2016年05月12日 (木) | 編集 |
生ける魂と死にゆく魂が出会う、終焉の時。
間もなく人生の終わりを迎える患者たちの終末期医療、いわゆる在宅ターミナルケア専門の看護師を描く、重厚な人間ドラマ。
監督は、前作の「父の秘密」で脚光を浴び、本作でカンヌ映画祭脚本賞を受賞したメキシコの俊英・ミシェル・フランコ。
これは彼が、脳卒中で動けなくなった祖母と、彼女を看取った看護師との関係から着想した物語だという。
「父の秘密」がカンヌの「ある視点」部門でグランプリを獲得した時、審査員長をしていたというティム・ロスが、エグゼクティブ・プロデューサーと主役を兼務。
日常的に死と喪失と向き合う、その道のプロフェッショナルという難役だが、抑制を効かせながらも内面にナイフの様な鋭さを隠し持つ、円熟の名演を見せる。
※なるべくディテールに触れずに書いていますが、カンの良い方は観てから読んでください。
主人公のデヴィッドは、家族との複雑な葛藤を抱え、離れた街で1人暮らしながら看護師として働いている。
単純に体のケアをしているのではない。
彼は患者に寄り添いながら、身を削るほどの徹底的な献身によって、死を免れられない彼・彼女らの心をも支えているのだ。
だから患者たちはデヴィッドに絶対的な信頼をおき、ある意味家族よりも近しい存在となって行く。
もしかしたら彼は、死を目前にした人間としか、絆を育めないのかもしれない。
嘗て息子を病気で失い、家族とも別れて孤独な人生を歩んでいるデヴィッドは、生きている様で死んでいる。
原題の「Chronic」は「慢性的」と訳せるが、彼は生の縁を歩きながら常に死にひかれていて、だからこそ終末期の患者と緊密な関係を作り上げ、死と喪失を傍らに置くことで、逆に空っぽの自分をギリギリこの世に繋ぎ止めているのだ。
ひとつの命の終焉を見届けたら、また次なる終焉へ。
彼にとって懸命な人生の結果としての死は、即ち生きたことの証明なのである。
死の反作用として生を感じ、疎遠だった家族とも少しずつコミュニケーションを取り戻したデヴィッドは、ようやく「Chronic」のスパイラルから抜け出しつつあるように見える。
だが、一度死に魅入られた者は、そう簡単に逃れることは出来ない。
ある末期癌患者の予期せぬ“依頼”に、悩みながらも応えたことによって、彼の生きるためのルーティンは遂に崩れてしまうのである。
デヴィッドの身に訪れる“ある瞬間”は、全ての結果としての必然か、神の悪戯による偶然か。
正直、「父の秘密」に続いてこちらもかなりの鬱映画だが、観応えは十分だ。
ゾクッとする戦慄に続いて、心の琴線を刺激する余韻がジワジワと広がる。
ミシェル・フランコ、若いくせにいぶし銀の秀作である。
実に味わい深い人生に関する物語。
ウィスキーの語源である「uisce beatha」はゲール語で「命の水」を意味する。
そこでアイラモルトの代表的な銘柄である、「ラガヴーリン 16年」をチョイス。
塩の染み込んだピートの効いた独特の香りは、結構好みが別れると思う。
正露丸のにおいとか、病院のにおいとか感じてしまい、受け付けない人は結構多いのだが、逆に好きな人には病み付きになる香りとも言える。
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間もなく人生の終わりを迎える患者たちの終末期医療、いわゆる在宅ターミナルケア専門の看護師を描く、重厚な人間ドラマ。
監督は、前作の「父の秘密」で脚光を浴び、本作でカンヌ映画祭脚本賞を受賞したメキシコの俊英・ミシェル・フランコ。
これは彼が、脳卒中で動けなくなった祖母と、彼女を看取った看護師との関係から着想した物語だという。
「父の秘密」がカンヌの「ある視点」部門でグランプリを獲得した時、審査員長をしていたというティム・ロスが、エグゼクティブ・プロデューサーと主役を兼務。
日常的に死と喪失と向き合う、その道のプロフェッショナルという難役だが、抑制を効かせながらも内面にナイフの様な鋭さを隠し持つ、円熟の名演を見せる。
※なるべくディテールに触れずに書いていますが、カンの良い方は観てから読んでください。
主人公のデヴィッドは、家族との複雑な葛藤を抱え、離れた街で1人暮らしながら看護師として働いている。
単純に体のケアをしているのではない。
彼は患者に寄り添いながら、身を削るほどの徹底的な献身によって、死を免れられない彼・彼女らの心をも支えているのだ。
だから患者たちはデヴィッドに絶対的な信頼をおき、ある意味家族よりも近しい存在となって行く。
もしかしたら彼は、死を目前にした人間としか、絆を育めないのかもしれない。
嘗て息子を病気で失い、家族とも別れて孤独な人生を歩んでいるデヴィッドは、生きている様で死んでいる。
原題の「Chronic」は「慢性的」と訳せるが、彼は生の縁を歩きながら常に死にひかれていて、だからこそ終末期の患者と緊密な関係を作り上げ、死と喪失を傍らに置くことで、逆に空っぽの自分をギリギリこの世に繋ぎ止めているのだ。
ひとつの命の終焉を見届けたら、また次なる終焉へ。
彼にとって懸命な人生の結果としての死は、即ち生きたことの証明なのである。
死の反作用として生を感じ、疎遠だった家族とも少しずつコミュニケーションを取り戻したデヴィッドは、ようやく「Chronic」のスパイラルから抜け出しつつあるように見える。
だが、一度死に魅入られた者は、そう簡単に逃れることは出来ない。
ある末期癌患者の予期せぬ“依頼”に、悩みながらも応えたことによって、彼の生きるためのルーティンは遂に崩れてしまうのである。
デヴィッドの身に訪れる“ある瞬間”は、全ての結果としての必然か、神の悪戯による偶然か。
正直、「父の秘密」に続いてこちらもかなりの鬱映画だが、観応えは十分だ。
ゾクッとする戦慄に続いて、心の琴線を刺激する余韻がジワジワと広がる。
ミシェル・フランコ、若いくせにいぶし銀の秀作である。
実に味わい深い人生に関する物語。
ウィスキーの語源である「uisce beatha」はゲール語で「命の水」を意味する。
そこでアイラモルトの代表的な銘柄である、「ラガヴーリン 16年」をチョイス。
塩の染み込んだピートの効いた独特の香りは、結構好みが別れると思う。
正露丸のにおいとか、病院のにおいとか感じてしまい、受け付けない人は結構多いのだが、逆に好きな人には病み付きになる香りとも言える。

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この記事へのコメント
ラストの衝撃をずっとひきずってしまいました。
私は神の「悪戯」ではなく「お仕置き」ではないかと思ったりして。
彼の行為は患者の「意」を汲むもので決して責められるものではないけど、「神」に逆らった行為なのかも?
深く考えさせられる映画でした。
私は神の「悪戯」ではなく「お仕置き」ではないかと思ったりして。
彼の行為は患者の「意」を汲むもので決して責められるものではないけど、「神」に逆らった行為なのかも?
深く考えさせられる映画でした。
2016/06/10(金) 21:37:18 | URL | karinn #NCwpgG6A[ 編集]
>karinnさん
なるほど「お仕置き」ね。
確かにそう考えてもしっくりきますね。
命をどうとらえるのか、与えられたものなのか、そうでないのか、死生観が色濃く出ている作品だと思います。
観客によっても捉え方が変わる作品だと思います。
なるほど「お仕置き」ね。
確かにそう考えてもしっくりきますね。
命をどうとらえるのか、与えられたものなのか、そうでないのか、死生観が色濃く出ている作品だと思います。
観客によっても捉え方が変わる作品だと思います。
2016/06/18(土) 20:05:34 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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余命半年以内となった終末期患者をケアしている男性看護師デヴィッド。 息子ダンの死をきっかけに、別れた妻や娘とは疎遠となっている彼は、患者の在宅看護とエクササイズに励むだけの毎日を送っていた。 ある日デヴィッドは、末期がんに侵された中年女性マーサから、安楽死できるよう手伝って欲しいと頼まれる…。 ヒューマンドラマ。
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