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サンドラの週末・・・・・評価額1650円
2015年05月20日 (水) | 編集 |
世界が変わる、三日間。

「息子のまなざし」「少年と自転車」など、ハードかつリリカルな人間ドラマで知られる、ベルギーの異才、ジャン=ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟の最新作。
主人公のサンドラは、ある週の金曜日に会社から解雇通告を受ける。
彼女が失業を免れる唯一の方法は、同僚たちがボーナスを受け取る事を諦め、彼女の雇用継続を希望すること。
はたして人々は彼女のために、文字通り身銭を切ってくれるのか
週末の三日間に、人生の逆転をかけた小さな旅に出る、サンドラを演じるマリオン・コティヤールが圧倒的に素晴らしい。
※核心に触れています。

うつ病による体調不良で休職中のサンドラ(マリオン・コティヤール)は、復職を目前にした金曜日に、突然の解雇を告げる電話を受ける。
厳しい経済状況の中、社員たちに1人当たり1000ユーロのボーナスを支給するには、1人をリストラしなければならならず、社員投票で彼女の解雇が決まったという。
しかしサンドラの家庭も、飲食店に勤める夫は薄給で、今の暮らしを維持するには彼女の稼ぎが必要だ。
一方的な通告に納得できないサンドラは社長に直談判し、週明け月曜に再度の社員投票を行い、もしも過半数が彼女に賛成するなら、ボーナスの支給を無くし、解雇を撤回するという言質をとる。
投票する社員は16人なので、9人がサンドラの側につけば、失業を免れる。
サンドラは夫のマニュ(ファブリツィオ・ロンジォーネ)の助けを借りて、週末の二日間で一人ひとりを訪ね歩き説得しようとするのだが・・・・・


何とも厳しい映画である。
EUの労働法規は良く知らないが、常識的には誰を雇用し誰を解雇するかの判断は、経営者の仕事であり責任のはず。
こんな風に“仲間か金か”を社員自身に選ばせるような、残酷な投票の仕組みは実際に合法なのだろうか?

映画の視点はずっとサンドラに寄り添うが、彼女の立場では理不尽な解雇でも、同僚から見れば必ずしもそうではない。
彼女が休職している間、仕事が滞りなく回せてしまった事で、彼女は必ずしも必要の無い人材であることが分かってしまっているのだ。
彼らの賃金に関して詳しい説明はないものの、アジア勢との熾烈な価格競争に苦しむ欧州製造業の下層にある中小企業。
映画に登場する皆が日々の生活に追われている様子からして、おそらく1000ユーロ(135000円)のボーナスは、かなり魅力的であるに違いない。


サンドラが闘うか諦めるかの決断を常に迫られるのと同様に、彼女が訪ねてまわる同僚たちも、仲間か金かという岐路に立たされているのである。
そしてそれは、観客も同様だ。
もしも自分がサンドラだったら、あるいは投票する同僚だったら、いったいどうするだろうか?
彼女の立場なら、何もしなければそのまま失業だが、たとえ投票で過半数を味方につけて復職を勝ち取っても、ボーナスを奪われた一部同僚との関係悪化は確実で、どっちに転んでも待っているのは地獄。
それぞれの事情を抱えた同僚たちも、良心から彼女を支持してくれる者いれば、経済的理由で明確に断る者、中には居留守を使って会ってくれない者もいる。
同僚の金と引き換えに復職を願う事は、サンドラにとってもプライドを捨てる覚悟が必要で、支持してくれる人に背中を押され、不支持の人には冷水を浴びせられるシーソーゲームのプレッシャーに、寛解していたうつ病の症状も再び悪化し、危うい精神状態に追い込まれてゆく。


サンドラと夫が、同僚の家をただただ訪ね回る、孤独で厳しい週末ロードムービーは、ある意味普遍的な人間社会と人生の縮図である。

同僚の社員たちも、名前や人種から東欧系やアフリカ系など移民が多いのが分かる。

また彼女を支持する人の中にも、色々な想いが渦巻いている。
例えば最初の投票の時に、サンドラの解雇に賛成するよう、上司の管理職から圧力があったと説明されるのだが、どうもこの話は眉唾であったことが次第に明らかになる。
圧力が無かったとしたら、誰かが保身のために嘘をついているのだが、これが誰の嘘なのかは最後まで説明されない。
状況次第で誰もが嘘をつくかもしれず、つかないかも知れず、嘘をついた者を特定すればその嘘は普遍性を失うからだろう。

ダルデンヌ兄弟はしかし、週末の間に複雑に拗れてしまったサンドラの世界を、そのまま情け容赦なく放り出すような事はしない。
厳しい現実の中でギリギリまで葛藤した彼女は、少なくとも生き方のプライオリティを確立し、人間として大きく成長している。
金曜日のサンドラと、月曜日のサンドラは、もはや別の人なのだ。
だからこそ彼女は、運命の社員投票とその後突き付けられた究極の選択に対して、あらゆる可能性の中で、人間として最良の決断を下し、未来への希望を確固たるものにする事が出来たのである。

サンドラの過酷な週末に何を観て、何を受け取るかは、観る人によって違うそうだが、身内の揉め事が表に出る事をタブー視し、自分の都合で他人に迷惑をかけることを極端に嫌う日本社会では、サンドラの葛藤への共感は少なそうな気がする。

ちょっと味わいたくない週末を描いた、ダルデンヌ兄弟はベルギーの人ということで、今回は代表的なベルギービールの一つ、「ヒューガルデン・ホワイト」をチョイス。
原材料にオレンジピールとコリアンダーを含み、スパイシーでフルーティな清涼感が特徴のホワイトビール。
苦味が弱く比較的ライトな味わいで、ベルギービールは重くて苦手という人にもお勧めできる。
週末を引きずる月曜日の夜、仕事終わりに飲むにはピッタリだ。
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