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わたしに会うまでの1600キロ・・・・・評価額1700円
2015年08月22日 (土) | 編集 |
人生は、ワイルドだ。

1995年の夏、アメリカ西部を縦断するパシフィック・クレスト・トレイルを、たった一人で三ヶ月間歩き続けたシェリル・ストレイドの自叙伝、「Wild: From Lost to Found on the Pacific Crest Trail」の映画化。
最愛の母の死をきっかけに、自暴自棄な生活に陥っていたシェリルは、自らの人生を取り戻すために、過酷な自然との闘いに身を投じる。
原作の出版より前に映画化権を取得し、自らプロデューサーとして本作を企画したリース・ウィザースプーンは、オスカーを獲得した「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」以来のキャリア・ベストの好演を見せ、 シェリルの人生に大きな影響を与える母・ボビーを演じるローラ・ダーンも素晴らしい。
監督は、「ダラス・バイヤーズ・クラブ」が記憶に新しいジャン=マクル・ヴァレ。
なんだか女子向けを強調するような脱力系の邦題がついているが、中身はけっこうハードな骨太の人間ドラマだ。
※ラストに触れています。

7年間の結婚生活に終止符を打った26歳のシェリル・ストレイド(リース・ウィザースプーン)は、厳しい大自然が待ち受けるパシフィック・クレスト・トレイルに足を踏み入れる。
どんなに辛い時でも、人生を楽しむ事を忘れなかった母のボビー(ローラ・ダーン)を亡くした後、シェリルは自堕落な生活を送り、自分の家庭を壊してしまった。
どん底から人生を取り戻すために、彼女はトレイルを三ヶ月かけて歩くという挑戦を決めたのだ。
だが自分以外誰もいない荒野を歩き始めると、すぐに「間違いだったかも」と後悔が頭を過ぎる。
灼熱の荒野、極寒の雪山、食糧不足、水不足といった予期せぬ困難が次々とシェリルを襲う。
はたして彼女は試練に打ち勝って、人生をリセットできるのだろうか・・・


メキシコ国境のカンポからカナダ領内のマニング・ピークまで、総延長は実に2650マイル。
アメリカ三大トレイルの一つ、パシフィック・クレスト・トレイルは、カリフォルニア、オレゴン、ワシントンの3州を南北に貫く。
一番南は灼熱のモハベ砂漠で、徐々に標高を上げながら、今度は4000メートル級の山々が連なるシエラネバダ山脈を通り、オレゴンに入るとクレーターレイク国立公園、カスケード山脈と広大な森林地帯がカナダまで続く。
本作の主人公、シェリルが辿るのは、モハベ砂漠からオレゴンとワシントンの州境を流れるコロンビア川にかかる鉄橋、“Bridge of the Gods”に至る、およそ1100マイルの遠大な道のりだ。

大自然の中を若い女性がたった一人でひたすら歩く、という物語はつい先日公開されたミア・ワシコウスカ主演の「奇跡の2000マイル」と被る。
実際、現在進行形の旅の行程をメインプロットとし、並行して主人公の過去の記憶が少しずつ描かれるというスタイルも似通っているが、アメリカとオーストラリアという舞台の違い同様に鑑賞後の印象はかなり異なっている。
ワシコウスカの演じたロビン・デヴィッドソンは元々野生児っぽく、じっくりと準備をして三頭のラクダとイヌを連れ、コンパスを頼りに広大なオーストラリアの砂漠の道なき道を行く。
過去の喪失体験が冒険への欲求の発端となっているのは両者共通だが、実際に旅に出る直接の動機も、ロビンの場合どちらかと言えば「そこに山があるから」的で、あまり切羽詰った感じはしない。
対して本作のシェリルは、人生どん底の元ジャンキーである。
母の突然の死のショックから立ち直れず、ドラッグに溺れた挙句セックス中毒に陥り、結婚生活も破綻させてしまった。
今のどうしようもない私は母が愛してくれた娘じゃない、もう一度自分自身を取り戻さなければ、人生を前に進められない、という強い衝動によってシェリルは冒険の旅に出る。

彼女にとって1100マイルの道程は、人生の縮図であり、自分が犯してきた罪に対する贖罪の旅でもある。
だからこそ、その道のりは過酷でなければならないのだが、シェリルはトレッキングの知識も経験もないド素人。
何が必要で何が不要なのかも分らず、ギュウギュウに詰め込んだ荷物は重すぎて、立ち上がることすら困難。
実話だし、実際にそうだったのだろうが、ひっくり返った亀の様に、荷物の重さに押し倒されてしまう描写は、そのまま彼女の人生を比喩しているように見えるのが面白い。
人生はシンプルが良いのは分っているが、本当に価値あるものごとを見極めるのは難しく、いつの間にか余計な重荷を沢山背負ってしまう。
しかし、最初のうちは口をついて出るのは愚痴ばかりだった彼女も、いつしかいっぱしの旅人のスキルを身につけ、どんどんとタフな女になってゆく。
アクシデントで靴を失っても、ダクトテープでサンダルを補強して何十キロも歩いてしまうほどだ。
この旅の中での成長過程と平行し、シェリルの過去が描かれる事で、なぜ彼女は歩き出さねばならなかったのか、心の中で何と向き合っているのかが徐々に明らかになってくる構造だ。

俳優たちの熱演を繊細に描写する、ジャン=マクル・ヴァレの演出の妙が光る。
前作の「ダラス・バイヤーズ・クラブ」も、酒と女に溺れる生活を送っていた主人公が、HIVに罹患したことで人生を生き直す物語だったが、ダメダメな人間たちを見つめるヴァレの視点は厳しくも優しい。
パシフィック・クレスト・トレイルの、雄大かつ神秘的な風景の中で繰り広げられる冒険の旅と、記憶を巡る叙情的なドラマのコントラストが詩情を生み出す。
周りの人間の善意に恵まれている事で、逆に堕ちるところまで堕ちてしまったシェリルにとって、とことんまで自分を追い詰める厳しい旅は、甘えを捨てて人生を取り戻すのに必要なプロセス。
1100マイルを歩き切り、ついに“Bridge of the Gods”にたどり着いた時、彼女はようやく人生の新たなステージに立つ準備を終えるのである。
物語のエピローグで語られるシェリルのその後の人生が良きものとなっていることは、本作で彼女の少女時代を演じているのがボビー・リンドストローム、つまり“母の名をつけた娘”本人である事がなによりの証だろう。

ちょっと興味深いのは、ジェンダーの視点を感じること。
「奇跡の2000マイル」の様に本当に誰もいない場所を旅するのと違って、本作でシェリルが歩いているのは一応トレイルなので、当然他にも人がいてそのほとんどは男性だ。
ある種の男たちは、このシチュエーションでは女性にとって、飢えや渇き以上に恐ろしい要素なのである。
幼い頃に実父のDVを目の当たりにし、セックス中毒になった事で男たちの生々しい欲望を知るシェリルが、男性に対する不信と信頼の間で揺れ動くのも、本作の重要なポイントと言えるだろう。
フェミニストとして知られるウィザースプーンが、本作に惹かれた理由の一つかもしれない。

「わたしに会うまでの1600キロ」という軽い響きの邦題は、映画を観てしまうとどうにもしっくり来ないのだけど、これは心の傷に向き合う事が出来ず、結果的に傷を悪化させてしまった一人の女性が、自らの力で治癒するまでの肉体と精神の冒険を描いた優れた寓話である。
男女を問わず、ちょっと心が疲れている人には強力なエネルギーを注入してくれる作品だと思う。
同じモチーフの「奇跡の2000マイル」と両方鑑賞して、二人の主人公の抱えている葛藤の違いを感じとると、より興味深く観られる作品かもしれない。

今回は、パシフィック・クレスト・トレイルの通るシエラネバダ山脈の麓の街、チコに1979年に設立された地ビール銘柄、その名もシエラネバダ・ブリューイングの「トルピード エクストラIPA」をチョイス。
トルピードとは魚雷の事だが、名前の通り攻撃的なホップ感。
一度飲んだら忘れないくらいキャラクターがはっきりしていて、フレーバーは複雑だがバランスはよく、何本飲んでも飽きる事はない。
過酷な冒険旅行のゴールで飲んだら最高だろう。

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コメント
この記事へのコメント
警戒心
ノラネコさん☆
大自然の驚異に立ち向かうだけでも大変なのに、途中で出会った男たちにも警戒しないといけないとは、本当にシェリルは大変だったと思います。
トラクターのおじさんがこっそりくれたのがリコリスだったのが、私の一番のツボでした(爆)
2015/08/26(水) 20:44:41 | URL | ノルウェーまだ~む #gVQMq6Z2[ 編集]
こんにちは
>ノルウェーまだ~むさん
また出会うおっさんたちが怪しげなんですよね。
トラクターの人とかは良い人だったけど。
私だったら無駄な荷物捨ててスタンガンくらい持っていくな。
リコリスはトレッキングとかには良いかもしれないですw
2015/08/29(土) 14:43:03 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
ジェンダーの視点
>幼い頃に実父のDVを目の当たりにし、セ●クス中毒になった事で男たちの生々しい欲望を知るシェリルが、男性に対する不信と信頼の間で揺れ動くのも、本作の重要なポイント

なるほど。母親に対するDVを経験したシェリルは、男好き(S●X好き)でありながら実は男嫌いでもあるという、ミソジニーの女版に成長してしまったのですね。
さすがノラネコさんの視点は深いですね。

「セ●クス」という言葉が入っていると「不正投稿」と見なされるようなので
黒丸で表現してみましたが行けるか?
2015/10/05(月) 14:20:04 | URL | とらねこ #.zrSBkLk[ 編集]
こんばんは
>とらねこさん
あ~すいません、一時期スパムが凄くてエロ系の言葉はいくつか禁止ワードにしてます。
まあそれはともかく、フェミニズムはこの映画の裏テーマで、シェリルが乗り越えるべき壁の一つになっていると思いました。
2015/10/07(水) 22:10:25 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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