2016年09月18日 (日) | 編集 |
隔絶された理想郷で展開する、生命のサイクルの物語。
第73回アカデミー短編アニメーション賞に輝いた、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットの代表作「岸辺のふたり」は、小さなボートに乗っていずこかへと去った父を待ち続ける少女の物語だ。
幼い少女が大人になり、家族を持ち、やがて年老いてゆく円環する人生の物語が、自転車の回転する車輪に象徴され、一切の台詞を排した8分間で描き切った傑作だ。
本作は、主人公の男が海で遭難するシーンから始まり、ある意味「岸辺のふたり」第2章とも言える作品となっている。
モチーフ的に、公開中の「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」に通じるものがあるのも面白い。
絶海の孤島へと流れついた男は、自生している竹を編んで筏を作り、島からの脱出を試みるものの、姿を見せない何ものかによって筏を壊されて島へと逆戻り。
筏作を作っては壊されるというプロセスは繰り返され、ついに3度目の挑戦の時に、男は筏を壊していたのが巨大な赤いウミガメであることを確信するのである。
労力を無にされた男は怒り、ウミガメが岸に上がったところを襲い、ひっくり返りして殺してしまう。
しかし、興奮が収まるにしたがって、罪悪感にかられた男はウミガメを蘇生させようとするのだが、不思議なことにウミガメの死体は若い女の姿となって蘇り、男はこの不思議な女と島で暮らすことを決意する。
前作の10倍となる80分の長編作品だが、こちらも台詞は無く、登場人物もわずかに3人。
物語の寓話性はさらに高まり、描かれていることが現実なのかを含めて、事実として明示されている事象は少ない。
例えば、男の脱出を執拗に邪魔するのは何ものなのか。
シンプルに考えれば男がウミガメに魅入られ、彼女が邪魔をしていたということなのだろうけど、劇中ではウミガメが筏の下に潜ったという以上のインフォメーションは語られない。
男がウミガメを殺してからの異種婚姻譚の展開も、深読みすればすべて男の孤独と罪悪感が生み出した妄想という捉え方もできるだろう。
まあ物語の解釈に関しては、この作風ならいくらでも屁理屈をこねられるので、スクリーンに映し出されていることをそのままイメージとして受け取ればいいのだと思う。
ゆったりとした映像の流れに身を任せて見えてくるものは、おそらく観客自身の心象風景なのだ。
私は、このリリカルで魅力的な異種婚姻譚に、愛に関するこの世界の理を見た。
嵐に巻き込まれ男が、島に打ち上げられるのはある種の生まれ直し。
そして彼は海から来た愛の象徴たるウミガメの精霊によって、隔絶した理想郷に留め置かれる。
やがて二人は新たな命を授けられ、成長した息子は理想郷から旅立って行くが、主人公自身はもはやそこから出て行く理由がない。
男の奇妙な人生が体現する人間の命のサイクルもまた、大自然の中で繰り返される無数の連環の一つに過ぎず、男を生まれ直させた海も、時として津波を起こして命を根こそぎ奪い取る。
「どこから来たのか どこへ行くのか いのちは?」というコピーは、詩人の谷川俊太郎が本作に寄せた詩の一節。
上映時間80分は、観客それぞれがこの問いに対してアンサーを見つけるまでの時間と言えるのではないだろうか。
本作の主人公は、ずっと島から出ない、どこにも行かない(行けない)。
それでも人間は遠大なる時間の中で、果てしない旅をしているのである。
極力シンプルなストーリー、テリングのなかで、行動だけ擬人化された蟹さんたちが可愛く、いいアクセントになっていた。
今回は、海をイメージしたカクテル「オーシャンブルーフィズ」をチョイス。
氷の入ったグラスにブルーキュラソー10ml、ウオッカ15ml、レモンジュース5mlを注ぎ、サイダー125mlを加えて軽くステアする。
適度な甘みに、レモンの酸味が爽やかさを演出。
飲みやすく、南国の澄んだ海を思わせる、目にも涼しいカクテルだ。
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第73回アカデミー短編アニメーション賞に輝いた、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットの代表作「岸辺のふたり」は、小さなボートに乗っていずこかへと去った父を待ち続ける少女の物語だ。
幼い少女が大人になり、家族を持ち、やがて年老いてゆく円環する人生の物語が、自転車の回転する車輪に象徴され、一切の台詞を排した8分間で描き切った傑作だ。
本作は、主人公の男が海で遭難するシーンから始まり、ある意味「岸辺のふたり」第2章とも言える作品となっている。
モチーフ的に、公開中の「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」に通じるものがあるのも面白い。
絶海の孤島へと流れついた男は、自生している竹を編んで筏を作り、島からの脱出を試みるものの、姿を見せない何ものかによって筏を壊されて島へと逆戻り。
筏作を作っては壊されるというプロセスは繰り返され、ついに3度目の挑戦の時に、男は筏を壊していたのが巨大な赤いウミガメであることを確信するのである。
労力を無にされた男は怒り、ウミガメが岸に上がったところを襲い、ひっくり返りして殺してしまう。
しかし、興奮が収まるにしたがって、罪悪感にかられた男はウミガメを蘇生させようとするのだが、不思議なことにウミガメの死体は若い女の姿となって蘇り、男はこの不思議な女と島で暮らすことを決意する。
前作の10倍となる80分の長編作品だが、こちらも台詞は無く、登場人物もわずかに3人。
物語の寓話性はさらに高まり、描かれていることが現実なのかを含めて、事実として明示されている事象は少ない。
例えば、男の脱出を執拗に邪魔するのは何ものなのか。
シンプルに考えれば男がウミガメに魅入られ、彼女が邪魔をしていたということなのだろうけど、劇中ではウミガメが筏の下に潜ったという以上のインフォメーションは語られない。
男がウミガメを殺してからの異種婚姻譚の展開も、深読みすればすべて男の孤独と罪悪感が生み出した妄想という捉え方もできるだろう。
まあ物語の解釈に関しては、この作風ならいくらでも屁理屈をこねられるので、スクリーンに映し出されていることをそのままイメージとして受け取ればいいのだと思う。
ゆったりとした映像の流れに身を任せて見えてくるものは、おそらく観客自身の心象風景なのだ。
私は、このリリカルで魅力的な異種婚姻譚に、愛に関するこの世界の理を見た。
嵐に巻き込まれ男が、島に打ち上げられるのはある種の生まれ直し。
そして彼は海から来た愛の象徴たるウミガメの精霊によって、隔絶した理想郷に留め置かれる。
やがて二人は新たな命を授けられ、成長した息子は理想郷から旅立って行くが、主人公自身はもはやそこから出て行く理由がない。
男の奇妙な人生が体現する人間の命のサイクルもまた、大自然の中で繰り返される無数の連環の一つに過ぎず、男を生まれ直させた海も、時として津波を起こして命を根こそぎ奪い取る。
「どこから来たのか どこへ行くのか いのちは?」というコピーは、詩人の谷川俊太郎が本作に寄せた詩の一節。
上映時間80分は、観客それぞれがこの問いに対してアンサーを見つけるまでの時間と言えるのではないだろうか。
本作の主人公は、ずっと島から出ない、どこにも行かない(行けない)。
それでも人間は遠大なる時間の中で、果てしない旅をしているのである。
極力シンプルなストーリー、テリングのなかで、行動だけ擬人化された蟹さんたちが可愛く、いいアクセントになっていた。
今回は、海をイメージしたカクテル「オーシャンブルーフィズ」をチョイス。
氷の入ったグラスにブルーキュラソー10ml、ウオッカ15ml、レモンジュース5mlを注ぎ、サイダー125mlを加えて軽くステアする。
適度な甘みに、レモンの酸味が爽やかさを演出。
飲みやすく、南国の澄んだ海を思わせる、目にも涼しいカクテルだ。

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この記事へのコメント
「どこから来たのか どこへ行くのか いのちは?」ですか。
わたしは最初の8分で飽き、真髄に触れることができませんでした(笑)(これ8分でいいと思う)
わたしは最初の8分で飽き、真髄に触れることができませんでした(笑)(これ8分でいいと思う)
>まっつぁんこさん
そんなまっつぁんこさんには「岸辺のふたり」がオススメです。
ちょうど8分ですw
これはアートアニメですからね。
アートアニメではオブジェクトが動き続けるだけの映像が何十分も続いたりしますから、これはすごく観やすい方です。
そんなまっつぁんこさんには「岸辺のふたり」がオススメです。
ちょうど8分ですw
これはアートアニメですからね。
アートアニメではオブジェクトが動き続けるだけの映像が何十分も続いたりしますから、これはすごく観やすい方です。
2016/09/28(水) 23:27:07 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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