続ける竹中直人のキャラとか、あざとさギリギリのサービス精神もこの世界観ならフィットしている。
高齢の親を持つ世代なら誰もが感情移入できるだろうし、そうでない人たちにも一級の人間喜劇として十分に楽しめ、ホロリと泣けるだろう。
まこと愛すべき秀作である。
今回は、ペコロスの母の出身地である島原の地酒、浦川酒造の「一鶴 時代の酒」をチョイス。
一鶴は生産量の殆どが島原で消費されるという正しく地産地消の地の酒で、全国的にはあまり知られていない酒だが、焼酎文化と日本酒文化の境界地の一つである長崎には、こうした比較的小規模な蔵の多い様だ。
時代の酒は山廃仕込みらしく、しっかりとしたコク、濃厚な酒の味が強烈。
長崎は海外の影響が濃く、ユニークな食文化を持つ土地柄だが、この酒の強い個性は例えば中華料理などと合わせても決して力負けする事はない。
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期待以上の素晴らしい作品だった。
観終わってすぐに書店に直行し、原作漫画を購入。
長崎在住の岡野雄一によるエッセイ漫画は、元々自費出版されたものだそうだが、ネットや口コミで評判を呼びやがてベストセラーに。
描かれているのは、認知症の母親と男やもめの団塊の世代の息子との、ユーモラスだが切ない黄昏の日々。
やがて浮かび上がって来るのは、山あり谷ありの母の長い人生だ。
タイトルの「ペコロス」とはベビーサイズの玉ネギの事で、アマチュアミュージシャンでもある原作者が、禿げ上がった頭から自ら名付けた芸名「ペコロス岡野」から。
認知症が進み、人の見わけがつかなくなっても、母はこの禿げ頭を見ると息子だと分かるのだ。
禿げは偉大なり(笑
数々の人間喜劇を描いてきた森崎東監督は85歳、タイトルロールの“ペコロスの母”を演じる赤城春恵はなんと89歳なのだそうだ。
お二人は認知症とは無縁そうだが、同世代の多くが抱える葛藤に対して真摯に向き合い、キャラクターに愛情をたっぷりこめて演出、演技して実に魅力的に物語を仕上げている。
オレオレ詐欺の電話を受けても、電話がかかってきたこと自体をすぐ忘れるので詐欺にならないとか、駐車場で息子の帰りを待ち続けて子供たちに妖怪に間違われるとか、汚してしまった下着を箪笥いっぱいに詰め込んだりとか、この母ならば数々の問題行動も何とも可愛く感じる。
もちろん自らももう若くはない息子の雄一にとっては大変なのだけど、超ポジティブ人間の彼はそんな母との日々を自作漫画に綴り、更に現在ではなく過去に生き始めた母の記憶を辿り始めるのだ。
島原の子沢山の家に生まれ、沢山の兄弟姉妹の世話に明け暮れた戦前、結婚した相手が酒乱で、苦労の末に雄一を育て上げた戦後、晩年に酒を辞めた夫や孫との穏やかな思い出。
そして幼くして亡くなった妹、長崎に立ち上るきのこ雲、原爆症で亡くなった幼馴染との悲しい記憶。
歴史の街長崎で、春節を告げるランタンフェスティバルを舞台に、過去と現在、現在と未来が溶け合う瞬間のなんと映画的な事!
今年は、巨匠ハネケが老夫婦の終の日々を描いた「愛、アムール」、認知症が進み老人ホームへと預けられた人々の姿をアニメーションで表現した「しわ」、人生の黄昏を迎えた四人の男女の物語「拝啓、愛しています」と、同じ題材を取り上げた各国の作品が続いたが、四者四様のアプローチとオチの付け方の違いが面白い。
オーストリア、スペイン、韓国、そして日本。
多少の差はあれ、生活水準はそれほど極端には変わらないだろう。
ある程度成熟した市民社会で、少子高齢化社会という点も共通しており、それゆえにそれぞれの映画の登場人物たちの選択は、それが悲劇であれ、喜劇であれ、自分に置き換えて感じ、考えることが出来る作品となっている。
どれも愛情深く、そして切ない物語なのだけど、唯一老人本人ではなく息子視点で、ユーモアがベースにあるからかだろうか、本作が一番希望的に感じた。
「ボケるとも、悪かことばかりじゃなかかもしれん」
本当にそう思える終の日々を迎えることが出来れば良いのだけど。
若き日の母を演じる原田貴和子と、その薄幸の幼馴染を演じる原田知世との20年ぶりの姉妹ツーショットとか、禿げ頭を隠し続ける竹中直人のキャラとか、あざとさギリギリのサービス精神もこの世界観ならフィットしている。
高齢の親を持つ世代なら誰もが感情移入できるだろうし、そうでない人たちにも一級の人間喜劇として十分に楽しめ、ホロリと泣けるだろう。
まこと愛すべき秀作である。
今回は、ペコロスの母の出身地である島原の地酒、浦川酒造の「一鶴 時代の酒」をチョイス。
一鶴は生産量の殆どが島原で消費されるという正しく地産地消の地の酒で、全国的にはあまり知られていない酒だが、焼酎文化と日本酒文化の境界地の一つである長崎には、こうした比較的小規模な蔵の多い様だ。
時代の酒は山廃仕込みらしく、しっかりとしたコク、濃厚な酒の味が強烈。
長崎は海外の影響が濃く、ユニークな食文化を持つ土地柄だが、この酒の強い個性は例えば中華料理などと合わせても決して力負けする事はない。

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この記事へのコメント
> お二人は認知症とは無縁そうだが
監督が認知症だったら、映画撮れないよなあ(すげえ傑作が撮れたりして)。
監督が認知症だったら、映画撮れないよなあ(すげえ傑作が撮れたりして)。
2013/11/27(水) 08:30:16 | URL | ふじき78 #rOBHfPzg[ 編集]
>ふじき78さん
葉っぱ決めながら撮ってた監督は知ってますけどねw
わりと作品は普通でした。
葉っぱ決めながら撮ってた監督は知ってますけどねw
わりと作品は普通でした。
2013/11/29(金) 22:08:32 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
>過去と現在、現在と未来が溶け合う瞬間
もう、ここにはゾクゾクです。
途中から、違う映画へと移行していくその巧みさ。
与えられた企画をきっちり自分のものとする、
こういう映画は大好きです。
もう、ここにはゾクゾクです。
途中から、違う映画へと移行していくその巧みさ。
与えられた企画をきっちり自分のものとする、
こういう映画は大好きです。
>えいさん
祭りというのは日本映画には欠かせないシチュエーションですけど、これはまた長崎の異国文化が効いてましたね。
あの中国風のビジュアルだけで非日常感抜群でした。
日常の物語のクライマックスにああいう演出を持ってくるセンス、さすがです。
祭りというのは日本映画には欠かせないシチュエーションですけど、これはまた長崎の異国文化が効いてましたね。
あの中国風のビジュアルだけで非日常感抜群でした。
日常の物語のクライマックスにああいう演出を持ってくるセンス、さすがです。
2013/12/04(水) 00:23:04 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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離婚して故郷の長崎に戻ったゆういちは、ちいさな玉ねぎ“ペコロス”のようなハゲ頭のサラリーマンで、漫画を描いたり、音楽活動をしている。彼は、父の死をきっかけに認知症を発症した母の面倒を見ていた。やがてゆういちの手に負えなくなった母を、断腸の思いで介護施設に預ける事に。苦労した子供時代や夫との生活となど、過去へと意識がさかのぼっている母の様子を見て、ゆういちの胸にある思いが去来する。...
2013/11/22(金) 23:15:25 | 大吉!
----あれれ。これって
今日観たばかりの映画だよね。
こんなに早く喋るの、珍しくニャい?
「そうだね。
それは、この作品が
ぼくにとって喋りやすいタイプの映画というところもあるだろうね」
----でも監督が森崎東。
『ニワトリはハダシだ』、喋るのずいぶん苦戦してい...
2013/11/23(土) 14:44:52 | ラムの大通り
新宿武蔵野館 座席位置 最前列中央 評点・・・☆☆☆☆ ダンゼン優秀! 以下、facebookより転載。 過日、森�啗東監督『ペコロスの母に会いに行く』観賞。ダンゼン優秀!久しぶりに秀逸な喜活劇を堪能。赤木春恵氏は89歳で映画初主演で、森�啗東監督は今日で
2013/11/24(日) 00:19:28 | タニプロダクション
2013年・日本 配給:東風監督:森﨑 東 原作:岡野雄一 脚本:阿久根知昭 撮影:浜田 毅 企画:井之原尊 プロデューサー:村岡克彦主題歌: 一青窈 認知症の母親とその息子のおかしくも切ない日常を綴
2013/11/24(日) 18:46:37 | お楽しみはココからだ~ 映画をもっと楽しむ方法
離婚後、長崎で息子まさき、認知症の母ちゃん・みつえと三人で暮らしている岡野ゆういちは、趣味の漫画や音楽にうつつを抜かすダメサラリーマン。 みつえを一人で家に置いておくことが危なくなってきたため、悩みながらもゆういちはグループホームに預けることを決心する。 みつえの記憶は少しずつ過去へ遡り、少女時代や新婚時代へ戻っているようだったが…。 ヒューマンドラマ。 ≪ボケるとも悪か事ばかりじゃなかかも...
2013/11/25(月) 10:40:27 | 象のロケット
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認知症の母とハゲの息子の、
それなりに幸せなゆるめの生活を描く。
「認知症になる」ことが必ずしも不幸でないと ...
2013/11/27(水) 19:00:21 | ふじき78の死屍累々映画日記
漫画家・岡野雄一の、
4コマ漫画を実写化。
「ペコロスの母に会いに行く」
「ペコロスの玉手箱」が原作。
「ペコロス」とはちいさな玉ねぎ
ゆういちの光る頭のことを
玉ねぎになぞらえて
「ペコロス」と言っています。
漫画家・岡野雄一の、
認知症の母との日常と
...
2013/11/27(水) 21:24:41 | 花ごよみ
□作品オフィシャルサイト 「ペコロスの母に会いに行く」□監督 森崎 東□原作 岡野雄一□キャスト 岩松 了、赤木春恵、原田貴和子、大和田健介、竹中直人、加瀬 亮、 温水洋一、原田知世、根岸季衣、佐々木すみ江、正司照枝、島かおり、長内美那子■鑑賞日...
2013/12/04(水) 08:13:53 | 京の昼寝〜♪
『ペコロスの母に会いに行く』を吉祥寺のバウスシアターで見ました。
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舞台は長崎。主人公の...
2013/12/04(水) 21:09:32 | 映画的・絵画的・音楽的
漫画家・岡野雄一が、自分が経験したことをヒントに描いたエッセイコミックを実写化した『ペコロスの母に会いに行く』森崎 東監督による素晴らしき傑作。出演は赤木春恵、岩松了、原田貴和子、加瀬亮、他物語・長崎
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2014/02/13(木) 12:45:00 | とりあえず、コメントです
☆☆☆☆☆ (10段階評価で 10)
1月1日(金・祝) WOWOWシネマの放送を録画で鑑賞。
2016/01/01(金) 16:35:47 | みはいる・BのB
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