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ショートレビュー「山河ノスタルジア・・・・・評価額1650円」
2016年05月08日 (日) | 編集 |
変わってゆく社会、変わらない人の想い。

中国の市井の人々を描き続けてきた、ジャ・ジャンクー監督の新境地。
最新作は、1999年のある三角関係を起点に、過去、現代、未来の彷徨える中国人を描く。
ニューミレニアムの幕開けとマカオ返還を控えた1999年は、中国にとってアジア通貨危機が一段落し、その後10年以上に渡る爆発的な高度経済成長の起点となった年。
物語は、「GO WEST」に乗って踊る若者たちの姿で幕を開ける。
「GO WEST」は70年代に大ヒットしたヴィレッジ・ピープルの代表曲だが、本作に使われているのは93年にリリースされたペット・ショップ・ボーイズのカバー版。
元々この曲のタイトルは、19世紀のアメリカの著名な新聞人にして政治家、ホレス・グリーリーの「若者よ西部に行け、西部に行ってこの国と共に成長せよ」という論説記事から引用されたもの。
原曲が世に出た70年代はLGBTムーブメントが盛んになった時代で、これはゲイ・カルチャーのメッカだった西部のサンフランシスコを目指す曲だといわれている。
しかし、ペット・ショップ・ボーイズ版の「GO WEST」は、グラミー賞を受賞したハワード・グリーンホール監督の傑作MVに一目瞭然な様に、冷戦の敗北によって共産主義陣営が挙って「西側に行こう」としている世界を皮肉ったもので、これを映画の冒頭にもってくることで「中国よ、お前はどこへ行くのか?」と問いかけているのである。

1999年の冬、山西省の太原に住むヒロインのタオは、実業家のジンシェンと炭鉱労働者のリャンから想いを寄せられる。
皆が平等という共産主義の原則が崩れ、チャンスを掴んだ者と、そうでない者の格差が徐々に広がりつつある時代。
羽振りの良い富裕層は、ようやく自家用車を手に入れられるようになったが、多くの庶民の暮らしぶりはまだまだ素朴なものだ。
口下手でプライドが高いリャンと、自信に満ちた成金ジェンシェンの対照的な二人。
タオは迷った末にジェンシェンを選び、恋敗れたリャンは何処かへ去る。
そして15年後の2014年。
怒涛の高度成長期を経て、中国社会は激変している。
タオとジンシェンとの結婚生活は破綻し、ジェンシェンは更なる成功を掴むために上海に転居、タオは米ドル(Dollar)から名づけられた一人息子、ダオラーの親権も失ってしまった。
そんなある日、彼女は病に冒され明日をも知れぬ命のリャンと再会する。
富を掴んだ人々の高級外車が街に溢れる一方で、貧しくて医者にもかかれない人々がいる新しい中国。
タオは、15年前にジェンシェンとリャンのどちらを選んだとしても、結局何かを得て何かを失っていたという現実を突きつけられ、元夫と共に国外に出るのだというダオラーと最後の時を過ごす。

二度と戻らないであろう活力ある国家の青年期は終わり、これからの見通しの悪い未来、彷徨える中国人はどこへ向かうのか
古都・太原から上海へ、そこから南半球メルボルンへ。
10年後の近未来、2025年には次の世代が葛藤を抱えている。
国境のくびきを逃れ、中国語すら忘れたダオラーは、Google翻訳を通してしか親の世代とコミュケーションをとることが出来ない。
そんな自由すぎる閉塞の中で、彼は失われたアイデンティティの向こう側に、母の面影を探すのである。
主人公の「タオ」という名前は、中国語の「波」と同じ音なのだとか。
波は上海にも、メルボルンにも、世界中の海に打ち寄せる。
故郷となる山河や喋る言語は変わっても、結局人が人を想い、愛し続ける心は不変なのかも知れない。
1999年の「GO WEST」が、ぐるり巡って2025年に連環する仕掛けは見事。
現在と過去だけでなく、近未来を描くことで本作にあえて虚構性を与えたのは、あくまでもジャ・ジャンクーのイマジネーションの中で咀嚼された、批評的中国人論ということだろう。
1999年の世界はスタンダードで、2014年はビスタ、2025年はスコープサイズと時代ごとに異なるアスペクト比で描かれているのも面白い。
中国人の視野は物質的な充実と共に徐々にワイドになってゆくが、それは心の虚無感の広がりと比例しているのである。

今回は中国を代表する銘柄「青島ビール プレミアム」をチョイス。
青島ビールと言えば普通は緑の瓶を連想するが、こちらは所謂白瓶。
緑瓶よりもホップ感が強く、香りも独特。
口当たりは爽やかだが、後味がしっかりしているので、海鮮料理などにはこちらの方が合うかも。
普通の青島ビールが物足りない人は、こちらを試してみるといいだろう。

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