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リップヴァンウィンクルの花嫁・・・・・評価額1750円
2016年04月09日 (土) | 編集 |
なぜ彼女は、フォークロアの住人となったのか。

残酷で切なく美しい、3時間の大力作。
異才・岩井俊二監督が、「花とアリス」以来12年ぶりに国内で発表した長編実写映画は、驚くべき密度を持った作品だ。
東京で派遣の教師をしている主人公が、厳しい現実によって人生どん底にまで追い詰められ、奇妙な便利屋の導きによって、不思議な世界へと足を踏み入れる。
人はどうしたら幸せになれるのか?幸せはどこにあるのか?
現実に翻弄されながら、現実を生きてこなかった主人公の再生のドラマに、3.11以降の“ニッポンのリアル”を濃縮しながら、ここにあるのは紛うことなき独創のシネマティックワールド。
我々は、虚構と現実の狭間に存在する、この魅惑的な世界にたゆたいながら、主人公が“気づき”を迎えるまでの物語を見届ける。

これは現時点における、岩井俊二の集大成といえる作品かもしれない。
※核心部分に触れています。

東京で派遣の教師をしている皆川七海(黒木華)は、SNSで知り合った鉄也(地曵豪)と付き合い、程なくして結婚する事になるが、七海の家庭事情は複雑で東京には親しい友達もいない。
結婚式に呼ぶ親族や友人に悩んだ彼女は、便利屋の安室(綾野剛)に偽の出席者の斡旋を依頼し、事なきを得る。
だが、新婚早々に鉄也の浮気が発覚し、彼を問い詰めたところ、逆に義母から七海の浮気を疑われ家を追い出されてしまう。
仕事も家も失い途方にくれる七海に、安室が皮肉にも結婚式の偽出席者のアルバイトを紹介してくれる。
なんとか当面の生活のめどがついた頃、再び安室が現れ、月給100万円で住み込みのメイドをしないかという。
連れて行かれた先は、霧深い別荘地にある大きな館。
長く留守をしているというその家の主の姿は無いが、七海はメイド仲間として自由奔放な生き方をする里中真白(Cocco)という女性と出会う・・・・・



タイトルになっているリップ・ヴァン・ウィンクルとは、19世紀の米国で発表されたワシントン・アーヴィングによる短編小説。
ティム・バートンの映画や同名テレビドラマのモチーフともなった、「スリーピー・ホロウの伝説」で有名な短編集、「スケッチ・ブック」に収められた一編だ。
きこりのリップ・ヴァン・ウィンクルが、森の中で出会った奇妙な人々と一晩宴を楽しんで帰ったら、街では20年の歳月が過ぎていたという、まるで「浦島太郎」の様な話である。
もともとが民話を脚色したものなので、米国ではどちらかというと小説というよりもフォークロアの類として認識している人が多いと思う。
本作はこの物語をベースに、極めて現代的・現実的な要素を民話的・寓話的な構造に落とし込んだ、現代のフォークロアと言えるだろう。

ネット恋愛、派遣切り、結婚式の代理出席に別れさせ屋。
映画に登場するモチーフは、まさに現在の日本の幾つもの断片だが、それらは映画作家・岩井俊二の創造するシネマティックワールドにおいて、社会の虚飾性を象徴する意味を持つ。
主人公の七海もまた、自分の殻に閉じこもり、偽りの自分を演じながら生きている若者だ。
なんとなく幸せを求めてはいるが、本当の幸せがなんなのかは良く分らない。
だからSNSで知り合った男性と付き合っても、その関係に現実感を持てず、ハンドルネームでだけ“ホンネ”を書き込む。
特に誰かに読ませたいわけではないだろう。
彼女には匿名で書き込めるバーチャルな空間の他に、素の自分をさらけ出せる場所が無いのである。
本作の予告編では、SNSのシンボルでもあるネコ耳のかぶりものをしている七海が出てくるが、その表情はかぶりもののために見ることが出来ない。
彼女の本心は、誰にも見せたことの無い心の奥底と、匿名のネットの世界にだけあって、現実の社会を生きている肉体はいわばアバターの様なものなのだ。

ところがそんな七海の“なんとなく幸せ”な人生は、人間のむき出しのエゴと自らの未熟さによって、完膚なきまでに叩きのめされる。
一生の安定を約束するはずだった結婚生活はあっけなく破綻し、家も男も仕事も失って、道に迷った七海の元に現れるのが、綾野剛が好演する便利屋の自称・安室。
このキャラクターはある面から見ると善であり、別の面から見ると悪、変幻自在で幾つもの顔を持つフォークロアのトリックスターだ。
追い詰められ、どん底に落ちた七海は、物語の案内人である安室によって、霧が立ち込める森の中にあるリップ・ヴァン・ウィンクルの屋敷に誘われる。

そこで彼女を待ち受けるのは、まるで白日夢の様な不思議な日常
月100万もの破格の給料を出すという主の姿は見えず、広大な屋敷に暮らすのは七海と無機質な水槽の中で飼われている何種類もの毒のある生物たち。
そして、先輩メイドで女優でもあるという真白。
七海は、この社会から隔絶された異空間で暮らしながら、自由奔放な人生をおくる真白と心を通わせ、少しずつ心の傷を癒し、本心で生きることが出来るようになってゆく。
虚飾の現実社会で壊れた心は、夢うつつのフォークロアの世界で再生される。
しかし七海がこの館の主、リップ・ヴァン・ウィンクルの正体を知った時から、世界は少しずつ変質してゆくのである。

実はAVの仕事をしてお金を稼ぎ、不治の病を抱えながらこの屋敷を借りていた真白は、七海に「私の幸せには限界がある」という。
あまり簡単に幸せになってしまうと、自分は壊れてしまうから、お金を使って幸せを買うのだという。
七海にとって、今まで漠然としか捉えられていなかった幸せの意味。
いつしか友情を超える感情を真白に対して抱くようになった七海は、お金で買えない幸せを彼女とわかちあう決意を固め、ある日たまたま入った店で真白と共にウェデングドレスを購入し、二人だけの結婚式を挙げる。
この結婚式のシーンは、前半の代理出席を頼んだ結婚式と、虚飾と真実という対となっており、本編の白眉ともいえる名シーン。
そしてその夜、純白のドレスに身を包んだまま「一緒に死んでくれる?」という真白に、七海は「はい」と応えるのだ。

もちろん、永遠に続く夢は無い。

小説の主人公が、目覚めて現実に引き戻された様に、全てが終わり、全てが変わる朝がくる。
幻想の森のリップ・ヴァン・ウィンクルの屋敷は、ただの大きな別荘へと戻り、七海をフォークロアの世界に呼び寄せた真白もまた、彼女の人生から永遠に消える。
嘗て偽りの結婚で全てを失くした彼女は、真実の結婚の直後に再び大切な存在を喪うのである。
だがこの時、七海は既に物語の始まりの頃とは別人だ。

自分を取り繕うばかりで閉塞していた彼女の心は、もはや虚飾の霧に覆われていない。
真実の愛と幸せを知った七海は、自らの足を大地に着けてしっかりと人生を歩んでゆけるだけの成長を遂げている。

だからこそ、彼女は真白の人生のすべてを受け入れて見送り、役割を失ったトリックスターの安室もまた、七海の人生からフェードアウトしてゆく。

嘗て「リリイ・シュシュのすべて」で蒼井優を見い出した、岩井監督の新たなヒロインを演じる黒木華が素晴らしい。
ブレイクする以前の4年前に、既にオーディションで本作の出演が決定しており、シナリオは彼女を想定して当て書きされているという。
黒木華は昨年の「花とアリス殺人事件」にも、中学校の教師役で声優として出演していたが、今にして思うと本作あっての遊び心だったのかも。
ユニークなトリックスターを演じた綾野剛には、やっぱりこの人は単純な二枚目よりも怪しげなキャラクターの方が生きると思わせられた。
そして、七海の人生を変える真白役のCoccoは、まさに技術を超えた魂の名演であり、圧倒的な存在感でスクリーンを支配する。
劇中の彼女の台詞の様に、この世界は沢山の幸せに満ちているはず。
だけど、私たちは案外その事に気付かないまま、人生を過ごしていないか。
この世界の本当のキレイ、愛と幸せの真実に改めて思いを巡らす、まことに映画的で豊潤なる180分。
長尺もまったく目が離せない、必見の傑作である。

今回は真白役のCoccoと名前が似ている、栃木県のココファームワイナリーの「COCO ロゼ」をチョイス。
知的障害を持つ「こころみ学園」の生徒たちが、社会と関わることが出来るようにと、先生と生徒たち自らが、葡萄畑を開墾してから今年で58年。
現在では様々な種類のワインを送り出しているが、こちらは春にぴったりの桜色が美しい、ほんのりと甘くまろやかで飲みやすいロゼ。
優しい味わいは、映画の余韻に完璧にマッチする。

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