酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。
■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係な物や当方が不適切と判断したTB・コメントも削除いたします。
■TITLE INDEX
タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント
noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
■ FILMARKSアカウント
noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
フルートベール駅で・・・・・評価額1700円
2014年03月25日 (火) | 編集 |
明日は、もうやってこない。

2009年の1月1日未明、サンフランシスコ・ベイエリアのフルートベール駅で、丸腰の黒人青年オスカー・グラントが警官に射殺された事件をモチーフにした人間ドラマ。
特定人種への偏見が事件の一因である事は確かだが、単に人種差別を告発した作品ではない。
映画は、オスカー最後の一日を通して、彼が何者だったのかを私たちに知らしめる。
理不尽に奪われたのは、どこにでもいるごく普通の人の命であり、彼は私だったかもしれないし、あなただったかもしれないのである。
監督のライアン・クーグラーは、主人公と同じくベイエリア出身のアフリカ系で、これが長編監督デビュー作。
本作の脚本は2012年にサンダンス・インスティテュート・スクリーンライターズ・ラボに選出され、若い才能のためにプロデュースを買って出たのは、「大統領の執事の涙」での好演が記憶に新しいフォレスト・ウィテカーだ。

オスカー・グラント(マイケル・B・ジョーダン)は、サンフランシスコのベイエリアで暮す22歳の青年。
過去にドラッグの売人として服役した事があり、今は恋人のソフィーナ(メロニー・ディアス)と愛娘のタチアナのために、生活を立て直そうと努力しているものの、現実は厳しい。
実は二週間前に仕事を首になってしまったのだが、その事はまだ言い出せずにいる。
大晦日は母のワンダ(オクタビア・スペンサー)の誕生日で、オスカーは家族と共に実家を訪れ、久しぶりの賑やかなディナーを楽しんだ後、サンフランシスコで新年のカウントダウンを見届けて、仲間たちと共に電車で帰宅の途につく。
しかし希望へと向かうはずの新年の始まりは、電車がフルートベール駅に差し掛かったとき、突然の暗転を迎える・・・・


本作を見ていて思い出したのは、黒木和雄監督の名作「TOMORROW 明日 」だ。
1945年8月8日から9日にかけて、長崎が原爆で消滅する前の24時間の人々の営みを描いた群像劇である。
観客は物語の終わりに何が起こるのか、登場人物たちに“明日”は永遠に来ないことを知っているので、彼らが口にする未来への希望が切ない。
そして69年前の長崎市民と同じく、本作の主人公であるオスカー・グラントにも明日はもう存在しないのだ。

映画は、オスカーの人生最後の一日に起こった事を淡々と描く。
彼にとって2008年の大晦日は、良くも悪くも少しだけ特別な日だ。
サンフランシスコの対岸のイーストベイに暮らす彼は、勤めていたスーパーマーケットを首になり、再びドラッグの販売に手を出しかかるも、ギリギリで思いとどまる。
恋人のソフィーナや幼いタチアナのためにも、刑務所に戻る訳にはいかないのだ。
そして過去に心配をかけた母親の誕生日を祝うために、高級品のカニを奮発し、親族たちと賑やかで暖かいひと時を過ごす。
そして新年のカウントダウン花火を楽しむために、気の置けない仲間たちと共に電車に乗ってサンフランシスコへと向かうのである。
しかし、彼の人生はあまりにもあっけなく、唐突に終わりを告げる。
この世界はいかに脆く、命は白昼夢の様に儚いのか。

オスカーはいくつかの葛藤は抱えているが、決して悪党ではなく、どこにでもいる普通の若者であり、幼い娘に愛を注ぐ父親だ。
もちろん自分の人生がもうすぐ終わる事を知っている訳もなく、本作にいかにも映画的なドラマ性は見出せない。
唯一、金を作るためにマリワナを売ろうとするシークエンスだけは、彼の抱えている問題がクローズアップされる。
買い手との約束の場所に向かうオスカーは、車に轢かれた野良犬をみとり、その孤独な最後に自分の姿を重ねる。
この部分は誰かと行動を共にしている訳でもないので、おそらくは映画の創作だろう。
結果、彼は堅気に踏みとどまるのだが、生活苦という問題そのものは当然ながら解決されることがない。
あえて言えば、主人公が葛藤を解消する機会が永遠に訪れないというのが、本作の持つ特異なドラマ性なのである。

舞台となるサンフランシスコ・ベイエリアは、私にとっても長年暮らした第二の故郷だ。
事件が起こったフルートベール駅も良く知っているし、オスカーが働いていたスーパー、Farmer Joe's は何度も行った事がある。
もしかしたら、どこかでオスカーと顔を合わせた事があったかもしれない。
そしてここは、全米でも最もリベラルな地域の一つである。
ベトナム反戦運動、公民権運動の中心地であり、ヒッピーの故郷にして世界最大級のゲイコミュニティが存在するマイノリティーの楽園。
ベイエリア、特にサンフランシスコや対岸のバークレーあたりで先進的な条例が制定されると、それは数年後には他の地域にも広まり、全米のモデルケースとなる事も多い。
ロス暴動の切っ掛けとなったロドニー・キング事件の様な事は、ベイエリアでは起こらないだろう。
多くの人と同様に、私もそう思っていた。
だからこそ、この事件が起こった時はとても驚き、悲しくなったのである。

しかし、この作品は人種差別の告発だけを目的とした映画ではないと思う。
確かに電車から黒人たちだけを引きずり出した警察の行動は、人種偏見があっただろう。
電車を管轄するBARTポリスたちは極めて横柄に描写されているが、基本的にアメリカの警察官は被疑者に対して威圧的なので、彼らだけが特別に酷いわけでもない。
だが発砲が意図的だったのか、それとも事故だったのかは、本作を観ても事件当時目撃者たちが撮影しネットにアップされた多くの映像からも、本当のところは分からないのだ。
もしかしたら裁判での証言どおり、若い未熟な警官が本当にティーザー銃と間違えて撃ってしまったのかもしれない。
押さえつけられている被疑者を背中から撃てば、ただでは済まないのは誰にでも分かる事だ。
実際オスカーを撃ったJohannes Mehserleは職を失い、実際に服役した期間は短かったとは言え、有罪判決を受けているのである。
射殺した側にとっても、2009年1月1日は悪夢の記憶だろう。
もしもこの事件を別のアプローチで描くならば、あの一瞬に交錯した被害者と加害者、双方の関係者の24時間を描くという方法もありかもしれない。
まあ、そうすると「クラッシュ」になってしまうし、それは作者が意図する事ではないのだろうけど。

本作が描いているのは、いまだ明けきらぬ夜の様に、アメリカ社会の歪として存在する人種の壁。
そしてそれ以上に、オスカー・グラントとは何者だったのかという事である。
この種の差別絡みの事件が起こると、世論は善悪の二元論に陥りがちになる。
多くのメディアやSNSでは警官は悪魔の様な人種差別主義者に描写され、逆に被害者は聖人に祭り上げられる。
政治的な立場によっては、その逆もしかりだ。
事件に対する社会的な反応、コミュニティニ内在する問題の顕在化という点では、それも必要かもしれない。
しかし事件そのものがフォーカスされるにしたがって、オスカーという青年はアイコン化され、彼の本当の記憶はそれぞれの立場の人々が作り上げる“物語”の中に塗り込められてしまう。
ライアン・クーグラーは、センセーショナルな事件の解釈からは距離を置き、最後の24時間を通じて一人の人間としてのオスカーと、彼の生きてきた世界を描く。
そこからどんなメッセージを受け取るかは、おそらく人によって異なるだろう。
しかし映画を観た人はきっと、いや決して忘れない。
サンフランシスコのベイエリアに、オスカー・グラントという、決して品行方正ではなかったが、平凡で心根の優しい男がいた事を。
そして彼の人生は、理不尽に奪われ、悲しみを抱えた人々が残された事を。
オスカー・グラントは、私であり、あなたであり、私たちの大切な誰かなのである。

今回は、長野県辰野町の小野酒造の「夜明け前 純米吟醸 生一本」をチョイス。
フルーティで柔らか、豊潤な米の味を存分に味わえる。
銘柄は島崎藤村の息子、島崎楠雄によって命名され「この名を使う以上は、命に代えても本物を追及する」という精神を表す。
この世界の夜は、もしかしたら人間が存在する限り永遠に明けないのかも知れない。
それでもいつか夜が明けると信じて、少しずつ、少しずつ歩み続けるしか道はないのだろう。
ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね



スポンサーサイト


コメント
この記事へのコメント
こんにちは。
>事件が起こったフルートベール駅も良く知っているし、オスカーが働いていたスーパー、Farmer Joe's は何度も行った事がある

わ、そうなんですね。
それはそれは、、、、

それにしても度々警察の不祥事というか、差別的行為や悪行が映画のなかでもとりあげられますが
本当に酷いですね、人の日常なので映画化では淡々と綴られますがラストの方はちょっと急な展開にびっくりしました。
突然あんな風に捕まえて、、、、、
母親のオクタビアスペンサーも良かったですね。

2014/03/26(水) 11:18:26 | URL | mig #-[ 編集]
こんばんわ
何かこの映画は怖かったです。
アメリカから見れば我々日本人も有色人種。つまりはオスカー・グラントと同じ立場にいる人種。
そう思うと、こういう恐怖と背中合わせで生きる一日がとても大事に思えてきますね。
2014/03/26(水) 23:55:39 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
こんばんは
>migさん
オクタビア・スペンサー演じる母親の心痛も重いですよね。
自分が電車で行ったほうが良いと言ってしまったがために、息子が死んでしまったのですから、いかに偶然の出来事とは言え割り切れないと思います。
こういう事件は関わった全員が不幸になってしまうのが・・・・

>にゃむばななさん
権力の暴力なんて日本の脱原発デモでも起こっているし、一度異端のレッテルを貼られると人種以外のことでも暴力の原因になりますからね。
必ずしもアメリカだから起こった事件ではなく、普遍性があるからリアリティを感じるのでしょう。
2014/03/30(日) 18:44:37 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
フルートベール駅で(2013 アメリカ) 原題   FRUITVALE STATION 監督   ライアン・クーグラー 脚本   ライアン・クーグラー 撮影   レイチェル・モリソン 編集   クローディア・S・カステロ マイケル・P・ショーヴァー 音楽   ルートヴィッヒ・ヨーランソン 出演   マイケル・B・ジョーダン メロニー・ディアス       オクタヴィア・ス...
2014/03/26(水) 00:41:20 | 映画のメモ帳+α
フルートベール駅でFruitvale Station/監督:ライアン・クーグラー/2013年/アメリカ さよならも言えぬままに 試写で鑑賞。公開は2014年3月21日です。 実際の事件を元にしていますので、概要の時点でネタバレになりますね。 あらすじ:理由なく殺された黒人青年の最後の一日。 22歳の黒人青年オスカー(マイケル・B・ジョーダン)は、大晦日を普通に過ごしていた...
2014/03/26(水) 09:42:27 | 映画感想 * FRAGILE
2013年のサンダンス映画祭で、作品賞と観客賞Wで受賞 (正直、サンダンスもカンヌで選ばれるものもあまり好みじゃないこと多いけど) 2009年1月1日にアメリカ・サンフランシスコで実際に起こった射殺事件を題材に 主人公オスカーの最後の一日を追った作品 。 ...
2014/03/26(水) 10:14:13 | 我想一個人映画美的女人blog
信じ難い悲劇。これが現代アメリカの恐ろしさ。 2009年1月1日に無抵抗のまま警察に射殺された22歳の黒人青年オスカー・グラントの最後の一日を描き、第29回サンダンス映画祭で作品 ...
2014/03/26(水) 23:58:09 | こねたみっくす
映画『フルートベール駅で』はサンダンス映画祭作品賞&観客賞→カンヌ他でも受賞とい
2014/04/01(火) 22:15:33 | 大江戸時夫の東京温度
 2009年1月1日未明、サンフランシスコ郊外のフルートベール駅で、無抵抗の黒人青年オスカー・グラントさんが、白人警察官に射殺される事件がありました。その事件を、同世代(27歳)の黒人監督が見事に映画化。ただ声高に叫ぶのではなく、淡々と描いているのが、かえっ…
2014/04/27(日) 08:10:42 | 映画好きパパの鑑賞日記
 FRUITVALE STATION  サンフランシスコに住むアフリカ系青年オスカー・グラント(マイケル・B・ジョー ダン)は、前科はあるが気のいい好青年。遅刻癖のために解雇されたり、浮気 症がもとで恋人と諍いがあったりと、人生に多少の問題はあるものの、彼は娘 を持つよき父であった。2008年の大晦日、そんな彼が凶弾に倒れる。  アメリカで実際に起こ...
2014/04/30(水) 15:38:21 | 真紅のthinkingdays
2009年1月1日、22歳の黒人青年が警察官に銃で撃たれて死亡した事件を基に映画化し、映画祭や賞レースを席巻したドラマ。新年を迎えようという12月31日、家族や友人といつもの日常を過ごす青年の姿を描き、突然この世から去った彼の運命の残酷さやはかなさを浮き上がらせる...
2014/05/16(金) 13:13:52 | パピとママ映画のblog
14-34.フルートベール駅で■Fruitvale Station■製作年、国:2013年、アメリカ■上映時間:85分■料金:1,800円■観賞日:4月12日、新宿武蔵野館(新宿) □監督・脚本:ライアン・クーグラー◆マイケル・B・ジョーダン◆オクタヴィア・スペンサー◆メロニー・デ...
2014/05/18(日) 12:23:02 | kintyre's Diary 新館
10日のことですが、映画「フルートベール駅で」を鑑賞しました。 試写会にて 2009年1月1日、サンフランシスコのフルートベール駅で22歳の黒人青年オスカー・グラントが 警察官に銃で撃たれて死亡した事件を基にしたストーリー もはや悲劇となるストーリー、ラスト しか...
2014/06/16(月) 00:33:44 | 笑う社会人の生活
「フルートベール駅で」(原題:FruitvaleStation)は、2013年公開のアメリカのドラマ映画です。2009年1月1日、サンフラシスコのフルートベール駅で22歳の丸腰の黒人青年が鉄道警官に射殺さ...
2015/11/22(日) 00:48:45 | 楽天売れ筋お買い物ランキング