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ショートレビュー「ぼくを探しに・・・・・評価額1600円」
2014年08月09日 (土) | 編集 |
失われた記憶を探して。

実写とアニメーションの違いは、前者は有から有を、後者は無から有を作り上げる芸術と表せるだろう。
私は両方の世界で仕事をした経験があるが、実写とアニメーションの監督のどちらが大変かと問われれば、アニメーションだと思う。
なぜなら実写は最低限俳優がいて、実景があれば、その中で何が起こるのかを演出すれば良いのに対して、制作体制にもよるが、アニメーションは全てを作家の頭の中にデザインし、スタッフに具体的な指示を与えなければ、ただ一枚の画も生まれて来ないからである。
極論すれば実写は現実のアレンジであり、アニメーションは現実の創造と言えるかもしれない。
だから、それぞれの表現は本質的に全く異なり、作り手に要求される資質もノウハウも別だ。
なかには二つの世界をクロスオーバーし、活躍する作り手もいるが、実写からアニメーションの世界へと転進した人物は少なく、逆は比較的多いという事実もアニメーション制作の困難さを物語っていると思う。

ティム・バートン、ブラッド・バード、ジャン=ピエール・ジュネ、日本では昨年「はじまりのみち」を発表した原恵一監督らが代表的だろうか。
実写へと転進したアニメーション作家の作品には、総じてデザイン性の高さと、ロジカルで寓話的な構成という特徴がある。
逆に実写でありながらも、極端にデザインされた箱庭的作品を作り続けているウェス・アンダーソンが、「ファンタスティックMr.FOX」でアニメーションを撮ったのも必然であったと思う。
むしろ、なぜ彼が実写を撮っているのか不思議なくらいだ。
そして、そんな個性的な面々の隊列に新たに加わったのがシルヴァン・ショメ。
「ベルヴィル・ランデヴー」や「イリュージョニスト」で知られるフレンチ・アニメーションを代表する大物は、2006年の「パリ、ジュテーム」の一編「エッフェル塔」で実写デビューしているが、今回は初の長編作品である。

主人公は、幼い頃に事故で両親を亡くしたショックで、言葉を失ったピアニストのポール。
彼はアパートの秘密部屋(?)に住む魔女的キャラクターの不思議なおばさん、マダム・プルーストに導かれ、封印された記憶を探して、自らの心の秘密を巡る旅に出る。
本作はマルセル・プルーストの「失われた時を求めて」にインスパイアされているらしく、なるほどマダム・プルーストの名前や、彼女の依頼者を過去へと誘うハーブティーとマドレーヌなどのアイテムにもそれは見て取れる。
もっとも、物語的にはピアニストとして活動するポールが、同居する二人の伯母の目を盗んでマダムの部屋へと通い、徐々に自分の記憶を封じ込めている、両親の死の真相に向き合ってゆくプロセスが繰り返されるだけで、特に奇をてらった物ではない。

やはり本作を特徴付けるのは、アニメーション作家ならではの、徹底的に作りこまれた映像設計である。
冒頭のベビーカーの赤ちゃん目線から、両親と出かけた海岸での奇妙なミュージカル、幻想と現実の境界を越えて出現するカエルたちのバンドのコワカワイイ描写など、誰が観てもショメの作品とわかるイメージの数々は、観客の目を捕らえて離さない。
エキセントリックなキャラクターや、彩度の高いカラフルな映像は、どことなくジュネっぽくもあるが、観終わるとやはり切なさがドラマの隠し味となっている違った個性と感じられる。
深い悲しみに耐えられず、両親の愛の記憶と共に自らを無意識という牢獄に閉じ込めてしまったポールは、真実を受け入れて、ようやく本当の人生を歩きだす。
「ぼく」を取り戻したポールの時間が再び進みはじめ、時の輪が繋がるラストのイメージは鮮やかの一言である。
ちなみに、アニー伯母さんを演じるベルナデット・ラフォンはこれが遺作の一つ。
彼女への哀悼が込められたシーンがクレジット後にあるから、席を立たないで見届けて欲しい。

今回は、美しいルビー色のカクテル「パリジャン」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、クレーム・ド・カシス15ml、ドライ・ベルモット15mlをステアしてグラスに注ぐ。
爽やかな口あたりのジンが、クレーム・ド・カシスとドライ・ベルモットの濃厚な色と香りにやわらかく溶け込んでゆく。
やや甘めで、アペリティフとしてよく飲まれる一杯だ。
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