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2017年01月05日 (木) | 編集 |
それでも、あなたに会いたい。

ネビュラ賞、スタージョン賞を受賞した、テッド・チャン作の傑作SF短編小説「あなたの人生の物語」を、ケベック出身の若き異才ドゥニ・ヴィルヌーヴが映画化。
突然、世界各地に異星人の巨大な宇宙船が出現。
来訪の目的は全く不明で、パニックに陥った人類は何とかコミュニケーションを取ろうとするも、その方法が無い。
これは、未知なる訪問者の“言葉”を解読し、意思疎通を託された、言語学者の物語。 
はたして、彼らはなぜ地球へとやって来たのか?何を伝えようとしているのか?
原作のシンプルなプロットをベースに、物語を大幅に拡充しているが、それでも核心のテーマ、ムードはしっかりと維持されている。
原作ファン、SFファンはもちろん、全ての映画を愛する人にお勧めできる、哲学SFの新たな金字塔だ。
※核心部分に触れています。

世界のあちこちに、巨大な宇宙船が忽然と舞い降りる。
謎の異星人の目的は一体何なのか?
政府に雇われた言語学者のルイーズ・バンクス博士(エイミー・アダムズ)は、彼らの言語を解き明かすために、物理学者のイアン・ドネリー(ジェレミー・レナー)らと共に、ウィーバー大佐(フォレスト・ウィテカー)率いる対策チームに入る。
ルイーズは、オクラホマの平原に出現した宇宙船で、便宜上“アボット”と“コステロ”と名付けられた異星人とコンタクトするが、彼らの“言葉”は人類の言語の概念とは全く異なるものだった。
世界各国のチームと連携しながら、コミュニケーションの研究は僅かずつ進んでゆくのだが、来訪の目的は遅々として判明せず、しびれを切らして宇宙船への攻撃を示唆する国も出始める。
そんなある日、ルイーズのチームは異星人からある驚くべき言葉を聞き出すのだが・・・


異星の文明とのファーストコンタクトを描いた作品は多いが、彼らとのコミュニケーション手段そのものをフィーチャーした作品は珍しい。
だが、よくよく考えてみれば、これはきわめて興味深いモチーフだ。
地球上の人類だって、全く異なる言語の話者が意思疎通するのは難しい。
話し言葉だけでなく、書き言葉も同じだ。
遠い昔に断絶してしまって、未だ解読できない古代の言語もある。
18世紀末に、ロゼッタ・ストーンという“辞書”が発見されなかったら、私たちは古代エジプトで起こった、多くの歴史上のドラマを知ることは出来なかったかもしれない。
それでもまだ、人間同士ならジェスチャーというコミュニケーション手段もあるが、相手が人類とは全く似ても似つかない姿の異星人なら、身ぶり手ぶりで表現できることも大幅に限られてしまうだろう。
本作に登場する異星人は、まるで巨大なゴミバケツに七本の触手を生やした様な姿で、人類からはヘプタポッド(7本脚)と呼ばれる。
頭頂部の目で全周囲を見ることが出来、円筒形の体を持つ彼らには、前後左右の概念すらないのだ。

テッド・チャンの原作は、 そんな異種同士の第三種接近遭遇を描くシンプルな短編。
普通に考えれば、ハリウッド大作になるとは思えない、地味な物語にどうアプローチするのか興味津々だったが、本作はエリック・ハイセラーによる脚色が本当に見事だ。
原作のプロットをベースに、もしも意図のわからないUFOがあちこちに居座ったら、世界はどう動くのかと言うシミュレーション的視点を加え、極めてスリリングに盛り上げる。 

この脚色のために、宇宙船本体は地球軌道上にあって、無数のレンズ型の通信装置だけが地上に表れるという原作の設定は、地球上の12ヶ所に直接宇宙船が舞い降りるという風に変わっている。
自国領内に宇宙船が出現した国々は、表面上お互いに協力してコミュニケーション手段の開発をしているものの、次第にヘプタポッドの意図と、他国の動向に対して疑心暗鬼を募らせる。
近年、ハリウッド映画においても次第に存在感を増す中国が、対ヘプタポッド主戦論の急先鋒として描かれているのが興味深い。
ルイーズたちの役割は、単にヘプタポッドの言語を解き明かすことから、人類の誤解を解き、宇宙戦争を止めることへと移って行くのだ。

ここで重要になるのが、この物語の核心である言語と思考の関係である。
私たちは頭の中で言葉によって思考するが、例えば日本語と英語の様に、逆さまの文法を母語とする人間は、思考の順番も逆になる。
これだけでも少なからず、それぞれの世界観に影響を与えていまいか。
ならば、既知の言語とは全く違う概念を持つ言語を習得した場合、それは人間にどんな影響を与えるのか。
ヘプタポッドの言語、彼らが書くというよりも空中に描き出す文字は、おそらくテッド・チャンの民族的ルーツである漢字を元にデザインされた、円を基調とした一つの模様で一つの文を表す表意文字だ。
人間の書く文章は、基本的に一つの言葉を書いたら、その続きを書いて行くことで意味のある文章となるが、ヘプタポッドの文字は文章全体が一気に浮かび上がる。
つまり、彼らの思考には時間軸という概念が無いのである。
ヘプタポッドにとって、この宇宙は始まりから終わりまでが予め存在していて、過去も未来も既に決定されているのだ。
彼らが地球にやってきた理由も、遠い未来において彼らと地球人はある関わりを持つことになっており、その未来に導くために必要だったから。

本作は、ルイーズがヘプタポッドとのコミュニケーションに邁進する数カ月間の物語と、フラッシュバック的にランダムに挿入される、彼女と家族とのプライベートな生活の映像の羅列によって構成されている。
一見関係ない二つの物語は、実は密接にリンクしていて、フラッシュバック映像の意味を知った時、観客は深い思念の海に沈んでゆくだろう。 
そう、ヘプタポッドの言語をディープに研究し、習得することで、ルイーズもまた彼らと同じ思考回路を獲得する。
彼女の思考は時間の流れから自由になり、初めから終わりまで全てを見通すことが出来るようになるのである。
ルイーズは、この未知なる能力によってもたらされる、決定された未来の情報を利用することで、人民解放軍強硬派のシェン上将を説得し、宇宙戦争を未然に防ぐ。
だがそれは同時に、ルイーズのこれからの人生から、"未知の体験"という意味での“未来”という概念が無くなることを意味する。

映画版のタイトルは「Arrival(邦題:メッセージ)」になっているが、原作は「あなたの人生の物語(Story of Your Life)」である。
「あなた」とは、将来生まれてくるルイーズの娘のこと。
フラッシュバック映像は、ルイーズが新たな思考を獲得してゆく過程において、徐々に見えてきていた彼女自身の未来。
ルイーズは、まだ生まれていない娘の誕生から25歳での早すぎる死まで、その全てを見てしまうのである。
もしもこれからの人生で起こることを全部知ってしまって、そしてそれが決して避けられないとしたら、私たちの心はどう変化するのか。
親よりも早くに死んでしまうとしても、それでも我が子に会いたいと思うのか。
将来別れると知っていても、それでも誰かを愛し、家族になろうとするのか。
悲しい別離が来ることは分かっていても、ルイーズは「あなたの人生の物語」を語り、まだ見ぬ娘を受け入れる。
時間の概念が無ければ、人生に希望も、絶望も生まれないが、彼女の心から愛は失われないのだ。
それは人類が人類たる、根元の感情だからかもしれない。

優れたハードSFの多くは、同時に味わい深い詩である。 
これは、原語と思考をモチーフに、時間と愛、世界の見え方と私達の存在する意味を哲学する、驚くべき物語。

しかも原作のエッセンスを完全に保持したまま、スケール感のある娯楽映画に昇華しているのだから畏れ入る。
また本作は、見方によっては優れた物語論とも言える。
私たちは、時間軸を持つ芸術である小説や映画を何度も鑑賞することがあるが、二度目以降はある意味時間軸から解放されている。
主人公が悲しい最期を遂げるから、愛せないなどということは無く、全てを知っているからこそ、より一層大切に思える作品もあるだろう。
この映画も同じで、私は事前に原作を読んでいて良かった。
何が起こるか分かっているからこそ、物語の本質を自身の中で哲学し、より深く鑑賞できたと思う。
本作の日本公開は、まだまだ先のGW明け。
そういう訳で、このレビューをここまで読み進めちゃた人たちには、いっそ原作をじっくり読み込んでから鑑賞することをお勧めしておきたい。

今回は文字が重要なモチーフになる作品なので、海外ワインには珍しい「天地人」の漢字ラベルで知られるルー・デュモンの「フィサン・ルージュ」の2009をチョイス。
これはワイン造りの夢を抱いた日本人の仲田晃司氏が、単身渡仏して設立した若い銘柄。
適度な強さのボディと、フルーティな風味と心地よい酸味のマッチングが良い。
とても飲みやすく、高温多湿な日本の夏でも胃にもたれない。
宇宙人にも飲ませたくなる、バランスの良い赤だ。

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コメント
この記事へのコメント
ヴィルヌーヴ良かったです
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

こちらですが、貴本文中の
>親よりも早くに死んでしまうとしても、それでも我が子に会いたいと思うのか。
将来別れると知っていても、それでも誰かを愛し、家族になろうとするのか。

こごてすよねー、私も鑑賞中正にそのことを考えておりました。
というか、根っから文系なものでして、この作品のSF的な謎解きは上手く説明できないものですから、情緒的な解を求めてしまう訳です。
この問いについての私の答えは拙ブログに書いてございますので、よろしければご訪問下さい。
2017/01/06(金) 13:28:11 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんにちは
>ここなつさん
あけましておめでとうございます。
設定は非常に理知的なのですが、物語は詩的で情緒的でした。
人生の物語には誰でもいつかは終わりがあり、別れがある訳ですが一度愛する者の存在を知ってしまったら、「会いたくない」という選択はないのでしょうね。
もしも過去も未来に起こることも知っていて、変えることができないとしたら世界はどう見えて、どう捉えることができるのか。
この映画以来、そんな問いをずっと引きずっています。
2017/01/08(日) 13:57:28 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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2017/01/06(金) 13:28:40 | ここなつ映画レビュー