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独裁者と小さな孫・・・・・評価額1700円
2015年12月18日 (金) | 編集 |
独裁者を作り出すのは誰か。

イラン出身の名匠・モフセン・マフマルバフ監督による、寓話的流離譚
ある国でクーデターが勃発し、それまで国民を搾取し、思いのままに権力を振るってきた老独裁者は、逃亡を余儀なくされる。
危険な旅に同伴するのは、まだ幼い孫が一人。
羊飼いや旅芸人に変装し、国境の海を目指す厳しい道程は、独裁者にとって権力の座に着いてから初めて、市井の人々と触れ合う機会となる。
二人が見出すのは希望か、それとも絶望か。
ここには、平和への切実な願いがある。
世界中に暴力と不寛容が溢れる2015年の冬、観るべき作品はこれだ。
※ラストに触れています。

大統領(ミシャ・ゴリアシュウィリ)は、政敵を容赦なく粛清し、恐怖で国を支配してきた独裁者。
しかしある夜、首都が突然の停電にみまわれ、直後に銃撃音が鳴り響く。
クーデターが起こったのだ。
突然の政変に、大統領は妻と娘を国外に脱出させ、自分は国内で事態の収拾に当たろうとするが、幼なじみのマリアや沢山のオモチャと別れたくない孫(ダチ・オルウェラシュウィリ)は、大統領と共に残ることになる。
だが妻子が出発した直後、体制は完全に崩壊。
空港の警備部隊はクーデター派に寝返り、道路は群衆に埋め尽くされ、宮殿への帰還もままならない。
クーデター派は、怒りに燃える群衆を焚きつける様に、大統領の首に巨額の懸賞金をかける。
護衛にも見放された大統領は、平民の服を奪って変装すると、孫を連れて国外へ逃亡を図る。
だが、目指す国境の海までは、遥かな道のりが横たわっていた・・・・


色々な意味で、マフマルバフが2001年に発表した「カンダハール」の第二章、姉妹編とでもいうべき作品だと思う。
あの作品では、タリバーンが支配するアフガニスタンからカナダへと亡命した女性ジャーナリスト、ナファスのもとに、故郷に取り残された妹から、あらゆる女性の権利が剥奪された国に絶望するあまり「20世紀最後の皆既日食の日に自殺する」という手紙が届く。
妹の命を救うために、ナファスは身元を隠して再びアフガニスタンに潜入し、妹が住むカンダハールの街を目指すという物語だ。
旅の途中、彼女はコーランを読めないイスラム学校の生徒や、医師として働くアメリカから来たブラックムスリムの男性らと出会いながら、アフガニスタンの女性が置かれた悲劇的な状況を目の当たりにしてゆく。

国から逃れたジャーナリストが、再び国に戻る旅と、権力を追われた独裁者が、国を脱出しようとする旅。
独特の詩情とユーモア、シュールなセンスはマフマルバフ作品に共通。
完成直後に9.11が起こり、アメリカがアフガニスタンに侵攻した事で、図らずも大きな注目を集める事になった「カンダハール」と本作は、いわばこの14年間のビフォーアフターだ。
タリバーンは政権の座から追われたものの、未だ戦争は継続中。
アフガニスタンから飛び火した、イラクのフセイン政権崩壊以来の混乱は、アラブの春の一筋の希望から転じて、泥沼化している。
本作が描くのは、今まさに世界のあちこちで起こっている事の映画的カリカチュアなのだ。

テーマはハードだが、映画としての作りはオーソドックスかつスピーディ。
冒頭、過度に飾り付けられたきらびやかな都会の風景に、反体制派処刑のニュースが重なる。
自らは贅沢三昧をし、国民を恐怖政治で支配する大統領は、まだ何も知らない孫に大統領の権力を見せつけようと、電話一つで街全体の灯りを点けたり消したりしてみせる。
ところがそんな戯れの最中に、突然のクーデターが起こり、瞬く間に失脚してしまい、ここからは非常にスリリングな逃避行の始まりだ。
一夜にして権力の座を追われた大統領は、何処へ行っても自分がいかに国民に憎まれてるのかを突きつけられる事になる。
その日の食事にも事欠く貧しい床屋、嘗て関係のあった娼婦、政権が崩壊した事で、刑務所から釈放されたらしい政治犯たち。
変装し、平民に身をやつした大統領と孫は、嘗て自らが虫けらのように支配した人々と、正体を知られる怖れを隠しながらも、行動を共にせざるを得ない。

とてもリアルだなと思ったのは、大統領は個々の犠牲者に同情はしても、後悔や改心は全然していない事
むしろ、民の声を聞いて失敗の原因は掴んだから、次こそ必ず成功するとばかりに、返り咲く気満々なのだ。
要するにこの人は、間違はあったが自分が「悪」だったとは認識していない。
しかし、映画を観ているとそんな大統領にどんどん感情移入してしまうのだから、人間心理は面白いものだ。
絶対権力者から、ボロを着て逃げ回る対極の状況への転落人生。
石もて追われる恐怖に怯え、手のかかる幼い孫の世話に戸惑い、とっくに失われた復権への希望にすがる大統領の、ダメダメだけどとても人間的な姿に我々はいつしか寄り添い、なんとか逃げ切って欲しいとすら思わされるのである。
そしてこれこそが、この映画の狙い。

大統領が逃亡の旅を続けている一方、クーデターを起こした方はというと、誰が首謀者なのかは明らかにされないが、あいも変わらず復讐と殺戮と搾取を繰り返し、国はますます混沌の中に。
大統領派の兵士の多くも、クーデター後にあっさり寝返っているので、支配者がすげ替えられただけで社会の本質はなんら変わらない。
独裁者がいなくなれば、そのまま民主的な政府ができる訳ではない事は、一昔前のソ連崩壊やアラブの春がリアルに証明してしまった。
マフマルバフは、「誰も望んでないのに、なぜ独裁と暴力の連鎖が終わらないのか?」と問う。
クライマックスの穴倉から引き出される大統領の姿は、サダム・フセインやカダフィの最期と重なるが、イラクやリビアの現状はまさにこの映画の通り。

偶然にも本作のテーマは、作品の体裁としては真逆のハリウッド超大作「ハンガー・ゲーム FINAL」とほとんど同じだ。
利権と抑圧を欲する者、独裁者の代わりはいくらでもいる。
彼らは、憎しみに駆られ復讐を望む国民の声を掴み、彼らの望みを代行する事で、スルリと権力を掴みとる。
結局のところ、独裁者を作り出すのは国民なのだ。
国民一人ひとりが、負の連鎖を断ち切る事が出来なければ、独裁は永遠に終わらない。
この映画の最も秀逸な点は、あえて憎しみの対象となる独裁者を主人公とし、暴力の主体としての国民大衆の姿を客観視させたことである。
大統領の罪は許されないが、それでも彼らの逃避行を見守った観客は、物語の最後で彼に「生きて欲しい、生きるべきだ」と思うはず。
未来に進むのに必要なのは、憎しみを超える寛容と許し。
マフマルバフは、保守派として知られたアフマディネジャード前大統領の政策に反発してイランを離れ、以来実質亡命生活を送っているという。
本作の意外な結末は、自らも国を追われた作者の「世界はこうあって欲しい」という希望の反映なのかも知れない。

独裁者だけではなく、誰もが心の中に悪魔を飼っている、という訳で「デビルズ」をチョイス。
ポート・ワイン30ml、ドライ・ベルモット30ml、レモンジュース2dashを、氷と共に素早くステアして、グラスに注ぐ。
刺激的なネーミングだが、実際はマイルドで飲みやすい。
甘いポートワインに香草がアクセントとなり、レモンの仄かな香りが爽やかな味わいに仕上げている。
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コメント
この記事へのコメント
ラストの「孫を殺してから」、「火あぶり」、「報奨金」などの選択肢の中に「俺を殺してから彼を殺せ」と言うのが入ってるのが良心的なのだけど、やはり理屈はそうであってもなかなかそんな風には思えずリアルではない。思えないのが人間なのでしょうなあ。
2016/08/14(日) 09:19:38 | URL | ふじき78 #rOBHfPzg[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
これも「シン・ゴジラ」と同じく、すごくリアルで厳しい話なんだけど、最後には希望を前に持ってくるんですよねえ。
「踊れ」って現実にはありえないけど、この世界観ならば納得しちゃう。
2016/08/14(日) 22:17:57 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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