2015年02月27日 (金) | 編集 |
巡りゆく命の四季。
雪に閉ざされた冬から、芽吹きの春へ。
東北のどこかにある、大自然に囲まれた小さな集落“小森”で、一人自給自足の生活を送るいち子の日常を描く、春夏秋冬四部作。
原作は、実際に東北の田舎に移住した五十嵐大介の同名漫画。
3年間農業をして暮らしたという作者の体験が反映された、半ドキュメンタリー的な作品だ。
一つの季節をほぼ一時間で描き、二本ずつまとめて公開するというユニークな企画で、半年前に公開された夏・秋編に続いて、今回は後半の冬・春編となり、いち子の一年が完結する。
前作からしてそうだったのだけど、本作はドラマ性が希薄。
一応、いち子自身の生き方や、居場所を巡る葛藤は設定されているし、五年前に突然失踪した母親の話などもあるのだけど、じゃあ彼女が物語の中で積極的に考えたり、苦悩したりしているかというと、少なくとも描写としてはほとんど無い。
だから劇中で幼馴染の三浦貴大が「いち子ちゃん、本当は逃げてるんじゃないのかな」とか言いだしても、なんとなく唐突感がある。
綿密に描かれた感情のつながり、少女が成長する筋立ての面白さみたいな、普通劇映画に大切とされるものは、本作には必要最小限しか存在しないのだ。
でも、不思議とスクリーンから目が離せない。
映画が描写するのは、育て収穫し料理して食う。
ぶっちゃけ、夏から春まで一年に渡って、ただそれだけを繰り返しているだけなのに、なぜこんなにもワクワク、ザワザワするのか。
他の映画とは、心の中の違う部分、普段映画を観ても触れられない部分を、絶妙に刺激されているような気がする。
それはたぶん、この四部作が一貫して描いていることが、生きる事に直結する“労働”だからだろう。
昨年の東京国際映画祭に出品されたグルジアの映画「コーンアイランド」は、冒頭20分にわたって台詞が無く、ただひたすら大地を開墾する老人の姿が描かれるのだが、このシークエンスの恐ろしく詳細な描写は、観る者の生物としての本能を刺激し、圧倒的な説得力があった。
本作に感じるザワザワした感覚も、おそらくは同質のものだと思う。
一見華奢ないち子の手からは、まるで魔法のように様々な食べ物が生み出される。
山里と同化し、生活に必要なあらゆるものを作ってしまういち子の生命力には、ロハスなんてヤワイ言葉とは似て非なる生物的な憧れがあり、だからいつもジャージ姿の橋本愛は、他のどの映画の彼女よりも官能的で美しい。
もっとも、ドラマ性が希薄とはいっても、ジャガイモパンに代表されるように、いち子の作っているものはより葛藤と結びつきを強め、母への想いと自分の立ち位置を巡る物語は、春編での意外な展開へとつながってゆく。
漫然とこのままの生活を続けていいのか、自分は本当にこの地に根を張って生きてゆきたいのだろうかという内面の問いと、自ら答えを求める青春の通過儀礼。
いち子の心に寄り添う瞬間が多くなる分、彼女の心を映し出す鏡として、三浦貴大や松岡茉優の役割も大きくなる。
まあ全ての葛藤が話の中で解消される訳ではないのだけど、本作の場合それは本質の一部でしかないので、このくらいで良いと思う。
人生は一見円に見えるけど、実は螺旋。
あらゆる命と同じく、いち子もまた小森でぐるぐると巡りながら、着実に今でないどこかへと歩んでゆくのである。
春夏秋冬を四部作で描くというフォーマットだけでなく、他に類似した作品が思い浮かばない、忘れ得ぬ独創の世界だ。
今回は、もう東北に近い北茨城の鴻巣市の地ビール、日本酒の菊盛で知られる木内酒造が作る「常陸野ネスト ホワイトエール」をチョイス。
伝統のベルギースタイルのライトな味わい。
ハーブの香りと小麦の酸味が胃を刺激し、飲めば飲むほどお腹が空いてくる。
夏に美味しいビールだけど、コタツやストーブでぬくぬくしながら、外の雪を眺めながらグイッとやっても絶品だ。
そういや今回もちょくちょく出てくるネコが可愛かったけど、あれはどうやらいち子が飼っているわけじゃなく、たまに遊びにくるご近所ネコなんだな。
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雪に閉ざされた冬から、芽吹きの春へ。
東北のどこかにある、大自然に囲まれた小さな集落“小森”で、一人自給自足の生活を送るいち子の日常を描く、春夏秋冬四部作。
原作は、実際に東北の田舎に移住した五十嵐大介の同名漫画。
3年間農業をして暮らしたという作者の体験が反映された、半ドキュメンタリー的な作品だ。
一つの季節をほぼ一時間で描き、二本ずつまとめて公開するというユニークな企画で、半年前に公開された夏・秋編に続いて、今回は後半の冬・春編となり、いち子の一年が完結する。
前作からしてそうだったのだけど、本作はドラマ性が希薄。
一応、いち子自身の生き方や、居場所を巡る葛藤は設定されているし、五年前に突然失踪した母親の話などもあるのだけど、じゃあ彼女が物語の中で積極的に考えたり、苦悩したりしているかというと、少なくとも描写としてはほとんど無い。
だから劇中で幼馴染の三浦貴大が「いち子ちゃん、本当は逃げてるんじゃないのかな」とか言いだしても、なんとなく唐突感がある。
綿密に描かれた感情のつながり、少女が成長する筋立ての面白さみたいな、普通劇映画に大切とされるものは、本作には必要最小限しか存在しないのだ。
でも、不思議とスクリーンから目が離せない。
映画が描写するのは、育て収穫し料理して食う。
ぶっちゃけ、夏から春まで一年に渡って、ただそれだけを繰り返しているだけなのに、なぜこんなにもワクワク、ザワザワするのか。
他の映画とは、心の中の違う部分、普段映画を観ても触れられない部分を、絶妙に刺激されているような気がする。
それはたぶん、この四部作が一貫して描いていることが、生きる事に直結する“労働”だからだろう。
昨年の東京国際映画祭に出品されたグルジアの映画「コーンアイランド」は、冒頭20分にわたって台詞が無く、ただひたすら大地を開墾する老人の姿が描かれるのだが、このシークエンスの恐ろしく詳細な描写は、観る者の生物としての本能を刺激し、圧倒的な説得力があった。
本作に感じるザワザワした感覚も、おそらくは同質のものだと思う。
一見華奢ないち子の手からは、まるで魔法のように様々な食べ物が生み出される。
山里と同化し、生活に必要なあらゆるものを作ってしまういち子の生命力には、ロハスなんてヤワイ言葉とは似て非なる生物的な憧れがあり、だからいつもジャージ姿の橋本愛は、他のどの映画の彼女よりも官能的で美しい。
もっとも、ドラマ性が希薄とはいっても、ジャガイモパンに代表されるように、いち子の作っているものはより葛藤と結びつきを強め、母への想いと自分の立ち位置を巡る物語は、春編での意外な展開へとつながってゆく。
漫然とこのままの生活を続けていいのか、自分は本当にこの地に根を張って生きてゆきたいのだろうかという内面の問いと、自ら答えを求める青春の通過儀礼。
いち子の心に寄り添う瞬間が多くなる分、彼女の心を映し出す鏡として、三浦貴大や松岡茉優の役割も大きくなる。
まあ全ての葛藤が話の中で解消される訳ではないのだけど、本作の場合それは本質の一部でしかないので、このくらいで良いと思う。
人生は一見円に見えるけど、実は螺旋。
あらゆる命と同じく、いち子もまた小森でぐるぐると巡りながら、着実に今でないどこかへと歩んでゆくのである。
春夏秋冬を四部作で描くというフォーマットだけでなく、他に類似した作品が思い浮かばない、忘れ得ぬ独創の世界だ。
今回は、もう東北に近い北茨城の鴻巣市の地ビール、日本酒の菊盛で知られる木内酒造が作る「常陸野ネスト ホワイトエール」をチョイス。
伝統のベルギースタイルのライトな味わい。
ハーブの香りと小麦の酸味が胃を刺激し、飲めば飲むほどお腹が空いてくる。
夏に美味しいビールだけど、コタツやストーブでぬくぬくしながら、外の雪を眺めながらグイッとやっても絶品だ。
そういや今回もちょくちょく出てくるネコが可愛かったけど、あれはどうやらいち子が飼っているわけじゃなく、たまに遊びにくるご近所ネコなんだな。

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