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※noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
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2015年07月21日 (火) | 編集 |
カナシミはなぜ必要なのか。
ピクサー・アニメーションスタジオが、史上初の長編3DCGアニメーション「トイ・ストーリー」を発表し、映画史に革命を起こしたのは1995年のこと。
いまやCGは、アニメーション表現のメインストリームとしてすっかり定着している。
そして、20周年という記念すべきアニバーサリーイヤーに、15本目の長編作品としてピクサーが送り出すのが、人間の心をキャラクター化した「インサイド・ヘッド」だ。
人生の新たなステップを上がる少女ライリーの物語と、彼女の脳内で繰り広げられる冒険が同時進行する意欲作である。
監督を務めるのは、「モンスターズ・インク」や「カールじいさんの空飛ぶ家」で知られ、「トイ・ストーリー」の生みの親の一人にして、ピクサー屈指のストーリーテラーであるピート・ドクター。
彼自身の子育て経験から生まれた作品は、最高に面白くて野心的。
大人たちは親目線で、子供たちはライリーや彼女の心のキャラクターたちにどっぷり感情移入して楽しめる、上質なエンターテイメントである。
※核心部分に触れています。
ミネソタに住むライリーは11歳。
アイスホッケーが大好きな快活な女の子だ。
彼女の頭の中の司令部では、5つの感情たち、ヨロコビ、カナシミ、ムカムカ、ビビリ、イカリが、彼女を幸せにすべく毎日奮闘中。
ところがある時、パパの新しい仕事の都合で、一家はサンフランシスコに引っ越すことに。
自然豊かな田舎街で育ったライリーにとって、常春の大都会は未知の世界。
新しい生活に馴染めずに戸惑っている時、脳内の司令部ではひょんなことからヨロコビとカナシミが行方不明になってしまう。
2つの感情を失って、友だちや家族とも衝突するライリーは、ミネソタへ家出する事を決意する。
はたしてヨロコビとカナシミは、彼女の心が壊れてしまう前に司令部へと帰れるのだろうか・・・・
本作の最大の特徴は、思春期を迎えようとしている少女の感情をキャラクター化し、感情の冒険物語を通して心の成長を描いている事。
もっとも、心のキャラクター化は過去にもいくつか例がある。
つい先日公開された日本の実写ラブコメ「脳内ポイズンベリー」では、恋に揺れる真木ようこの脳内が、やはり5つの感情による会議室として映像化されていた。
同様のアイディアは1990年代のテレビのコメディ「Herman’s Head」にも見られるが、私の知る限りでは、人間の心をキャラクターとして描いた元祖は、1943年のディズニーの短編アニメーション「理性と感情(Reason and Emotion)」である。
これは人間の脳内で、理性さんと感情さんが主導権を巡ってせめぎ合う話だが、戦時中の映画だけにヒトラーの演説が感情を増長させ理性が委縮する描写が含まれるなど、かなり啓蒙的な内容。
しかし、最初は感情しかいない赤ちゃんの脳内に、後から理性が生まれる展開、デザインと色による心のキャラクターの描き分け、目を窓とし脳内をコックピットに見立てる演出など、おそらくは本作に大きな影響を与えたルーツともいえる作品だろう。
本作でキャラクター化されたのは、ベーシックな5つの感情、ヨロコビ(Joy)、カナシミ(Sadness)、ムカムカ(Disgust)、ビビリ(Fear)、イカリ(Anger)。
このうちライリーの誕生と同時に存在したのがヨロコビ、ついでカナシミが登場し、ライリーの成長と共に他の感情が次々と現れたということになっている。
しかし感情のリーダーであるヨロコビは、カナシミの存在理由が理解できない。
例えばムカムカは、嫌なものを拒否するために必要で、ビビリはライリーの安全を守っていて、イカリはストレスを吐き出すのに役に立つ。
ではカナシミは?カナシミは何のためにいるのだろう?ライリーが幸せになるためには、常にヨロコビを感じるだけでいいのではないか?
11歳の女の子の頭の中を描くというアイディアは、ピート・ドクター自身の経験から生まれたもの。
ドクターにはニックとエリーという二人の子供がいるのだが、特に愛娘のエリーは彼の映画と不可分の関係だ。
「モンスターズ・インク」でマイクとサリーを振り回す女の子ブー、「カールじいさんの空飛ぶ家」で幼少期のカールが生涯の恋に落ちる少女エリー、そして本作のライリーのキャラクターには、現実のエリー・ドクターの成長過程が反映されている。
なんでも、彼女が11歳の誕生日を迎えたころに“全てが変わった”のだそうだ。
「カールじいさん」のエリーは、実際に同名の彼女が声優を務めているが、あの映画のようにエネルギッシュでドジで快活だったエリーが、いつしか物静かで照れ屋で人目を気にする少女になり、時として感情を爆発させることも。
未来への希望と不安をリアルに意識できるようになり、大人になりたい欲求と子供のままでいたい気持ちが同居する不安定な年齢。
思春期の入り口に立ち、急速に今までとは異なる複雑な人間になって行く娘を見て、ドクターは「彼女の頭の中で、何が起こっているのだろう?」と、本作を発想したのだという。
物語の冒頭でライリーと家族が暮らしているのは、ドクターの故郷でもあるミネソタ州の片田舎。
アメリカ中西部の北端、カナダとの国境に位置し、冬場は氷点下40度を記録することもある寒い土地だ。
自然豊かで広大なミネソタから、少女が引っ越してくるのは西海岸のサンフランシスコ。
ピクサーの本拠地でもあるサンフランシスコ・ベイエリアの中心地は、平地が狭く丘陵地の半島に無理やり碁盤の目状の街を作った過密都市。
おまけに何かと先進的なムーブメントが大好きで、ラジカルにトンがった人々が全米一多いエリアでもある。
生まれ育った大らかな風土とは180度異なる環境の変化、それまでの暮らしが全て“思い出”となってしまったという事実は、ライリーの心に大きなプレッシャーをもたらし、それが脳内司令部からヨロコビとカナシミが放り出されるという事故につながる。
最新の脳科学や心理学の研究に基づいているという、ライリーの脳内世界が面白い。
中心には感情たちがいる司令部のタワーがあり、その周りには忘れられた思い出が捨てられる深い谷がドーナツ状に取り巻いていて、落ちると二度と出られない。
そして谷の対岸には、ライリーの人格を形作る5つの“島”がある。
例えば“家族の島”や“友情の島”“ホッケーの島”など、彼女にとって価値あるものが島の形で形成されていて、心のその部分が刺激されることで、島は次第に大きく複雑に育ってゆく。
逆に関心を失うと、壊れてしまうのだ。
島のさらに向こうには、巨大な迷宮のような思い出の長期保管庫と、寝ている時の夢を作るスタジオ、潜在意識の恐怖を封印する場所などがあり、司令部とは鉄道によって結ばれている。
意識を抽象化する工場で、キャラクターがキュビズムみたいになるのには笑かしてもらった。
複雑な脳の機能を、まるでテーマパークの様なワクワクする世界観に仕上げたセンスに脱帽。
司令部では、感情たちがライリーの直面するシチュエーションに応じて、それぞれの担当に分かれて対応する。
嬉しい事が起こるとヨロコビが、気に入らない時はムカムカやイカリがボタンを押すと、思い出が色違いのボールとなって作られる。
このうち、“特別な思い出”は司令部にあるケースに収納されているが、残りの思い出はダクトを通って思い出の長期保管庫に送られる。
ところが新生活の混乱の中、特別な思い出のボールを守ろうとして、ヨロコビとカナシミがダクトに吸い込まれ、長期保管庫の迷路に放り出されてしまう。
感情のうち、もっとも重要な2つがいなくなったのだから、当然ながら司令部は大混乱し、ライリーの心は制御を失って暴走してゆく。
このあたりの描写には、不思議なリアリティがあって、「もしかしたら自分の頭の中でも同じような感情たちがいたりして?」と想像すると可笑しい。
一方、ヨロコビとカナシミは、思い出の迷宮でライリーの幼い頃の“空想の友だち”であるビンボンと出会い、彼の助けを借りながらなんとか司令部に帰ろうとする。
この冒険を通じたヨロコビの成長が、現実世界でのライリーの成長とシンクロするのだ。
当初カナシミの存在する意味がわからず、疎ましくさえ思っていたヨロコビは、特別な思い出がなぜ特別なのか、ヨロコビの裏側にあるカナシミの意味を知る。
人生はヨロコビばかりじゃない。
もちろんライリーにとっても、今までもそうだったし、これからもそうだけど、子供時代には楽しいことだけを覚えていたかった。
でも生きていればカナシミにしか、涙を流すことでしか癒せないこともあるし、悲しいと思う感情を抑えつけてばかりいたら、いつか心は壊れてしまう。
ライリーにとって、ヨロコビだけを大切にする時期はもう終わり、カナシミを感じるからこそ、ヨロコビがより深い意味を持つことに気づきつつある。
何かを失うことは新たな出会につながり、失敗は次なる成功への機会に他ならない。
それは、彼女と感情たちにとって、思春期という全く新しい経験への入り口だ。
11歳のライリーには、これからまだまだ人生の膨大な時間が待っている。
ビンボンに象徴される子供時代の思い出はいつか消えるが、そのころに培った想像力のエネルギーは彼女の心の成長を後押しし、決して無駄にはならない。
脳内が描かれるのはライリーだけではなく、パパやママ、はては犬や猫の脳内指令部まで出てきて、あるあるネタに抱腹絶倒。
ママの指令部でのやり取りとか、完全に大人のギャグなんだけど、これ子供に突っ込まれたらしどろもどろになりそう(笑
それぞれの脳内で、リーダーのポジションにいるのが誰かも注目ポイントだ。
まあパパもママも人生いろいろあった結果、ああなってるんだろうけど、やっぱり子どもの司令部ではヨロコビがリーダーでいてほしい。
エンドロール中の一文“this film is dedicated to our kids. please don't grow up. ever.”に親としてのピート・ドクターの想いが込められているように思う。
「カールじいさん」の時も思ったけど、この人は最高のお父さんだな。
ちなみに私が最初に観たのは吹替え版だったが、幼い子供達がキャラクターに感情移入して、ビンボンとの別れとか悲しいシーンになると声をあげて泣いていたのが印象的だった。
あの子たちの心は、まさに映画と一緒に成長していたのだな。
その後すぐに英語版を鑑賞したが、改めて吹替え版が非常に細かいところまで、映像や設定を含めてローカライズされていた事に驚かされる。
吹替え版も素晴らしい出来で子どもと行くならコッチも良いと思うが、英語版を観ると台詞からちょっとした表示まで、語彙がいかに丁寧に選ばれているかに感動。
劇中にポランスキーの「チャイナタウン」に引っ掛けたさりげないギャグがあるのだけど、これは英語版じゃないと分からないだろう。
さすがにアメリカでも若い客には通じないネタだと思うが、ピート・ドクターの作品は楽しいだけじゃなく、本当に知的なのである。
同時上映の短編「南の島のラブソング(LAVA)」は、なんと火山島を丸ごとキャラ化。
脳内という極小と極大のコントラストというわけか(笑
愛するものが欲しいと歌う古い孤島と、その歌に惹かれて噴火する若い島を描く切なくてロマンチックな御伽噺。
ペアの島というシチュエーションは、2013年に新島が噴火し、元からあった島と融合してしまった小笠原の西之島を思い出した。
制作時期的に、もしかしたらこのニュースからインスパイアされているのかも。
今回は短編のハワイアンなムードから、ハワイの地ビール「コナ ビッグウェーブ ゴールデンエール」をチョイス。
ハワイ島に1994年に生まれた比較的若い銘柄で、南国のビールらしくスッキリしていてフルーティ。
苦みは抑えられており、とても飲みやすい。
コナはボトルラベルのデザインも魅力だが、これも名前のとおりビッグウェーブが描かれていて涼しげでオシャレ。
海に沈む夕日を見ながら、ハワイアン・ミュージックの音色と共に楽しみたい。
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ピクサー・アニメーションスタジオが、史上初の長編3DCGアニメーション「トイ・ストーリー」を発表し、映画史に革命を起こしたのは1995年のこと。
いまやCGは、アニメーション表現のメインストリームとしてすっかり定着している。
そして、20周年という記念すべきアニバーサリーイヤーに、15本目の長編作品としてピクサーが送り出すのが、人間の心をキャラクター化した「インサイド・ヘッド」だ。
人生の新たなステップを上がる少女ライリーの物語と、彼女の脳内で繰り広げられる冒険が同時進行する意欲作である。
監督を務めるのは、「モンスターズ・インク」や「カールじいさんの空飛ぶ家」で知られ、「トイ・ストーリー」の生みの親の一人にして、ピクサー屈指のストーリーテラーであるピート・ドクター。
彼自身の子育て経験から生まれた作品は、最高に面白くて野心的。
大人たちは親目線で、子供たちはライリーや彼女の心のキャラクターたちにどっぷり感情移入して楽しめる、上質なエンターテイメントである。
※核心部分に触れています。
ミネソタに住むライリーは11歳。
アイスホッケーが大好きな快活な女の子だ。
彼女の頭の中の司令部では、5つの感情たち、ヨロコビ、カナシミ、ムカムカ、ビビリ、イカリが、彼女を幸せにすべく毎日奮闘中。
ところがある時、パパの新しい仕事の都合で、一家はサンフランシスコに引っ越すことに。
自然豊かな田舎街で育ったライリーにとって、常春の大都会は未知の世界。
新しい生活に馴染めずに戸惑っている時、脳内の司令部ではひょんなことからヨロコビとカナシミが行方不明になってしまう。
2つの感情を失って、友だちや家族とも衝突するライリーは、ミネソタへ家出する事を決意する。
はたしてヨロコビとカナシミは、彼女の心が壊れてしまう前に司令部へと帰れるのだろうか・・・・
本作の最大の特徴は、思春期を迎えようとしている少女の感情をキャラクター化し、感情の冒険物語を通して心の成長を描いている事。
もっとも、心のキャラクター化は過去にもいくつか例がある。
つい先日公開された日本の実写ラブコメ「脳内ポイズンベリー」では、恋に揺れる真木ようこの脳内が、やはり5つの感情による会議室として映像化されていた。
同様のアイディアは1990年代のテレビのコメディ「Herman’s Head」にも見られるが、私の知る限りでは、人間の心をキャラクターとして描いた元祖は、1943年のディズニーの短編アニメーション「理性と感情(Reason and Emotion)」である。
これは人間の脳内で、理性さんと感情さんが主導権を巡ってせめぎ合う話だが、戦時中の映画だけにヒトラーの演説が感情を増長させ理性が委縮する描写が含まれるなど、かなり啓蒙的な内容。
しかし、最初は感情しかいない赤ちゃんの脳内に、後から理性が生まれる展開、デザインと色による心のキャラクターの描き分け、目を窓とし脳内をコックピットに見立てる演出など、おそらくは本作に大きな影響を与えたルーツともいえる作品だろう。
本作でキャラクター化されたのは、ベーシックな5つの感情、ヨロコビ(Joy)、カナシミ(Sadness)、ムカムカ(Disgust)、ビビリ(Fear)、イカリ(Anger)。
このうちライリーの誕生と同時に存在したのがヨロコビ、ついでカナシミが登場し、ライリーの成長と共に他の感情が次々と現れたということになっている。
しかし感情のリーダーであるヨロコビは、カナシミの存在理由が理解できない。
例えばムカムカは、嫌なものを拒否するために必要で、ビビリはライリーの安全を守っていて、イカリはストレスを吐き出すのに役に立つ。
ではカナシミは?カナシミは何のためにいるのだろう?ライリーが幸せになるためには、常にヨロコビを感じるだけでいいのではないか?
11歳の女の子の頭の中を描くというアイディアは、ピート・ドクター自身の経験から生まれたもの。
ドクターにはニックとエリーという二人の子供がいるのだが、特に愛娘のエリーは彼の映画と不可分の関係だ。
「モンスターズ・インク」でマイクとサリーを振り回す女の子ブー、「カールじいさんの空飛ぶ家」で幼少期のカールが生涯の恋に落ちる少女エリー、そして本作のライリーのキャラクターには、現実のエリー・ドクターの成長過程が反映されている。
なんでも、彼女が11歳の誕生日を迎えたころに“全てが変わった”のだそうだ。
「カールじいさん」のエリーは、実際に同名の彼女が声優を務めているが、あの映画のようにエネルギッシュでドジで快活だったエリーが、いつしか物静かで照れ屋で人目を気にする少女になり、時として感情を爆発させることも。
未来への希望と不安をリアルに意識できるようになり、大人になりたい欲求と子供のままでいたい気持ちが同居する不安定な年齢。
思春期の入り口に立ち、急速に今までとは異なる複雑な人間になって行く娘を見て、ドクターは「彼女の頭の中で、何が起こっているのだろう?」と、本作を発想したのだという。
物語の冒頭でライリーと家族が暮らしているのは、ドクターの故郷でもあるミネソタ州の片田舎。
アメリカ中西部の北端、カナダとの国境に位置し、冬場は氷点下40度を記録することもある寒い土地だ。
自然豊かで広大なミネソタから、少女が引っ越してくるのは西海岸のサンフランシスコ。
ピクサーの本拠地でもあるサンフランシスコ・ベイエリアの中心地は、平地が狭く丘陵地の半島に無理やり碁盤の目状の街を作った過密都市。
おまけに何かと先進的なムーブメントが大好きで、ラジカルにトンがった人々が全米一多いエリアでもある。
生まれ育った大らかな風土とは180度異なる環境の変化、それまでの暮らしが全て“思い出”となってしまったという事実は、ライリーの心に大きなプレッシャーをもたらし、それが脳内司令部からヨロコビとカナシミが放り出されるという事故につながる。
最新の脳科学や心理学の研究に基づいているという、ライリーの脳内世界が面白い。
中心には感情たちがいる司令部のタワーがあり、その周りには忘れられた思い出が捨てられる深い谷がドーナツ状に取り巻いていて、落ちると二度と出られない。
そして谷の対岸には、ライリーの人格を形作る5つの“島”がある。
例えば“家族の島”や“友情の島”“ホッケーの島”など、彼女にとって価値あるものが島の形で形成されていて、心のその部分が刺激されることで、島は次第に大きく複雑に育ってゆく。
逆に関心を失うと、壊れてしまうのだ。
島のさらに向こうには、巨大な迷宮のような思い出の長期保管庫と、寝ている時の夢を作るスタジオ、潜在意識の恐怖を封印する場所などがあり、司令部とは鉄道によって結ばれている。
意識を抽象化する工場で、キャラクターがキュビズムみたいになるのには笑かしてもらった。
複雑な脳の機能を、まるでテーマパークの様なワクワクする世界観に仕上げたセンスに脱帽。
司令部では、感情たちがライリーの直面するシチュエーションに応じて、それぞれの担当に分かれて対応する。
嬉しい事が起こるとヨロコビが、気に入らない時はムカムカやイカリがボタンを押すと、思い出が色違いのボールとなって作られる。
このうち、“特別な思い出”は司令部にあるケースに収納されているが、残りの思い出はダクトを通って思い出の長期保管庫に送られる。
ところが新生活の混乱の中、特別な思い出のボールを守ろうとして、ヨロコビとカナシミがダクトに吸い込まれ、長期保管庫の迷路に放り出されてしまう。
感情のうち、もっとも重要な2つがいなくなったのだから、当然ながら司令部は大混乱し、ライリーの心は制御を失って暴走してゆく。
このあたりの描写には、不思議なリアリティがあって、「もしかしたら自分の頭の中でも同じような感情たちがいたりして?」と想像すると可笑しい。
一方、ヨロコビとカナシミは、思い出の迷宮でライリーの幼い頃の“空想の友だち”であるビンボンと出会い、彼の助けを借りながらなんとか司令部に帰ろうとする。
この冒険を通じたヨロコビの成長が、現実世界でのライリーの成長とシンクロするのだ。
当初カナシミの存在する意味がわからず、疎ましくさえ思っていたヨロコビは、特別な思い出がなぜ特別なのか、ヨロコビの裏側にあるカナシミの意味を知る。
人生はヨロコビばかりじゃない。
もちろんライリーにとっても、今までもそうだったし、これからもそうだけど、子供時代には楽しいことだけを覚えていたかった。
でも生きていればカナシミにしか、涙を流すことでしか癒せないこともあるし、悲しいと思う感情を抑えつけてばかりいたら、いつか心は壊れてしまう。
ライリーにとって、ヨロコビだけを大切にする時期はもう終わり、カナシミを感じるからこそ、ヨロコビがより深い意味を持つことに気づきつつある。
何かを失うことは新たな出会につながり、失敗は次なる成功への機会に他ならない。
それは、彼女と感情たちにとって、思春期という全く新しい経験への入り口だ。
11歳のライリーには、これからまだまだ人生の膨大な時間が待っている。
ビンボンに象徴される子供時代の思い出はいつか消えるが、そのころに培った想像力のエネルギーは彼女の心の成長を後押しし、決して無駄にはならない。
脳内が描かれるのはライリーだけではなく、パパやママ、はては犬や猫の脳内指令部まで出てきて、あるあるネタに抱腹絶倒。
ママの指令部でのやり取りとか、完全に大人のギャグなんだけど、これ子供に突っ込まれたらしどろもどろになりそう(笑
それぞれの脳内で、リーダーのポジションにいるのが誰かも注目ポイントだ。
まあパパもママも人生いろいろあった結果、ああなってるんだろうけど、やっぱり子どもの司令部ではヨロコビがリーダーでいてほしい。
エンドロール中の一文“this film is dedicated to our kids. please don't grow up. ever.”に親としてのピート・ドクターの想いが込められているように思う。
「カールじいさん」の時も思ったけど、この人は最高のお父さんだな。
ちなみに私が最初に観たのは吹替え版だったが、幼い子供達がキャラクターに感情移入して、ビンボンとの別れとか悲しいシーンになると声をあげて泣いていたのが印象的だった。
あの子たちの心は、まさに映画と一緒に成長していたのだな。
その後すぐに英語版を鑑賞したが、改めて吹替え版が非常に細かいところまで、映像や設定を含めてローカライズされていた事に驚かされる。
吹替え版も素晴らしい出来で子どもと行くならコッチも良いと思うが、英語版を観ると台詞からちょっとした表示まで、語彙がいかに丁寧に選ばれているかに感動。
劇中にポランスキーの「チャイナタウン」に引っ掛けたさりげないギャグがあるのだけど、これは英語版じゃないと分からないだろう。
さすがにアメリカでも若い客には通じないネタだと思うが、ピート・ドクターの作品は楽しいだけじゃなく、本当に知的なのである。
同時上映の短編「南の島のラブソング(LAVA)」は、なんと火山島を丸ごとキャラ化。
脳内という極小と極大のコントラストというわけか(笑
愛するものが欲しいと歌う古い孤島と、その歌に惹かれて噴火する若い島を描く切なくてロマンチックな御伽噺。
ペアの島というシチュエーションは、2013年に新島が噴火し、元からあった島と融合してしまった小笠原の西之島を思い出した。
制作時期的に、もしかしたらこのニュースからインスパイアされているのかも。
今回は短編のハワイアンなムードから、ハワイの地ビール「コナ ビッグウェーブ ゴールデンエール」をチョイス。
ハワイ島に1994年に生まれた比較的若い銘柄で、南国のビールらしくスッキリしていてフルーティ。
苦みは抑えられており、とても飲みやすい。
コナはボトルラベルのデザインも魅力だが、これも名前のとおりビッグウェーブが描かれていて涼しげでオシャレ。
海に沈む夕日を見ながら、ハワイアン・ミュージックの音色と共に楽しみたい。

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この記事へのコメント
「カナシミが何故必要なのか」みたいなテーマは正直当たり前すぎて、どう着地するのかが始まってすぐに読めてしまいました。
「まあ、11歳の子の頭の中ですからね」と最初と最後で二度同じ台詞が出てきますし。
まあ、そういうことですよね。
「まあ、11歳の子の頭の中ですからね」と最初と最後で二度同じ台詞が出てきますし。
まあ、そういうことですよね。
>とらねこさん
わたしが11歳のころはもうちょっとオバカだった気がしますw
カナシミの本当の意味はけっこう育ってから知ったかな・・・
わたしが11歳のころはもうちょっとオバカだった気がしますw
カナシミの本当の意味はけっこう育ってから知ったかな・・・
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喜びは、悲しみの先にある…
詳細レビューはφ(.. )
http://plaza.rakuten.co.jp/brook0316/diary/201507190000/
【楽天ブックスならいつでも送料無料】インサイド・ヘッド オリジナル・サウンドトラック [ (オ...価格:2,700円(税込、送料込)
インサイド・ヘッド ベーシックフィギュア カナシミ(ホ...
2015/07/22(水) 06:14:04 | 日々“是”精進! ver.F
住み慣れた大好きなミネソタから、友達もいない見知らぬ街サンフランシスコへ。 突然の引っ越しで11才の少女ライリーの心は不安定になり、ヨロコビとカナシミの感情が行方不明になってしまった! ライリーの幸せを守っている、頭の中の“5つの感情たち”―ヨロコビ、イカリ、ムカムカ、ビビリ、そしてカナシミは、心を閉ざしたライリーを、どうにかして救おうとするのだが…。 冒険ファンタジー。
2015/07/22(水) 08:16:42 | 象のロケット
映画 『インサイド・ヘッド(2D・日本語吹替版』 (公式)を昨日、劇場鑑賞。採点は飽くまで本編のみの評価(理由は本文にて)で ★★★★ ☆ (5点満点で4点)。100点満点なら80点にします。
ざっくりストーリー
11歳の少女ライリーは、父の仕事の都合で住み慣れたミネソタの田舎町から、大都会のサンフランシスコへ引っ越す。新た...
2015/07/22(水) 11:41:39 | ディレクターの目線blog@FC2
吹き替え版しかありませんでした。TOHOシネマズくずはモールにて。
・・・HEROが舞台挨拶で結構ながかったから焦ったよ〜〜。
ソッコーで食べて2本目。(;´∀`)
えっとね〜、他人の結婚式にでも迷い込んだような写真のオンパレードに
歌詞テロップつきのドリカムはちょ...
2015/07/22(水) 15:50:00 | ペパーミントの魔術師
【声の出演】
竹内 結子 (ヨロコビ)
大竹 しのぶ(カナシミ)
佐藤 二朗 (ビンボン)
【ストーリー】
田舎町に暮らす11歳の女の子ライリーは、父親の仕事の影響で都会のサンフランシスコに移り住むことになる。新しい生活に慣れようとするライリーの頭の中で...
2015/07/23(木) 00:53:37 | 西京極 紫の館
11歳の少女の頭の中を舞台に、喜び、怒り、嫌悪、恐れ、悲しみといった感情がそれぞれキャラクターとなり、物語を繰り広げるディズニー/ピクサーによるアニメ。田舎から都会への引っ越しで環境が変化した少女の頭の中で起こる、感情を表すキャラクターたちの混乱やぶつか...
2015/07/23(木) 19:17:56 | パピとママ映画のblog
『カールじいさんの空飛ぶ家』のピート・ドクター監督が創り上げたピクサーの最新アニメです。 感情を司る頭の中のキャラクターが冒険するって面白そうだなあと楽しみにしていました。 ヨロコビとカナシミの冒険は記憶や感情の複雑さを家族の思い出と共に描き出していました。
2015/07/25(土) 21:12:26 | とりあえず、コメントです
日本映画で同じようなバターンの「脳内ポイズンベリー」が先行し、話題に。
で、真打ち? ビクサーバージョン登場、で早々に観てきた。
その感想は…
まず、つかみはOK。
というのは出演陣が(写真)
喜びキャラ
哀しみキャラ
不安キャラ
怒りキャラ
嫌悪キ...
2015/07/26(日) 07:05:46 | 日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜
映画『インサイド・ヘッド』の原題は“Inside Out”。まあ、脳の裏側にいる
2015/07/27(月) 23:31:11 | 大江戸時夫の東京温度
インサイド・ヘッドInside Out/監督:ピート・ドクター/2015年/アメリカ
誰にでも共感される物語として成功できる理由について
TOHOシネマズ新宿 スクリーン4 G-9 2D字幕で鑑賞。
見たい映画はなるべく公開直後に行く派でしたが、諸々の事情により周回遅れとなりました。
あらすじ:環境が変わったらストレスでつらい。
11歳の少女ライリー(声:ケイトリン・ディ...
2015/07/28(火) 22:05:09 | 映画感想 * FRAGILE
□作品オフィシャルサイト 「インサイド・ヘッド」 □監督 ピート・ドクター、ロニー・デル・カルメン□脚本 ピート・ドクター□キャスト(声の出演) 竹内結子、大竹しのぶ、浦山迅、小松由佳、 落合弘治、伊集院茉衣、花輪英司、田中敦子、佐藤二朗■鑑賞...
2015/08/01(土) 07:08:59 | 京の昼寝〜♪
『インサイド・ヘッド』をTOHOシネマズ渋谷で見てきました。
(1)本作は、『脳内ポイズンベリー』を見た際に、アメリカでも類似の映画があるとして取り上げられていたことから、興味を持っていました。
字幕版だからいきなり本作が映し出されることになるのだろう、...
2015/08/07(金) 06:37:24 | 映画的・絵画的・音楽的
ヨロコビ、イカリ、ムカムカ、ビビリ、カナシミ、人の感情をそれぞれ一人のキャラクタ
2015/08/11(火) 19:35:21 | はらやんの映画徒然草
「もうそんな年じゃないから」と言う息子を半ば強引に連れ出して鑑賞。確かに主役の少女ライリーとほぼ同世代の息子にとっては、「もうそんな年じゃない」感が満載なのかも。背伸びのジェネレーションであるにも関わらず、一段上がって高見で見ることもできない。そう、これはむしろ子供を持った大人のあるあるネタなのかも。内容は極めて普通。「脳内ポイズンベリー」で学習済みなので、脳内での役割分担に新鮮な驚きもない...
2015/08/13(木) 12:51:47 | ここなつ映画レビュー
五つ星評価で【★★★ヨロコビとカナシミの冒険は終わった。めでたしめでたし。で、それでいいの? 何か一つ釈然としない】
吹替版で鑑賞。
上手い下手というより、役柄に合っ ...
2015/08/16(日) 23:27:09 | ふじき78の死屍累々映画日記
28日のことですが、映画「インサイド・ヘッド」を鑑賞しました。
少女ライリー、彼女の頭の中では「ヨロコビ」「カナシミ」「イカリ」「ムカムカ」「ビビリ」の5つの感情が。
ある時 誤ってヨロコビとカナシミが司令部の外に放りだされてしまい 急いで司令部に戻ろうと ...
2015/08/26(水) 21:34:20 | 笑う社会人の生活
INSIDE OUT
両親に慈しみ育てられた11歳のライリーは、アイスホッケーが大好きな、
明るくお茶目な少女。しかし生まれ育ったミネソタからサンフランシスコへ
引っ越すことになり、彼女の内面に変化が起こり始める。
毎夏恒例、ピクサーの新作アニメーション。本国でも当然のごとく大ヒット
&高評価らしく、めちゃめちゃ楽しみにしていました。そして当然です...
2015/09/08(火) 11:43:12 | 真紅のthinkingdays
【概略】
ミネソタを離れ、見知らぬ街・サンフランシスコで暮らし始めたライリーの心は不安定になってしまう。以来、彼女の頭の中の5つの感情のうち、ふたつをなくしてしまい…。
アニメーション
11歳の普通の女の子の頭の中に存在する感情たちが繰り広げる冒険ファンタジー。
喜び、悲しみ、怒り、不安、苛立ちなどの感情を、そういったキャラクターとして表現し、彼らが人間の言動を操作して...
2015/11/20(金) 08:22:22 | いやいやえん
INSIDE OUT
2015年
アメリカ
95分
ドラマ/ファンタジー/アニメ
劇場公開(2015/07/18)
監督:
ピート・ドクター
『カールじいさんの空飛ぶ家』
製作総指揮:
ジョン・ラセター
脚本:
ピート・ドクター
声の出演:
エイミー・ポーラー:ヨロコビ
フィリス・...
2016/01/06(水) 16:15:30 | 銀幕大帝α
原題:Inside Out
監督:ピート・ドクター
データ:ディズニー・ピクサーCGアニメ/2015年/アメリカ/94分
内容:11才の少女ライリーの頭の中の“5つの感情たち”─ヨロコビ、イカリ、ムカムカ、ビビリ、そしてカナシミ。
そんな感情たちは、頭の中の司令部で、ライリーを幸せにするため日々奮闘していた。
しかし、ある日とつぜん遠い街への引っ越しが決まり、世界は一変する...
2016/01/19(火) 22:41:08 | MASログ
「インサイド・ヘッド」(原題:InsideOut)は、2015年公開のアメリカのCGアニメ映画です。ピート・ドクター監督、ディズニー/ピクサー・アニメーション・スタジオにより冒険ファンタジ...
2016/01/28(木) 00:23:46 | 楽天売れ筋お買い物ランキング
11歳の女の子ライリーが愛情深い両親に育てられ、だけど、引っ越しによる転校デビューのつまづきから、家出を決意。
その時の、頭の中での、いろいろな感情が冒険を繰り広げる物語
ある意味で、引っ越しショックによる、ヨロコビとカナシミの冒険物語でしたね。
司令塔から、ヨロコビとカナシミを失った頭の中はどよよんとするばかり。ついにライリーは失意のあまり、家出を決意して…
個人的...
2016/05/10(火) 12:29:49 | のほほん便り
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