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9.11-8.15 日本心中・・・・・評価額1400円
2006年09月30日 (土) | 編集 |
美術家・大浦信行が、9.11と8.15をキーワードに、現在日本と世界の姿を模索する、思想探求映画とも言うべき異色作。
大浦監督は自作の昭和天皇をモチーフにしたリトグラフ作品を巡って、これを不敬だとして図録を焼却処分とした富山県立近代美術館を相手取り、事の是非を争った「大浦・天皇コラージュ事件裁判」で知られる人物だ。
この作品、チラシにはドキュメンタリーと書いてあるが、一般的にイメージされる記録映画とは違う。
私は、これはドキュメンタリーではないと思う。
勿論、定義づけは色々な考えがあるだろうが、記録映画的な映像を中心にしながら、この作品からは作者の強烈な創作的物語意識が伝わってくる。
テーマを模索しながらも、作者の頭の中には一つの作品としての形が、はじめからある程度見えていたのではないだろうか。
ドキュメンタリー的要素を持った劇映画であると言うのが私の印象だ。

とは言っても、普通の映画とは違う。
この作品において、粗筋は意味を持たない。
私は大浦信行監督の過去の映像作品は未見。
しかし、彼がコラージュを得意とする美術家であることを考えると、なるほどなと思う。
動画と静止画の違いはあれど、創作のスタイルには共通する物がある。
この作品は言わば、動くコラージュだ。
自らが絵筆を取り、カンバスにゼロから描いてゆく絵画と異なり、既にある素材を組み合わせることで、新しいテーマを浮かび上がらせるコラージュ。
この作品も、大浦監督が自身を投影する様々な人物の言葉を組み合わせることで、彼の描こうとするテーマが浮かび上がる。

作品の前半は、美術評論家の針生一郎が中心だ。
登場していきなり、魚屋の店先で売り物の生魚を頭からパクリ。
とありあえず掴みは強烈な爺さんである。
彼が仏文学者で思想化の鵜飼哲、美術評論家の椹木野衣や哲学者の鶴見俊輔らの論客を訪ね、8.15から9.11を経た日本と世界の姿を、芸術の表現をモチーフに解こうとする。
この流れの中で、鶴見俊輔は日本の表現世界の中に存在する、内なる朝鮮文化にキーを見い出し、これを受けて後半の中心となるのは韓国の詩人金芝河だ。
朴政権時代、政治犯として死刑判決を受けた金芝河は、今「恨(ハン)」とアジア的世界観をベースに、民族の統一と世界平和を模索する。

これ等、賢人たちの語りの間に、直接的な連続性はない。
ぶっちゃけ、テーマに対してそれぞれが自分の考えを語っているだけで、バラバラの素材。
しかしコラージュ作家は、ここにそれぞれのピースを繋ぎとめ、彼の思い描く「物語」を構築するキーパーソンを設定している。
それが、重信メイ(命)。
彼女は元日本赤軍リーダーの重信房子を母に、パレスチナ解放闘争の闘士を父に、戦火のレバノンに生まれ、早くにイスラエル軍の攻撃で父を失う。
母もイスラエル情報機関の暗殺対象だったために、メイの存在自体が秘密にされ、28歳で日本に帰国するまで国籍すら持たなかったという。
彼女は、作品の中で、彼女の中の日本、彼女の中の世界の未来を探す旅をする。
勿論、これは彼女の旅であると同時に、監督・大浦信行の意図したシナリオでもある。
映画の中で、重信メイは大浦監督の詩の朗読者でもある。
これは上手い。ある意味ずるい。
今、日本でジャーナリストを志す、この運命の娘ほど、この作品のテーマを体現した存在はあるまい。
大浦監督は、創作と記録の狭間に立つ彼女のほかにも、コラージュを構成するための「枠」の役目をもつ創作劇の要素を二つ作っている。
一つは重信メイの内面のメタファーのようにも見える、神秘的なムードを持つ少女(岡部真理恵)。
もう一つは全編を通して、藤田嗣治の戦争絵画「アッツ島玉砕」の巨大な模写を描き続ける男(島倉二千六)だ。
重信メイを含めたこれ等三つの要素が、トリニティとなり、作品に輪郭を与えているのである。

映画としての印象は、何となくソクーロフの、「太陽」に似ている。
別に天皇を扱っているからという訳ではなく、たゆたうような流れの中で語られる監督・大浦信行の心象風景としての東アジアが、そう見せているのかもしれない。
フィルターをかけて、あえて青空を封印した世界も、深海の様なムードを作り出している。
その分、劇中の語りの中の9.11の青空のイメージが、鮮烈に観る者の脳裏に蘇り、明らかにWTCのイメージで切り取られた、東京のウォーターフロントの高層ビルのシルエットに繋がっているのだが。
一見無さそうに見える連続性が、深層的に仕掛けられているあたりも、「太陽」を連想させる所以かもしれない。

表現に携わる人間として、非常に興味深かったのは前半の針生一郎と賢人たちの語らいだ。
評論家の言葉というのは、それ自体が立派な芸術表現であることがよく判る。
我々が作品の中で漠然と発している事、あるいは大した考えも無く発した言葉に、彼らは意味を与え、更なる広がりを作り出すのだ。
それは決して独りよがりとか、思い込みとかいうレベルの思考ではない。
一つの芸術から生まれるもう一つの新しい表現と言って良い。(勿論評論の世界もピンキリではあるけど)
前半の極めてディープな世界に対して、後半重信メイが自分の言葉で金芝河と語り合うくだりは、ぐっと一般的な世界と平和論となる。
この辺りには、前半の様な強烈な言葉の力は無く、むしろ重信メイと金芝河という共に激動の人生を生きてきた二人の(それもパレスチナと南北問題というバックグラウンドを背負った二人の)、生なリアリズムが説得力となる。
芸術というコアから始まり、一般性に降りて来て、テーマを浮かび上がらせて落とす。
ここに、大浦信行のコラージュ思想探求映画は一つのしっかりした形を示すのである。

しかし、ある意味で評価の難しい作品ではある。
単純に一本の映画として面白いかどうかと聞かれたら、否と答えるしかない。
淡々とした会話と、難解な詩、メタファーとしての映像表現だけで構成された作品であって、娯楽というベクトルは殆んど持っていないし、その物差しでこの作品を評価すればぶっちゃけ評価額500円が良いところだ。
しかし、この映画の標榜するテーマに興味があり、深く考えてみたいという人には、何らかの形でヒントをくれる作品である事は確かだ。
この映画を観るべきか否かは、このテーマに興味があるか否か、と同義であるといって良いと思う。
私的には、非常に興味深い作品であった。
この作品の場合、評価額は観る人の興味の対象、その時の気分によって全く変わると言っていいかもしれない。

ああ、あとオープニングのタイトルバックで、今年100歳になる舞踏家の大野一雄の上半身だけの舞踏があるのだが、これが素晴しい。
肉体の表現とは、こういうものだというインパクトがある。
ここだけでも観る価値がある映像だ。

さて、これは付け合せるのが難しいな。
東アジアのお酒の原風景が想像できる韓国のマッコリにしておこう。
マッコリは非常に種類が多いので、私もまだ知らないものが多い。
これは純米マッコリの「山城」。
一度韓国にマッコリ探求の旅にでも行きたいものだ。


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コメント
この記事へのコメント
ポチコさんのTBから伺いました。「日本心中」が「デスノート後編」と同額評価との事、何か嬉しくてコメントさせて頂きました。確かに所謂「映画」(娯楽)という視点から観たら面白く無いと思う方も居るでしょうが、「コラージュ芸術作品」として観た時にとても面白い作品だったと思います。大野一雄さんの舞いも迫力でした。TBさせて頂きます。
2006/11/16(木) 23:29:53 | URL | kurohani #-[ 編集]
こんばんは
>kurohaniさん
確かに娯楽と言う視点で評価したら、この映画はボトムラインでしょうね。
ただ私は映画ってとても自由な表現で、こういうのもアリだと思うのです。
観る方も、既成概念から自由になる事が必要ですが、これはこれでなかなかに刺激的な作品でした。
大野一雄は圧巻でしたね。
2006/11/17(金) 01:55:46 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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<チラシ>楽しんでいただけたら・・・
2006/09/30(土) 16:56:29 | CINEMAチラシーズ
異端の美術家大浦信行が、5年をかけ完成させたドキュメンタリー。アメリカの同時多発テロとも向き合い、日本と世界のありかたを考えさせられる社会派作品。&lt;ストーリー&gt;美術批評家針生一郎と日本赤軍リー
2006/11/16(木) 17:38:21 | ショウビズ インフォメーション
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2006/11/16(木) 23:30:41 | kurohani's art blog