fc2ブログ
酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。ネット配信オンリーの作品は★5つが満点。
■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係な物や当方が不適切と判断したTB・コメントも削除いたします。
■TITLE INDEX
タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント
noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
■ FILMARKSアカウント
noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
ショートレビュー「恋人たち・・・・・評価額1700円」
2015年12月17日 (木) | 編集 |
それでも、明日はやって来る。

「ぐるりのこと。」の橋口亮輔監督、7年ぶりの最新作は、厳しい日常を生きる三人の男女を主人公としたオムニバス的な構造の人間ドラマ。
妻を通り魔殺人で失い、橋梁点検の仕事をしながら裁判を模索する青年、アツシ。
アツシの担当弁護士で、親友に密かな恋心を抱く同性愛者でもある、四ノ宮。
自分に無関心な夫、相性の悪い姑と暮らす主婦の瞳子。
境遇は全く違えど、皆どこにでもいる市井の人々。
直接的にはほとんど絡まない3つの物語の主人公は、共に「一番幸せだった頃」が過去になってしまった人たちだ。

ある人物の独白から始まるドラマは、三者三様の展開を見せる。
妻を救えなかった罪悪感に苛まれるアツシは、精神的ショックから仕事が出来なくなり、経済的に困窮。
刑法39条「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」。
この規定によって、通り魔が刑罰を受けないという理不尽な現実に抗うために、ようやく橋梁点検の仕事につき、犯人に対して損害賠償訴訟を起こそうとしているが、その準備は遅々として進まない。
アツシの訴訟を安請け合いしたエリート弁護士の四ノ宮は、思わぬ事故に遭い入院。
同性愛者の彼は、学生時代からの親友に密かに想いを寄せているが、ある時彼の子供に性的ないたずらをしたと誤解されてしまう。
一方、弁当工場で働く瞳子は夫と姑と3人暮らしだが、夫は自分を性のはけ口としか見ておらず、姑とはどうにもウマが合わない。
彼女は、誰にも関心を持たれない平凡すぎる自分の対極にいる、洗練されたプリンセスに憧れを募らせ、突然現れた怪しげな男の誘いにのり、閉塞した日常からの脱出を決意するのだ。
彼、彼女らの葛藤は、それぞれに共感できる部分と出来ない部分がある。
長所も欠点も、リアルな人間たちのリアルな人生を強く印象付け、観客の誰もが物語のどこかに自分自身の姿を見るだろう。

なぜ自分にだけ不幸が降りかかるのか、どうしたら人に自分の気持ちを分かってもらえるのか、自分の本当の居場所はどこなのか。
ただ幸せを求めて、喪失を埋め合わせようと、閉塞を打ち破ろうと、抗えば抗うほどに現実に打ちのめされる。
通り魔への訴訟はご破算となり、長年の秘めたる恋はやぶれ、人生をかけようとした男はジャンキーの詐欺師。
黒田、という隻腕の登場人物がいる。
嘗て左翼過激派として活動し、自らの腕を爆弾で吹き飛ばしてしまった彼は、同僚のアツシの爆発しそうな葛藤を受け止め、不器用ながらも誠実な言葉を返してくれる。
人間、誰でも心に大小の爆弾を抱えていて、この映画はある意味自分自身を映す鏡であり、同時に内なる黒田との対話でもある。
どん底に落ちた三人の葛藤の締め括りは、冒頭の対となるそれぞれの独白だ。
彼らの人生にご都合主義の奇跡は訪れないが、ほのかなユーモアが物語が暗くなり過ぎるのを救い、今ある世界の暗闇に僅かな光を見出すラストは余韻が長く残る。

橋梁点検のため、首都高下の河川を行くアツシの目に映るのは、ビルと道路で切り取られた小さな、小さな四角い青空。
それでも、そこに確かに青空はあるのだ。
3つの物語で、タイトルの「恋人たち」とは誰か。
生きる事の意味を、じっくりと考えさせてくれる重厚な秀作だ。

今回は庶民の酒「ハイボール」をチョイス。
グラスにたっぷりの氷を入れ、ウィスキーを注ぐ。
できればグラス、ウィスキー、ソーダとも冷やしておきたい。
溶けた分の氷を足して、ウィスキー1に対してソーダ3を加え、炭酸が抜けないようマドラーで一回だけスッと混ぜる。
お好みでレモンピールで香りをつけると、よりスッキリした印象になる。
ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね





スポンサーサイト





コメント
この記事へのコメント
こんにちは。
これは紛れもなく
2015年度日本映画のベスト1の映画でした。
この橋口監督はすでにもうベテランの域ですが、
年末から年始、いや夏からそうでしたが、
インディーズ系の作品にオモシロい映画が多かったです。
『私たちのハァハァ』『友だちのパパが好き』『ハッピーアワー』
そして『知らない、ふたり』。
2016年の日本は、世相的には明るいとは思えませんが、
映画は頑張っているなと思います。

今年もよろしくお願いします。
2016/01/05(火) 18:27:47 | URL | えい #yO3oTUJs[ 編集]
こんばんは
>えいさん
「友だちのパパが好き」は面白かったです。
「ハッピーアワー」は何とか観たいのですが、なかなか丸一日となると時間的に難しいですねえ。
玉石混合ではあるものの、良い作品はほんとうに輝いていました。
本年もよろしくおねがいします。
2016/01/08(金) 23:28:08 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
『恋人たち』をテアトル新宿で見ました。 (1)7年前に見た橋口亮輔監督の『ぐるりのこと』が大層素晴らしかったので、映画館に行ってきました。  本作(注1)の冒頭は、風呂に入っているアツシ(篠原篤)が、独り言を喋っています。 「あいつから婚姻届書くように言わ...
2015/12/18(金) 07:04:18 | 映画的・絵画的・音楽的
 妻を通り魔に殺された橋梁検査員のアツシ(篠原篤)は、民事裁判を起こして 犯人を訴えることだけを心の支えに生きていた。夫と姑の三人で暮らし、味気な い毎日を送っている主婦の瞳子(成嶋瞳子)は、パート先で出逢った男(光石研) に心ときめく。弁護士の四ノ宮(池田良)は、学生時代からの友人(山中聡)を 思い続けていた。  (大好きな)橋口亮輔監督、7年ぶりの長編。年齢や生活環境の...
2015/12/18(金) 10:07:21 | 真紅のthinkingdays
『ハッシュ!』『ぐるりのこと。』などの橋口亮輔監督が、それぞれに異なる事情を持つ3人の男女の物語をつづる人間ドラマ。自分に興味を持ってくれない夫と気が合わない義母と生活している女性、同性愛者で完璧主義の弁護士、妻を通り魔に殺害された夫を中心にストーリー...
2015/12/18(金) 11:48:48 | パピとママ映画のblog
2015年・日本/松竹ブロードキャスティング 配給:松竹ブロードキャスティング、アーク・フィルムズ 監督:橋口亮輔 原作:橋口亮輔 脚本:橋口亮輔 製作:井田寛、上野廣幸 企画:深田誠剛 「ぐるりのこ
2015/12/23(水) 10:15:46 | お楽しみはココからだ~ 映画をもっと楽しむ方法
密度の濃い映画は意識を覚醒させ、そして陶酔させる。 橋口亮輔監督『恋人たち』。 それまでの眠気は吹き飛び、その余韻を失いたくないがため、 次に予定していた一本を取り止めた。 ----『恋人たち』? これって昔のフランス映画にあったような…。 ブラームスの音楽が印...
2015/12/31(木) 22:16:41 | ラムの大通り
恋人たち '15:日本 ◆監督:橋口亮輔「ぐるりのこと。」「ハッシュ!」 ◆主演:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、安藤玉恵、黒田大輔、山中崇、内田慈、山中聡、リリー・フランキー、木野花、光石研 ◆STORY◆都心に張り巡らされた高速道路の下。橋梁のコンクリートに耳を...
2016/02/25(木) 21:58:42 | C’est joli ここちいい毎日を♪
【出演】  篠原 篤  成嶋 瞳子  池田 良  光石 研 【ストーリー】 橋梁点検の仕事をしているアツシには、愛する妻を通り魔殺人事件で亡くしたつらい過去があった。自分に関心がない夫と考え方が違う姑と生活している瞳子は、パートの取引先の男と親しくなったことか...
2016/04/25(月) 23:29:05 | 西京極 紫の館