2014年09月30日 (火) | 編集 |
ラストサムライのプライドと宿命。
幕末の桜田門外の変で主君・井伊直弼を目の前で殺され、仇討を命じられた男と、襲撃者一党の中でただ一人、明治の世まで生き残った男。
時代に取り残されたラストサムライたちの、13年に及ぶ武士の誇りと人間としての生き方を巡る物語だ。
監督は「沈まぬ太陽」の若松節朗。
過酷な運命に生きる彦根藩士・志村金吾を中井貴一、水戸浪士・佐橋十兵衛 を阿部寛が演じる。
丁寧に作られた大人の時代劇であり、地味ながらじんわりと心に沁みる秀作だ。
原作は浅田次郎の短編集「五郎治殿御始末」 に収められている一編で、これは昔読んだことがあるが、実に上手く脚色していたと思う。
方向性としては物語のエッセンスは維持し、世界観を広げる事で二人の男の葛藤を掘り下げてゆくというもの。
誰もが駆け足で未来へと進む明治にありながら、もうどこにも無い江戸に生き、武士としての矜恃を捨てない、いや捨てることの出来ない男たちの悲哀。
しかし変化する事を禁じられた彼らの姿を通して、近代化、合理化の掛け声と共に日本人が失ってゆくアイデンティティが良く見えるのである。
ラスト30分の流れは、台詞も含めて原作とほぼ同じ。
桜田門外の変から13年後、明治6年2月7日の明治政府が仇討ち禁止令を発布した日、二人は遂に出会う。
名前を変え、車引きに身をやつしてひっそりと生きてきた十兵衛の車に、降りしきる雪の夜に金吾が乗り込んでくる。
お互いに相手が何者かは、以心伝心でうすうす分っており、ここからのクライマックスはある意味で苦しみを共有した13年間、心に抱えた本当の気持ちを少しずつ吐露する心理劇。
足場の悪い中車を引き続ける十兵衛が、自分を仇と狙う金吾に背を向けている事による緊張感はよく出ていた。
それぞれの大義のために自らの命を賭して、ひたむきに生きた二人は似た者同士。
刀と魂の激突の末に、十兵衛の中に自分を見た金吾は、ようやく本当の意味で忠義を果たし、武士の本懐を遂げるのである。
基本男たちの物語だが、金吾の妻・せつ役の広末涼子が素晴らしい演技をしている。
十兵衛との宿命の対決を終えた金吾に、ずっと封じてきた本音をぶつけ、物語を締める役割を果たすのは彼女なのである。
金吾にとっての寒椿とか、せつにとってのミサンガとか、おのおのに設定されたアイテムを上手く葛藤の解消の象徴として使っているのも印象深い。
もっともミサンガは元々アフリカにルーツを持つビーズのアクセサリだったはずで、あの時代に既に編み紐状のものがあったのかは疑問。
この辺り、気になる人には引っかかる部分だろう。
明治初頭が舞台で、過去に囚われたサムライたちの話というモチーフは、奇しくも同時期公開の「るろうに剣心」と同じで、テーマ的にもかなり通じるものがある。
あちらは思いっきりアクションに振って若々しく斬新、こちらは重厚な正統派人間ドラマ。
アプローチは違えど、どちらも見応えある素晴らしき日本映画である。
共にヒットしてくれれば嬉しいのだけど。
このいぶし銀の作品にはやはり日本酒。
東京の地酒である小澤酒造の「澤乃井 純米大辛口」をチョイス。
大辛口には本醸造もあるが、ちょっと尖がりすぎてギスギスした味わいに感じてしまう。
この純米版もかなり尖った感じだが、適度に角がとれて飲みやすくなっている。
これからの季節はぬる燗で飲むのも良いだろう。
記事が気に入ったらクリックしてね
幕末の桜田門外の変で主君・井伊直弼を目の前で殺され、仇討を命じられた男と、襲撃者一党の中でただ一人、明治の世まで生き残った男。
時代に取り残されたラストサムライたちの、13年に及ぶ武士の誇りと人間としての生き方を巡る物語だ。
監督は「沈まぬ太陽」の若松節朗。
過酷な運命に生きる彦根藩士・志村金吾を中井貴一、水戸浪士・佐橋十兵衛 を阿部寛が演じる。
丁寧に作られた大人の時代劇であり、地味ながらじんわりと心に沁みる秀作だ。
原作は浅田次郎の短編集「五郎治殿御始末」 に収められている一編で、これは昔読んだことがあるが、実に上手く脚色していたと思う。
方向性としては物語のエッセンスは維持し、世界観を広げる事で二人の男の葛藤を掘り下げてゆくというもの。
誰もが駆け足で未来へと進む明治にありながら、もうどこにも無い江戸に生き、武士としての矜恃を捨てない、いや捨てることの出来ない男たちの悲哀。
しかし変化する事を禁じられた彼らの姿を通して、近代化、合理化の掛け声と共に日本人が失ってゆくアイデンティティが良く見えるのである。
ラスト30分の流れは、台詞も含めて原作とほぼ同じ。
桜田門外の変から13年後、明治6年2月7日の明治政府が仇討ち禁止令を発布した日、二人は遂に出会う。
名前を変え、車引きに身をやつしてひっそりと生きてきた十兵衛の車に、降りしきる雪の夜に金吾が乗り込んでくる。
お互いに相手が何者かは、以心伝心でうすうす分っており、ここからのクライマックスはある意味で苦しみを共有した13年間、心に抱えた本当の気持ちを少しずつ吐露する心理劇。
足場の悪い中車を引き続ける十兵衛が、自分を仇と狙う金吾に背を向けている事による緊張感はよく出ていた。
それぞれの大義のために自らの命を賭して、ひたむきに生きた二人は似た者同士。
刀と魂の激突の末に、十兵衛の中に自分を見た金吾は、ようやく本当の意味で忠義を果たし、武士の本懐を遂げるのである。
基本男たちの物語だが、金吾の妻・せつ役の広末涼子が素晴らしい演技をしている。
十兵衛との宿命の対決を終えた金吾に、ずっと封じてきた本音をぶつけ、物語を締める役割を果たすのは彼女なのである。
金吾にとっての寒椿とか、せつにとってのミサンガとか、おのおのに設定されたアイテムを上手く葛藤の解消の象徴として使っているのも印象深い。
もっともミサンガは元々アフリカにルーツを持つビーズのアクセサリだったはずで、あの時代に既に編み紐状のものがあったのかは疑問。
この辺り、気になる人には引っかかる部分だろう。
明治初頭が舞台で、過去に囚われたサムライたちの話というモチーフは、奇しくも同時期公開の「るろうに剣心」と同じで、テーマ的にもかなり通じるものがある。
あちらは思いっきりアクションに振って若々しく斬新、こちらは重厚な正統派人間ドラマ。
アプローチは違えど、どちらも見応えある素晴らしき日本映画である。
共にヒットしてくれれば嬉しいのだけど。
このいぶし銀の作品にはやはり日本酒。
東京の地酒である小澤酒造の「澤乃井 純米大辛口」をチョイス。
大辛口には本醸造もあるが、ちょっと尖がりすぎてギスギスした味わいに感じてしまう。
この純米版もかなり尖った感じだが、適度に角がとれて飲みやすくなっている。
これからの季節はぬる燗で飲むのも良いだろう。

記事が気に入ったらクリックしてね
![]() 澤乃井 純米大辛口 1800ml |
スポンサーサイト
この記事へのコメント
こんちは。
気になったのでミサンガをぐぐったら、諸説あるけど有力なのはブラジル起源とありました。ブラジルはポルトガルの植民地なので繋がりはある。一方、ブラジルってポルトガル人の運んだ伝染病で現地人がバタバタ死んで、その労働力の穴埋めにアフリカ人を充てたりしたらしいので、元々はアフリカってのもありなのかもしれない。無駄にワールドワイドすぎる設定だ。
気になったのでミサンガをぐぐったら、諸説あるけど有力なのはブラジル起源とありました。ブラジルはポルトガルの植民地なので繋がりはある。一方、ブラジルってポルトガル人の運んだ伝染病で現地人がバタバタ死んで、その労働力の穴埋めにアフリカ人を充てたりしたらしいので、元々はアフリカってのもありなのかもしれない。無駄にワールドワイドすぎる設定だ。
2014/10/01(水) 09:46:34 | URL | ふじき78 #rOBHfPzg[ 編集]
>ふじきさん
もともとビーズの装身具をお守りとするのはアフリカの習慣なのです。
ブラジルに連れて来られたアフリカ人の間で、切れたら願いが叶うという現在のミサンガの意味づけが生まれた様ですが、いつビーズが編み紐になったのかは海外サイトで調べてもわかりませんでした。
わりと最近じゃないかなあと思ってるんですが。
日本に広まったのはJリーグと同じ頃ですねー。
もともとビーズの装身具をお守りとするのはアフリカの習慣なのです。
ブラジルに連れて来られたアフリカ人の間で、切れたら願いが叶うという現在のミサンガの意味づけが生まれた様ですが、いつビーズが編み紐になったのかは海外サイトで調べてもわかりませんでした。
わりと最近じゃないかなあと思ってるんですが。
日本に広まったのはJリーグと同じ頃ですねー。
2014/10/01(水) 11:21:15 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
柘榴坂の仇討@松竹試写室
2014/10/01(水) 20:59:59 | あーうぃ だにぇっと
□作品オフィシャルサイト 「柘榴坂の仇討」 □監督 若松節朗□脚本 高松宏伸、飯田健三郎、長谷川康夫□原作 浅田次郎□キャスト 中井貴一、阿部 寛、広末涼子、中村吉右衛門、高嶋政宏■鑑賞日 9月20日(土)■劇場 TOHOシネマズ川崎■cyazの満足度 ★★★★(5...
2014/10/02(木) 21:25:24 | 京の昼寝〜♪
『鉄道員(ぽっぽや)』など数多くの著作が映画化されてきた人気作家・浅田次郎による短編集「五郎治殿御始末」所収の一編を映画化した時代劇。主君のあだ討ちを命じられた武士の不器用な生きざまを通し、幕末から明治へと時代が激変する中、武士として、人としての誇りと覚...
2014/10/03(金) 10:52:07 | パピとママ映画のblog
映画『柘榴坂の仇討』は、実に正統派の中品(大作と小品の間ぐらい)時代劇。浅田次郎
2014/10/03(金) 23:20:53 | 大江戸時夫の東京温度
安政7年(1860年)3月3日。 「桜田門外の変」で、大老・井伊直弼の命を奪われた警護役の彦根藩士・志村金吾は、切腹も許されず、主君の仇討を果たせとの藩命を受ける。 それから13年の時が経ち、時代は明治へと移ったが、金吾は未だに仇を追い続けている。 一方、井伊家の菩提寺の前で手を合わせる、俥引きの男がいた…。 ヒューマンドラマ。 ≪「仇討ヲ禁ズ」―その日、運命が動いた≫
2014/10/04(土) 20:59:27 | 象のロケット
2014年・日本/木下グループ=デスティニー 配給:松竹 監督:若松節朗 原作:浅田次郎 脚本:高松宏伸、飯田健三郎、長谷川康夫 撮影:喜久村徳章 音楽:久石 譲 製作統括:木下直哉 企画:小滝祥平、
2014/10/06(月) 00:43:47 | お楽しみはココからだ~ 映画をもっと楽しむ方法
柘榴坂=ざくろざか
当ブログにしては珍しく(笑)、時代劇。
どうせオーソドックスな展開なんだろうとと思いきや、時代が幕末→明治。
ていうか、この事件がそのきっかけに?な桜田門外の変。
この事件によって、重要課題を仰せつかっていた主人公。
この時代の大変...
2014/10/13(月) 10:30:58 | 日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜
評価:★★★☆【3.5点】(11)
すでにスルー作品と決めていたが、台風の影響でどこにも行けず
2014/10/13(月) 16:39:33 | 映画1ヵ月フリーパスポートもらうぞ〜
『柘榴坂の仇討』を渋谷シネマパレスで見ました。
(1)中井貴一と阿部寛が出演するというので映画館に行ってきました(注)。
本作(注1)では、1860年に起きた「桜田門外の変」の後日談が描かれます。
桜田騒動(注2)の際、命にかけても主君・井伊掃部頭(中村...
2014/10/13(月) 21:19:30 | 映画的・絵画的・音楽的
浅田次郎原作、短編集「五郎治殿御始末」収録の時代短編小説を、「沈まぬ太陽」の若松節朗監督、中井貴一×阿部寛主演で映画化。 浅田次郎ファンを自称する小生だが、残念ながら原作は未読…のはずなのに、部屋の本棚を見ると、なぜか普通に置いてあった(笑)。アレおか
2014/10/15(水) 19:36:48 | 流浪の狂人ブログ〜旅路より〜
柘榴坂の仇討
'14:日本
◆監督:若松節朗「夜明けの街で」「沈まぬ太陽」
◆出演:中井貴一、阿部寛、広末涼子、高嶋政宏、真飛聖、二代目中村吉右衛門、吉田栄作、堂珍嘉邦、近江陽一郎、木崎ゆりあ、藤竜也
◆STORY◆安政七年三月三日、江戸城桜田門外で大老の井...
2014/11/03(月) 21:46:31 | C’est joli〜ここちいい毎日を♪〜
【概略】
安政七年(1860年)。彦根藩士・志村金吾は、時の大老・井伊直弼に仕えていたが、雪の降る桜田門外で水戸浪士たちに襲われ、眼の前で主君を失ってしまう。両親は自害し、妻セツは酌婦に身をやつすも、金吾は切腹も許されず、仇を追い続ける。時は移り、彦根藩も既に無い13年後の明治六年(1873年)、ついに金吾は最後の仇・佐橋十兵衛を探し出す。しかし皮肉にもその日、新政府は「仇討禁止令」を布告...
2015/05/16(土) 09:28:53 | いやいやえん
柘榴坂の仇討
主君の仇を追い続ける男と、
暗殺者の中で最後まで生き残り、
武士を捨て孤独に生きる男の邂逅を描く...
【個人評価:★★☆ (2.5P)】 (自宅鑑賞)
原作:浅田次郎 短編集『五郎治殿御始末』に収録
2015/08/20(木) 02:16:27 | cinema-days 映画な日々
久々の日本映画を・・・
浅田次郎の原作による<柘榴坂の仇討>・・・
桜田門外の変にまつわる仇討をめざす男と、その仇の男との13年間が、江戸から明治へと移り変わる激動の時代を背景に描かれます。
江戸城桜田門外で大老の井伊直弼が襲撃され殺害される。
主君を守り切れなかった彦根藩近習・志村金吾。
切腹を願い出るが聴き入れられず、必ず仇を討てとの藩命が下される。
やがて、...
2015/11/16(月) 23:56:16 | 黄昏のシネマハウス
"柘榴坂の仇討 "
[柘榴坂の仇討]
先日、BSテレ東で放映していた『柘榴坂の仇討』を観ました。
-----story-------------
「浅田次郎」の同名短編時代小説を『壬生義士伝』の「中井貴一」と『テルマエ・ロマエ』の「阿部寛」主演で映画化。
江戸から明治へと時代が大きく変わる中、武士の矜持を捨てることなく、桜田門外の変で失った主君「井伊直弼」の仇を追い続ける男と、...
2022/04/12(火) 21:03:47 | じゅうのblog
| ホーム |