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杉原千畝 スギハラチウネ・・・・・評価額1650円
2015年12月10日 (木) | 編集 |
杉原千畝とは何者だったのか?

第二次世界大戦下、多くのユダヤ人難民を救った“命のビザ”で知られる外交官・杉原千畝の半生を描く伝記映画。
ただし、いわゆるお涙ちょうだいのベタベタの感動作ではない。
かわいそうな難民に同情したスバラシイ日本人が、スバラシイ善行を行って泣かせる映画を期待してゆくと、驚かされる事になるだろう。
これは緻密な情報収集を通じて真実を知ってしまった男の、リアリスト故のヒューマニズムの発露を描く物語なのである。
また同時に、当時の日本のインテリジェンスに迫った、ある種のスパイ映画とも言えるユニークな作品だ。
監督は日本版「サイドウェイズ」や、「太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-」の米国側パートで知られる、チェリン・グラックが務める。

外交官の杉原千畝(唐沢寿明)は、満州での諜報活動でソ連を出し抜き、北満鉄道を大幅に安い値段で手に入れる事に成功。
だが関東軍の裏切りによって仲間を失い、さらに千畝の能力を危険視したソ連当局によって、念願だったモスクワ大使館勤務を拒否されてしまう。
数年後、ようやく巡ってきたのは東欧の小国、リトアニアの領事代理の職だった。
妻の幸子(小雪)と子供たちと共に、リトアニアに赴任した千畝は、ポーランドの諜報機関員ペシュ(ボリス・シッツ)の助けを借りながら、風雲急を告げるヨーロッパ情勢の情報を積極的に収集してゆく。
その頃、ソ連によるリトアニア併合が迫り、ナチスに占領されたポーランドから脱出してきたユダヤ人難民は行き場を失う。
各国の大使館が続々と閉鎖される中、難民たちは一縷の望みを日本の通過ビザに託して、続々と日本領事館に集まりつつあった・・・・


予告編やキービジュアルが完全に感動もの売りだったので、いきなり「ロシアより愛をこめて」にオマージュを捧げた様な、「007」ばりの展開にビックリ。
千畝が従事している任務は、私たちが平時に「外交官」という言葉からイメージするものとはだいぶ違う。
もちろん、外交官の重要な任務に情報収集が含まれるのは当然だが、ソ連関係のスペシャリストである彼の本職は、事務官というより命のやり取りを含む現場の諜報活動、つまりはスパイなのである。
しかも外務省に所属しながら、亡命ロシア人や中国人を含む独自のネットワークを作り上げ、北満鉄道の買収を巡ってソ連のスパイと渡り合い、一泡吹かせてしまう。
まあ映画的に色々盛ってはあるのだろうが、この裏仕事でソ連に「好ましからざる人物(Persona non grata)」としてマークされ、モスクワ大使館勤務を希望しながら、外交官ビザ発給を拒否された事が彼の人生を変える。

時は、ヨーロッパでナチスドイツが勢力を広げ、アジアでは日本が日中戦争を拡大させ、欧米からの圧力にさらされている、第二次世界大戦前夜
モスクワに行けなかった千畝は、バルト三国のリトアニアに領事代理として家族と共に赴任する。
とは言っても、リトアニアには在留邦人もいないし、日本にとって経済的に重要な国でもない。
要するに隣国ソ連関係の情報収集基地であり、諜報活動の建て前としての領事館設置である。
面白いのが、ここで千畝の相棒となるのが、当時独ソ両国によって侵攻され、国としては消滅していたポーランドのスパイということ。
実はポーランドは強力な諜報機関を持っていて、国が分割占領された後も、亡命政府によって活動を継続していたという。
今年公開された「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」でも、物語のキーとなるドイツ軍の暗号マシン、エニグマを入手したのはポーランド諜報機関で、初期バージョンの解読に成功したのも彼らだった。
千畝は、この地で各国の外交官や地元の人々と交流しながら、ナチスに追われたユダヤ人がどの様な扱いを受けているのか知ってしまうのだ。

映画には様々な作用と反作用、合わせ鏡の関係が用意されている。
千畝自身がそうである様に、ある国や人々にとって好ましからざる人物は、別の国や人々にとっては好ましき人物。
ソ連にビザを拒まれた排斥の経験が、後々の難民へのシンパシーと命のビザの発行に繋がり、関東軍の暴走で部下を殺された記憶が、ユダヤ難民の語るナチスによる虐殺の証言にかぶる。
千畝が嘗ての仲間の女性と共に助けたユダヤ人科学者が、後にマンハッタン計画に関与したらしい事が示唆され、千畝が救えなかったユダヤ人少年を絶滅収容所から救い出すのは、アメリカで虐げられた日系人部隊だ。
この映画では、あらゆる存在は人と人の出会いと別れによって変わってゆき、それが映画に複眼的視点をもたらしている。

杉原千畝の実像はスパイ。
しかし非情な組織の歯車ではなく、ぶれない思想を持ち、自ら考え悩みながら行動するスパイとして描かれる。
彼の第一義的なプライオリティは日本を正しい道に進ませる事であり、その為であれば同盟国ドイツの秘密を探って不興を買い、命を狙われる事すら厭わない。
千畝の行動原理の元となっているのが、母校のハルピン学院に掲げられていたという扁額の言葉。
「人のおせわにならぬやう  人の御世話をするやう  そしてむくいをもとめぬやう」
これは明治から昭和初期を駆け抜けた傑物・後藤新平が、国家から個人に至るまで、そのあり方、生き方の基本として提唱した「自治の三訣」である。
ハルピン学院だけでなく、多くの学校や組織に取り入れられており、私はこの言葉を子供の頃、後藤がその初代総長を務めたボーイスカウトで知った。

命のビザは確かに重要なエピソードだが、これは言わば中盤で物語の幅を広げ、主人公の決意を固めるための横軸。
物語の縦軸、そして前へと進める動力は、真の愛国者である千畝が祖国を憂う気持ちと、日本を間違った方向に進ませないための諜報活動の方だ。
主人公以外の「良き人たち」にもスポットを当てているのも好感が持てる。
難民と本国の板挟みになる在ウラジオストック日本領事や船の船長、難民たちに日本という選択肢を与えたオランダ領事、秘密の右腕として千畝を支えるペシュ。
最初はユダヤ人を蔑んでいたドイツ系のリトアニア人の領事館員は、千畝との仕事で良き人である喜びを見出す。
そしてもちろん、理解ある妻の幸子と子供たちも。
野心家の若い外交官だった千畝は、様々な人と出会い、支えられながら、戦争という異常な時代にあって、その都度最良の決断をしてゆく。
英雄として名を残す杉原千畝は、一人の事ではない。
彼らは皆良心の共犯者、Persona non grataなのである。

ちなみに杉原千畝の伝記映画が作られるのは、今回が2回目だ。
最初は97年のアメリカ映画「Visas and Virtue」で、翌年のアカデミー短編賞を受賞している。
この快挙で杉原千畝の知名度は世界で一気に高まった。
前回のクリス・タシマ監督も、今回のチェリン・グラック監督も日系米国人。
グラック監督の母は第二次世界大戦中の日系人強制収容所を経験し、父親はユダヤ系だという。
やはりマイノリティとしての視点を持つと、千畝のような人物とその時代はより興味深い姿を見せるのかもしれない。

今回は、千畝の故郷である岐阜県の地酒。
多治見の三千盛の「三千盛 純米大吟醸」をチョイス。
岐阜は山里の良水に恵まれ、たくさんの酒蔵がある隠れた酒どころ。
三千盛の創業は18世紀の安永年間。
口に含むと仄かに吟醸香が広がり、かなり辛口ながらクセがなく、端麗な事水の如し。
海の幸、山の幸、どんな料理にも合い美味しくいただける。

しかしこの時代のハルピンって、映画的に面白そうな街だな。
各国のスパイや亡命者が入り混じる、混沌の魔都。
陸軍の樋口季一郎とかも映画の題材として興味深いが、どうアプローチするにしても複眼的に描かないと、単なるプロパガンダになっちゃいそうだ。
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