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ゾウを撫でる・・・・・評価額1650円
2017年01月19日 (木) | 編集 |
触っているのは、どんな映画?

一本の映画がクランクインするまでの、映画に関わる様々な人を描く群像劇。
元々2013年にネスレシアターのインターネット配信用に作られた短編を連結させ、未公開部分を含めて再構成した作品である。
「ゾウを撫でる」とは何とも不思議なタイトルだが、これはインドの寓話「群盲象を撫でる」から取られている。
王が盲人たちに象を触らせ、「これは何だ?」と問う。
盲人たちは、足だとか牙だとか象の色々な部分を触って、自分が触った物について異なった意見を話す。
彼らが言っていることは間違ってないが、全体を俯瞰しないと象の本当の姿は見えない。
様々な人々が感性と技術を持ち寄り、分業して作って行く映画は、正に細部が組み合わされることで姿を現す象だ。
本作では、監督、脚本家、俳優陣、さらにはフィルムコミッションの担当者や、大道具を運ぶトラックの運転手など、映画制作の中枢から末端まで多くの人物が登場し、それぞれのエピソードは、適度な距離を保ちながら詩的な世界観を構成する。
「ツレがうつになりまして。」の佐々部清監督と、高倉健の遺作となった「あなたへ」の脚本で知られる青島武は、極めてユニークな記憶に残る佳作を作り上げた。

寡作な映画監督の神林(小市慢太郎)が、15年ぶりの新作映画「約束の日」に着手し、脚本を担当する鏑木(高橋一生)と共に地方の海岸へロケハンに訪れる。
台本印刷会社で働く栃原(伊嵜充則)は、送られてきた原稿の作者がシナリオ学校で同期だった鏑木であることに気付き戸惑う。
栃原によって製本された「約束の日」の台本は、出演する俳優たちに送られてゆく。
子役出身で彼女との関係に悩む高樹(金井勇太)、きつい性格が周りに疎まれている大女優の椿(羽田美智子)、人気若手俳優の松波(中尾明慶)、そして元妻が亡くなったばかりのベテラン俳優の椎塚(大杉漣)。
ロケ地のフィルムコミッションの榊原(菅原大吉)は、撮影準備に奔走し、大道具を運ぶことになったトラック運転手の梨本(金児憲史)とヒッチハイカーの森川(山田裕貴)は、奇妙な形状の積み荷に興味を惹かれる。
ところがクランクインが迫るある日、突然主演女優の失踪が報じられる。
強い風が吹きすさぶ撮影現場で、準備を整えた共演者やスタッフは主演女優が現れるのを待ち続けるのだが・・・・


なるほど、これは「アメリカの夜」+「ゴドーを待ちながら」という訳か。
フランソワ・トリュフォー監督の「アメリカの夜」は本作と同じく、ある映画の制作に係る人々を描いた、いわゆるセルフ・リフレクシヴ・フィルムの代表作。
本作の劇中で言及される「ゴドーを待ちながら」は、劇作家のサミュエル・ベケットによる戯曲。
一本の樹が立つ田舎の街道で、ゴドーという人物の到着を、ひたすら待ち続ける二人の男を描いた不条理劇だ。
本作では、映画「約束の日」のロケ現場で、スタッフや俳優たちが、最後まで顔が明かされない主演女優の到着を待っている。
もう一本、劇中であるバーを訪ねた神林監督が、キープしたボトルに書くのが「羅生門の様な夜に」という言葉。
「羅生門」はもちろん登場人物の視点によって、同じ事件が全く別の顔を見せるという黒澤明の傑作。
これは不条理劇と多面性の構造を持つ、映画を愛する人々の物語なのである。

冒頭、海岸へロケハンに訪れた神林に、脚本家の鏑木がこんな話をする。
彼が古い映画館で映画を観ていた時、フィルムが切れたのに切り替わらない。
実はその時、老映写技師(演じるは深谷シネマ支配人の竹石研二さん)は映写室で倒れて亡くなっていたのだ。
デジタル上映の現在の映画館に映写技師は必要ないが、フィルム上映では一巻が終わる毎に、画面に一瞬だけ表示されるパンチマークに合わせて、2台の映写機を切り替える必要があった。
映写技師の死から始まる物語は、フィルム映画の終焉から、デジタル時代の映画への再生へのプロセス
本来、インターネット配信用に作られ、劇場用長編へと進化した、本作の出自に符合するのが面白い。

本作はまた、ドラマの背景に配された3.11の記憶を色濃く反映している。

映画「約束の日」のキービージュアルとなる、ロケ地の海岸に大道具として作られたバオバブに似た樹は、たぶん「ゴドーを待ちながら」で街道に立つ一本の樹の反映であるのと同時に、3.11の津波を生き延びた陸前高田市の"奇跡の一本松"のメタファーだろう。
「約束の日」の内容は映画の中で詳しく語られないが、どうやらこの樹は人々に守られてきた希望の象徴の様な物らしい。
それは正に奇跡の一本松だし、一度死んだ松が保存プロジェクトによってオブジェとして復活した経緯も、映画という虚構の中で大道具として建てられることに重なる。

他にも、前記した奇妙なタイトル含め暗喩が散りばめられていて、物語を読み解いてゆくミステリ的楽しみも大きい。
特に
印象的なのが、神林監督がバーの女性に語る54本の奇跡の樹の小話
54の数字は何だろうと調べてみると、日本にある原発の数だとか。

そう思って観ると、この小話はかなり意味深い。

「ゾウを撫でる」は、単に映画愛を語る作品ではなく、そこから今という時代を俯瞰し、映画のあり方をも描こうとしてる。

インターネットで配信した連作を再構成し、映画館で公開という試みは、三浦大輔監督の「裏切りの街」もそうだった。

デジタル化、ネットワーク化によって、映画の形は変化し続けるだろうし、映画を成立させるのに様々な方法論も出てくるだろう。
本作の場合は、単につなぎ合わせたのではなく、物語の断片を組み合わせ、初めて全体像が見え、なおかつそのプロセスが物語を構成するというコンセプトが実に秀逸。
浮かび上がるのは、ポスト3.11の時代に、映画という希望を建てる人々を描いた独創的な作品だ。

上映館は少ないが、映画好きには是非オススメしたい。

今回は、劇中で神林監督が飲んでいる「I.W.ハーパー」をチョイス。
1877年に、ドイツ移民のアイザック・ウォルフ・バーンハイムによってケンタッキーに創業した、歴史あるあバーボンウィスキー。
飲み方はロックで。
羅生門の様な夜に、美女と語らいながら、チビチビと飲みたい。
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2017/02/03(金) 21:13:50 | 映画的・絵画的・音楽的