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パタパタ・・・・・評価額1650円
2014年04月22日 (火) | 編集 |
この残酷で美しき世界。

海鮮料理店の水槽に囚われた一匹のサバが、海に帰ろうと奮闘する姿を描く長編CGアニメーション。
メインキャラクターは、ほとんどカリカチュアされていないリアルな魚たち。
しかもミュージカル仕立てという、韓国インディーズアニメーション界が放った超シュールな異色作だ。
窮屈な水槽と故郷の海を隔てるのはたった一枚のガラスだけだが、この僅か数ミリによって世界は永遠に分かたれる。
イ・デヒ監督が作り上げたのは、小さな水槽の中で展開する生と死の葛藤、そして絶望とその先にある希望の物語だ。
タイトルの「パタパタ(파닥파닥)」は、魚たちが常に“パタパタ”と動き回るサバにつけた呼び名。
※核心部分に触れています。

次々と魚が水揚げされる漁港。
網にかかったサバのパタパタ(キム・ヒジョン)は多くの仲間たちと共に、港の海鮮料理店に卸される。
水槽ではボスであるオールドヒラメ(ヒョン・ギンス)が、アナゴやアイナメら他の魚たちを支配していた。
彼らは、人間の前では死んだふりをする事で、何とか生き残っているのだ。
しかし、パタパタはそんな死を先送りするだけの生き方を受け入れず、海に帰る希望を捨てない。
店は海からほんの数メートルしか離れておらず、水槽の向こうには懐かしい風景が広がっているのだ。
毎日、仲間たちが活け造りにされ、人間たちに食べられるのを目の当たりにしながら、必死に脱出を試みるサバの姿は、いつしか魚たちの心を変えてゆく・・・・


魚が主人公のアニメーションと言っても、決して「ファインディング・ニモ」の様な愉快で楽しい映画を連想してはいけない。
あの映画にも観賞魚の水槽から脱出するエピソードがあったが、こちらは同じ水槽でも料理店のイケス。
魚目線で見れば、そこは正しくアウシュビッツの様な絶滅収容所である。
リアルな魚たちが、首を落とされ、内蔵を引き抜かれ、生きたまま刺身に捌かれるのだから、スプラッター以外の何物でもない。
おまけに子供の悪戯でクマノミ(ニモにしか見えない!)の水槽に入れられたサバが、クマノミを食べてしまう描写すらあるのだ。
大人ですら本作の鑑賞後には刺身を食べるのに抵抗を感じてしまうのだから、子供の頃に観たら魚料理がトラウマ化することは確実である。

本作における水槽の中は、人間社会のメタファーと言って良いだろう。
この小さな世界は、昼の間は水槽の底の蓋の下に隠れ、夜になると出てくる古株のオールドヒラメの下、ヒエラルキーによって支配されている。
ナンバー2はヒラメの腰ぎんちゃくである狡猾なアナゴ、最下位の地位にある若いアイナメは、毎夜ヒラメの権威を高めるために繰り返される理不尽なクイズの罰ゲームとして、他の魚から尾びれを食べられるという苛めに苦しんでいる。
養殖所育ちの彼らは、海生まれで、死んだふりによって人間の手を逃れる術を教えたヒラメを崇拝しているのである。
だがパタパタと呼ばれる新参者のサバは、そんな彼らの消極的な生に染まることを拒否する。
たとえ今日死んだふりで生き残ったとしても、明日、明後日、その先の未来は?
単に死を先延ばしするだけなら、たとえ過去に誰も成功した者がなかったとしても、脱出して海に帰る事を諦めない。
最初悪あがきにしか思っていなかった他の魚たちも、パタパタの必死の挑戦を見ているうちに少しずつ心を動かされてゆく。
やがて、水槽の支配者である頑ななヒラメにも変化が。

皆には海育ちと言っているヒラメも、本当は養殖所の生まれで海を知らない。
死んだふりを教えてくれた恋人は、遠い昔に彼を救って自分は人間に殺されてしまったのだ。
以来ずっと絶望を抱えて生きてきたヒラメは、決して諦めないパタパタを見ているうちに、彼女に対する反発とは裏腹に、心の奥底に封印してきた自由への渇望を目覚めさせてしまう。
どんな状況でも希望を持ち続けるパタパタに対して、既に絶望しているヒラメはアンチテーゼであり、二匹の葛藤の相互作用によってジンテーゼが導き出される。
物語の構造的に言えば、テーマを体現しているのはタイトルロールのパタパタよりもむしろヒラメであり、彼こそが本当の主人公と考えて良いだろう。
パタパタとヒラメの運命が交錯し、劇的な展開を見せるクライマックスは、それまでの伏線も上手く機能して大いに盛り上がる。
観客はいつしか晩御飯のオカズたちに感情移入し、彼らの運命に手に汗握り、最後には喝采すら送りたくなるのだから素晴らしい。

アニメーション表現的に感心したのは、魚たちの目の表現だ。
前記した様に、本作の世界観は非常に写実的で、魚たちも非常にリアルに造形されおり、それ故に我々の日常の片隅にある異世界としての水槽という設定が生きている。
唯一魚の目だけアニメーション的なカリカチュアがなされており、クルクルとよく動く瞳によって、魚たちの感情のかなりの部分が伝わってくるのだ。
瞳のないキャラクターの感情表現のむずかしさは、例えば「攻殻機動隊」のバトーの表情を見てもわかるが、本作は目の演技だけでも演出センスを感じさせる。
また唐突に入ってくる手描きのミュージカルパートも、ぶっちゃけ意図はよく分からないものの、インパクトは絶大。
とにかくこれがやりたいんだ~!という作り手の熱が伝わってくるし、ラストカットの意匠もこの部分があるから生きてくるとも言えるので、一つの見せ場としてアリだと思う。
まあ、こういったシュールさを含めて、好き嫌いははっきり分かれる作品だろうが、少なくとも世界のアニメーション史上で、他に似た作品のないオンリーワンの一本であることは間違いない。
大変な力作であり、意欲作である。

この作品がインディーズで作られ、それがCJの配給で劇場公開されるとは、韓国アニメーション界のサブカルパワー恐るべし。
しかし隣国で本作や「豚の王」といった挑戦的な長編インディーズアニメーションが作られているのに、どれも日本で正式公開に至らないのはまことに残念だ。
本作は韓国現代アニメーションを紹介する「花開くコリア・アニメーション」で鑑賞できたが、一般公開のめどは立っていないと聞く。
もちろん売りにくい作品であることは間違いなのだが、この壮絶なまでの情念渦巻く作家性にはスクリーンに惹きこまれる引力がある。
そういえば「豚の王」のヨン・サンホ監督の新作、「サイビ」や来年公開の次回作、「ソウル駅」も日本ではどうなるのか。
勇気ある配給会社の方々、単館でもいいから是非一般劇場での公開を!
ちなみに「花開くコリア・アニメーション」は5月31日と6月1日に名古屋でも開催されるので、当面はこれが日本で本作をスクリーンで観られるラストチャンスとなる様だ。

今回は、刺身に合う日本酒を(苦
島根県の地酒、池月酒造の「誉池月 燗専辛口 純米酒」をチョイス。
常温で飲んでも美味しいが、やはり燗専というくらいなのでぬる燗で飲むのがおすすめ。
辛口の中に感じられる旨さが増幅して感じられ、日本海の海の幸をいただきながら飲むとこれ以上の幸せはない。
ごめんねパタパタ。でもやっぱり刺身はやめられないわ!
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