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名もなき塀の中の王・・・・・評価額1700円
2015年11月01日 (日) | 編集 |
掃き溜めの中の愛。

イギリス発、異色の刑務所映画。
暴力衝動を抑えられない少年が、移送された刑務所で心理セラピストや偶然同じ刑務所に収監されていた生き別れの父と出会い、少しずつ変わってゆく。
だが暴力という言語しか知らない彼の問題行動は、すでにあまりにも多くの憎しみを作り出してしまっており、やがて負の連鎖が彼を襲う。
閉鎖空間で展開する濃密な人間ドラマに、全く目が離せない。
監督・脚本は「パーフェクト・センス」や「猟人日記」などで知られる、デヴィッド・マッケンジー。
正直、今までのフィルモグラフィーで素晴らしいと思った作品はないのだが、これはダントツの出来栄えだ。

収容されていた少年院で、幾つものトラブルを引き起こしたエリック・ラブ(ジャック・オコンネル)は、成人用の刑務所に移送される。
自分以外は誰も信じようとしないエリックは、ここでも早速隣の房の囚人に暴力をふるってしまい懲罰房送りに。
ボランティアで囚人たちの心のケアをしている心理セラピストのオリバー・バウマー(ルパート・フレンド)は、感情を制御できないエリックを自分のグループセラピーに参加させようとするが、エリックの狂暴性を目の当たりにした刑務所の上層部は彼を更生させることに懐疑的。
とにかく手当り次第に敵を作り出すエリックだが、囚人たちの中にそんな彼を心配げに見つめる男がいた・・・・


数あるジャンル映画の中で傑作の多いカテゴリといえば、先ず思い浮かぶのは潜水艦映画だが、同様に外れが少ないのがいわゆる刑務所ものである。
理由は潜水艦と同じように、外部から隔絶した環境ゆえに、登場人物同士が物理的、心理的に近くなり、葛藤を深く掘り下げやすく濃密なドラマに繋げられるからだろう。
「ショーシャンクの空に」「ミッドナイト・エクスプレス」「父の祈りを」など、数々の傑作の隊列に、本作も加わった。

原題は「Starred Up」という聞きなれない言葉。
私も知らなかったが、調べてみるとイギリスの刑務所で使われている用語で、凶悪な少年犯罪者が、少年院から大人の刑務所に“昇格”する事を意味するという。
映画は、このタイトル通り札付きのワルである19歳のエリック・ラブが、少年院から刑務所に移送されてくるところから始まる。
彼は独房に入れられるやいなや、持ち込んだ私物や房の備品を使って、喧嘩用の武器を作り始める。
信じられるのは自分だけ、この世界は敵だらけ。
更に映画は、エリックのエキセントリックなキャラクターをこれでもかというくらい描く。
たまたま彼が寝ている時に房に入ってしまった隣の房の囚人は、野生の嗅覚で目覚めたエリックに反射的にボコボコにされる。
取り押さえようとする看守たちに両手を拘束されると、なんと口で看守の局部に噛みつき悶絶させる。
いかに彼の人生が暴力に満ちていたか、いかに荒んだ生活を送ってきたかを端的に描写し、観客を一気に殺伐とした刑務所の中へと引き込む。

物語はほぼ全編刑務所内で進行するが、この世界観の作り込みが面白い。
現代のイギリスの刑務所には、どうやらアメリカ映画に出てくるような囚人たちが一堂に会するような食堂が無いらしい。
配膳所で食事を受け取ると、それぞれの房に戻って食事をとる。
だからアメリカ映画あるあるの、食堂で派閥を作ったり、乱闘したりするシチュエーションは無い。
その代わり食事時間には区画内は移動可能で、互いの房を訪ねたり、一定の商取引みたいなことも行われていて、人によっては房にテレビがあったりお菓子があったり、わりと自由な雰囲気なのが印象的。
また彼らの世界には独自のヒエラルキーがあるらしく、どうやら上階に住む囚人の方が立場も上で、看守たちともつるんだ牢名主の様な男たちが君臨している。

その中の一人、どうやら囚人たちのNo.2の立場にあるのが、エリックの父のネビルなのである。
ベン・メンデルソーンがいぶし銀の好演を見せるこの人物は、エリックが幼い頃に殺人を犯し、終身刑に服している。
ずっと生き別れだった息子と図らずも再会することになるのだが、そもそも共に過ごしたことが殆どないので、父親としてどう接して良いのか分からない。
だがネビルは、刑務所には刑務所なりの社会と不文律があり、跳ねっ返りで怖いもの知らずの若者が、囚人と看守双方から疎まれることを知っている。
このままではエリックが囚人同士の揉めごとで殺されるか、手に負えないと判断した看守たちに、自殺に見せかけて吊るされかねないと危惧したネビルは、この社会での生きる術を叩き込み、なんとか息子を生きてシャバに戻そうとするのだ。
しかし、いきなり現れて父親面するネビルに、自分は捨てられた子という意識を強く持つエリックは、当然の如く反発。
愛される事を知らない息子と、愛し方を知らない父という、二人の“ラブ”は互いの葛藤を深めてゆく。

もう一人、エリックを助けようとするのが心理セラピストのオリバーなのだが、この人物は善良なのだけどかなり頼りなく造形されている。
そもそも彼は刑務所の職員ではなく、自分自身もトラウマを抱え、ある意味自らの心の傷に向き合うために、囚人たちとのセラピーをボランティアで行っているのだ。
嫌々ながらグループセラピーに参加する様になったエリックは、オリバーや参加している囚人たちに対して少しづつ心を開いてゆくのだが、これもまた途中でぶち壊しになり、エリックの“更生”は周りに理解されないまま。
そして彼に対する幾つもの負の連鎖が同時に動き出した時、遂に最悪の状況に追い込まれるのである。


本作は、閉鎖空間での1時間46分の中に、人間の怒りと閉塞に纏わる様々な要素が描かれているが、基本は父子ものだ。

映画の視点も最初は息子から始まり、終盤急速に父親にシフトし、二人の視点と運命が交錯する時点で終わる。
この親子はあまりにも似過ぎていて、ネビルにとっては自分自身のどうしようもなさを知るがゆえに、過去の自分の様な息子に向き合うことは、非常にもどかしいことなのだろう。
エリックは彼なりに刑務所の中で成長しているのだが、親の心子知らず、子の心親知らず。

それでも、殆ど初対面の様な親子であっても、お互いの根底の部分に切っても切れない絆を感る。
人間の負の部分が増幅される刑務所という地獄にあって、二人がお互いの中に本物の愛を見出し、“ラブ”という皮肉なファミリーネームに込められた意味が浮き彫りになるクライマックスは、実にスリリングでドラマチックだ。
音楽を排し、台詞も最小限ゆえに、様々な表情を見せる独房の窓や、刑務所の中と外を隔てる回転扉など、暗喩的映像表現にも工夫が凝らされている。
若くして犯罪者となったエリックの人生も、さらなる罪を犯したネビルの人生も、これからもっと厳しいものになるだろうが、少なくとも彼らは“家族”という心の拠り所を得た。
たとえ塀によって隔てられていても、愛する者のいる人生は、きっと生きるに値する。

今回は、イギリスのいぶし銀のオヤジたちの様な「オールド トム」をチョイス。
170年前に創業して以来、代々ロビンソン家が守ってきた歴史あるビールで、濃密で複雑な味わいを持つ大人のストロングエールだ。
アルコール度数も8.5°と高く、グイグイ飲むというよりは、じっくりと時間をかけて一杯を味わうビールである。
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コメント
この記事へのコメント
こんにちは。
この映画、
これまでの刑務所ものとは一線を画していて、
とてもオモシロかったです。
周囲から揶揄される心理セラピー。
その顛末も意外性に富んでいましたし、
なんと言っても父親の真意が容易につかみかねるところがスリリングでした。
そしてラストではきっちりと、
主人公の成長を印象付けるショットを入れている。
上手いなあ。

ところで刑務所ではなく収容所ですが
年明け早々に『サウルの息子』という映画が公開されます。
これまでに観たこともない手法の映画です。
ぜひご覧ください。

2015/11/07(土) 13:54:33 | URL | えい #yO3oTUJs[ 編集]
こんばんは
>えいさん
父親と息子が同じ刑務所に収監されるなんてことがあるんだろうかと思ったのですが、先日見たTV番組で本作とほぼ同じシチュエーションを紹介していて驚きました。
そりゃ父ちゃんとしては色んな意味で気が気じゃないですよね。
息子と共に父のほうも成長してゆくのが面白かったです。
「サウルの息子」は凄く楽しみです。

2015/11/17(火) 22:42:03 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
これまで怖いもの知らずで君臨してきたネビルの、アキレスの踵が息子になるのですよね。
弱さを持ってしまった王、獣の檻に放り込まれた獰猛な若者…
こんな狭い空間なのに、その狭さも物語にピッタリとはまっていましたね。
集団心理療法、グループセッションがまさにダイナミックに感じられるところにも痺れました。
2015/11/20(金) 23:11:09 | URL | とらねこ #.zrSBkLk[ 編集]
こんばんは
>とらねこさん
閉鎖空間ならではの濃密なドラマに痺れました。
似た者親子の宿命が、実にスリリングに描かれていて、全く無駄がない。
公開規模の小ささが残念ですが、素晴らしい作品でした。
2015/11/29(日) 23:20:14 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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