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ジミー、野を駆ける伝説・・・・・評価額1600円
2015年01月24日 (土) | 編集 |
自由の風は止まず。

英国の良心、巨匠ケン・ローチ監督の最新作は、1930年代のアイルランドを舞台に、既得権者の支配に立ち向かった活動家、ジミー・グラルトンの闘いを描くヒューマンドラマだ。
カソリック教会が絶大な力をふるい、様々な政治勢力と結びついて人々の生活を規制してきたアイルランド社会を、自由で独立した大衆のものとしようとするジミーたちの活動は、必然的に大きな葛藤を引き起こす。
時代背景的には、2006年に公開され高い評価を得た「麦の穂をゆらす風」とほぼ同じで、あちらがアイルランド独立戦争からその後の内戦で戦った兵士を描く“動”の映画だとしたら、これはその裏側の市井の人々の闘争を描く“静”の映画として、ちょうど対になるような作品だ。

1920年代、アイルランドの片田舎。
ジミー・グラルトン(バリー・ウォード)は、有志たちと共に村に小さなホールを作る。
彼らは自分たちの土地に自分たちの力で建てたホールを、音楽や文学、美術などの様々な活動を通した住民たちの娯楽と学びの場としてゆく。
しかし彼らの活動は、伝統的に人民の指導者を自認する教会のシェリダン神父(ジム・ノートン)の逆鱗に触れる。
教会と結託した保守的な層からの様々な弾圧に晒され、ついにジミーはアメリカへと逃れざるをえなくなる。
10年後、ようやく帰郷を果たしたジミーは、年老いた母と静かに生きてゆくつもりだったが、村の若者たちに熱望され、閉鎖されていたホールの再開を決意。
嘗ての仲間たちも再び集い、アメリカ仕込みのジャズダンスのパーティや、文化教室も復活させる。
だがそれは、教会に代表される既得権者との再度の戦いの始まりだった・・・


1984年に公開されたアメリカ映画「フットルース」は、ケビン・ベーコン演じる高校生が、大都市シカゴからロックもダンスも禁止された、超保守的な田舎町に引っ越してくる所から始まる。
規制だらけの町に、都会育ちの主人公が新たな価値観を持ち込み、やがて若者たちは大人たちとの葛藤を深めながら、町のリーダー的存在である牧師との対話を通じて、ついに自由を勝ち取ると、盛大なプロムのダンスパーティーを開くのだ。
当時アメリで大ヒットした80年代を代表するダンスムービーだが、日本で本国ほど話題にならなかったのは、やはり教会が町を支配しロックやダンスを禁止するという宗教的な設定が、日本人にはピンと来なかった事が大きかったと思う。
実際、当時高校生だった私は、こんなマンガみたいな町がある訳がないと思ったのを覚えている。

ところが、映画はある程度極端にカリカチュアされているとしても、アメリカ中西部から南部にかけてのいわゆるバイブルベルトには、似たような社会が実際にあるのだ。
先日公開された、実際に起こった殺人事件の顛末を描く「デビルズ・ノット」では、ヘビメタを聞いて黒ずくめの服を着ているだけで、悪魔崇拝者呼ばわりされて、殺人鬼に仕立て上げられる少年が出てくるが、超保守の社会においてキリストは絶対であり、教会に従わないものは悪なのである。
もちろん本作とハリウッド製ダンスムービーは、国も時代も違うものの、物語の軸となる対立構造は実はよく似ている。
「フットルース」ではシカゴから、本作ではアメリカからと、主人公はどちらも外の世界からの新しい風を、閉鎖的な田舎町に吹き込む役回り。
そして主人公と直接対立し葛藤をぶつけ合うのは、キリスト教の聖職者だ。

本作に描かれるアイルランドでは、カソリック教会こそが村の中心にあって社会を統率する権威・権力の象徴で、伝統を変えないことをファーストプライオリティとする聖職者にとって、一番都合がいいのは無知で自分たちの言葉を盲信してくれる信徒だ。
そしてそれは教会だけでなく、従順な労働者を欲する資本家たちも、広大な土地を小作農に貸して、自らは悠々自適な生活を送る地主たちも同じ。
「麦の穂をゆらす風」では、イギリスとの独立戦争を共に戦った兄弟が、講和条約の条件を巡って勃発した内戦で敵味方となり殺し合うという悲劇が描かれたが、この時代のアイルランドは過渡期というか、およそ考え付く限りの理念がぶつかり合い、社会が深刻に分断されていた様なのである。
そして支配階級はもとより、大衆の中でも変化を嫌う層が拠り所としたのが、歴史と伝統に裏打ちされた教会という権威だったという訳だ。

彼らにとって、ジミーたちのホールは、単なる文化教室でもダンスパーティの会場でもない。
人々が教会の束縛を受けない独立した“城”を持ち、カソリックの教義に基づかない知識や文化を広めて行けば、教会の権威は下落し、いつの日か社会の中での指導的地位を失うだろう。
既成概念から自由となり、教会を核とした伝統的ムラ社会から独立し、自らの頭で考える大衆の出現は、教会にとっても、そこにくっ付いている権威主義的な層にとっても、既得権を奪う脅威に他ならない。
ローチは、教会内にもジミーたちと敵対するシェリダン神父と、一定の理解を示す若いシーマス神父という対照的な二人を配し、ステロタイプ的批判に陥る事を避けているが、シェリダン神父もまたジミーたちを軽蔑しているのではなく、彼らの勇気と信念を認めているからこそ、恐れるのである。

葛藤の舞台となる小さなホールは、教会vs大衆、ファシストvsコミュニスト、地主vs小作など、アイルランド社会の複雑な階級・理念の対立が集約された象徴だ。
教会との和解を模索し、シェリダン神父にホールの運営委員会に加わって欲しいと申し入れるジミーに対し、神父は逆にホールの建物も運営権も全てを教会に譲渡せよと迫る。
これが、フィクションのハリウッド映画なら、最後はジミーと神父が和解し、皆がホールに集ってダンスを踊るのだろうが、実話である本作の帰結する先は何ともビターだ。
どこまでも服従を求める神父に、ジミーが投げかける言葉が印象深い。
「あなたの心には愛よりも憎しみの方が多い」「あなたは、跪く者しか愛さない」
80年前の遠い国の話だが、支配を欲する権力と、自由を欲する人々の葛藤構図は今も、どの社会でも本質的には変わらない。
そして、小さな革命は潰されたとしても、一度人々の心の中を吹き抜けた自由の風は、決して止める事は出来ないのである。

豊かなアルコール文化を持つアイルランド。
今回は世界的な知名度を持つ、この国を代表する黒スタウト「ギネス・エクストラ・スタウト」をチョイス。
1759年にアーサー・ギネスがダブリンのセント・ジェームズ・ゲート醸造場で創業して以来、そのクリーミーな泡は250年以上にわたって、世界中にファンを増やしてきた。
面白いのは缶ビールにフローティング・ウィジェットなる小さなプラスチックのボールが封入されている事で、これによって缶ビールでも独特の泡を実現しているのだとか。
ま、それでもやっぱり瓶の方が美味しいと思うけど。
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コメント
この記事へのコメント
ギネス!
こんにちは。あぁ、やっぱりこの作品にはこのビールですよね!
苦く、下に絡みつく味わい。ジミーの人生を象徴しているような気がします。
2016/01/17(日) 12:46:14 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんばんは
>ここなつさん
歴史あるお酒には、ドラマがくっついてますからね。
特にこれは実話ベースだから、ジミーたちも実際にギネスを飲んだんだろうなあと想像すると、より物語に親しみがわきます。
2016/01/18(月) 21:37:28 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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