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ショートレビュー「静かなる叫び・・・・・評価額1650円」
2017年01月26日 (木) | 編集 |
絶望の果てに、見出した希望。

1989年12月6日。
フレンチ・カナダ最大の都市、モントリオールにあるモントリオール理工科大学に武装した男が侵入し、14人を虐殺、14人に重軽傷を負わせるという凄惨な事件が起こった。
本作は実際に起こったこの事件をモチーフとし、異才ドゥ二・ヴィルヌーヴが2009年に発表した旧作だが、素晴らしい出来栄えである。
学生たちで賑わうコピー室に、銃声が轟くショッキングなファーストカットから全く目が離せず、77分のコンパクトな物語は緊張感を保ったまま終始スリリングに展開。

豪雪のモントリオールに、モノクロのシャープな映像が絶妙に映える。

やはりこの人は天才だ。


この事件が特異なのは、他の学校乱射事件と違って、女性ばかりが殺されていること。
殺害された14人は全員女性で、怪我を負った14人のうち10人も女性。
犯人は自殺しているが、極端な反フェミニズム思想の持ち主で、“男性の職場”である理工系志望の女子学生に憎しみを募らせていったと考えられている。

映画は、犯人の青年、被害女性の一人で航空工学を志望するヴァレリー、彼女に心を寄せているらしい男子学生のジャン=フランソワの3人をフィーチャーし、事件の前、中、後で3人に何が起こったのかを、一部時系列を前後させながら描く。

犯人はなぜこんな事件を起こしたのか?
映画では、フェミニストに人生のチャンスを奪われたと思い込んでいる事が、彼の書いている“遺書”によって示唆されるが、具体的にどんなチャンスだったのかは描かれない。
実際の犯人は、父親によって幼少期から女性蔑視思想を教え込まれていたそうで、ありもしない被害妄想を募らせての犯行だったのかもしれない。
いずれにせよ、彼にとっては思い通りにならない人生の、憎しみと怒りのはけ口が女性であって、航空工学を志望するヴァレリーのような女子学生は、女であることを利用して男の職場を奪う憎きフェミニストという訳だ。

もちろん、それは一方的な思い込みに過ぎず、実際の理工系の女子学生は、男社会の厚い壁に苦しんでいるのだが、犯人にはそんな彼女たちを思いやる想像力は無い。
成績優秀なヴァレリーも、志望する企業の担当者に「子供が出来て辞められたらたまらない」という、現在ではセクハラとされる発言をされて幻滅している。
彼女は、教室に閉じ込められ最初に銃撃された9人のうちの一人で、重傷を負いながらもなんとか生き残る。
一方ジャン=フランソワは、負傷した別の女子学生を救い出すも、ヴァレリーへの銃撃を許してしまったことに自責の念を感じている。
共に凄惨な事件を経験した2人は、永遠に変わってしまった世界で、決して癒えない心の傷とどう向き合っていくのかという新たな葛藤を抱えることになるのである。

銃撃事件そのものは事実だが、映画に登場するキャラクター名は架空の存在。
だが実際に、生き残った被害者の多くは深刻なPTSDに悩まされ、事件にかかわったトラウマに耐えられず、自ら命を絶った者もいるというから、ヴァレリーとジャン=フランソワは何人もの被害者たちの、その後の人生から導きだされたキャラクターなのだろう。
そして、登場人物それぞれの母なる存在に対するアプローチも、実にヴィルヌーヴらしいポイント。
犯人の遺書で言及される母。
事件後にジャン=ピエールが、ある目的で訪れる実家の母。
そして、事件の記憶から立ち直ろうとしているヴァレリーの体に起こったこと。
理不尽な憎悪によって、無残に撃ち倒された若者たち。
絶望の果てに、僅かに見える光に救われる。

しかし、事件から四半世紀、昨年の6月にはフロリダ州のゲイナイトクラブで、同性愛者を狙った銃撃事件が起こり、実に50人が死亡し、53人が負傷するという米国史上最悪の惨事となった。
そして2017年の世界は、憎しみを煽り続けた男が世界最高の権力者の地位につくという、厄介な時代を迎えたばかり。
誰もが自分らしく生きられ、理不尽な憎しみと暴力が一掃される日は、まだまだ遠そうである。

今回は、ヴィルヌーヴの故郷カナダ、ケベックの地ビール「ボレアル」をチョイス。
数種類あるのだけど、オススメはジンジャーテイストでスッキリドライなLa Blanche。
シロクマのラベルもオシャレなのだけど、残念ながら日本には公式輸入されていない。
ケベックへ旅行へ行ったら飲んでみてほしい。

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コメント
この記事へのコメント
ご覧になってましたか
これ、好き過ぎて2回観ました。
今の所これが今年のベストかも。ブログ書けたら書きたいが・・。
ヴィルヌーヴ監督は、余計なことは抜きにした作品が似合いますね。
メッセージも力強かったです。
2017/02/28(火) 01:09:28 | URL | rose_chocolat #ZBcm6ONk[ 編集]
こんにちは
>rose_chocolatさん
シンプルな語り口ながら非常にパワフルですよね。
彼の映像テリングには詩情があるのが好きです。
メッセージはそんな持ち味が一番出た作品だと思います。
2017/03/02(木) 14:18:51 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
就職担当のおっちゃんの「子供が出来て辞められたらたまらない」と言うのは、それはそれで本音だよなあと思う。就職を腰掛に使う彼女たちがいなければ、その彼女たちへの無駄になる教育資金を別の物に充てられるから。なので、あの終わり方は人生を投げだした彼の主張が全く何の考慮もなく捨てられてしまうというブラックさを感じました(ただ、だから堕胎して仕事に励みました、というのも明らかに正解ではないから、何を理想とするかは難しい)。
2017/03/14(火) 02:17:32 | URL | ふじき78 #rOBHfPzg[ 編集]
こんばんは
>ふじき78さん
いやー、25年も前の話だとしても、あれが「人生を投げ出した主張」とは思えないです。
あれは思い通りにならないことを他人のせいにした、ただのテロリズムであって、自分を含めたすべての人の人生を破壊しただけですから。
捨てられるのが当然で、あんなものは主張とは呼びません。
2017/03/19(日) 23:40:00 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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2017/03/14(火) 02:22:49 | ふじき78の死屍累々映画日記